ウラゲツ☆ブログ

urag.exblog.jp
ブログトップ
2015年 11月 21日

注目新刊:『ティマイオス/クリティアス』新訳、ほか

a0018105_18393447.jpg

ジャック・ラカン 転移(上)』ジャック=アラン・ミレール編、小出浩之・鈴木國文・菅原誠一訳、岩波書店、2015年10月、本体5,200円、A5判上製312頁、ISBN978-4-00-024051-2
新版 アリストテレス全集(12)小論考集』岩波書店、2015年10月、本体5,600円、A5判上製函入448頁、ISBN978-4-00-092782-6
ティマイオス/クリティアス』プラトン著、岸見一郎訳、白澤社発行、現代書館発売、2015年10月、本体2,200円、四六判上製224頁、ISBN978-4-7684-7959-9
グノーシスと古代末期の精神 第二部 神話論から神秘主義哲学へ』ハンス・ヨナス著、大貫隆訳、ぷねうま舎、2015年10月、本体6,400円、A5判上製490頁、ISBN978-4-906791-50-7
『証聖者マクシモス『難問集』――東方教父の伝統の精華』谷隆一郎訳、知泉書館、2015年10月、本体8,500円、A5判上製xviii/535/11頁、ISBN978-4-86285-219-9

★『転移(上)』は発売済。ラカンのセミネール第8巻、Le transfert 1960-1961 (Seuil, 1991)の翻訳で、まもなく下巻も26日(木)発売。ラカンの一連のセミネールにおいてとりわけ重要なのがこの『転移』で、プラトン『饗宴』の独特な読解としても出色の講義です。ソデの紹介文を引いておきます。「1960年に始まったこのセミネールでラカンは、精神分析の根幹的現象である「転移」に本格的に足を踏み入れる。分析者と被分析者の二項関係に基づく「転移」理解を乗り越えんとするラカンの眼前に浮かび上がったのは、プラトン『饗宴』で描かれる「愛」であった。上巻では、古典作品の斬新な解釈を通じて、愛する者と愛される者の関係を欲望の乱反射として描き出す。ソクラテスは愛〔エロース〕の何を知っていたのか? 欲望と「知」をめぐるスリルに満ちたセミネール第VIII巻」。

★『新版 アリストテレス全集(12)小論考集』は発売済。第10回配本です。収録論考は「色彩について」「聴音について」「観相学」「植物について」「異聞集」「機械学」「分割不可能な線について」「風の方位と名称について」「メリッソス、クセノパネス、ゴルギアスについて」。翻訳の分担が明記されていないような気がしますが、解説者が訳者だとすれば「色彩」から「植物」が土橋茂樹さん、「異聞」が瀬口昌久さん、「機械」「分割」が和泉ちえさん、「風」「メリッソス~」が村上正治さんです。版元紹介文に「人間とその環境世界に生起する諸現象に挑むペリパトス派の論考集」とあるのは収録論考の著者がアリストテレス自身かどうかが不詳のため。付属の「月報10」は、小川洋子さんによる「『植物について』とギリシアの植物学」、斎藤憲さんによる「数学文献とアリストテレス」を掲載。今月27日には次回配本である第8巻『動物誌(上)』が発売予定です。

★『ティマイオス/クリティアス』は発売済。訳者はベストセラー『嫌われる勇気』やアドラー心理学の紹介で高名な岸見一郎さん。帯文に曰く「宇宙の創造とアトランティス伝説。古代ギリシアの叡智が語る壮大な自然哲学」と。発行元の白澤社さんのブログ記事「岸見一郎訳『ティマイオス/クリティアス』刊行の経緯」によれば、もともと岸見さんはギリシア哲学を研究されていて、藤澤令夫さんや種山恭子さんに学ばれており、「重要な古典が気軽に読めないのは惜しい」ために企画されたとのことです。仰る通りで「ティマイオス」や「クリティアス」は既訳が少なく、まさに新訳が求められていました。しかも2000円台前半という手頃なお値段。岸見さんが今後もプラトンの新訳を続けて下さることを期待せずにはいられません。ちなみに京大の「西洋古典叢書」でも新訳と、その注釈書であるカルキディウス『プラトン「ティマイオス」注解』が予定されているはずと記憶しています。

★『グノーシスと古代末期の精神 第二部』は発売済。当二部作は外国語では日本語訳が初めてとなるそうで、そのご苦労は測り知れません。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻末の訳者解説によれば、第一部の底本は1964年の改訂増補第三版、第二部は1993年の最終版とのことです。ただし、第二部の第七章「グノーシスを扱った関連論考」は、編纂者のクルト・ルドルフによって追加された三つの論文で「いずれももともと本書の一部として構想されたものではな」く、内容的にも重複するため、訳書には収録されていません。第三論考「グノーシス主義、実存主義、ニヒリズム」は『グノーシスの宗教』(人文書院、1986年)や『生命の哲学』(法政大学出版局、2008年;新装版2014年)で読むことができます。

★『証聖者マクシモス『難問集』』は発売済。カバー紹介文に曰く、本書は「証聖者マクシモス(580頃-662)が主にナジアンゾスのグレゴリオス(329/30-389/90)と、ディオニュシオス・アレオパギテース(6世紀)の諸著作から難解と思われる箇所を選び、それらを解釈し敷衍した『難問集』の全訳である。マクシモスは2世紀以来の東方・ギリシア教父の全伝統を継承し、豊かに展開させたことにより、東方教父の伝統の集大成者、ビザンティン神学のチャンピオンと目されてきた」と。マクシモスの論考の翻訳は、昨年に同じく知泉書館さんから刊行された谷さんによる編訳書『キリスト者の生のかたち――東方教父の古典に学ぶ』でも「愛についての四百の断章」「神学と受肉の摂理とについて」「主の祈りについての講解――キリストを愛する人に向けての簡潔な解釈」を読むことができます。

★出版不況の最果てへと滑り落ちていくように感じる昨今にもかかわらず、こんなふうに現代の名著を含む重要な古典が続々と刊行されており、瞠目を禁じえません。さらに今月は、文庫新刊でも以下の通り大きな収穫がありました。

ヤコブソン・セレクション』ロマン・ヤコブソン著、桑野隆・朝妻恵里子編訳、平凡社ライブラリー、2015年11月、B6変判並製384頁、ISBN978-4-582-76834-3
シュメール神話集成』杉勇・尾崎亨訳、ちくま学芸文庫、2015年11月、本体1,200円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-09700-2
パリ論/ボードレール論集成』ヴァルター・ベンヤミン著、浅井健二郎編訳、土合文夫・久保哲司訳、ちくま学芸文庫、2015年11月、本体1,600円、文庫判608頁、ISBN978-4-480-09689-0
生活世界の構造』アルフレッド・シュッツ/トーマス・ルックマン著、那須壽監訳、ちくま学芸文庫、2015年11月、本体1,700円、文庫判640頁、ISBN978-4-480-09705-7
思考と論理』大森荘蔵著、ちくま学芸文庫、2015年11月、本体950円、文庫判208頁、ISBN978-4-480-09708-8

★『ヤコブソン・セレクション』は発売済。ライブラリー・オリジナル版のアンソロジーです。「詩人たちを浪費した世代」「プーシキンの象徴体系における彫像※」「言語の二つの面と失語症の二つのタイプ」「言語学と詩学」「翻訳の言語学的側面について」「言語学的意味論の問題※」「言語の本質の探究」「人間言語の基本的特徴※」「ゼロ記号」「なぜ「ママ」と「パパ」なのか※」「アインシュタインの言語科学※」の計11篇を収録しています。※印の5篇が初訳。「言語学的意味論~」「言語の本質~」「人間言語~」は朝妻さんが翻訳を担当されています。「アインシュタイン~」はドイツ語版からの翻訳が、ホーレンシュタイン『認知と言語』(産業図書、1984年)の附録で読めるそうですが、今回の新訳は英語版論文からのもので、比べると異同や省略があるとのことです。

★『シュメール神話集成』は発売済。『筑摩世界文学大系』第1巻「古代オリエント集」(1978年)から「シュメール」の章を文庫化したもの。帯文に曰く「世界最古の神話――「洪水伝説」「イナンナの冥界下り」など他では読めない原典16篇を収録!」と。収録作品については書名のリンク先をご覧ください。尾崎さんによる「文庫版訳者あとがき」によれば、文庫化にあたり「最小限語の訂正に留めた」とのことです。昨今の日本では往年と比べ、古代オリエント学は研究者が減少しているそうで、「今回の再刊が少しでも状況の好転に寄与できるならば幸甚」とのことです。シュメールについてはいわゆる「超古代史」界隈では様々な本が出ているのですが、原典を読むとなると本書や矢島文夫訳『ギルガメシュ叙事詩――付:イシュタルの冥界下り』(ちくま学芸文庫、1998年)などが欠かせません。

★『パリ論/ボードレール論集成』は発売済。カヴァー裏紹介文に曰く「『パサージュ論』を準備するなかで遺された膨大な草稿群からベンヤミンの哲学的・芸術的思索の核を秘めた論考を集成し、パサージュをはじめ当時の貴重な図版を収録」と。「ベンヤミン・コレクション」既刊から関連論考を集め、さらに新訳論考や図版を付して編まれたものです。新訳は「パリ――十九世紀の首都 梗概(フランス語稿)」「土星の環、あるいは、鉄骨建築についていくつかのことを」、ボードレール論構想および初期の草稿類(ボードレール論全体の構想、ブランキについて、「ボードレールにおける第二帝政期のパリ」初期草稿断片、「ボードレールにおける第二帝政期のパリ」のための予備研究)、「ボードレールにおける第二帝政期のパリ」異稿より(方法論的序説断片、方法論的序説草稿、「趣味」)、です。肝心の岩波現代文庫版『パサージュ論』が現在ほど版元品切もしくは在庫僅少となっているようですが、いずれ重版されることでしょう。

★『生活世界の構造』は発売済。文庫オリジナルで、原書はStrukturen der Lebenswelt (UVK, 2003)です。著者の死去によって完成を阻まれた書物を高弟であるルックマンが原稿整理を行って完成させたものです。帯文に曰く「現象学的社会学」の世界的名著、待望の本邦初訳」とあります。巻頭にはルックマンによる「日本語版への序文」が付されており、本書の成立事情や来日の思い出などが語られています。ちなみにシュッツ自身が日本の地を踏むことはありませんでした。本書に既訳に似た書名の本がありますが、1932年に刊行された著者生前の唯一の著書である『社会的世界の意味構成』(佐藤嘉一訳、木鐸社、1982年;改訳版、2006年)の原題はDer sinnhafte Aufbau der sozialen Weltで、『生活世界の構成――レリヴァンスの現象学』(リチャード・M・ゼイナー編、那須壽ほか訳、マルジュ社、1996年)の原書はReflections on the problem of relevance (Yale University Press, 1970) です。シュッツの著書が文庫化されるのは今回の新刊が初めてになります。

★『思考と論理』は発売済。親本は放送大学教育振興会より1986年に刊行(日本放送出版協会〔現:NHK出版〕発売)された放送大学教材で、同じくちくま学芸文庫で文庫化されている『知の構築とその呪縛』などとともに岩波書店版著作集の第7巻にも収録されています。巻末には野家啓一さんによる解説「一粒で二度おいしい論理学書」を併載。野家さんはこう書かれています、「本書は記号論理学の入門書ではなく、大森荘蔵流の「論理学の哲学」、あるいは論理学に題材をとった大森哲学への入門書にほかならない」(187頁)。読者の便宜のため、当文庫での記号法は標準的なものに変更されており、旧版(親本)で用いられていたクワイン式の記号法との対照表が解説に掲げられています。
[PR]

by urag | 2015-11-21 18:40 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://urag.exblog.jp/tb/21856057
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。


<< 既刊データ保存:2014年5月...      まもなく発売:デリダ『哲学への... >>