「ほっ」と。キャンペーン
2015年 06月 14日

注目新刊と近刊:『ユング『赤の書』の心理学』創元社、ほか

a0018105_20455735.jpg

ユング『赤の書』の心理学――死者の嘆き声を聴く
ジェイムズ・ヒルマン+ソヌ・シャムダサーニ著 河合俊雄監訳 名取琢自訳
創元社 2015年6月 本体3,600円 A5判上製290頁 ISBN978-4-422-11592-4

帯文より:『赤の書』の本質を読み解きながら、「『赤の書』以降」の来るべき心理学の姿を展望する。C・G・ユングによる空前の書『赤の書』の刊行を機に行われた元型的心理学の創始者と『赤の書』編者による連続対話の全記録。死者、イメージ、歴史、芸術、キリスト教などのテーマを導きとして『赤の書』の圧倒的な内容がはらむインパクトや可能性を明らかにする。

★発売済。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ユングの『赤の書』(ソヌ・シャムダサーニ編、河合俊雄監訳、田中康裕・高月玲子・猪股剛訳、創元社、2010年)、『赤の書 テキスト版』(創元社、2014年)に続く関連書の刊行です。ユング派の重鎮ヒルマンと『赤の書』の編訳者シャムダサーニによる全部で15回の対話が収録されており、人名および事項索引を備え、巻末には訳者の名取琢自さんによる解題が付されています。

★シャムダサーニの序文によれば、「2009年10月、ジェイムズ・ヒルマンと私はC・G・ユングの新刊となる『赤の書』出版というまたとない機会を得て、連続した対談を行うことになった。2010年4月にはカリフォルニア州ロサンゼルスのハマー美術館の招待を受けて、公開での対談を行った。その後、同じ年の秋と翌年の夏、それぞれコネチカットとニューヨークで対談し、さらに検討を続けることとなった。本書はこれらの対話の筆記録から生まれたものである。同じモチーフやテーマが何度も現れ、違う角度から検討されているが、略さずにそのまま収録した。草稿のテキストには両者が目を通し、ヒルマンが2011年秋に亡くなる直前に最終版原稿が仕上がった。対話中に言及された著作の出典に関しては私が注を加えた。その他の加筆は編集時の字句修正のみにとどめた」とのことです。

★周知の通り『赤の書』は大判の本ですが、その大きさについて二人はこんな風に話しています。

シャムダサーニ「ノートン社のジム・メアーズ氏だと思うのですが、彼が、この書を非常に重くするという偉大な仕事をされました。これは通勤電車のブラック・ベリーやiPodのようなものと競合しようとする書物ではないのです。海水浴に持っていけるような本ではありません。〔・・・〕読むためのイーゼルをしつらえることを要請する作品なのです」(対話第1回、33頁)。

ヒルマン「人間の歴史の重さは、かなりの重さであって、たぶんだからこの書がこんなに重くて、こんなに大きな本になったのでしょう。これは大きな本で《なければならなかった》。ご存知のように、ハンス=ゲオルク・ガダマーにはこのような文があります。彼は現代の偉大な思想家の一人で、自身も100年ほど生きたのですが、ナポリの哲学研究所で講演し、こう私が書き留めたことを言いました。「偉大な神秘は、過去にあったものの刷新が繰り返し、絶えず行われていることにある。文化は記憶に置いて不滅のものとなり、大きな仕事は、記憶の再覚醒である」と。どうです、これが『赤の書』がしていることではないでしょうか?」(第2回、45頁)。

★ヒルマンは別の箇所で次のようにも述べています。「死者が戻ってこなければならない」というのは二人の対話における大きなテーマです。

ヒルマン「いま私たちは歴史上、ユングとは別の時間にいますし、この別の時間では帰還して持ってこなくてはならないものは、ユングがこれらの特別な対話で経験したことや、『赤の書』という仕事だけではなく、人間の歴史の重みであり、これは不可欠なものですし、そしてそれはすなわち死者なのだということです。死者が戻ってこなければならない」(第3回、76頁)。

ヒルマン「いまやこの書は極めて重要不可欠です。それは、その扉を、あるいは死者の口を開くからです。ユングは私たちの文化の中で、深く失われた一つの部分に注意を向けるように求めています。それが死者の領域なのです。この領域は個人的な祖先だけの領域ではなく、死者の領域であり、人間の歴史の重みの領域であり、《本当に》抑圧されたものの領域なのです。〔・・・〕私たちは死者とともに生きている世界に生きており、死者たちは私たちの周りに、私たちとともにいて、彼らは私たち《である》のです。人物像たち、記憶たち、ゴーストたちは、みなそこにいて、〔・・・〕」(第4回、92頁)。

★こうしたヒルマンの発言を受けて、シャムダサーニはこう答えます、「多くの点から見て、これをユングの『死者の書』だと呼ぶことも可能でしょう」(第4回、93頁)。それにヒルマンは同意し、「死者の口を開けること」、「死者と生きること」(第4回、94頁)が課題だと答えます。二人は続けます。ヒルマン「死者たちが私たちに残したもの。私たちに遺産として残されたもの」。シャムダサーニ「このことが、私たちが取り組むべく残されたものなのです」(同)。『赤の書』はそれ自体としては読み解くのが容易ではない本ですが、今回出版された二人の対話は読解の鍵を示してくれるものだと思います。

◎ジェイムズ・ヒルマン(James Hillman, 1926-2011)既訳書
2004年07月『ユングのタイプ論――フォン・フランツによる劣等機能/ヒルマンによる感情機能』マリー=ルイーズ・フォン・フランツ共著、角野善宏監訳、今西徹・奥田亮・小山智朗訳、創元社
2000年09月『老いることでわかる性格の力』鏡リュウジ訳、河出書房新社
1999年08月『世界に宿る魂――思考する心臓(こころ)』濱野清志訳、人文書院
1998年10月『夢はよみの国から』實川幹朗訳、青土社
1998年04月『魂のコード――心のとびらをひらく』鏡リュウジ訳、河出書房新社
1997年03月『魂の心理学』入江良平訳、青土社
1993年09月『元型的心理学』河合俊雄訳、青土社
1991年04月『フロイトの料理読本』チャールズ・ボーア共著、木村定・池村義明訳、青土社
1990年06月『内的世界への探求――心理学と宗教』樋口和彦・武田憲道訳、創元社(ユング心理学選書 19)
1982年11月『自殺と魂』樋口和彦・武田憲道訳、創元社(ユング心理学選書 4)

★ここ最近では『ユング『赤の書』の心理学』のほかに、以下の新刊や近刊との出会いがありました。

日本と中国、「脱近代」の誘惑──アジア的なものを再考する
梶谷懐(かじたに・かい:1970-)著
太田出版 2015年6月 本体2,200円 B6判変型並製360頁 ISBN978-4-7783-1476-7

戦後日本の社会思想史――近代化と「市民社会」の変遷
小野寺研太(おのでら・けんた:1982-)著
以文社 2015年6月 本体3,400円 四六判上製352頁 ISBN 978-4-7531-0326-3

西湖夢尋
張岱著 佐野公治訳注
東洋文庫 2015年6月 B6変判上製函入382頁 ISBN978-4-582-80861-2

★『日本と中国、「脱近代」の誘惑』は発売済。目次は書名のリンク先をご覧ください。リンク先でYONDEMILLによる立ち読みも可能です。「朝日出版社第二編集部ブログ」で2012年秋から開始され、昨年に太田出版web連載ブログ「路上の人」に引き継がれた連載「現代中国:現在と過去のあいだ」が全面改稿の上、書籍化されました。帯文はこうです。「日中の安全保障上の緊張と、いま復活しつつある脱近代の思想「アジア主義」は無縁でない! グローバル資本主義にかえて「脱近代による救済」を訴え、「八紘一宇」や「帝国の復権」が露出する時代に、社会の息苦しさの原因を「外部」に求めない思想と行動の探究。現代中国経済研究の俊英が、日中・東アジアの現在と未来を語った渾身の論考」。著者の梶谷懐さんは神戸大学経済学部教授。ご専門は現代中国経済論で、単著に『現代中国の財政金融システム――グローバル化と中央-地方関係の経済学』(名古屋大学出版会、2011年)、『「壁と卵」の現代中国論――リスク社会化する超大国とどう向き合うか』(人文書院、2011年)があり、今回の新刊が3冊目になります。「現在の東アジア情勢において、近代的な価値観の多元性を前提とした問題解決を図ることこそ最重要の課題」(38頁)だと指摘する著者は、日本が「一国近代主義」から脱却すべきだと説きます。年々亀裂が深まりつつあるように見える日中関係を根本的に考え直す上で様々な示唆を与えてくれる必読の新刊です。

★『戦後日本の社会思想史』はまもなく発売(6月18日予定)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。東京大学大学院総合文化研究科学術研究員で埼玉大学ほかで非常勤講師をおつとめの小野寺研太さんが東大に提出された博士論文「戦後日本の市民社会概念史――「近代性」のプロブレマティーク」に大幅な加筆修正が施されたものです。帯文に曰く「自由な市民がどのように社会と折り合いをつけて生きるか? 本書は、戦後70年の歴史を〈市民社会〉という言葉をキーワードにして、「自由な市民が社会とどのように向き合おうとして来たか」というテーマをめぐる社会認識の歴史であり、戦後日本の〈近代化〉をめぐる壮大な思想史でもある」。「「市民社会」を通じた〈近代〉像の再編成の歴史」(251頁)を検討する本書では、自由化や民主化に象徴される近代的価値を重んじてきた戦後の市民社会が抱える、理想と現実との乖離やその変遷過程が、丹念に追われています。

★『西湖夢尋(せいこむじん)』はまもなく発売(6月17日頃)。東洋文庫の第861弾です。帯文によれば「中国江南でひときわ栄えた都市杭州。その郊外にある名勝西湖の文物の歴史と文化を巡り、ゆかりある白楽天、蘇軾その他の詩文をまじえて辿る。明末清初の文人張岱(ちょうたい)の傑作を本邦初訳注」。張岱は1597年生まれですが没年は確かではないそうです(1689年頃に没したという説があります)。西湖は4年前に世界遺産に登録されており、観光名所として有名です。『西湖夢尋』では西湖十景をうたった詩や、周辺にある名所旧跡の歴史や関係する人物の逸話などを読むことができます。東洋文庫次回配本は7月、坂井弘紀訳『アルパムス・バトゥル――テュルク諸民族英雄叙事詩』とのことです。
[PR]

by urag | 2015-06-14 20:46 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://urag.exblog.jp/tb/21343252
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。


<< リレー講義「文化を職業にする」...      「朝日新聞」にジェームズ『境界... >>