2015年 08月 23日

注目新刊と近刊:ドゥアンヌ『意識と脳』、ほか

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◎紀伊國屋書店さんの新刊より

意識と脳――思考はいかにコード化されるか』スタニスラス・ドゥアンヌ著、高橋洋訳、紀伊國屋書店、2015年8月、本体2,700円、46判上製472頁、ISBN978-4-314-01131-0
消費社会の神話と構造 新装版』ジャン・ボードリヤール著、今村仁司・塚原史訳、紀伊國屋書店、2015年9月、本体2,100円、46判並製372頁、ISBN978-4-314-01116-7

★『意識と脳』はまもなく発売(8月27日頃)。原書は、Cousciousness and the Brain: Dechiphering How the Brain Codes Our Thoughts (Viking, 2014)です。80年代後半以後長足の進歩を遂げつつある《意識の科学》の最前線を紹介する魅力的な本です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。書名のリンク先で序章が立ち読みできます。ノーベル賞を受賞した神経科学者エリック・カンデルは本書を次のように激賞しています。「この驚嘆すべき本は、昨今私が読んだ意識研究の本のなかでも最高傑作だ。〔・・・〕一般読者にまったく新たな知的世界を開示する本書は、まさに力作中の力作だ」。コンシャスアクセスやグローバル・イグニションなど独特の造語が目を惹きます。意識研究は翻訳も花盛りで、ブラックモアのインタヴュー本をはじめ、デネット、ダマシオ、ラマチャンドラン、コッホらの著書が近年刊行されており、科学哲学棚には外せないトピックです。著者のスタニスラス・ドゥアンヌ(Stanislas Dehaene, 1965-)はフランスの認知神経科学者で、コレージュ・ド・フランス教授。既訳書に『数覚とは何か?――心が数を創り、操る仕組み』(長谷川眞理子・小川哲生訳、早川書房、2010年)があります。

★『消費社会の神話と構造 新装版』はまもなく発売(8月27日頃)。親本は1979年に刊行され、各紙に取り上げられ大きな話題を呼びました。ニューアカ・ブーム前夜のことです。1995年には普及版が刊行されています。今回の新装版では原著1970年SGPP版からボードリヤール自身による2枚の写真が図版として加わり、塚原さんによる「訳者あとがき――解説に代えて」が掲載されています。この新たな「訳者あとがき」によれば「普及版刊行の際にはほとんど変更しなかった訳語・訳文・訳注なども若干修正・追加し〔・・・〕これまでの版にはなかった索引を付した」とのことです。底本は、La société de consommation: Ses mythes, ses structures (Gallimard, 1974)です。1970年SGPP版との間の本文の異同はなし。「すべては消費される「記号」にすぎない」という帯文をはじめ、文中に出てくる様々なモノや固有名詞に懐かしさを感じる読者もいると思いますが、私たちが生きている世界が依然として消費社会という磁場のただなかに囚われている以上、本書は古びることのない理論的参照点であり続けます。現代の古典が再び読書界に解き放たれたことを喜びたいです。


◎中央公論新社さんの新刊より

石原吉郎――シベリア抑留詩人の生と詩』細見和之著、中央公論新社、2015年8月、本体2,800円、四六判上製368頁、ISBN978-4-12-004750-3
中国人的性格』アーサー・H・スミス著、石井宗皓・岩﨑菜子訳、中公叢書、2015年8月、本体2,500円、四六判並製480頁、ISBN978-4-12-004755-8
シノワズリーか、ジャポニスムか――西洋世界に与えた衝撃』東田雅博著、中公叢書、2015年8月、本体2,000円、四六判並製256頁、ISBN978-4-12-004754-1

★『石原吉郎』は発売済。アドルノやベンヤミンなどフランクルト学派の翻訳や入門書で知られる細見さんは詩人としても長年活躍されておられ、数々の詩集を刊行されるかたわら、詩人論や作家論を上梓されてきました。『ディアスポラを生きる詩人 金時鐘』(岩波書店、2011年)はそれらのひとつです。今回の新刊は同人誌「ブレーメン館」で2010年から2015年にかけて連載された「石原吉郎論のために」を、大幅に加筆修正したもの。帯文に曰く「62年の生涯を丹念に辿り、詩からエッセイ、短歌俳句まで精緻に読み解き、戦中・戦後体験と作品世界を捉えなおす」と。詩をはじめとする作品がふんだんに引用され、「記憶としての言葉のリアリティ」(212頁)に寄り添おうとする本書は、詩人の言葉と執拗な沈黙の重さを読者の脳裏に刻印するでしょう。ツェランに惹かれる読者は石原にもいずれ出会うはずです(昨年、冨岡悦子さんによるそのものずばり『パウル・ツェランと石原吉郎』という本がみすず書房より刊行されています)。『石原吉郎詩文集』 (講談社文芸文庫、2005年)との併読をお薦めします。

★中公叢書の新刊2点『中国人的性格』『シノワズリーか、ジャポニスムか』はともに発売済。前者はアメリカ人宣教師による中国人論の古典(1890年)で、日本では1896年と1940年の二度にわたって翻訳されています。今回の新訳は1894年にアメリカで刊行された27章本を底本としています。「中国に必要なのはキリスト教だ」という結論はいかにも宣教師らしいものだとはいえ、20年以上の滞在経験で得た豊富な実例を元にした多岐にわたる考察は「今なお中国人、そして中国理解に資する重要文献」(カヴァー紹介文)として興味深いものです。いっぽう、後者『シノワズリーか、ジャポニスムか』は17~18世紀のヨーロッパで流行したシノワズリーと、19世紀後半から20世紀初頭の欧米で流行したジャポニスムの、「どちらが西洋世界により大きな影響を与えたのか」(カヴァー紹介文)を再検討するユニークな試みです(結論はネタバレしないでおきます)。フランクの『リオリエント』(藤原書店、2000年)や、ポメランツの『大分岐』(名古屋大学出版会、2015年5月)などの脱《欧州中心主義》史観を踏まえつつ、東田さん自身の『大英帝国のアジア・イメージ』(ミネルヴァ書房、1996年)以来の研究を「集大成」(あとがき)した成果となっています。


◎平凡社さんの新刊より

建築の際――東京大学情報学環連続シンポジウムの記録』吉見俊哉監修、南後由和編、平凡社、2015年8月、本体3,800円、A5判並製328頁、ISBN978-458-254455-8
変貌する北野天満宮――中世後期の神仏の世界』瀬田勝哉編、平凡社、2015年8月、本体6,800円、B5判上製392頁、ISBN978-4-582-46909-7

★『建築の際』はまもなく発売(8月27日頃)。東京大学大学院情報学環・学際情報学府主催で2008年から2011年まで計7回開催された連続シンポジウム「建築の際」の記録をもとに、各界の識者を招いた討議をまとめ、さらにキーワード解説、ブックガイド、建築家事後インタヴュー、年表などを盛りだくさんに追加したのが本書です。討議の出席者を列記しておくと、「アジアの際」では隈研吾・藤森照信・姜尚中、「振舞の際」では山本理顕・野田秀樹・山内祐平、「形式の際」では青木淳・菊地成孔・岡田猛、「映像の際」では鈴木了二・黒沢清・田中純、「生命の際」では伊藤豊雄・福岡伸一・佐倉統、「空間の際」では原広司・松本幸夫・暦本純一、「知の際」では磯崎新・石田英敬・南後由和、の各氏です。南後さんは討議に先立つ論考を寄稿され、巻頭言は吉見俊哉さんが担当されています。編集制作や制作協力にはspeelplaatsの飯尾二郎さんやアダチプレスの足立亨さんのお名前が見えます。同業者としてはこのお二人のお名前は無視できない本の印しであり証しです。

★『変貌する北野天満宮』は来月発売(9月17日頃)。B5判という大型本で、迫力があります。本は大きくなるとなぜこうも神々しくなるのでしょう。本書は「文献資料と絵画資料の精読をもとに、方法的に設定された多彩な視覚から、中世後期北野社の歴史的リアリティに迫る、画期的な論集」(帯文より)です。巻頭の「序」によれば、「『北野社家日記』を読む勉強会の結晶」とのことです。「空間」「組織」「信仰の諸相」の3部構成で以下の8本の論考が収録されています。瀬田勝哉「北野に通う松の下道――一条通と北野・内野の風景」、野地秀俊「北野の馬場と経堂」、菅野扶美「空間から見る北野天神信仰の特徴」、鍋田英水子「中世後期「北野社」神社組織における「一社」」、佐々木創「北野宮寺法花堂供僧の設置――法螺を喜ぶ北野天神のために」、石井裕一朗「松梅院禅予殺害事件と殿原衆の行動」、西山剛「室町期における北野祭礼の実態と意義」、飯田紀久子「天神信仰における牛の由来」。巻末には略年表と索引(事項、氏名、史料・資料名、研究者名、年号)があります。
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by urag | 2015-08-23 23:18 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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