2015年 07月 30日
◆7月30日18時現在。 昨日13時より日本出版会館にて、栗田出版販売人事再生債権者有志出版社および出版梓会の会員社を対象に「栗田再生の考え方について山本社長に聞く会」が行われました。栗田出版販売からは山本社長、高梨取締役、そして代理人の藤田弁護士が出席されました。さらに大阪屋の大竹社長も登壇されました。栗田事案に特化したこうした場への大阪屋からの参加は初めてとなります。大竹社長は講談社ご出身ということもあり、ざっくばらんに率直案お話しをされたのが印象的でした(それについては別の記事として特記するつもりです)。会合の初めと終わりには梓会の今村理事長(偕成社社長)が挨拶に立たれました。 山本社長からは24日〆切の新提案への回答状況が伝えられました。回答回収率は65%で、そのうち債権額ベースでは90%の版元が新提案を承諾し、債権者数ベースでは80%超が承諾しているとのことでした。つまり、債権額ベースでは半数以上が承諾しているものの、債権者数ベースでは半数以上に達しているかどうか微妙なラインだということかと思われます。思ったより未回答の出版社が多い印象です。それだけ悩ましい、即答しかねる問題ではあります。悩んでいる版元というのはただちに承服できないから回答していないわけで、これらの版元が最終的に承諾するかどうかは分かりません。山本社長は今後も債権者への説明に努めると仰っておられました。うちにはまだ来ていない、という債権者さんもまだまだまだ多いかと思います。弊社もその一社です。 質疑応答では「承諾しない版元への対応」がどうなるのか、幾度となく債権者より声が上がりました。承諾した版元と承諾しない版元の間に債権弁済率の差が出るのか、という疑義に対しては藤田弁護士より「公平性の観点からそうしたことはしない」との回答がありました。ここから考えると、最終的に承諾するかしないかの判断基準は、新刊委託期間が6カ月(精算入金は8カ月後)の版元の場合、次のようにまとめられるかと思われます。 いわゆる「一カ月相当の返品想定額の還元」が、今後半年間想定しうる返品額より多い場合は、新提案に合意した方が得をします。ただし、還元額は債権から引く、というのが新提案の約束なので、債権額が低くなれば弁済額も減ることにはなるわけです。いっぽう、新刊委託の精算が上述の通り半年以上かかる版元にとっては、あと半年間返品されることによって未精算商品を買い上げる額より、栗田から提示された還元額の方が多い、ということはまずほとんどないだろうと思われます。委託品の内払いや特払いがある大手版元と違って、その他大勢の版元にとっては、一カ月ぽっちの還元額ではとうてい今後半年間の返品買上額をカバーできませんから、今回の新提案を呑むことは不利益ということになります。 8月4日に弁護士事務所に必着させる必要がある債権額の届出において、6月26日から8月4日までに栗田から返品された実返品額を債権から差し引いた金額を提出することも法的には可能だと思われます。栗田代理人弁護士によれば、栗田が提示した返品想定額と同額までは認める考えではあるようです。これでは実返品額を債権から相殺させるつもりはないと言っているのも同然で、版元に不利益を与えないことを前提としているはずの代理人がこうしたことを言うのははなはだ不適切です。すでに新提案に合意をしている版元との公平性が保たれない、と先方は言います。何度も書いていますが、新提案をごり押ししたあげくの公平性など、まやかし以外の何ものでもありません。栗田代理人はただただ栗田の再生に職務として邁進しているだけであって、そこでは債権者への配慮など二の次だというのが現実です。監督裁判所がそこに気付いてくださればいいのですが、裁判所とて栗田と出版社の取引実態をつぶさに知っているわけではなく、栗田サイドから見たいびつな「公平性」のみを代理人が主張しているということを見抜けるのかどうか、心配です。 今回の「返品買上」が版元にもたらす不利益は、取引条件や支払いサイトによってずいぶん異なります。内払いや特払いがあったり買切扱いだったりする版元にとっては「精算済」の商品を買い上げるのはさほど大きな問題ではありません。それに比べると、その他大勢の版元は「未精算の商品を買い上げる」ことになるわけで、しかもそれが6月26日以降、来年1月まで続くのです。この驚くべき不公平について、栗田や代理人はまったく是正処置を試みていない。現実として不公平や格差があることも、不公正な取引を強要している実態も、裁判所には伝えていないでしょう。 以前も引用しましたが、公正取引委員会告示による「優越的地位の濫用」第一号に曰く「継続して取引する相手方に対し、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること」とあります。返品買上を版元に強要している栗田はこの「優越的地位の濫用」に当たり、独禁法に違反している、と告発されても仕方ないだろうと思われます。しかもこの「濫用」は2000社にも及ぶ取引出版社に対して行使されていることなのです。このような大規模かつあからさまな強要が今まであったでしょうか。この実態に公正取引委員会が気付かないとしたら、それはまさに悲劇(という以上にもはや喜劇?)でしかありません。 今回の新提案が不利益であると判断した債権者は、堂々とそれを拒絶していい権利を有しています。そして、これは新提案を拒絶しているもののすでに返品を入帳している版元にとって有効なことですが、6月26日から8月4日までの実返品を差し引いて債権額を提出してもいいわけです(ただしこれについては今は詳しく書きませんが、少し用心が必要な部分があります)。それを認めるかどうかは裁判所が決めることです。 次回の更新では新提案(二次卸スキーム)を拒否している版元のいわゆる「赤残」問題について書こうと思います。まだまだ書くべきことはたくさんあるので、8月4日まで更新を続けるつもりです。 +++ ◆7月30日21時現在。 ある出版人の方から重要なコメントをいただきました(リンクは張りません)。曰く、「栗田問題(勝手な名称)で版元ごとの個別対応はしないと言うそばから、一部版元への説明会開催という公正なる取引とは甚だかけ離れたことを行うあたりにビジネスとして倫理観もへったくれもあったもんじゃないな」と。まず私の説明が不十分だったのをお詫びしなけばなりませんが、昨日の説明会は「有志出版社」と「梓会」が共催したもので、栗田主導のものではありません。 そもそも栗田は7月6日に全債権者を対象とした集会を開いたのを最後に、そのあとはまったく機会を設けていません。山本社長や役員がそれぞれ単独で版元訪問をしていると耳にしますが、本来であれば栗田は全債権者を対象とした第二次、第三次の説明会を開催して然るべきではなかったかと思います。栗田が説明会を開かないために版元サイドがだいたい100社規模でまとまって場を設け、それぞれ栗田役員に出席を要請されてこられました。説明会の主催者は出版社の連合体であったこともあれば、共通の目的意識を持って参集した任意の集団であったこともあります。 栗田が積極的に全債権者向けの説明会を開かないできたのはおそらく7月6日の二の舞になることを恐れたからだと思われます。ですから、当初は版元ごとの個別対応はしないと言っていたけれど、債権者集会後は全体説明会を避けるために、集団ごとの出席要請には応えてきた、と。繰り返して言えば、本来はすべて、栗田が全債権者を対象に主体的に説明会を開くべきだったのです。巧妙に逃げ回ったりにわかに個別訪問したりする栗田サイドを捕まえて、版元が自主的に場を設けてきたというのが実態です。個別の説明会には、わざわざ毎回地方から出張して参加されている小版元さんもおられます。栗田が提示している還元額など、こうした地方版元さんにとっては往復の電車賃一回分でチャラになってしまうことすらあります。 その上で申し上げますが、「ビジネスも倫理観もへったくれもあったもんじゃない」というのはまさにその通りです。栗田が全債権者対象の説明会を開かず、個別の問い合わせにははっきりと答えず、版元に文書を一方的に送りつけるだけで7月を終えようとしているのは、すべて栗田サイドの一貫した「手法」です。常に版元の出方を見てからいわば「後出しじゃんけん」(某版元さん談)をしようとしてきたわけです。こうしたやり方に大きな懸念を覚えてきた債権者からは、「今回の件では版元間の情報格差がひどい」という声をよく聞きます。版元から聞かれなければ答えない、というスタンスはいかにも弁護士先生のとりそうな立場ですが、結果的にそうした行為が栗田への信用を毀損していることは明白な事実です。 コメントされた版元さんはこうもお書きになっておられます。曰く、「取次民事再生に関する諸々の案件。他社への返品振替はなくなったようだが新たな提案(破綻前の売上金凍結で返品だけ7月以降売上相殺)も現実的に納得出来るものでなく、このような状況で裁判所が申請受理して新しい判例として後世に残されたら出版を営む者は直接取引へと舵を切らざるをえんだろうな」と。まったく同感です。取次がこうしたリスク処理をすることは、版元=小売間の直取引の模索へと帰結せざるをえません。 むろん、業界の中には「今まで取次にさんざん頼ってきたくせに。やれるもんならやってみな」と挑発的な声を投げかけてくる人もいます。すべての版元が、というわけではありませんが、版元の取次依存には根深いものがあります。しかしそれは裏返せば取次の版元依存でもあったわけです。美しきwin-winの幻想はもう通用しません。出版社は今回の一件で、取次との関係性を見直さねばならなくなったのですね。 +++ ◆7月31日午前0時現在。 先述したような版元さんからのお声にもあるので、赤残の話に移る前に、昨日の「山本社長の話を聞く会」について、版元さんのTさんのツイートとともに振り返りたいと思います。Tさんのご協力に感謝申し上げます。 曰く「「栗田再生の考え方について山本社長に聞く会」が間もなくて始まります」。「100人くらいは来ているかな?」。「栗田再生の会に大阪屋も同席してくれている。この件で2社が揃う会は初めてかも」。 →会場は神楽坂にある書協の日本出版会館4Fの会議室です。写真にある壇上右側が栗田さんの席でした。説明会に大阪屋の大竹社長が出席されたのは初めてのことでした。これは有志出版社や梓会の諸先輩方の地道な交渉の賜物かと思います。弊社は有志出版社に参加していたので、栗田や大阪屋の話を聞く機会に恵まれたわけですが、当然のことながら、こうした会のことを知らなかった方々も多いと思います。栗田が積極的にこうした機会を作ってこなかったのは本当に不平等です。 曰く「栗田の説明はコロコロ変わるなぁ」。「返品拒否している出版社は栗田再生スキームに合意しなくても8/4までは栗田からの返品の債権相殺を認めるとか。みんな知っていましたか?」。「承諾書の提出期限を過ぎてから、栗田からの返品相殺を認めるとか「後だしジャンケン」じゃないか」。「【今日のメモ3】新スキームにおいての栗田と大阪屋の返品のやり取りについて、出版社から買い戻し拒否の申し出があった場合は大阪屋と栗田の間の取引は「無かったこと」にする契約を結んでいる。従って、その際の在庫には栗田に「片面的返品権」があると考えている」。 →特に栗田代理人の説明が変わるのは、「あまりはっきりとは答えたくない」問題について聞かれた時でした。ある時はソフトにぼやかし、聞き方を変えると本当のことを喋ったりします。「返品拒否している出版社は栗田再生スキームに合意しなくても8/4までは栗田からの返品の債権相殺を認める」という話はTさんの仰る通り「後だしジャンケン」以外の何物でもありませんね。新提案の回答回収状況が思ったより悪いのと、拒絶する版元がはっきり出てきたことを見届けて、もうひとつのオプションである旧商品返品の債権相殺の可能性を持ちだしてきたというわけです。二次卸スキームを拒絶した版元には返品相当額を「払わない」というのが実際に公平ではないということを先方も気にしているようです。 →そもそも今回初めて聞いた弁護士の発言には「二次卸スキームが同意されない場合、大阪屋=栗田間の売買がなかったという契約になるため、返品は栗田の所有物となり、栗田から版元に返品を要請する」というのがありました。つまり、二次卸スキームでは返品は栗田から大阪屋に売却されるものであるため、版元にとっては大阪屋からの「新たな取引」となり、返品を合意なく受領させられる義務がなかったのです。それを債権者集会でも弁護士が「受け取り拒否できる」として認めていたわけですが、当然のことながらこれが穴だと気付いた先方は本件にパッチを当てていわばデバッグしようとしているのです。それが「大阪屋に売らないから、返品は栗田の所有のままだもんね」という上記の返答です。債権者集会で1300人を前にレジュメを通じて説明した「大阪屋」を介した二次卸スキームというのを、いとも簡単に撤回しようというわけです。これほどひどい後出しジャンケンはありません。返品をいつどうやって売ったのか、明確に答えようとしてこなかったのは、こうしたズルい選択肢を残すためだったのでしょう。 曰く「やっぱり質問は返品にまつわる話になってしまう」。「【今日のメモ】大阪屋の大竹社長は「片面的解約権(返品権)」という用語はともかく、考え方は踏襲していくという旨の発言をされていた」。 →補足すると、債権者集会で弁護士から提示された、新刊委託も「片面的解約権(返品権)付売買契約」であるという法解釈を栗田が今後も引き継ぐのかどうか、そしてその解釈を大阪屋と共有しているのか、という質問だったのでした。それに対して、まず栗田の山本社長が「引き継ぐ。しかし大阪屋とは共有していない」と答え、大阪屋の大竹社長が「片面的解約権というのは初めて聞く言葉だ。ただし、返品条件付売買としては認識している」と答えたのでした。栗田が二次卸スキームのかなめである取引相手と肝心の認識を共有していなかったというのは衝撃的な答えではあるのですが、大竹社長がうまくふんわりと話を引き継いだのでした。しかしこれは以前も指摘したように、委託を買上と理解するということは、委託で出荷する意味が版元にとってはもうないということを意味します。つまり、栗田だけでなく、大阪屋に対しても、版元が委託や延勘や長期で支払い猶予する必然性は消えたということを意味するのです。これが思っている以上に重大な影響を及ぼしかねない「回答」だったということを山本社長や大竹社長は気付いておられるのかどうか。 曰く「出版業界はこれを機に「委託」なんて呼称はやめて欲しい。出版社も書店も勘違いしている人がたくさんいると思うよ」。 →委託も買上だ、という栗田サイドの法的解釈は、取引実態とは整合していませんから、これを主張すればするほど、先述のようなドツボにはまっていくと思われます。この傾向はTさんが以前別の方と交わした以下の会話にも明らかに表現されています。 Tさん「大阪屋からの旧栗田品の「返品拒否」を続けた暁には、出版社が返品を受け入れざるを得ない伝家の宝刀を抜いてくる可能性をチラつかされた。なるほど、最初から逃げ道を塞いでいたわけか。書店も出版社もなぜこんな取次の再生を望むのか」。 リプライAさん「突然リプライすみません。弊社の顧問弁護士が言うには、今までの取引慣行上返品を受け入れていたのであれば、法的に返品は拒否できないとの見解でした。栗田も法的な措置を取って入帳を強要してくるというニュアンスでしょうか?」 Tさん「大阪屋の「買い戻し」は拒否できても、栗田に戻して「片面的返品権」で有無をいわさず返品できる。しかも8/4以降にそれを行使すれば申請して確定させた出版社の債権との相殺は当然できません」。 リプAさん「逆に言うと今回の件がモデルケースになってしまう可能性もある訳で、そうなると今後は買切でしか出せないなという気がしています・・・」。 Tさん「「委託制度」については、栗田側では「片面的解約権付の売買契約」と解釈をしていますから、常備と買切以外は支払いサイトが異なるだけの売買契約ということになります。ウチは委託はハイリスクな取引だと考えて、委託を減らす方向にしていきます」。 リプAさん「うちもその方向ですが、多くの版元がそういう方針になると書店や取次のキャッシュフローが悪化して業界全体にとって悪影響必至ですから、今回の栗田のやり方は本当に罪深いと思います」。 Tさん「今までの仕組みが崩壊することで、傷みを伴うことにはなると思いますが、生き抜くには必要なフェーズなのかもしれません」。 リプライBさん「当然委託は減らさざるを得ないですよね」。 →引用以上です。こうした認識は広く版元間で共有されつつあります。版元が自衛するためには、未回収率を低くするしかありません。委託が最小限まで減るとなると、その影響はむろん、書店さんに及ぶことになります。取次が書店を本当に守りたいのなら、「片面的返品権」などはっきりと主張しない方がよかったはずです。栗田代理人は「書店もまたこの「片面的返品権」を有している」と債権者集会のレジュメで説明していました。書店員さんなら、これに対して「あれっ?」と思うはずです。片面的権利を持っているなら、なぜ返品が逆送されるのだろう。なぜ返品了解を版元から得なければならないのだろう。そう誰もが気付くはずです。取次は版元にはこう言いたいのです、「取次は版元にいつでも何でも返品できる(そしてあえて返品しないこともできる)」と。いっぽうで書店には「版元の了解を取ってね」と言う。返品に手間を取らせるというこの時間差こそが「お金」を生む仕組みのひとつなのだ、と誰もが気付くようになるでしょう。栗田事案はこうした隠れていた仕組みを自ら暴いてしまう側面を必然的に有しています。 曰く「【今日のメモ2】民事再生申立て時に、山本社長は栗田の再建に際し、「出版社の出費が不可欠である」という説明をしていたようだ」。 →栗田は銀行から借り入れをすることができなかったため、資金調達の必要性があったと言います(端的に言えば銀行から突き放されたということを意味します)。出版社に負担を請うことを弁護士が強く提案したのは、栗田に再生する価値があると見なしたからだそうですね。これに関連して大阪屋の大竹社長からの興味深い発言もあったので、それは別途書くようにします。 曰く「栗田は説明の際に「公平」「平等」言葉を多用する。でも情報については全く「平等」とは言えない。今日、梓会主催の説明会に参加した60社以外には「いつ」「どのように」伝えるのか明らかにしていない」。 →その通りです。この恐るべき情報格差の戦略。 +++ ◆7月31日午前0時40分現在。 折々に「お前はtwitterをやらないのか」もしくは「facebook」をやらないのかとお声を掛けていただくのですが、どちらももしやり始めたら、それ自体が仕事になってしまうくらい頑張ろうとするに違いないのでやっていないのです。また、物事を伝える上では私自身はどうしても「分量」を必要とすると感じています。そんなわけで私の身の丈では今のところブログがまだ合っているらしい、といった感触です。ブログというメディアがどんどん時代遅れになっていきつつあるのは事実だと思いますが、かといってYouTuberになれるとも思えず。。。。 +++ ◆7月31日23時現在。 出版協副会長の竹内淳夫さん(彩流社)が7月31日付で同会のブログに「栗田破綻と再生スキーム、その陰の本質的危機」というコメントを発表されています。曰く、「基本的に商品の返品が無い業種であれば、債権を一端棚上げにして、破綻に至った病巣を整理し、債権者が商品を供給すれば、システムは動きだし、再生への道は開ける。しかし、返品が前提となっている出版業界では、この再生法自体が本質的に馴染まないものと言えるのではないか。返品も凍結して、いわゆる「新栗田」というシステムを動かすのならば異存はない」。 取次の民事再生には今回のような栗田方式しかないのか、という疑問の声をよく聞きます。未精算の旧商品の返品を版元に買わせるのではなく、すべて債権で相殺できれば、こんなにも債権者を悩ませることはなかったはずなのです。さらにはこうもお書きになっておられます。 「現下の業界を考えれば、取次店の寡占化が進むよりは、小なりとも栗田が再生し、活躍するのが望ましいし、それを支援しようという者も少なくないはずだ。返品を相殺するなどという上から目線の押しつけよりも、同じ仲間として、例えば支援金として小口の寄付なり、社債なりの手立てはなかったのだろうか。今回の再生スキームは、出版界に大きな禍根を残すことになるように思われる。/というのは、栗田の破綻への道は、現在業界が抱えている問題の縮図であるからだ。これまでなら、大手版元を中心に業界内でどうにか支え、あるいは金融機関の支援で再生への道を歩めたであろうことが、もう既にその力が無いことを明らかにしただけでなく、金融機関の債権がゼロという事実は、不動産を持たない限り、金融機関の支援の対象にもならない業種という証明にもなった。また、返品商品を担保に再生出来るということは、委託制度というシステムに甘える前例を破綻取次に容認することになるからである」。 法律解釈を盾に終始高圧的で一方的な態度を取り続けた栗田。債権者集会での反省をもとにその後は極力平身低頭ぶりに徹しようとしても、当初から版元=債権者のことなど第一ではないのですから、結局は元の横柄な態度を隠しきれないのです。そして「金融機関の支援にもならない業種」というのは実際にその通りで、取次だけでなく、多くの版元もそうなのです。さらに、委託制度のリスクについてはもうこりごりという版元がどんどん増えています。最後の結びはこうです。 「嫌みを言っても始まらない。栗田の破綻は、我々が抱えている問題を根本的に考える場にしなければならない。それは、書店、取次、版元のそれぞれの利害を超えて、流通問題や再販制度、取引条件など全ての分野で知恵を出し合い、方策を作らない限りこれからの展望は開けない。業界のリーダー諸氏に是非お考え頂きたい」。 出版人はここでいつまでも地団駄を踏んでいる場合ではなく、前に進まねばならない、というお言葉かと思います。条件面で圧倒的に優遇されている版元は、これ以上取次をゾンビ化させないようにしなければならない責務があると言わざるをえません。今回の危機は、業界が新たに生まれ変わる最初で最後のチャンスかもしれないのです。 +++ 8月1日午前2時現在。 ポット出版の沢辺均さんがスタッフブログ「ポットの日誌」7月31日付記事「アマゾンの安売り=再販制の危機、栗田という取次の民事再生 出版流通のほころびのなかで考える今後の方向」を公開されています。これは栗田事案の経緯というよりは、栗田の一件を受けて、出版社がどうすれば業界を再活性化できるかについて模索されたものです。結論部分と見ていい「出版社が今できること」には4つの課題が書かれています。 「第一に、新刊委託配本(見計らい)をやめて新刊の配本も書店からの注文にもとづいて行うことだ。/取次との取引条件も出荷側で簡素化してしまうのだ」。 「第二に価格拘束をやめる(非再販)。/現状で非再販にしても書店店頭での値引きは実現されない。書店の粗利が22%しかない現状では、売れ残りを安売りするって言ったってたいした値引きはできない。でも将来の書店での価格政策の自由化に備えることはできる。〔・・・〕」。 「第三に、書店からの注文に必要な書誌情報の発信を行うことだ」。 「第四に、不幸にして予想に反して売れ残ってしまった本の販売促進策を、生み出していくことだ」。 これらについては書店さんサイドのご意見も伺いたいところです。新刊見計らい配本について、再販制の是非について、版元の新刊情報の集約と提供方法について、販売残本の取り扱いについて。私自身も思うところがあるのですが、長くなるので別の機会を期します。 +++
by urag
| 2015-07-30 18:23
| 雑談
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