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2015年 10月 11日

注目新刊:佐々木孝次さんによるラカン「レトゥルディ」の訳解、ほか

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ラカン「レトゥルディ」読解――《大意》と《評釈》
佐々木孝次著
せりか書房、2015年10月 本体5,000円 A5判上製378頁 ISBN978-4-7967-0346-8

帯文より:「レトゥルディ」は、ラカンが『エクリ』以降に執筆したもっとも長い、まとまりのある、唯一の論文である。難解をもってなるテキストの原文を掲げ、平易な日本語に翻訳し、詳しく解説した本書は、ラカンの精神分析の理論と実践の現場におもむき、その生きた息吹に接する必読の案内書である。

目次:
第Ⅰ部
第Ⅱ部
第Ⅲ部
補足的評註――「あとがき」にかえて

★発売済。もともとアンリ・ルーセル病院の創立50周年を記念して依頼されて、1972年7月14日にベルイユにて執筆されたもので、冒頭部分(本書では第I部)が病院の記念行事の際に発表され、後日残りの本論を含めた全文がパリ・フロイト派の機関誌である「シリセット」第4号(1973年)に掲載されました。さらにラカンの死後、『エクリ』以後のテクストをまとめた『他のエクリ』(本書では『オートル・ゼクリ』と表記;スイユ社、2001年4月)に収録されています。本書は「シリセット」版を用い『オートル・ゼクリ』版も参照して、原文を掲げ大意を翻訳で示し、それに評釈を加えたものです。「1966年の『エクリ』出版以後に書かれたものとしては、もっとも長文で、30年以上にわたる精神分析の経験と理論の到達点をコンパクトに伝えている」(373頁)と佐々木さんは紹介されています。

★「本論は、精神分析のディスクールを他のディスクールと区別して、それを強調するためのラカンの「ディスクール論」であると言ってもよい」(9頁)と佐々木さんは書きます。「ディスクールには、適当な訳語が見つからないが、それはひとが語ることによって、他のひとと社会的な絆を生みだしていく言語活動の実践面を指している。言いかえると、ひとがそれによってお互いのあいだに多少とも持続的な社会関係を作りあげていく話し方である。ラカンは、それを四つのタイプに分けて、「主人のディスクール」「ヒステリー者のディスクール」「大学人のディスクール」「分析者のディスクール」と呼んだ。ひとは、お互いにどういう言葉のやりとりをしようと、必ず四つのタイプのどれかのディスクールを実践しているのである」(同)。

★ラカンはこう言います、「ディスクールでは、それを構成する四つの要素が次つぎに交代して、四つのタイプを生みだすような輪舞が行われて」いる(64頁)、と。そしてこう続けます。「性関係は存在しない」(同)。この有名な言葉は後段でこう補足されています。「これは両性のあいだに性関係はないという意味であって、一方の側の他方の性に対する関係がないという意味ではない。〔・・・〕一方の他方の性に対する関係は、それぞれに半分の側において、それぞれのなかで明瞭でないのであり、関係は、それぞれのなかだけで割りふられているのである」(139頁)。「ディスクールにおいて性関係は存在しない、意味-不在〔ab-sence〕の関係として、性現象そのものを隠喩的に描くが、さらに口唇や肛門のような性器外的と言うべき、いわゆる前性器期的な、もっとも広く見られるお誂えむきの接近方法をとおして換喩的に描く。それによって、認識力のねじれを具体的に提示してみせるのである」(242頁)。

★ラカン理論の枢要を成す重要論考とはいえ初心者向きではなく、佐々木さんの長文の解説が示す読解のヒントがなければしんどい本ではあります。十全に理解するのは難しいとしても、ラカンの格闘ぶりは伝わってくるような気がします。本書に先だってディスクールの四つのタイプについて言及したラジオ番組「ラジオフォニー」は市村卓彦さんによる翻訳を『ディスクール』(弘文堂、1985年、品切)で読むことができ、本書のあとに続く講義については、佐々木さんらによる『ラカン『アンコール』解説』(せりか書房、2913年)に詳しいです。また、本書で言及されているシュレーバーの回想録については、今月、渡辺哲夫訳『ある神経病者の回想録』が講談社学術文庫(親本は筑摩書房より1990年刊)より、尾川浩・金関猛訳『シュレーバー回想録』が中公クラシックス(親本は平凡社より1991年刊、平凡社ライブラリー版が2002年)より、ちょうど発売されたばかりです。


物質と記憶』ベルクソン著、熊野純彦訳、岩波文庫、2015年9月、本体1,200円、528頁、ISBN978-4-00-389013-4
相対論の意味』アインシュタイン著、矢野健太郎訳、岩波文庫、2015年9月、本体800円、288頁、ISBN978-4-00-339342-0
カンディード』ヴォルテール著、斉藤悦則訳、光文社古典新訳文庫、2015年10月、本体980円、296頁、ISBN978-4-334-75319-1
間主観性の現象学(III)その行方』エトムント・フッサール著、浜渦辰二・山口一郎監訳、ちくま学芸文庫、2015年10月、本体1,700円、608頁、ISBN978-4-480-09692-0
コンヴィヴィアリティのための道具』イヴァン・イリイチ著、渡辺京二・渡辺梨佐訳、ちくま学芸文庫、2015年10月、本体1,100円、256頁、ISBN978-4-480-09688-3

★ここ最近の文庫新刊より注目書をいくつか挙げます。岩波文庫の『物質と記憶』は岩波文庫では1936年の高橋里美訳(親本は1914年)以来の待望の新訳です。底本はPUF(1939年)を使用し、ベルクソン生誕百周年記念版全集やPUFの新版も参照したとのことです。アインシュタインの講義録『相対論の意味』は岩波書店が1958年に単行本として刊行していたものを「若干の修訂をほどこして」(編集付記)文庫化したもの。一般相対性理論100年記念。解説は江沢洋さんです。

★『カンディード』には「「最善説」についてヴォルテール自身が疑念を抱くきっかけとなり、つづくいくつもの議論の土台になった」(版元紹介文より)という「リスボン震災に寄せる詩」を本邦初の完全訳で収録。解説「リスボン大震災に寄せる詩」から『カンディード』へ」は、渡名喜庸哲さんがお書きになっておられます。文庫で現在も入手可能な既訳には岩波文庫版『カンディード 他五篇』(植田祐次訳、2005年)があります。

★『間主観性の現象学(III)その行方』は『間主観性の現象学』抄訳全3巻の完結編。第一部「自我論(エゴロジー)」、第二部「モナド論(モナドロジー)」、第三部「時間と他者」、第四部「他者と目的論(テレオロジー)」の四部構成で34篇のテクストを収め、巻末には解題のほか、監訳者の浜渦さんと山口さんがそれぞれお寄せになった訳者解説が併載されています。『コンヴィヴィアリティのための道具』は『シャドウ・ワーク――生活のあり方を問う』(玉野井芳郎・栗原彬訳、岩波現代文庫、2006年)に続く、イリイチの著書の久しぶりの文庫化です。イリイチというと『脱学校の社会』『脱病院化社会』『ジェンダー』といった著作の方が有名なのかもしれませんが、『コンヴィヴィアリティのための道具』は隠れた名著であり、帯文にある通り、「脱成長論の思想的源泉」にして「新たな世界の具体像を示す、不朽のマニフェスト」で、彼の社会変革論がもっとも端的に示された著書です。イリイチ再発見のための導入部として最適の本であり、広くお薦めします。

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★今夏から秋にかけて当ブログでまだ取り上げることのできていない重要書はたくさんあります。すべてを購読するのは金銭的にも置き場所的にも無理です。いずれいくつかはあらためてご紹介したいと思います。

『風立ちぬ――宮崎駿の妄想カムバック』宮崎駿著、大日本絵画、2015年10月、本体2,200円、ISBN978-4-499-23167-1
『ほんとうの法華経』橋爪大三郎・植木雅俊著、ちくま新書、2015年10月、本体1,100円、ISBN978-4-480-06854-5
『タイム・イン・パワーズ・オブ・テン――一瞬から永遠まで、時間の流れの図鑑』ヘーラルト・トホーフト+ステファン・ヴァンドーレン著、東辻千枝子訳、講談社、2015年10月、本体5,500円、ISBN978-4-06-153155-0
『歴史を射つ――言語論的転回・文化史・パブリックヒストリー・ナショナルヒストリー』岡本充弘ほか編、御茶の水書房、2015年9月、本体5,500円、ISBN978-4-275-02022-2
『経済は、人類を幸せにできるのか?――〈ホモ・エコノミクス〉と21世紀世界』ダニエル・コーエン著、林昌宏訳、作品社、2015年9月、本体2,200円、46判上製256頁、ISBN978-4-86182-539-2
『ジョルジュ・バタイユの反建築――コンコルド広場占拠』ドゥニ・オリエ著、岩野卓司ほか訳、水声社、2015年9月、本体4,800円、ISBN978-4-8010-0126-8
『ハイデガー哲学は反ユダヤ主義か――「黒ノート」をめぐる討議』ペーター・トラヴニー+中田光雄+齋藤元紀編、水声社、2015年9月、本体3,000円、ISBN978-4-8010-0124-4
『図説ユダヤ・シンボル事典』エレン・フランケル著、ベツィ・P・トイチ画、木村光二訳、悠書館、2015年9月、本体6,000円、ISBN978-4-903487-91-5
『セルバンテス』パウル・シェーアバルト著、垂野創一郎訳、沖積舎、本体2,500円、ISBN978-4-8060-3072-0
『七つ星の宝石』ブラム・ストーカー著、森沢くみ子訳、アトリエサード、2015年9月、本体2,500円、ISBN978-4-88375-212-6
『仏の真理のことば註 ダンマパダ・アッタカター(一)』ブッダ・ゴーサ著、及川真介訳註、春秋社、2015年9月、本体16,000円、ISBN978-4-393-11331-8
『徳倫理学(ケンブリッジ・コンパニオン)』ダニエル・C・ラッセル編、立花幸司監訳、春秋社、2015年9月、本体5,200円、ISBN978-4-393-32353-3
『我々はどのような生き物なのか――ソフィア・レクチャーズ』ノーム・チョムスキー著、福井直樹・辻子美保子編訳、岩波書店、2015年9月、本体1,800円、ISBN978-4-00-006227-5
『西洋写本学』ベルンハルト・ビショッフ著、佐藤彰一・瀬戸直彦訳、岩波書店、2015年9月、本体12,500円、ISBN978-4-00-061065-0
『エラスムス『格言選集』』エラスムス著、金子晴勇編訳、知泉書館、2015年9月、本体2,200円、ISBN978-4-86285-216-8
『シュタイナー 天地の未来――地震・火山・戦争〔新装版〕』ルドルフ・シュタイナー著、西川隆範編訳、風濤社、本体2,500円、ISBN978-4-89219-404-7
『絶望から希望を導くために――ロゴセラピーの思想と実践』ヴィクトール・E・フランクル著、広岡義之訳、青土社、2015年9月、本体2,400円、ISBN978-4-7917-6883-7
『キャッツ――ポッサムおじさんの実用猫百科』T・S・エリオット著、E・ゴーリー挿画、小山太一訳、河出書房新社、2015年9月、本体1,300円、ISBN978-4-309-27633-5
『幸福と仁愛――生の自己実現と他者の地平』ローベルト・シュペーマン著、宮本久雄・山脇直司監訳、東京大学出版会、2015年9月、本体5,500円、ISBN978-4-13-010115-8
『デジタル・スタディーズ(2)メディア表象』石田英敬ほか編、東京大学出版会、2015年9月、本体4,800円、ISBN978-4-13-014142-0
『デジタル・スタディーズ(1)メディア哲学』石田英敬ほか編、東京大学出版会、2015年7月、本体3,800円、ISBN978-4-13-014141-3
『エウクレイデス全集(2)原論VII-X』斎藤憲訳解説、東京大学出版会、2015年8月、本体7,800円、ISBN978-4-13-065302-2
『サミュエル・ベケット短編小説集』片山昇・安堂信也訳、白水社、2015年9月、本体3,800円、ISBN978-4-560-08425-0
『知識の政治学――〈真理の生産〉はいかにして行われるか』金森修著、せりか書房、2015年9月、本体3,700円、ISBN978-4-7967-0345-1
『叢書ヒドラ 批評と運動1 特集:世界』菅孝行編、御茶の水書房、2015年8月、本体2,400円、ISBN978-4-275-02019-2
『印刷という革命――ルネサンスの本と日常生活』アンドルー・ペティグリー著、桑木野幸司訳、白水社、2015年8月、本体4,800円、ISBN978-4-560-08443-4
『分析美学基本論文集』西村清和編監訳、勁草書房、2015年8月、本体4,800円、ISBN978-4-326-80056-8
『エニグマ――アラン・チューリング伝(下)』アンドルー・ホッジス著、土屋俊ほか訳、勁草書房、2015年8月、本体2,700円、ISBN978-4-326-75054-2
『フランシス・クリック――遺伝暗号を発見した男』マット・リドレー著、田村浩二訳、勁草書房、2015年8月、本体2,400円、ISBN978-4-326-75055-9
『ルソー透明と障害〔新装版〕』ジャン・スタロバンスキー著、みすず書房、2015年7月、本体4,500円、ISBN978-4-622-07928-6
『生まれながらのサイボーグ――心・テクノロジー・知能の未来』アンディ・クラーク著、呉羽真ほか訳、春秋社、2015年7月、本体3,500円、ISBN978-4-393-32352-6
『第三の魔弾』レオ・ペルッツ著、前川道介訳、白水uブックス、2015年7月、本体1,600円、ISBN978-4-560-07201-1
『知識の社会史(2)百科全書からウィキペディアまで』ピーター・バーク著、井山弘幸訳、新曜社、2015年7月、本体4,800円、ISBN978-4-7885-1433-1
『ツンドラ・サバイバル』服部文祥著、みすず書房、2015年6月、本体2,400円、ISBN978-4-622-07918-7
『剣の刃』シャルル・ド・ゴール著、小野繁訳、文春学藝ライブラリー、2015年6月、本体1,000円、ISBN:978-4-16-813037-3
『目に見えるものの署名――ジェイムソン映画論』フレドリック・ジェイムソン著、椎名美智ほか訳、法政大学出版局、2015年6月、本体5,500円、ISBN978-4-588-01027-9
『マルセル・シュオッブ全集』大濱甫ほか訳、国書刊行会、2015年6月、本体15,000円、ISBN978-4-336-05909-3

★今回はこの中から『経済は、人類を幸せにできるのか?――〈ホモ・エコノミクス〉と21世紀世界』についてご紹介します。ダニエル・コーエン(Daniel Cohen, 1953-)はフランスの経済学者。教え子にはかのトマ・ピケティがいます。訳書には『迷走する資本主義――ポスト産業社会についての3つのレッスン』(林昌宏訳、新泉社、2009年)や『経済と人類の1万年史から、21世紀世界を考える』(林昌宏訳、作品社、2013年)があります。今回の新刊は、Homo Economicus: Prophète (égaré) des temps nouveaux (Albin Michel, 2012)の翻訳。「経済によって人間の幸せとは?」「失われる“労働”の魅力」「アメリカン・ウェイ・オブ・ライフの崩壊――「平等モデル」の瓦解と帝国の衰退」「台頭する新興国は幸福になったのか?」「グローバリゼーションは幸福をもたらしたか?」「技術革新は人間を進化させるか?――デジタル社会とダーウィニズム」「21世紀世界の幸福とは?」の7章立て。現代における幸福や富、豊かさを考え直す上で押さえておくべき世界情勢の明快な鳥瞰図を提示してくれます。ビジネスマン必読かと思われます。

★最後にラッセル編『徳倫理学』の関連書が今月続々と出版される予定なので言及しておきます。フィリッパ・フット『徳倫理学基本論文集』、ジョン・マクダウェル『徳と理性――マクダウェル倫理学論文集』はいずれも勁草書房さんの近刊。奈良雅俊『徳倫理学入門』は慶應義塾大学出版会さんの近刊です。昨年は春にフィリッパ・フット『人間にとって善とは何か――徳倫理学入門』(筑摩書房)、秋にロザリンド・ハーストハウス『徳倫理学について』(知泉書館)が刊行されていますし、徳倫理学(Virtue Ethics)のミニ・コーナーが作れるくらいの点数にはなってきそうです。
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by urag | 2015-10-11 22:44 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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