2015年 09月 13日

注目新刊:グリーンウッド『魔術の人類史』東洋書林、ほか

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絢爛たる悲惨』徳永恂著、作品社、2015年9月、本体2,800円、46判上製300頁、ISBN978-4-86182-550-7
魔術の人類史』スーザン・グリーンウッド著、田内志文訳、東洋書林、2015年9月、本体5,500円、A5判上製400頁、ISBN978-4-88721-822-2
吉本隆明全集10 1965-1971』晶文社、2015年9月、本体6,300円、A5判上製592頁、ISBN978-4-7949-7110-4
書記バートルビー/漂流船』メルヴィル著、牧野有通訳、光文社古典新訳文庫、2015年9月、本体1,000円、352頁、ISBN978-4-334-75316-0
虫めづる姫君――堤中納言物語』作者未詳著、蜂飼耳訳、光文社古典新訳文庫、2015年9月、本体860円、270頁、ISBN978-4-334-75318-4

★『絢爛たる悲惨』はまもなく発売(15日取次搬入)。退官以後書かれた、20世紀のユダヤ系ドイツ思想家たちの星座を描いたエッセイ、報告、講演、論考などをまとめた一冊です。「私のユダヤ学事始め」「ヨーロッパのアイデンティティ」「ジンメルの肖像」「アドルノにおけるミメーシス」「ベンヤミンの方法と方法としてのベンヤミン」「ベンヤミンとクレーの交錯」「イディッシュ文学の内・外」「フランクフルト学派と反ユダヤ主義研究」「ライヒvs.フロイト」「モーゼと一神教」「アーレント「悪の陳腐さ」をめぐって」「「根源悪」の問題性」のほか、木田元さんとの長編対談「ハイデガーとアドルノ」(初出は木田元編『知の攻略・思想読本 ハイデガー』作品社、2001年)を収録しています。あとがきによれば、『現代思想の断層――神なき時代の模索』(岩波新書、2009年)の姉妹編ともいえる、と。書名についてはこう書かれています。「「絢爛たる悲惨(das glänzende Elend)」という言葉は、もともとはカントに由来する。〔・・・〕人間の生は、人類の歴史は、平和を求めつつ、永遠に戦いを繰り返す「絢爛たる悲惨」に充ちている」。

★『魔術の人類史』はまもなく発売(18日頃)。原書は、The Encyclopedia of Magic & Witchcraft (Anness Publishing, 2007/2012)です。著者のグリーンウッドは作家であり人類学者。出身校のゴールドスミス・カレッジを始め、サセックス大学などで宗教人類学の講義を行っているとのことです。全7章構成で、「I 神話、宗教、科学の中の魔術」「II 魔女と超自然的存在」「III 近世のウィッチクラフト」「IV 魔女狩り」「V 近代魔術」「VI 現代のウィッチクラフト」「VII 現代の西洋魔術」。巻末の「跋」に曰く「非西洋および西洋社会におけるウィッチクラフトの概念を精査し過去を念頭に入れながら、「西洋の秘儀」、ドルイドの教え、そしてニューエイジから最も現代的な混沌魔術へと至る現代西洋の魔術の実践にも目を向け」たとのことです。「歴史研究や諸々の指南書、名画・秘画・民俗的記録からなる視覚資料510点を伴走させつつ、事典形式・全50項で簡潔に説き明かす」と帯文に謳われています。近世以降は必然的に比重としては西洋文化に重点が置かれますが、通史としてたいへん興味深い本ではないかと思います。

★なお本書「V 近代魔術」に登場するブラヴァツキーについては、驚くべきことに最近『ベールをとったイシス 第1巻 科学 下』(H・P・ブラヴァツキー著、ボリス・デ・ジルコフ編、老松克博訳、竜王文庫、2015年7月、本体4,600円、A5判並製522頁、ISBN978-4-89741-605-2)が刊行されました。奥付では7月刊行ですが、ネット書店での登録はごく最近のようです。リアル書店の店頭では今なおあまり見かけません。上巻の刊行は2010年。大冊の難物であるだけに訳者の老松先生のご苦労が偲ばれます。続刊予定は第2巻「神学」の上巻および下巻。ますます楽しみです。ちなみにブラヴァツキーのもうひとつの大著『シークレット・ドクトリン――宇宙発生論(上)』(田中恵美子/ジェフ・クラーク訳、1989年、竜王文庫〔神智学協会ニッポン・ロッジ〕)が、2013年4月に宇宙パブリッシングより改訂版が刊行されていることも特記しておきたいと思います。竜王文庫版に含まれていた解説「ブラヴァツキー・ロッジの議事録」や、ボリス・ド・ジルコフによる「『シークレット・ドクトリン』の沿革」は改訂版には含まれず(ただし2篇とも同版元より電子書籍化されています)、クラークさんによる新しい「あとがき」には「今回は〔・・・『シークレット・ドクトリン』〕本文に絞り」、「また、時間が許す限り誤りを訂正し、より分かりやすく訳し直してみた」とあります。神智学協会ニッポン・ロッジのウェブサイトでは、同書の第2巻「人類発生論」第1部の抄訳が公開されています。いずれ第1巻「宇宙発生論」の後半も下巻として出版されるのでしょうか。

★『吉本隆明全集10 1965-1971』はまもなく発売(19日頃)。第7回配本となる本書では、「『言語にとって美とはなにか』から分岐派生した二つの原理的な考察『心的現象論序説』『共同幻想論』と、同時期に書かれた高村光太郎論を収録」(帯文より)しています。高村光太郎論は春秋社版『高村光太郎選集』の解題として書き継がれたものです。間宮幹彦さんによる巻末解題によれば『心的現象論序説』は角川ソフィア文庫版を底本とし、初出、単行本、全著作集版、角川文庫版を校合し、新たに本文を確定したとのことです。『共同幻想論』は角川ソフィア文庫版が底本で、初出、単行本、全著作集版を校合し本文確定、と。「春秋社版『高村光太郎選集』解題」は、講談社文芸文庫版を底本とし、初出、単行本、全著作集版を交合し本文確定。月報7は、芹沢俊介さんによる「永久に消えない疑問」と、ハルノ宵子さんによる「めら星の地より」を収録。次回配本は12月予定で第2巻(1969-1972:情況/天皇および天皇制について/南島論/ほか)とのことです。なお周知の通り『心的現象論』の『本論』は文化科学高等研究院より2008年に愛蔵版とオンデマンドの普及版が出版されています(全集版では第30巻に収録予定)。

★光文社古典新訳文庫の9月新刊『書記バートルビー/漂流船』『虫めづる姫君』はいずれも発売済。ハイデガー『存在と時間(1)』(中山元訳、全8巻予定)は過日ご紹介しました。『書記バートルビー/漂流船』は、「書記バートルビー――ウォール街の物語」(1853年、34歳作)と「漂流船――ベニート・セレーノ」(1855年、36歳作)の2篇を収録。バートルビーの有名なセリフ「I prefer not to」は「~しない方がいいと思います」と訳されています。160年以上前の作品にもかかわらず現代人の胸に生々しく刺さるメルヴィルの筆さばきに圧倒されます。『虫めづる姫君』は「堤中納言物語」の現代語全訳です。「花を手折る人(花桜折る中将)」「ついでに語る物語(このつゐで)」「あたしは虫が好き(虫めづる姫君)」「それぞれの恋(ほどほどの懸想)」「越えられない坂(逢坂越えぬ権中納言)」「貝あわせ(貝あはせ)」「思いがけない一夜(思わぬ方にとまりする少将)」「花のごとき女たち(はなだの女御)」「黒い眉墨(はいずみ)」「とるにたらぬ物語(よしなしごと)」「断章」を収録し、各篇には訳者による短いエッセイが付されています。蜂飼さんの現代語訳は柔らかくしなやかで、帯文に「平安人の息遣いが蘇る」と謳われている通り実に見事で、すんなりと物語世界に入っていけます。

★なお、光文社古典新訳文庫の続刊予定は、ヴォルテール『カンディード』斉藤悦則訳、マルクス『資本論第一巻草稿──直接的生産過程の諸結果』森田成也訳、ドストエフスキー『白痴1』(亀山郁夫訳、全4巻)とのことです。
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by urag | 2015-09-13 22:41 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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