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2015年 06月 07日

注目新刊:荒川洋治『文学の空気のあるところ』中央公論新社

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文学の空気のあるところ
荒川洋治(あらかわ・ようじ:1949-)著
中央公論新社 2015年5月 本体2,000円 46判上製240頁 ISBN978-4-12-004731-2

帯文より:読書は人を変え、風景を変え、空気まで変えるのかもしれない。現代詩作家がおくる古くて新しい文学のはなし。「いささか気恥ずかしいのですが、ぼくはこんな時代になっても文学が好きなんだと思います。どんなことでもいいのです。文学にまつわるものなら目が行きます。少ない文字でも、その文字をしばらくじっと見つめてしまいます」(本文より)。

目次:

 昭和の本棚を見つめる(2010年7月26日、よみうりホール「昭和の読書」)
 高見順の時代をめぐって(2013年7月31日、よみうりホール「高見順の世界」)
 山之口貘の詩を読んでいく(2014年7月28日、よみうりホール「山之口貘の世界」)

 名作・あの町この町(2013年6月2日、田畑文士村記念館「文学散歩と世界」)

 「少女」とともに歩む(2000年7月26日、よみうりホール「結城信一「文化祭」)
 詩と印刷と青春のこと(2007年7月28日、よみうりホール「詩と印刷と青春」)
 思想から生まれる文学(2011年10月19日、北海道自治労会館「石上玄一郎の文学を語る」)
あとがき
参考文献一覧

★まもなく(6月10日)発売。日本近代文学館主催のリレー講演会「夏の文学教室」(よみうりホール)での5つの講演をはじめ、合計7本が適宜加筆されて1冊にまとめられました。著者にとっては初めての講演録になるのだとか。巻頭に「この本には七つの講演を収めました。書物にまつわる話です。小説が中心ですが、詩歌の話題もあります。/本を読んだ。読んだことを話した。/それがこの本の内容です。あとは特にありません」とあります。帯文にある「読書は人を変え、風景を変え、空気まで変える」のだろう、という一文はこの巻頭言から採られています。

★本書では有名作から今では半ば忘れられものまでたくさんの文学作品が紹介されており、読書欲が刺激されるとともに、世相に対する鋭い評言もそこかしこに見えて、胸に響きます。いくつか引用してご紹介します。

「新潮社の『日本文学全集』〔全72巻、1959-1965年〕は全巻合わせて、1500万部売れました。超ベストセラーでした。みんながみんな読んでいたはずはない。でも全集があると、空気がちがいます。空気ほど大切なものはない」(「思想から生まれる文学」227頁)。

「昭和の読書というのは、〔・・・〕読むか、読まないかということではない。必要なときには、こんな本がある、という状態にしていたということだと思います。〔・・・〕読まなくても、そのような本が出されているということがとても重要なことだと思います。採算に合わなくても、出す。後世のためにも出しておきたい。そう考える人たちが大勢いた、ということを忘れたくない。〔・・・〕書物に恵まれた後代の人は、書物を大切にしなくてはならない」(「昭和の本棚を見つめる」26-27頁)。

「いま読まれていないもの、関心をひかないものは何か。それを考えれば、逆にこの時代がどんな時代なのかが見えてくる。何か不足だなと感じたとき、何かが足りないと感じたときは、いま読まれていないものに目を向けるといい。「読まれていないもの」のなかにあるものが、いまの人には欠けているのであり、だからいまはそれが必要なのだというふうに見ていくべきだと思います」(「昭和の本棚を見つめる」22頁)。

「文学全集を家の外に追い出した。そのあたりから、いろんな奇妙な、人間崩壊の予兆とも思える事件が起きるようになりました。/文学は、実学です。厳密な文章で、人間の繊細な部分、深い心理を教えてくれる。人間の大切なものを教えてくれる。その意味で虚学ではなく、実学なのであり、その実学としての働きを無視したところで、いまの教育も行われています。〔・・・〕文学は無用のもの、役に立たないものという見方こそどうかすると怖ろしいもので、文学を遠ざけたことも一因となって、ことばや文章に即してものを考えたり、確認する機会がなくなり、人の心に対する想像力が乏しくなりました。身も凍るような、怖い事件が多発していますね」(「思想から生まれる文学」226頁)。

「文学は実学だ、とぼくは思います。人間にとってだいじなものをつくってきた。あるいは指し示してきた。虚学ではない。医学、工学、経済学、法学などと同じ実学です。人間の基本的なありかた、人間性を壊さないためのいろんな光景を、ことばにしてきた。文章の才能をもつ人たちが、人間の現実を鋭い表現で開示してきた。だから文学というのは人間をつくるもの、人間にとってとても役に立つもの、実学なのだと思います。それをいま必要以上に軽んじようとしている空気がある。実学と一般に言われるものが、医学や工学や経済学や法学が、ほんとうに人間のためになっているか、きわめてあやしい。そういうなかで文学の現実的な力を再認識しなくてはならないと思います」(「詩と印刷と青春のこと」200頁)。

★これらのほかにも、本当の自己愛とはどういうものかをめぐる深い話や、昨今のジャーナリズムに欠けている「公平性」の大切さ、「未来的な言語」としての詩、詩と散文の違い、本人にしか味わえない読書の世界の喪失、等々、語り口は軽やかでユーモアに溢れていながら、色々と考えたくなるテーマがあちこちに散りばめられています。日本文学を担当する書店員さんには特にお薦めしたいです(ちなみに荒川さんが20代の頃から「紫陽社」という出版社を運営され、多数の詩人を輩出されてきたことは皆様ご存知の通りです)。なお、今月末には刊行記念のイベントが次の通り行われる予定とのことです。

◎「文学の空気を楽しむ」――荒川洋治さん『文学の空気のあるところ』刊行記念講演&サイン会

日時:2015年6月30日(火) 19時~(開場18時30分)
場所:東京堂書店神田神保町店6階 東京堂ホール

参加方法:参加費800円(要予約・ドリンク付き) 店頭または電話・メール(shoten@tokyodo-web.co.jp)にて、「荒川さんイベント参加希望」とお申し出いただき、名前・電話番号・参加人数をお知らせ下さい。電話 03-3291-5181 イベント当日と前日は、電話にてお問い合わせ下さい。

※当日17:00より1階総合カウンターにて受付を行います。 参加費800円(ドリンク付き)をお支払い頂いた上で、 1Fカフェにて、カフェチケットと指定のドリンクをお引換えください。 イベントチケットは6F入口にて回収致しますので、そのままお持ちください。 尚ドリンクの引換えは当日のみ有効となります。
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by urag | 2015-06-07 19:09 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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