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2015年 12月 18日

備忘録(13)

◆2015年12月18日14時現在。
日本出版者協議会(出版協)が12月16日付で声明「アマゾンによる出版社直取引(e託取引)の勧誘に対する声明」を発表し、「新文化」12月16日付記事「出版協、アマゾン「e託」勧誘に関する声明」でも取り上げられています。栗田事案以後活発化しているように見えるアマゾンの出版社向け「売り伸ばしセミナー」は実際には直取引勧誘のプレゼンテーションであったわけですが、声明ではアマゾンの提示した条件を明かしながら、改めてアマゾンが再販制を尊重していないことに対し警鐘を鳴らしつつ、一方で大手取次が新しい出版社との口座開設に消極的である様子を指摘しています。声明で示された業界分析には興味深いものがあり、業界人必読かと思われます。

声明には「今回のアマゾンの勧誘に、出版協会員社のような中小零細出版社で、かつ大手取次店と過酷な条件での取引を強いられている社のなかには、アマゾンとの取引を検討する出版社も出てきている。/しかし、これまでのアマゾンの取引等から推察するとこの条件は恒常的なものとは思えず、アマゾンとの力関係で変更されないとは限らない」とあり、「新文化」記事では「中小・零細出版社のなかには既存の取次会社の取引条件が厳しく、「e託」に乗り換えかねない危険性があるからだ。また、アマゾンとの直接契約は恒常的なものでなく、改悪が予想されることも付け加えた」と要約されています。アマゾンが将来的に契約を「改悪」しない、などと信じている版元はほとんどいないでしょう。また、アマゾン扱いの物量や取次経由の納品速度から判断して、わざわざアマゾンとの直取引に乗り換える必要を感じていない版元もそれなりに多いようです。アマゾンによるここ数ヶ月間の熱心な直取勧誘は、「成約数が目標に達していないのではないか」とかえって版元に印象付けることになっています。

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◆12月24日10時現在。
「朝日新聞」2015年12月24日付、塩原賢氏・竹内誠人氏記名記事「アマゾンが本の値引き販売 根強い警戒感、参加1社だけ」に曰く、「「今回は参加できない」/前回参加した出版社の社長は11月にアマゾンから誘いを受け、そう漏らした。前回の販売初日、大手書店から「どういうことか説明に来て欲しい」と電話がかかってきた。書店役員らが居並ぶ部屋で、経緯説明と謝罪を求められ、他の一般書店からも本が続々と返本されてきた。「まさかここまでたたかれるとは思わなかった」」と。また曰く、「10月、東京・目黒のアマゾンジャパン本社ビルに、大手・中堅出版社の社長と営業担当者らが集められ、2週にわたって計約40社が“懇談会”に参加した。/「出版がこれほど低落した原因は?」「アマゾンに期待することは?」/アマゾン側から立て続けに質問され、参加した社長らは、渡されたスケッチブックに「コンテンツの魅力を増すのを怠った」「アマゾンに長く本を置いてもらいたい」などと書き込んで見せた」と。

率直に言えばこういう露悪的な書き方はそこに真実が含まれているにせよ、あまり関心できません。とはいえ、新聞記者は記事に書く内容よりも多くの情報を知っているのが常ですから、ある種の徴候は捉えているでしょう。某書店が版元を「呼びつけて謝罪させた」という話は当時すでに業界内に広まっていました。業界内では《果たして版元が某書店の呼び出しに応じて謝罪する必要は本当にあったのかどうか。他書店実施の時限再販をいちいち業界全体に周知しなければならない理由はない。過剰な横並び強制だ》との批判の声があるようです。《某書店とてその後、他書店との横並びを無視して、カネにモノを言わせた対抗策を取ったではないか》。そうしたツッコミも聞こえてきます。

また、朝日記事(ログインなしで読めるヴァージョンでヤフー・ニュースにも転載されており、記事の全文は掲載されていません)ではあたかもアマゾンが版元に「反省させた」かのように読めますが、これは私のようなアマゾンに対して慎重姿勢の出版人ですら懐疑的に感じる、印象操作の類いに思えます。ただし、会合に参加した出版人の中にはアマゾンの態度が「上から目線」であると感じた方もおられるでしょう。アマゾンのこうした「上から」な態度は今に始まったことではありません。こうした態度が出版社をアマゾン以外の競合ネット書店への接近、という戦略へと駆り立てていることは否めません。長期的に見てそれがアマゾンの利益になるものなのかどうか。

なお、朝日新聞では同日付で「「再販制度で競争原理働かず」アマゾン書籍担当・村井氏」という、アマゾンジャパンの村井良二バイスプレジデント(書籍事業本部担当)へのインタヴュー記事も掲載しています。ログインなしで読めるのは前半部分のみです。村井さんは「再販制度によって市場の競争原理が働かず、システム的に疲弊している。出版業界に活気がなくなっている原因ではないか」と述べたとされていますが、再販制度がなくなったらどうなるか、という議論が必要でしょう。私は再販制堅持派では必ずしもありませんが、再販制がなくなって市場の競争が激しくなったとしたら、今以上に出版界には《すさむ》側面も現れるだろうと予想しています。市場原理のみが世界を良くするのではない。コンテンツを創ることにはたくさんの《不合理やムダや回り道》に見えることが伴います。ごく当たり前の現場認識が、市場原理の名のもとに許されなくなるのだとしたら、それはほとんど自滅です。

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by urag | 2015-12-18 14:52 | 雑談 | Trackback | Comments(0)
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