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URGT-B(ウラゲツブログ)

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2015年 11月 09日

備忘録(9)

◆2015年11月9日17時現在。

「新文化」2015年11月9日付記事「栗田、「再生計画案」まとまる 債権者集会は12月24日に」に曰く「民事再生法の適用を申請していた栗田出版販売(栗田)の再生計画案がこのほどまとまり、11月5日、東京地裁から債権者に対してその詳細が文書で送付された。弁済率は50万円以下が100%、それ以上は21.3%。ただし、OKCに対する連帯保証債務の免除を受けた場合は最大25.5%に上がる可能性もある」と。

まず、この記事にある「再生計画案」はあくまでも債権者に送付されたものであり、10万円以下の債権額を有しており初期に全額弁済された取引先や、50万円以下の債権額を有しており先月末に全額弁済された取引先に対しては送付されていません。弁済した以上、債権者ではもはやないからでしょう。ただし、弁済されたとはいえ取引先であることには変わりがないわけで、そうした出版社に対して何の連絡もない/連絡すべきことがないらしいというのは(予想しうることとはいえ)なんとも切ないです。

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◆11月11日16時現在。

「TOCANA」2015年11月11日付、平田宏利氏記名記事「被差別部落の古地図、名誉毀損書籍… 図書館めぐる問題はトンデモ本『亞書』だけではなかった!」に曰く、「国立国会図書館では著者の没後、50年が経過し、著作権が失効した資料を電子化し「近代デジタルライブラリー」として公開している。ところが、2007年に公開された『大正新脩大蔵経』に対し、仏教書の専門出版社である大蔵出版が抗議を行った。/「大蔵出版は、『大正新脩大蔵経』をはじめ、仏教の専門書を販売することで収益のほとんどを得ています。著作権が失効しているからといって広く公開されては、商売にならないということでしょう。最終的に、話し合いは『大正新脩大蔵経』の電子データ閲覧は館内に限るという結論に落ち着きました」(図書館に詳しいフリーライター)」と。

周知の通り『大正新脩大藏經』は、東京大学大学院人文社会系研究科・次世代人文学開発センター・大藏經テキストデータベース研究会(SAT)によって「テキストデータベース」化されています。近代デジタルライブラリーのような、版面のスキャン画像ではない、というところが違いますね。大蔵出版では現在も、『[普及版]大正新脩大蔵経』(全88巻、本体1,500,000円)を販売しています。本件については、「J-CASTニュース」2014年1月8日付記事「著作権切れ書籍データのネット公開停止 出版社側からの抗議に国会図書館が折れる」や、「INTERNET Watch」2014年1月9日付記事「国会図書館、出版者からの抗議を受け、著作権切れ書籍のネット公開を一部停止――出版者への影響に配慮、書籍により「公開再開」「館内限定」に判断分かれる」をご参照ください。2014年1月当時は、『大正新脩大蔵経』についてはインターネット提供を再開する判断が下されているものの、「現在、出版協および大蔵出版と協議を行っており、再開の時期については未定」(後者記事より)とのことでした。2014年1月(7日)付の国会図書館のプレスリリース「インターネット提供に対する出版社の申出への対応について」(PDF)もご参照ください。また、2013年7月時点での詳しい経緯については、永崎研宣さんによる「国会図書館近代デジタルライブラリー 一部書籍一部公開停止の件で」をご覧ください。このような一連の経緯のあと、「TOCANA」記事にある通り、「電子データ閲覧は館内に限るという結論に落ち着」いたのでしょう。確かに「国会図書館サーチ」で「大正新脩大蔵経」のデジタル資料を検索すると、「館内限定閲覧」と表示された「国立国会図書館デジタルコレクション」に行きあたります。

ちなみに上記の「TOCANA」記事で言及されている『亞書』については、これまた周知の通りとなっていますが、実際に儲けが出たのかどうかについて、また国会図書館がどう対応するのかについては、岩間ケイさんによるブログ「気になる事件――日本で起きた個人的に気になる事件の考察」の11月1日付エントリー「亞書の謎12 一応の終止符」が参考になります。また、ウェブマガジン「ZOOT」11月6日付のhideo3284さんによる記事にはかなり突っ込んだ情報があります。こうした事例が他社でもないか、国会図書館としても過去に遡って究明せざるをえないのではないでしょうか。そうしない限り、ザルだと思われても仕方ないわけですし、第二、第三の矢は飛んでくるでしょう。詳細な究明レポートが出たら、それ自体かなり興味深い内容になるでしょうね。

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◆11月13日23時現在。

「時事通信」11月13日付記事「「ワンピース」、発売前に公開=著作権法違反容疑で4人逮捕-京都府警」に曰く、「逮捕容疑は10月29日、今月2日発売の「週刊少年ジャンプ」(集英社)に掲載された同作品の最新話を、海賊版サイト「mangapanda(マンガパンダ)」に無断で公開した疑い。/同課によると、日本の漫画を無断で掲載し、海外向けに発信している海賊版サイトの摘発は全国初。日高容疑者は配送会社の社員で、印刷工場から送られてきた雑誌を別の配送会社に発送する際に抜き取り、仲間の中国人に渡していたという。作品は英語に翻訳され、同サイトで公開されていた」と。

ついに、というか、ようやくという感じですね。「今年2月、コンピュータソフトウェア著作権協会から府警に相談があり、捜査していた」そうですが、「ジャンプ」の発売前に英訳版がアップロードされていた状況から推理して、関与している人物が、雑誌が書店に届くまでのどの「過程」に絡んでいる可能性があるかについては比較的早期に特定しやすかったはずと思われるものの、そうは言っても個人の特定には入念な捜査が必要だったろうと想像できます。逮捕された埼玉県の69歳の男性会社員は「本を渡しただけ」と話しているそうです。年齢から推察すると、自分がやっていることが何に利用されているのかについて自覚的ではなかった可能性もないわけではないでしょう。しかし抜き取りは窃盗です。これを配送会社にやられてしまうと、版元としてはやるせない気持ちでいっぱいになるでしょう。

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◆11月17日13時現在。
耳を疑いたくなるような情報が飛び交いはじめています。これは来年も波乱な一年になりそうです。

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by urag | 2015-11-09 17:23 | 雑談 | Comments(12)
Commented by MY at 2015-11-12 22:32 x
『亞書』の件で「過去に遡って究明」とのことでしたら、『亞書』以外にりすの書房がどんな刊行をしてきたかについて現代思潮新社の鈴木創士氏が、片山廣子の歌集『翡翠』、最上純之介こと平井功の『孟夏飛霜』、『富永太郎詩集』等をあげ、「買ってもらい読んでほしい本には、破格の低価格をつけていたようである」との評をツイッターで下しましたが、いかがですか。
https://twitter.com/sosodesumus/status/661719630302461952
https://twitter.com/sosodesumus/status/661729262127435776
Commented by urag at 2015-11-13 10:13
MYさんこんにちは。何か誤解されているようですが、私は「こうした事例が他社でもないか」と書いたのですよ。りすの書房さんの『亞書』以外の刊行物を云々しているのではありません。
Commented by MY at 2015-11-13 12:05 x
「ザルだと思われても仕方ない」云々からして、『亞書』の版元に疑惑をお持ちの様子でしたので、申しました。しかし他社についてであれ、国会図書館は下らない本や無意味な本でも出版物を網羅的に集めるのが使命ですから、収書に際しては篩に掛けるみたいな内容の審査をさせるべきではありません(分類・件名等の整理の段階では内容を見るべきですけど)。むしろ所蔵漏れがあればそれこそが「ザル」と呼んで責められるに相応しい。もともと代償金制度は戦前の検閲のための納本とは異なることを示すための苦肉の策でしたから、出版者がみな気前よく私有財産を割愛して納本義務をまめに果してくれるなら不要になりますが、納本漏れの多い現状では仕方無いのではありませんか。
Commented by urag at 2015-11-13 23:01
MYさん、コメントありがとうございます。まだ誤解されているようですが、国会図書館がザルだと思われかねないと私は書いたわけです。さらに言えば、国会図書館が本の「内容」を審査することについて必要だとも言ってはおりません。ただ、こんなふうに納本制度が「活用」されることにはまったく関心しない、と言っているわけです。納本漏れ云々は関係ありませんよ。MYさんの立ち位置がよく分かりません。国会図書館を擁護されたいのでしょうか。
Commented by MY at 2015-11-14 12:51 x
「国会図書館がザルだと思われかねないと私は書いたわけ」。勿論それは承知の上です。しかしザルとは目が粗いことを難じる表現ですから、それだと、国会図書館に『亞書』みたいな本は篩に掛けて落とすことを期待する風に見えます。そんな選別をしたらあの日本最大図書館が網羅的な収書からますます遠ざかりかねないので、それを懸念した次第。内容で篩に掛けるのでなければ、何が問題になるのですか。頒布実績の有無は国会図書館でも確認したと報道にありました。代償金の額が問題だとしても、かといって無償制に移行もできまいと書いたわけです。
Commented by urag at 2015-11-14 14:20
MYさんのお考えでは、『亞書』のような案件に国会図書館が対応するのは無理であり、今後も防ぐことはできない、ということですか?
Commented by MY at 2015-11-15 02:15 x
それは「『亞書』のような案件」で何が問題だと見るかによります。そちらは、『亞書』を代償金による納本制度を「活用」した詐欺だと判断するわけですか? 或いは他の問題だとして、それについて何か防ぐ手段があり、それで以て国会図書館に網羅でなく取捨選別をさせるべきだと?
Commented by urag at 2015-11-15 10:52
MYさん、そのお答えでは問題ありとすることもできないし、防ぐ手段もないし、国会図書館にこれ以上やるべきことはない、と言っているのと同じですよ。あなたがもし図書館関係者なら正直がっかりですし、りすの書房関係なら開き直りすぎだし、研究者ならあれもできないこれもできないと議論の前提を狭めすぎですし、一般市民なら納税者としての痛痒感に乏しい。まるで誰か他人のせいにしたいかのような話で、これ以上の議論の余地はなさそうです。コメントありがとうございました。
Commented by MY at 2015-11-16 00:59 x
初めに何が問題だと見るのかを明確にしてくれなければ対策も立てられない、それだけのことです。その問題によっては何か手があるかもしれないし、無いかもしれない。もし代償金の額が問題と見るのだとしたら、他に期待する前に、出版関係者なら、代償金無しでも納本が進捗する制度へと改革すべく出版界に働きかけるのも一法かと存じますがいかが。
Commented by urag at 2015-11-16 12:14
MYさんずいぶんと熱心ですね。うんざりです。「明確にしてくれなければ対策も立てられない」とのことですが、この文章の主語は誰ですか。明確に「してあげる」のは誰で、それを受けて対策を立てるのは誰ですか。主体性ゼロ、指示待ち症候群のお役人みたいだ。なぜMYさんが国会図書館に代わってこう述べなければならないのか分かりません。ご自身の立場を明確にしたらどうですか。ところで今回の問題とは別途に「代償金無しでも納本が進捗する制度へ」の改革というのは業界的に議論の余地があると思います。出版社と言っても多種多様ですから合意形成は一筋縄ではいかないでしょうけれども、そこは国会図書館さんと協議してみたいところです。まあ先方に応じるスタンスがあるかどうかは知りませんが。
Commented by MY at 2015-11-17 08:44 x
別に勘繰るまでもありません、自分の立場は国会図書館の利用者です。利用者として優先事項は第一に網羅的な収書であり、そのためにはただですら少部数の私家版・同人誌等が納本されるのを面倒がる傾向のあるあそこに下手にフィルタリング選別させるのは望ましくないわけです。「明確にする」主体は勿論uragさんです。このブログは『亞書』を何か問題含みとしてエントリーを書かれたが、何が問題かはっきりさせぬ書き方なのでお訊ねしたところ、明確な返答を避けられた次第で。最初に引いた鈴木創士氏の指摘に照らすと、単なる代償金目当てとのみは判断しかねます。印刷・製本のプロに原本を見せたら原価計算して値が適正か鑑定できるのではないかと存じますが、そのためにも原本が保存してある機関が必要です。うんざりさせてしまったのは残念ですが、出版関係者としても主体性を発揮できる道があることに気づいて下さったのは、幾らか言葉を費やした甲斐がありました。
Commented by urag at 2015-11-17 10:26
MYさん、あなたの一連の書き込みがあなた自身の立ち位置によってずいぶんと別様にも聞こえてくる、ということにもう少し自覚的でいらっしゃるべきでしたね。あなたが一介の利用者なら、国会図書館の立場を忖度し代弁するかような発言は行きすぎでしょう。「国会図書館が過去に遡って調査議論すべきである」こと(これが私の主張です)を一切保留するに等しいMYさんの立場(MYさんからそれを否定するお言葉を聞けなくて残念です)は私には支持できません。私が国会図書館やあなたのために問題をあらかじめ明確にして差し上げなければならない義務はありませんよ。もう一度言いますが、無償納本の件は「今回の問題とは別途に」と書いた通りで、そこを強引に接続させるおつもりなら、それは大きな誤解です。論点のすり替えに過ぎない。だからうんざりだと書いたのです。「甲斐があった」とか、見事にズレていらっしゃる。ちなみにさる筋がMYさんの一連の書き込みに興味を持っているらしいことをお伝えしておきます。御高説は充分伺いましたので、お返事は書きこまないで結構です。


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