ウラゲツ☆ブログ

urag.exblog.jp
ブログトップ
2015年 08月 10日

雑談(13)

「雑談(12)」の末尾にくっつけておきたかったのですが、毎度の字数制限につき新エントリーとなります。例の取次問題とは別件の、根深い図書館問題についてです。ごく簡単に本件を把握されたい方はまずこちらのツイートをご覧ください。出版人ももはや「詳しくは知らなかった」では済まされないはずです。

◆8月10日18時現在。

「雑談(12)」で先述した「#たけお問題」に関連して、ヤフー株式会社のCISO Boardをおつとめの楠正憲さんのブログ「雑種路線でいこう」の2015年8月9日付エントリー「武雄図書館リニューアル時の資料選定にみる指定管理者制度のagency problem」での言及をいくつかご紹介します。

曰く「『火花』の貸し出しが2年待ちだなんて話を聞くと、本当にバカバカしいと呆れてしまう。税金をつかってまで売れている本の発行部数を多少減らすことに、どれほどの意味があるのだろうか?自腹で本を買っている同じ納税者として、ベストセラーを無料で読むことを住民サービスとして期待する向きは如何なものかと感じている。図書館は貸し出し待ちが多いからといって同じ本を何冊も買うべきではない」。

まったくその通りです。同様の意見はそれこそ昔から色んな方々から聞くことで、一出版人としても同感です。中にはどえらいクレームをつけてくる利用者もいるようで、「マガジン航」に7月9日付で公開された、シンポジウム「公共図書館はほんとうに本の敵?」(2015年2月2日@紀伊國屋サザンシアター)の記録には、司会進行を務められた植村八潮さん(専修大学文学部教授)がこんな事例を紹介されています。

「植村――山梨県立図書館で、阿刀田館長は「本をすぐ読みたいのなら、やはり買ってもらうように言いなさい」と指導していると聞きました。自らが言うのはいいけれど、たぶんフロントの人が利用者に言うのはむずかしい。なぜかというと、私の学生が、図書館でアルバイトをしていて、予約が200番だと「私、税金を払っているんだから、200冊買いなさいよ」と罵声を浴びせられたという。猪谷さんが紹介された「いい図書館」は、結局、市民性の反映かなと感じました。ちょっと言い過ぎかもしれませんが」。

ここで言われている本は200人待ちということから推測するに、おそらくベストセラーの類でしょう。1冊5000円以上するような本ではないと思われます。これを納税者が200冊買えと要求するのはあまりにも極端ですが、たとえこれが20人待ちだったとしても、副本が20冊あっていいとは思えません。多くの方が言っておられるようにせめてベストセラーは本屋さんで買ってもらった方がいいのです。

楠さんのエントリーに戻ります。曰く「とはいえリニューアル時に武雄図書館が購入した蔵書リストをみて、これはさすがにまずいんじゃないかと感じた。POS情報と取次のいいなりでつくられた薄っぺらな本屋の棚づくりよりもずっとひどい、明らかに売れ残った本の掃き溜めにされてしまっている。どんなに間抜けな資料選定をやったら、こんな下品なリストができるのだろうか?どこぞの新古書店の不良在庫を押し付けられているにしては図書の単価が高い点も気にかかる。/指定管理者が不良在庫の受け皿として委託を請け負った図書館を使うのは典型的なagency problemで、忠実義務違反に当たるのではないかと地方自治法244条を引っ張り出してみると、指定管理者制度は委託ではなく行政処分で、そもそも忠実義務なんか存在していない。地公体は指定管理者に対して当該管理の業務又は経理の状況に関し報告を求め、実地について調査し、又は必要な指示をすることができ、指示に従わないとき等はその指定を取り消し、又は期間を定めて管理の業務の全部又は一部の停止を命ずることができることになっているので、結果として忠実義務違反を追求できるのであれば、制度の不備とまではいえないのかも知れないが、指定管理者を決める際に入札を行う例も多い中で、他で元を取る商法を野放図に認めてしまうと行政の質を担保できないことが懸念されるので、何かしら忠実義務のようなものを規定しておいた方がいい気がする」。

何かしら忠実義務のようなものを規定しておいた方がいい、というご意見に同感です。このあと楠さんは「指定管理者の選定と監督は発注者である自治体の責任だし、【社名は伏せます】が受託した他の図書館において、これほど下品な資料選定は行われていないと信じたいところではあるが」と続けておられます。実際のところこの件を業界側から見て非常に怪しいと受け止めている方々がいます。以下ではとりあえず今回の件でまとめサイトなどに名前が出ている企業について、次の時系列を押さえておこうと思います。

まずは武雄市図書館のリニューアルについてWikipediaの説明を借りると「2012年5月4日に市議会の承認を得ないまま【社名は伏せます】を指定管理者にすると発表、11月1日から2013年3月31日まで改装工事のため閉館。2013年4月1日、全面改装し、【社名は伏せます】を指定管理者とした運営が始まった。【社名は伏せます】は目的外使用の許可を得てスターバックスを含む【書店名は伏せます】を設置」。さらにこれを踏まえて、経済ジャーナリストの財部誠一さんによる「経営者の輪」(2008年9月9日)を参照するとともに、長らく武雄市図書館について調査されてきた前田勝之さんの「サーバ管理者日誌」2014年4月29日付エントリー「シリーズ武雄市【書店名は伏せます】図書館(27) - 【佐賀新聞】書籍・DVDなど大量廃棄 武雄市図書館新装時に」を読み(このシリーズは必読です)、その上で指定管理者と新古書店の間の前後関係をおさらいします。

「日本経済新聞」2013年11月22日記事「【社名は伏せます】、ブックオフ株すべて売却 業務協力は継続」に曰く、「両社の資本関係はなくなるが、ブックオフは「【書店名は伏せます】」のフランチャイズチェーンとして約30店舗の運営を手掛けており、業務面での協力は今後も続くとしている」。

「MONEYzine」2014年7月24日付、(株)ストライク記名記事「ブックオフコーポレーション<3313>、「【社名は伏せます】」31店舗を譲渡」に曰く、「ブックオフコーポレーション(神奈川県)の子会社で「【書店名は伏せます】」のFC加盟店として33店舗を運営するブラスメディアコーポレーション(神奈川県)は、新設分割により「【書店名は伏せます】」31店舗(売上約89億円)及び本部機能を新設会社(東京都)に承継させた上で、その新設会社の株式80%を、大手出版取次会社であり、「【書店名は伏せます】」のFC加盟店44店舗を運営する日本出版販売(東京都)に譲渡する「基本合意」を締結した(その他小売業界のM&A)」。

「流通ニュース」2014年9月19日付記事「ブックオフ/【書店名は伏せます】運営子会社を20億円で譲渡」に曰く「ブックオフコーポレーションは9月19日、子会社のブラスメディアコーポレーションがフランチャイズ加盟店として運営する「【書店名は伏せます】」31店を、会社分割により新設会社に承継し、新設会社の株式のうち80%を日本出版販売に譲渡すると発表した」。同ニュースの2015年3月18日付記事「ブックオフ/【書店名は伏せます】運営子会社を日販に譲渡」に曰く、「ブックオフは3月17日、連結子会社のB&Hがブックオフの持分法適用関連会社のブラスメディアコーポレーションの全株式を日本出版販売に譲渡すると発表した。株式の譲渡価格は4億8500万円」。

そして、ブックオフの2015年3月現在の主要株主についても押さえておきます。Wikipediaによれば以下の通りです。ヤフー:議決権比率15.02%、ハードオフ:6.78%、大日本印刷(DNP):6.21%、丸善:5.73%、自社従業員持株会:5.59%、講談社:4.03%、小学館:4.03%、集英社:4.03%、図書館流通センター(TRC):3.63%。丸善とTRCがDNPグループの一員であることは言うまでもありません。拮抗していますが、筆頭はヤフーではなくDNPグループです。ちなみにハードオフの大株主はこちらをご覧ください。

日販の上位株主についても覚えておきましょう。同じくWikipediaからの情報です。2015年3月31日現在、講談社:6.08%、小学館:6.02%、日販従業員持株会:5.31%、光文社:2.83%、文藝春秋:2.31%、秋田書店:2.25%、三井住友銀行:2.14%、KADOKAWA:2.04%、旺文社:1.83%。光文社は講談社と同じ音羽グループなので、筆頭は音羽グループということになります。

話を戻すと、楠さんはエントリーを以下のように締めくくっておられます。曰く「武雄図書館のリニューアルに際して資料選定が杜撰だったことは残念だし、こういった悲劇が他の図書館で起こらないことを祈るばかりだが、そもそも武雄の問題に限らず、図書館の位置づけや役割そのものを今後どうしていくか闊達な議論の必要を感じる。文化を支える、知る権利を保障するといった公共性、住民ニーズと公平性、行政効率化の観点について、Google Booksや近代デジタルライブラリーといった新たなサービスの普及、住民のコラボレーションに対して適切に公共空間を確保できているかといった図書館に限らない街づくりの視点も踏まえつつ、落としどころを探っていく必要があるのだろう」。

まず、他の図書館でもこうした杜撰な運営がないかどうかについては、指定管理者次第で懸念が現実となるリスクが昔も今も高いと思われます。その上で言えば、楠さんが仰る通り、図書館の社会的な位置付けは街づくりの視点も踏まえて今後ますます議論されるべきです。その際には、業界や行政側は面倒くさがるでしょうけれども、一般市民に開かれた議論の場を設けるべきだろうと思われます。文化をめぐる大問題ではあるはずなのですが、大きいからと言って間違っても新国立競技場やら東京オリンピックやらのような、市民感覚からズレたトラブルを連発するようなことがあって欲しくないと強く思います。

選書やアーカイヴといった棚の中身に関わることがこれだけ赤裸々に問題になると、こちらのまとめサイトで武雄市図書館のことを褒めていた方々の声を読み返してみて、今さらながらに溜息が出ます。図書館も書店も、外観や内装や併設されている施設以上に棚の中身が問題になるのだ、ということ、そして、中身までじっくり見ている人は必ずしも多いわけではないのだ、ということを、痛烈に想起させます。当たり前すぎる結論かもしれませんが、中身ではなく雰囲気をもてはやされているだけの図書館や書店があるとしたら、それらはいずれ必ずすたれるだろうと言わざるをえません。

最後に、「J-CASTニュース」2015年7月29日付記事「樋渡啓祐・前武雄市長、【社名は伏せます】子会社の社長に就任」も御覧ください。曰く「【社名は伏せます】は2015年7月28日、地方創生や地方高齢者の健康促進など自治体向け事業を進める新会社「ふるさとスマホ」(東京都渋谷区)を設立、社長に樋渡啓祐・前武雄市長(45)が就任すると発表した。〔・・・〕 スマートフォンを持ち歩いた距離に応じてグループ共通ポイント「Tポイント」を与えるサービス、高齢者にスマホを提供して安否確認ができるサービスなどを通じ、格安スマホの拡販やTポイントの利用者拡大につなげたい考え」とのことです。7月28日付ニュースリリース「ふるさとスマホ株式会社 設立のお知らせ」もご参照ください。新会社のウェブサイトでは樋渡社長の満面の笑みの写真とともに代表あいさつが掲げられています。

+++
[PR]

by urag | 2015-08-10 19:05 | 雑談 | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://urag.exblog.jp/tb/21535617
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。


<< 雑談(14)      フタバ図書福岡パルコ新館店が「... >>