2005年 08月 01日

今週の注目新刊(第15回:05年7月31日)

一日遅れですみません。すみませんって誰に謝っているんでしょう。今回は大漁なので、二回に分けて投稿します。

調子がいいときは本が見えてくるし、悪いときには見えてこない。そんなもんです。ということは今回は調子がいいのかなあ。ここ一週間で、知的所有権や著作権、ハッキングや反著作権、作者や出版人、そして「批評」や「読書」……といった諸契機をめぐる啓発的な書籍があれこれ発売されています。こういう「豊漁」な、幸運な一週間もあるのです。……と言ったって以下に挙げる本を全部購入できるほど生活に余裕はありませんが。

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ハッカー宣言
マッケンジー・ワーク著 金田智之訳
河出書房新社 本体2500円  46判248頁 4-309-24348-7
■帯文より:ドゥルーズ/ドゥボールから生まれた、知的所有権/情報をめぐる議論を一新させる最前線の思考。ハッカー階級とベクトル階級の闘争の時代がはじまる。
■版元紹介文より:いま、労働者階級にかわって登場したハッカー階級が、資本家にかわるベクトル主義階級と闘う新たな時代がきた。ドゥルーズ、ドゥボールの影響下にある新鋭が知的所有権をめぐる抗争を中心に空前の世界を描く。
●ドゥボールの『スペクタクルの社会』(ちくま学芸文庫)のように、短い断片から成る戦闘的でスピード感あふれる書物だ。断片の数は389篇。ハックすることの価値を哲学的に、社会思想的に探求している。たとえば実際に「ハッカー」だったケビン・ミトニックの著書『ジ・アート・オヴ・デセプション』(『欺術』ソフトバンクパブリッシング、2003年)でキーワードとなっている「社会工学」が、学者であるワークの描く新しい階級闘争と、リアル世界の諸問題においてどう交差しうるのかを考えてみるのは興味深いかもしれない。

表現の自由vs知的財産権――著作権が自由を殺す?
ケンブリュー・マクロード(1970-)著 田畑暁生訳
青土社 本体2800円  46判368+30頁 4-7917-6204-5
■帯文より:すべては企業のものになるのか。「表現の自由FREEDOM OF EXPRESSION」が登録商標になった!今やどんなものでも私有化できる――ことば、メロディから遺伝情報まで、著作権や特許を武器に、創作・研究の自由を圧迫する企業。ヒップホップ、サンプリングからフリーソフトウェアまで、コモンズ(共有)を求める人びと。インターネット時代の壮絶な闘い。

その音楽の〈作者〉とは誰か――リミックス・産業・著作権
増田聡(1971-)著
みすず書房 本体2800円  46判240+18頁 4-622-07125-8
■帯文より:つくり手と聴き手の境界領域を、細心の緻密さで分析、錯綜する音楽シーン理解への突破口を開く。「作者性」の核心を衝く、ポピュラー音楽文化論の最前線。
■版元紹介文より:クラブ・ミュージックの技術的基盤、音楽産業の構造変容、著作権の思想史を通じて、現代ポピュラー音楽の「作者性」の布置状況を明らかにした。ポストモダニストが声高に叫ぶ「作者の死」というスローガンを疑い、現実の「拡散する作者」の在り様へと肉薄する思考を提示する。

作家の誕生
アラン・ヴィアラ(1947-)著 塩川徹也監訳 辻部大介ほか訳
藤原書店 本体5500円  A5判427頁 4-89434-461-0
■帯文より:「職業作家」「商業出版」の誕生の歴史。アカデミーの創設、作品流通、出版権・著作権の確立、職業作家の登場、作家番付の慣例化など、17世紀フランスにおける「文学」という制度の成立を初めて全体として捉え、今日における「作家」や「文学」のあり方までをも再考させる、メディア論、出版論、文学論の「古典」的名著。作家、編集者、出版関係者、必読書!
●意外なことにヴィアラの訳書が出るのは今回が初めてのこと。本書をきっかけに、ヴィアラをもっと読みたいという読者が出てきそう。

ゲーテと出版者―― 一つの書籍出版文化史
ジークフリート・ウンゼルト(1924-2002)著 西山力也+坂巻隆裕+関根裕子訳
法政大学出版局 本体7800円  46判627+72頁(図版16頁) 4-588-00822-6
■帯文より:出版から見たゲーテの全生涯。「本」を介して向き合う著作者と出版者の赤裸々な人間関係、海賊出版の実態など18-19世紀の出版事情を豊富な資料から詳細に描き出すとともに、新たなゲーテ像を浮き彫りにする。 現代ドイツの著名な出版者ウンゼルトが、自己確認と自己練磨を試みた書籍出版史。
●著者のウンゼルトさんは、50年代後半に34歳でズーアカンプ社の社主となった出版人です。ドイツの大手名門出版社であるズーアカンプ社は、日本で言えば、さながら講談社と岩波書店が合体したような、それはそれは有名な出版社。上記のヴィアラさんの本とともに、本書はぜひとも読まねばなりますまい。しかし金欠自営業のポケットマネーではこの二冊を購入するのもなかなか難儀ではありますが。

ソフトアンドハード――ラジカル・ポップ・クリティック1995-2005
佐々木敦(1964-)著
太田出版 本体2800円  A5判380頁 4-87233-961-4
■帯文より:サヴァイヴァルせよ! 90年代から世紀末を挟んで00年代へ――。J-POP、コミック、小説、映画などなど、批評家・佐々木敦が縦横無尽に切りまくり、勇猛果敢に繋ぎまくる。
阿部和重、青山真治との対談、つんく♂、小室哲哉のインタビューも収録。
●『クイック・ジャパン』誌連載の単行本化。佐々木さんは思想系にも強くて、アクチュアリティと疾走感あふれるその批評活動には大いに刺激を受けてきました。もうずいぶん前から尊敬の念と共感と信頼を寄せてきたのですが、実際自分と4歳しか違わないわけで、ますます尊敬の念を深くするわけです。

(見えない)欲望へ向けて――クィア批評との対話
村山敏勝(1967-)著
人文書院 本体2800円  46判241頁 4-409-04075-8
■帯文より:「他人を感じたいという性的な欲望がなければ、そもそもなぜ書物など読むのか。めんどうな理論を学ぶのも、他者の思考を追体験したいという欲望のため以外、なにがあるのか。〈読む〉ことは快楽である。
■版元紹介文より:クィアとは、ゲイ/レズビアン運動のなかで使われはじめた言葉だが、多様で融通無碍なアイデンティティを含むもので、クィア批評はジェンダー、セクシャリティはもちろん、人種や民族、ポストコロニアル・ナショナリティなどをめぐり、アイデンティティを構築/脱構築するよう様々な言説について考える一端となるものである。本書は、英文学の正典を分析の対象とするとともにバトラー、ジジェクら精神分析の理論家の著作をも、そのレトリックのうえで分析し思想的往還を辿り、他に例をみない。第一部では、セジウィックのいうホモソーシャルな欲望を、英文学の古典を通じて探る。第二部は、同じく英文学の正典をとおして、プライヴァシーという概念装置を再考する。第三部は狭義の英文学から離れ、クィア批評と精神分析の思想的往還をおもに四人の批評家――ジジェク、バトラー、コプチェク、ベルサーニ――を読むことでたどっている。
●うまい帯文ですね。装丁もすばらしい。きっと間村俊一さんでしょう。しかも、題名がパーレン( )から始まっているというのが型破り。これまで先端的な海外の批評家たちの翻訳などでたびたびお見かけしてきた村山さんの、第一評論集ということになるのでしょうか。これは一目ぼれさせる本です。

文芸評論集
富岡幸一郎(1957-)著
アーツアンドクラフツ 本体2600円  46判230頁 4-901592-29-7
■帯文より:コトバの大量消費・大量生産が始まって久しく、「言葉への危機の自覚」なしの作品や、「言葉の力のリアリティも信じていない」思想の氾濫が日常化するいま、学問とは異なる、文学を批評する正統な評論集。作家論12編と、文学の現在を論じた書き下ろし1編を収録。
●題名も装丁も帯文も、或る意味、前述の村山さんの本とは真逆の演出になっています。まさに「正統派」。「デザイン、編集・制作、出版を行う総合プロデュースカンパニー」である有限会社アーツアンドクラフツさんは、平成2年に有限会社メディア・ファクトリーとして設立され、平成13年8月20日に現社名に変更したそうです。某リクルート系出版社と名前が同じだと面倒なことも多かったのでしょう。編集はいぶし銀的な本作りをされていらっしゃいますが、営業は若い方々が頑張っておられるご様子。

思想のケミストリー
大澤真幸(1958-)著
紀伊国屋書店 本体2000円  46判306頁 4-314-00983-7
■帯文より:大沢社会学がひきおこすスリリングな思想の化学反応! 初の思想家・作家論集。
■版元紹介文より:当代屈指の社会学者による、思想家論・作家論を集成。吉本隆明、柄谷行人、廣松渉、折口信夫、宮沢賢治、三島由紀夫、村上春樹……先達たちの思考の軌跡を明晰に整理し、なおかつその可能性と限界を引き受けながら、自らの思考に接続しつつさらなる射程を切り拓いてゆく。ときにアクロバティックに、ときにスリリングに展開する「大澤社会学」の真骨頂。
■目次より:

まえがきに代えて――哲学と文学を横断すること

第一部
〈ポストモダニスト〉吉本隆明
柄谷行人、予言の呪縛
原罪論――広松渉とともに
そう扎の無思想――竹内好のナショナリズム

第二部
明治の精神と心の自律性――漱石『こゝろ』講義
啄木を通した9・11以降――「時代閉塞」とは何か
ブルカニロ博士の消滅――賢治・大乗仏教・ファシズム
三島由紀夫、転生の破綻――『金閣寺』と『豊饒の海』
男はなぜ幼子を抱いたのか――埴谷雄高『死霊』論
村上春樹『アンダーグラウンド』は何を見ようとしたのか
世界を見る眼――村上春樹『アフターダーク』を読む

第三部
巫女の視点に立つこと
まれびと考―折口信夫『死者の書』から

あとがき

●本書が初めての思想家・作家論集になるとは! 意外な感じです。退屈で堅苦しい、一部の文芸批評や研究書(失礼)とは一線を画しています。「文学が現前させる〈特異性〉こそが〈普遍性〉への可能性を拓くのである」と大澤さんは「まえがき」でお書きになっています。

聖バルトロマイの皮――美術における言説と時間
チェーザレ・セグレ(1928-)著 甲斐教行訳
ありな書房 本体4000円  A5判206頁 4-7566-0587-7
■帯文より:時間の中を流れる言語芸術と、空間の中に展開する造形芸術との、この二つの異なる体系を、ひとつの宇宙として記述しうる記号学理論を構築する。
■版元紹介文より:時間の中を直線的に流れる言語芸術と、空間の中に展開する造形芸術。二つの異なる体系を共通の規則によって記述しうるような記号学理論の構築をめざして、言語学、論理学、図像解釈学の交錯する宇宙に、言語から美術への、美術から言語への転換可能性が問われる。言語で語られた物語や象徴が絵画に描かれるとき、文化的慣習の結合によって「統辞法」が成立し、美術批評家が絵画について言語で語るとき、美術固有のマチエールはレトリックの暗喩を通じて感官に訴えかける。
●著者セグレはイタリア生まれの言語学者。日本語初訳でしょうか。ありなさんの公式ウェブサイトはここ2年ほど更新されていないようなので、最新刊までの情報をご覧になりたい方は、版元ドットコムのありな書房のウェブページをご覧になるとよろしいかと思います。ありなさんの本は、発売直後の新刊を古書店で見かけるときがあります。内容的にも価格的にも、常習犯に万引きされやすい版元さんではあるのでしょう。

レヴィナスとブランショ――〈他者〉を揺るがす中性的なもの
上田和彦(1964-)著
水声社 本体4000円  A5判317頁 4-89176-554-2
■帯文より:不眠の夜にざわめく名のないもの……
■目次より:

第1部 「私」が存在することとは絶対的に他なるもの(「絶対的に他なるもの」の問いと「中性的な存在」;「中性的な存在」;文学と倫理)
第2部 「神」の呼びかけを揺るがす「アル」―「文学」(他者がもたらす「援助」;痕跡の両義性;「アル」の触発と忍耐)

●2002年に東京大学大学院人文社会系研究科に提出した博士課程論文を単行本化、とのことです。このテーマの基本文献の風格をすでに感じます。ところで水声社さんのサイトはいつ更新されるのでしょうか……。


★今週の注目「新装版」

行為としての読書――美的作用の理論
ヴォルフガング・イーザー著 轡田收訳
岩波書店 本体価格3600円 46判462頁 4-00-027133-4
■版元紹介文より:古典文学の主軸が〈調和〉にあるとすれば近代文学の基本傾向は〈否定性〉にある。この変化に伴って、作品に唯一永遠の意味を求める旧来の文学解釈はその有効性を失った。読書過程におけるテクストと読者との相互作用の関係を、詳細かつ理論的に解明・吟味し、文学研究における新たなパラダイムを提示する。
●「岩波モダンクラシックス」では、7月に本書を含め、計10点を刊行しました。価格はすべて本体価格(税別)です。

心・脳・科学
ジョン・サール著 2300円 4-00-027131-8

フランス歴史学革命――アナール学派1929-89年
ピーター・バーク著 2600円 4-00-027138-5

歴史学と精神分析――フロイトの方法的有効性
ピーター・ゲイ著 3200円 4-00-027139-3

旧世界と新世界――1492-1650
ジョン・H・エリオット著 2500円 4-00-027140-7

シャドウ・ワーク――生活のあり方を問う
イヴァン・イリイチ著 2800円 4-00-027134-2

ジェンダー――女と男の世界
イヴァン・イリイチ著 3600円 4-00-027135-0

人間の経済(1) 市場社会の虚構性
カール・ポランニー著 2800円 4-00-027136-9

人間の経済(2) 交易・貨幣および市場の出現
カール・ポランニー著 2800円 4-00-027137-7

うつの論理
ダニエル・ヴィドロシェ著 2600円 4-00-027132-6

岩波さんには過去の「良書遺産」がたくさんあります。このシリーズのような品切本の再生再刊はたいへん喜ばしいことです。しかしあえて申し上げたいのですが、「岩波モダンクラシックス」は品切がすでに多すぎです。同じ業界人としてはこうなる現実が分からないでもないですが、こうした品切本の再びの「量産」は結局、はからずも、岩波書店さんを殿様企業のように見せてしまっているだけなんじゃないかと、部外者ながら案じております。

***

以上です。ではまた明日。(H)
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by urag | 2005-08-01 19:30 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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