ウラゲツ☆ブログ

urag.exblog.jp
ブログトップ
2015年 08月 04日

雑談(10)

◆8月4日正午現在。

「雑談」は1エントリーあたり2日分の投稿をまとめていますので、今日からまた新しいエントリーに移行します。日本書店商業組合連合会(日書連)が発行する「全国書店新聞」2015年8月1日号に、「栗田出版販売民事再生について/日書連会長・舩坂良雄」という記事が掲載されています。同記事は日書連が運営するサイト「本屋さんへ行こう!」で読むことができます。「全国書店新聞」は書店員さんの立場や本音を垣間見ることのできる貴重なメディアです。出版人も読者もこうして閲覧可能になっていることには大きな意義と意味があります。勉強になりますし、たいへん役立ちます。日書連さんに感謝します。

栗田が民事再生法の適用を申請した6月26日以降、「全国書店新聞」は7月1日号、同15日号、8月1日号と発行されましたが、15日号に「栗田出版販売が民事再生/出版取次で過去最大の倒産」という簡単な記事が載ったのみで、日書連としてコメントを発表したのは今回が初めてになるかと思われます。

曰く「栗田の経営陣はこの事態を重く受け止め、これ以上の混乱を回避するため栗田帳合書店並びに出版社の意見、批判に謙虚に耳を傾けていただきたい。そして、栗田帳合書店が可能な限り通常に近い形で営業できる体制を作っていただきたい。来春に予定される大阪屋との経営統合までの期間、栗田帳合書店への安定した商品供給を継続して確保するための施策に万全を期して取り組むよう強く要望します。特に新刊配本についてはいまだ停止している出版社も多く、栗田の責任において、あらゆる手段を講じて商品調達に努めていただきたいと思います」。

→この「特に新刊配本についてはいまだ停止している出版社も多く」というくだりはある意味衝撃的です。私たち出版社が栗田から説明を受けていることとズレがあるからです。山本社長はこれまで、多くの出版社の協力と賛同を得ていると各種説明会で強調してきました。また、書店さんの現状については7月29日の「山本社長の話を聞く会」で次のように話されています。「当初は、書店からのパニック的返品や入金不良、帳合変更への恐れがあり、そうした事態を避けたかった。しかしその後は通常より多い入金があり、予定より資金繰りは良い」。

→版元サイドとしては限られた版元の現状しか知ることはできず、2000社全体としてはどうなっているかは知るべくもありません。先日お伝えした通り、7月29日時点では新提案に対する回答率は65%で、そのうち賛成している版元は債権額ベースでは90%、債権者ベースでは80%超だと山本社長は明かしていました。65%の回答率でそのうち80%の版元が承認ということは、来たるべき再生計画が採択されるかどうかがまさに当落線上にあるということを意味しています。早ければ9月、遅くとも11月に開催される債権者集会で再生計画が採択されるためには、債権額ベースと債権者ベースのともに半数以上の賛成が必要です。新提案はその票読みのためのものだ、と多くの版元が分析しています。

→新提案に賛成する版元はたいてい7月24日の最初の期限までに回答したはずです。回答を保留していた版元は「賛成しかねる」から保留しているわけなので、その意味で言えば、今回の債権届出期限ギリギリの「再々提案」=最後通牒は、賛成票がなかなか増えないからこそダメ押ししよう、となったことを推測させます。焦っているのでしょうか。このダメ押しは残念ながら、版元の出荷停止や返品拒否に対して効力を発揮することは難しいでしょう。北風と太陽の寓話を思い出しますね。栗田や代理人が焦っている、拙速だ、とここまで分かってしまうと、当然のことながら版元だけではなく、書店さんも栗田に対して自衛策を取らざるをえなくなってくるでしょう。今回の日書連の憂慮は決して軽いものではありません。もはやこれ以上黙っていられない情況になってきた、という書店さんの現実をこの声明は表しているでしょう。

→出荷停止をしている版元がどれくらいあるか、ということについては、新提案への回答率からただちに推測することはできません。新提案には二次卸スキームへの合意書が付されており、これに合意した版元は返品買取に合意したことになりますが、継続出荷の可否までは合意に左右されないのです。つまり、合意しても出荷は各版元の判断で停止しうるのですし、実際に完全停止はしないまでも、赤残が発生しない程度に出荷を抑制することは充分ありえます。栗田が本当に再生できるのかどうか不明なうちは、そうした出荷抑制が版元の取りうる選択肢のひとつです。一方、二次卸スキームを拒絶ないし保留している版元は、賛成している版元よりも一般論としては栗田に対する用心がより強いわけですから、賛成版元以上に出荷抑制や出荷停止を選択していてもおかしくはないです。そうなると、二次卸スキームに同意しようとしなかろうと、どちらでも出荷の抑制ないし停止が起こりうるということで、その数が一定数であれば、当然書店さんの商品調達は困難の度を深めることになります。その数が数十社なのか数百社なのかは分かりませんが、だいたいの数字が人づてに流れてくることもありました。

また曰く「7月6日の債権者説明会で栗田が説明した再生計画案スキームは、出版社に多重の負担を強いるものであるとして強い反発を受けています。その結果、少なからぬ出版社が栗田への出荷を停止し、返品を逆送しています。栗田が出版社の批判を真摯に受け止め、返品問題解決を検討するのは当然です。しかし、出版社の出荷停止措置で商品供給が滞れば、栗田帳合書店の経営に深刻な影響が及び、ひいては書店の先にいるお客様の読書環境を阻害する事態にもつながりかねません。日本の出版文化を守る観点からも、出荷停止措置を行っている出版社の皆様には、措置の解除に向けてご善処くださるようお願い申し上げます」。

→この「少なからぬ出版社が栗田への出荷を停止し、返品を逆送しています」という事態がどの程度の規模のものなのかは不明ですが、7月29日の「話を聞く会」で栗田の高梨取締役は会場からの質問に答えて「返品を書店に逆送することはしていない」と明言しています。この言葉を信じるなら、版元から栗田に返品が逆送されても、栗田から書店には逆送していないことになります。もし、書店さんに栗田から逆送品が届いているならば、それは由々しき事態です。事実はありのままに公表されるべきです。【4日17時追記:今のところ書店さんから「逆送があった」という声は耳にしていません。高梨取締役は「話を聞く会」と同じく7月29日に行われた書店への説明会でも「逆送しない」と明言されていたと聞いています。】

→出荷停止措置の解除について。出版社が自滅しないためには返品入帳にせよ、納品出荷にせよ、自衛的手段を取らざるをえない現状であることは明白な事実です。栗田が繰り返し強硬策を取り続けている以上、現状が変わることはありません。栗田が銀行から借金できず資金繰りに苦しんでいることは知っています。山本社長もようやく少しづつ「苦境」について版元に話すようになってきてはいます。しかし当初から変わっていないのは、版元に対する傲慢すぎる上から目線の態度です。「片面的解約権」を掲げ出版社を威圧し、出版社が未精算分の返品を買い上げるのは当然だと言わんばかりの姿勢を終始示してきました。口では「お願い」や「提案」と言っても、内実はまったくかけ離れているのです。先日も書いた通り、現状では「謝りながら相手に蹴りを入れている」状態なのです。人間性を踏みにじるようなこうした仕打ちを続けている限り、栗田が出版社の信頼を取り戻すことは不可能です。これが悪循環を生みかねない現状であることは栗田もよく理解しているはずです。たとえ再生が叶っても浅からぬ遺恨が残り、それが大阪屋へと連鎖します。大阪屋としても、これ以上版元の反発があるならば、自社に飛び火しないよう(もうすでに飛び火し始めているわけですが)、やはり「自衛」の手段を考えざるをえないでしょう。合併は火種を孕んでいるということです。合併解消やむなし、となりたくないのであれば、全力で信頼回復に努めるべきです。

→栗田は公平性の名のもとに、出荷停止版元や返品拒否版元に対して歩み寄る姿勢を一切見せてきませんでした。これもまた、どのような結果を生むのかは充分分かっているだろうと思います。栗田の一番マズい印象というのは《まるで版元からカネをふんだくらないと「負け」なのだとでも思っているらしい》というものです。必死なのは分かりますが、それが「喧嘩を売っている」ようにしか見えていないのは明らかに損ではないですか。なぜこんな当たり前のことを代理人はケアしてあげないのでしょう。出版業界を知らないから? 民事再生で反対勢力がいるのは当然だから? 栗田さんの社員さんでも「このままではマズい」と思っておられる方がいるはずです。今こそ、栗田は代理人の指示にばかり従うのではなく(たとえそうでないとしても、そうにしか「見えていない」のです)、版元と向きあって自身の抱えているジレンマを率直に話すべきです。「再生の責務を負っている」のならば、機会を逸するべきではありません。もう間に合わなくなりつつあるのですから。

+++

◆8月4日15時現在。

声明つながりの話題です。「雑談(3)◆7月17日正午現在」で書いた「出版労連は栗田事案をどう考えているのだろう、という思いが募ります」という私の疑問に対してレスポンスを下さった方がいるのを遅まきながら知りました。興味深いので引用しておきます。曰く「栗田民事再生の件で、出版労連を隠微にくさす月曜社小林。労連がこの件で声明を出すとしたらドミノ合理化問題だろ。極論すれば関係ないわけじゃないが立場は労働者だからね。むしろ、出版協(旧・流対協)の声明を紹介すべきでしょ。あえて無視してんのかな」(23:25 - 2015年7月17日)と。

レスポンス嬉しいです。ありがとうございます。率直な疑問を「隠微にくさ」したと読んでいただいたことや、私がその直前のエントリー「雑談(2)◆7月16日16時現在」で出版協の声明を紹介していたことにお気づきでない御様子なのは、議論の本筋ではないためひとまず脇におくとします。私を呼び捨てにしてくれるほど親しい友人の中にはこの方に該当する人物がいるとも思えないので他人行儀ながらgyrmjng@gye_kzmさんとお呼びしますが、「労連がこの件で声明を出すとしたらドミノ合理化問題だろ」というのはなかなか興味深いコメントです。一方「極論すれば関係ないわけじゃないが立場は労働者だからね」というのはいささか物足りない。労働者だろうが経営者だろうが出版人に変わりはないのですから、無関係ではありえないし、何も意見がないとは思えません。この「ドミノ合理化」が何を意味するのか分からないので、話の続きを聞きたいところです。ぜひどしどしツイートしてください。勉強になります。

出版労連について知らない方は同会ウェブサイトをご覧ください。巷のおしゃべりについては古いスレッドですが「出版労連ってどう?」をご覧ください。コメント110で言及されている「鈴木書店の自己破産申請に関する声明」というのを読んでみたいのですが、労連のサイト内には見つからず。読みたいなあ。

+++

◆8月4日18時現在。

7月29日の「山本社長の話を聞く会」で大阪屋の大竹社長がこんなことを仰っていました。「栗田さんからの相談は6月に入ってからあった」と。ん? 6月に入ってから? 要するに6月26日以前には知っていたということです。むろん、26日に栗田から債権版元に送られてきた最初の文書にはすでに「今後は大阪屋に請求書を送れ」と書いてありましたし、大阪屋の挨拶文も添付されていましたから、このように周到な代替システムが準備期間なしに突然稼働できるわけはありません。OKCで協業しているとはいえ、大阪屋に突然「今日倒れるから助けてね」となったわけではない。

大竹さんはご存知の通り講談社のご出身ですが、講談社の森武文専務は6月26日にこんなことをコメントされたそうです。「今は困惑している。しかし、栗田が事業を譲渡し、書店を守ることができるならば、今回の措置もやむを得ない。今後もできる限り応援したいと思う」(「新文化」2015年7月2日号;これはウェブではなく紙媒体に載ったものです)。この発言の引用のあと、「新文化」はこう続けています。「小学館、集英社も栗田を支援する考えを示している」と。出身者が大阪屋のトップにいるのに、専務が栗田のことを知らなかったとは思えません。「今は困惑している」という発言は「先日来相談されて困っている」と読まねばならないのです。小学館も集英社も当然事前に知っていたでしょう。6月26日付の山本社長の挨拶文「栗田出版販売(株)民事再生手続き開始の申立てについて」にはこう書かれています。「4月以降も売上の現状が続き、主要出版社様から資金支援を受ける状況にありました」と。つまり栗田リスクは以前から主要出版社には周知の事実だったと推測できます。

大阪屋も音羽も一ツ橋も事前に知っていたろうというのは誰でも気付いていたことだ、と仰る方もおられるかもしれません。その通りです。しかし、公的な場で「事前相談があった」ことを関係者が明かしたのはこれが初めてです。栗田事案が紛糾しているのは、この《栗田が大版元にしか相談していなかったであろう》ことが一因となっています。未精算分の商品を買い上げろ、と迫られている《支払いサイトが長い》版元たちのことなど、栗田も大手もいちいち勘定に入れている暇はなかったのでしょう。最初から「無理を言う」ことは決まっていたと言えます。

+++

◆8月5日午前1時現在。

株式会社インプレスホールディングスが8月4日付でニュースリリース「特別損失(貸倒引当金繰入額)の計上に関するお知らせ」を公開されました。「当社グループは、平成27年6月29 日に公表いたしました「栗田出版販売株式会社に対する債権の取立不能のおそれに関するお知らせ」のとおり、当社連結子会社(3社)の取引先である栗田出版販売株式会社に対する債権に対し取立不能又は取立遅延のおそれが生じております。これに伴いまして、栗田出版販売株式会社に対する売掛金の一部に対して貸倒引当金を設定し、貸倒引当金繰入額32百万円を特別損失に計上いたします」とのことです。

インプレスホールディングスさんは栗田の件では出版界の上場企業では真っ先にニュースリリースを公表されました。前回(6月29日)もそうでしたが今回の対応も他社に比べ迅速です。本日は債権額の届出期限日なので、いち早くIR情報を出されたのだと思います。

この素早い対応に比べると、出版界の上場企業の雄であるKADOKAWAの沈黙は実に不思議です。定時株主総会は毎年6月で、今年は6月23日でした。つまり、栗田事案の発生前です。総会の様子はまとめページをご覧ください。開会前の呟き「それにしてもこのチャートで株主総会を迎えるのはひどいなあ。誰がこんなに売ってるのかな。早期退職者の人たちが売ってるとしたら、売り払ってどうでもよくなった人たちが質疑応答でたくさん登場しそう」というのが気になりますが、質疑では次のようなやり取りがあったようです。

「Q4 川上さんに聞きたい。株式市場は合併をまったく評価していないと思う。1つの理由は川上さんが社長も会長もやりたくないと言っているとのことでやる気が伝わってこないことにあるのではないか」。「A4 (佐藤さんが回答)統合初期において、私の役割は次のステップにいくための基礎構築にある。その次に川上が登板する、今回は本人が社長になるべく自ら手を挙げたので、総会のあとにごあいさつしたい」。
「Q9 統合されてから株価が上がっていないけど、その理由と対策について」。「A9 株価について株主様にご心配おかけしている。業績とかIRについての反もあるが、2016年の業績予想、3年後のプランを達成し、IR活動を行うなどしてがんばっていきたい」。

さらに川上さんの挨拶から抜粋してみます。

川上「なぜこの時期に社長になったのか、そもそもなぜこのタイミング、最初からではないのか。インタビュー等は僕が社長がやるのが嫌だったからというのはリップサービス。これは若干正確ではない」
川上「今後新しい企画を考えている。現在株価は低迷しているが、カドカワドワンゴの未来は楽観しています。私もたくさん株を持っているので人ごとではない」
川上「角川は古い慣習に従っていたが、ネット時代の新しい出版社にならないといけない。アマゾンとの取引を開始したり、自前で流通センターを作ったりしようとしている」
川上「出版業界を長いことやってきて、いくつもの出版社が統合している。日本の出版社は海外と違って権利をあまり持っていないとか、海外のIPを持っている会社に比べて遅れている」
川上「10月1日に変わるカドカワという名前をIT企業として世の中に認知させたい。人工知能の研究所を作ったり、ハードウェア研究者も集めたりして、世界でもないような研究をして発信していきたい」
川上「株価の状況は私も不本意ですが、少し長い目で見守っていただきたい」

IPというのは知的財産(Intellectual property)のこと。それにしても総会が栗田事案後だったら株主から質問が出たでしょうか。大阪屋関連の質問すら出なかった様子ですから、株主の注目度は低いのかもしれません。業界内では大ごとでも、外ではちまちました出来事に見えている、とか。ちなみに2014年6月21日に行われたKADOKAWA株主総会のツイートまとめはこちら

+++
[PR]

by urag | 2015-08-04 13:23 | 雑談 | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://urag.exblog.jp/tb/21515354
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。


<< 雑談(11)      注目近刊:『現代暴力論』『ツァ... >>