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2015年 08月 09日

注目新刊:共和国、航思社、洛北出版、ほか

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◎共和国さん、航思社さん、洛北出版さんの新刊より

誰も知らない 香港現代思想史』羅永生著、丸川哲史・鈴木将久・羽根次郎編訳、共和国、2015年8月、本体2,700円、四六判並製360頁、ISBN978-4-907986-09-4
ヤサグレたちの街頭――—瑕疵存在の政治経済学批判 序説』長原豊著、航思社、2015年8月、本体4,200円、四六判上製512頁、ISBN978-4-906738-12-0
レズビアン・アイデンティティーズ』堀江有里著、洛北出版、2015年8月、本体2,400円、四六判並製364頁、ISBN978-4-903127-22-4

★『誰も知らない 香港現代思想史』はまもなく発売(8月15日頃)。日本語オリジナル論集です。著者の羅永生(Law Wing-sang, 1958-)さんは香港の嶺南大学文化研究系准教授。単独著としては本書が初めての訳書になります。『殖民家国外』(Oxford University Press, 2014)所収の論考を中心に編まれており、巻頭に著者の書き下ろしの「まえがき」、それに続いて9編の論考(うち『殖民家国外』からは4篇)、付録として「香港現代史略年表」、巻末に編訳者のお一人である丸川哲史さんによる解説「方法としての香港――あとがきにかえて」が付されています。本書の構成について「最初に香港現代思想の全体の枠組みを示す論文を配し、その次に「返還」前後の文脈と社会運動を個別に論じたものを置き、最後にそれらをトータルに理論的に総括する文章でまとめている」と丸川さんはお書きになっておられます。刊行のきっかけとなったのは、学術文化交流ネットワーク「MAT」(アジア現代思想プロジェクト)が企画した講演会だったそうです。MATのシンポジウム開催やウェブでの活動を担当しているのが「亜際学院」で、本書の共訳者でもある池上善彦さん(「現代思想」元編集長)の肩書が「MAT/亜際学院」となっています。

★『ヤサグレたちの街頭』は発売済(8月7日)。取扱書店や目次詳細は書名のリンク先をご確認ください。前著『われら瑕疵ある者たち――反「資本」論のために』(青土社)から7年、最初の単独著『天皇制国家と農民――合意形成の組織論』(日本経済評論社、1989年)から数えて3冊目になります。1998年から2014年までに『現代思想』等で発表されてきたテクスト19篇が加筆修正のうえ収録され、巻末にはあとがきがわりに「風景の遷ろい――謝辞のためのセンチメンタルな「まえがき」」が付されています。「あとがき」ではなくなぜ「まえがき」なのかについてはこんな説明があります。「本書に「政治経済学批判 序説」というよくある副題を添えたのは、現在準備中の新著『資本主義機械の層序学――政治経済学批判』(仮題)への経路として本書を位置づけているからにほかならない。〔・・・〕この新たな第一歩を促してくれた人びとへの謝辞こそ、本書の「あとがき」であり、自作には組み込まれない「まえがき」でなければならない」(504頁)。なお本書の刊行を記念して、8月29日(土)15時~17時に、御茶ノ水のブックカフェ「Espace Biblio」にて長原豊さんと絓秀実さんによるトークショー「街頭のゆくえ――反資本主義のために」が行われます。予約制で参加費は当日精算1,500円です。詳しくはイベント名のリンク先をご覧ください。

★『レズビアン・アイデンティティーズ』は発売済(7月31日)。リンク先で目次閲覧や立ち読みができます。帯文にも引かれている言葉ですが「本書では、使い古され、有効期限切れだと指摘される〈アイデンティティ〉という概念を、あえて考察の俎上にのせ、その限界をふまえながらも、しかし、いまだ有効でありうる可能性をみつけだしてみたい。〔・・・〕ひとつの試みとして、わたし自身がしばらくこだわってきた、「レズビアン」をめぐる〈アイデンティティ〉の可能性について、考えてみたい」(25-26頁)と。ただし本書は何かしらの限定的な特質を持った《変わらないもの》について論じているのではありません。セクシャリティの如何に関わらず、「他者との相互作用のプロセスのただなかを生きている」(21頁)、「複数のアイデンティティの束としての自己」(同)と向きあう上で、本書はいくつもの示唆を提示してくれます。その見かけ上の特定的印象とは異なり、たくさんの人々との予想外の出会いへと開かれている本なのです。「一人ひとりが、自己のなかにいくつもの〈アイデンティティ〉を抱えて生きている。異なった背景や経験ゆえ、モノの感じ方や行動の仕方も、そしてそれらを表出する方法も、一人ひとり異なり、時には衝突が生じることもある。その衝突もまた、〈コミュニティ〉をとおして、他者との共通点やちがいをみいだすような、境界を越境するきっかけになることもあるだろう。つまりは、衝突もまた、「自己の輪郭」をえがきだす手立てとなっていくのだ。そして、境界線に気づくとともに、それを越境する試みもまた、始動するのだ」(298頁)。


◎人文書院さんの新刊と重版

戦争と平和 ある観察』中井久夫著、人文書院、2015年8月、本体2,300円、4-6判上製208頁、ISBN978-4-409-34049-3
高等魔術の教理と祭儀 教理篇』エリファス・レヴィ著、生田耕作訳、人文書院、2015年7月(2版第4刷);1994年、本体4,000円、A5判上製282頁、ISBN978-4-409-03022-6
高等魔術の教理と祭儀 祭儀篇』エリファス・レヴィ著、生田耕作訳、人文書院、2015年8月(初版第4刷);1992年、本体4,000円、A5判上製332頁、ISBN978-4-409-03023-3

★『戦争と平和 ある観察』は発売済。帯文に曰く「戦後70年、神戸の震災から20年。戦争を二度と起こさないために、自身の戦争体験を語る。加藤陽子(歴史学者)、島田誠(元海文堂書店社長)との対談も収録」と。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「私の戦争体験」「災害を語る」が本書のための語り下ろし。加藤陽子さんとの対談「中井家に流れる遺伝子」も本書のために新たに行われたものです。「前の戦争を忘れたころにつぎの戦争がおこります。日本は転向するとなったら雪崩を打つように速い。貧困や将来への不安から再びそうならないとも限らない」(「私の戦争体験」119頁)。「あれ〔東日本大震災〕は、私にとってそれまであった信頼の基盤のようなものが大きくゆらいだ出来事でした。東北の大震災が突然生活を壊滅させたということで、私のなかでは戦争と結びつきます」(「災害を語る」180頁)。このほかにも印象的な言葉がたくさんありますが、全体を通読した上でその含意を噛みしめるべきだと感じます。一番長編の表題作は森茂起編『埋葬と亡霊――トラウマ概念の再吟味』(人文書院、2005年)が初出で、翌年にみすず書房から刊行された『樹をみつめて』に再録されています。

★『高等魔術の教理と祭儀〔Dogme et rituel de la haute magie〕』教理篇と祭儀篇は重版です。教理篇はもともと1982年に生田耕作さんの翻訳で刊行されましたが、祭儀篇の刊行より2年後の1994年に「2版」が出版されました。この「2版」は帯文では「新訳改訂版」と銘打たれています。両篇の目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。人文書院さんでは本書に続く『魔術の歴史』(鈴木啓司訳)を1998年に、さらに同じく鈴木さんの翻訳による『大いなる神秘の鍵』を2011年に発売され、「魔術三部作」を完結させておられます。ホール『象徴哲学大系』全4巻も昨秋から今冬にかけて新版が刊行されており、既刊書を大切にされている御様子が窺えます。簡単そうで今時はなかなかできないことです。『ユング・コレクション』も続々と重版されておられますが、『心理学的類型』全2巻がなかなか再刊されません。さらに言えば、同コレクションでは未刊のものに第10~12巻『ツァラトゥストラ I~III』や第15巻『分析心理学』がありました。予告が最後に出たのは2001年刊の第13巻『夢分析 I』の帯でした。


◎水声社さん7月新刊より

ジョン・ケージ伝――新たな挑戦の軌跡』ケネス・シルヴァーマン著、柿沼敏江訳、論創社/水声社、2015年7月、本体5,800円、A5判上製506頁、ISBN978-4-8010-0094-0
『小林秀雄 骨と死骸の歌――ボードレールの詩を巡って』福田拓也著、水声社、2015年7月、本体4,000円、A5判上製296頁、ISBN978-4-8010-0109-1
ロリア侯爵夫人の失踪』ホセ・ドノソ著、寺尾隆吉訳、水声社、2015年7月、本体2,000円、四六判上製176頁、ISBN978-4-89176-957-4 
黒いロシア 白いロシア――アヴァンギャルドの記憶』武隈喜一著、水声社、2015年7月、本体3,500円、四六判上製354頁、ISBN978−4−8010−0121−3 
アルジェリアの闘うフェミニスト』ハーリダ・メサウーディ著、エリザベート・シェムラ聞き手、中島和子訳、水声社、2015年7月、本体3,000円、四六版上製280頁、ISBN978-4-8010-0123-7
『小島信夫長篇集成5 別れる理由 II』小島信夫著、水声社、2015年8月、本体9,000円、A5判上製686頁、ISBN978-4-8010-0114-2

★『ジョン・ケージ伝』は発売済。カヴァーにも奥付にも版元名がふたつ「論創社」「水声社」と併記されています。発行と発売で分かれているということでもなく、発行者がダブルネームになっているのです。ISBNは水声社さんのものですし、ご担当の編集者さんも水声社さんの方です。論創社さんはもちろん出版活動を続けておられます。人文書業界ではこうした前例を聞いたこともなく、これはいったい、と驚いていたところ、水声社さんのブログによれば本書は、論創社さんと水声社さんの共同出版とのことです。詳しい事情はこれ以上は知らないのですけれども、興味深い試みではないかと感じます。帯文には坂本龍一さんの推薦文が載っています。曰く「ケージはやはりとても巨大で、でも、ぼくにとっては、ナム・ジュン・パイクに連れられて行ったケージのペントハウスで、こっそりキッチンに忍び込み、例の茸が収納されている薬棚を目撃した日のことが、とても大事です」。原書は、Begin Again: A Biography of John Cage (Knopf, 2010)です。訳者の柿沼さんはケージの『サイレンス』(水声社、1996年)をお訳しになった方で京都市立芸術大学で教鞭を執られておいでです。今回の伝記はもともとはケージの生誕100周年(2012年、没後20年)にお出しになられたかったのだとか。日本語で読めるケージ伝は本書が初めてになります。細かい字の2段組でびっしり組まれていて非常に読み応えがあります。索引も多項目でたいへん充実しています。70歳の折、ケージは『キーボード』誌にこう語ったそうです。「さまざまな国家があるという事実によって、あらゆる国家が核兵器を持ち、他のすべての国家を破壊することを望むようになります。そしてそれが私たちみなを破壊することになります。だから国家は必要ないのです」(313頁)。

★このほか『小林秀雄 骨と死骸の歌』『ロリア侯爵夫人の失踪』『アルジェリアの闘うフェミニスト』『黒いロシア 白いロシア』『小島信夫長篇集成5 別れる理由 II』はすべて発売済。『アルジェリアの闘うフェミニスト』の原書はアルジェリアの政治家でフェミニズムの活動家メサウーディ(Khalida Messaoudi, 1958-)さんの自伝的インタヴュー本、Une Algérienne debout (Flammarion, 1995)の翻訳です。献辞に「FIS〔イスラーム救済戦線〕の武装集団に凌辱され、殺戮されたすべての女性に。〔・・・〕原理主義者による蛮行の犠牲になったすべての人びとに。〔・・・〕」とあります。ほかならぬメサウーディさんもFISから命を狙われていたそうです。『小島信夫長篇集成5 別れる理由 II』の巻末解説は佐々木敦さんによる「「自然成長性」にかんするメモ」(671-681頁)です。「江藤淳批判の一環もしくは代理戦」としての小島信夫批判について興味深い分析を展開されています。「月報2」は、坂内正「ある編集者からの葉書」、青木健「コジマの前にコジマなく・・・」、千石英世「連載 小説『別れる理由』のために(2)」が掲載されています。次回配本は第3回、9月上旬刊行の第6巻『別れる理由 III』(解説=千野帽子)とのことです。
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by urag | 2015-08-09 19:11 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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