2015年 04月 19日

注目新刊:古典の初訳、新訳、再刊が続々と

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◎古典の初訳、新訳、再刊が続々と

ここ数カ月、古くは紀元前のものから新しくは前世紀のものまで、古典ものの初訳、新訳、文庫化再刊などの収穫が多いです。まとめて買おうとするとそれなりの出費になるのでご注意ください。

パンパイデイア――生涯にわたる教育の改善』J・A・コメニウス著、太田光一訳、東信堂、2015年2月、本体5,800円、A5判上製456頁、ISBN978-4-7989-1282-0
フランス・ルネサンス文学集(1)学問と信仰と』宮下志朗・伊藤進・平野隆文編訳、江口修・小島久和・菅波和子・高橋薫・二宮敬訳、白水社、2015年3月、本体6,800円、四六判上製574頁、ISBN978-4-560-08431-1
『痴愚神の勝利――『痴愚神礼讃』(エラスムス)原典』ファウスティーノ・ペリザウリ著、谷口伊兵衛訳、而立書房、2015年3月、本体2,500円、A5判上製112頁、ISBN978-4-88059-386-9

まずはルネサンス、近世ものです。『パンパイデイア』はシリーズ「コメニウス・セレクション」の9年ぶりの第2回配本です。コメニウスの遺稿『人間についての熟議』7部作の中の、教育論である第4部の訳書。巻末には『人間についての熟議』全体の序文が併載されています。訳者の太田さんはシリーズ継続への決意をあとがきで述べておられます。コメニウスの汎知学は教育や学習、学問のあり方が問われているこんにち、いよいよ再評価されていくように思えてなりません。ヤン・パトチカ『ヤン・パトチカのコメニウス研究――世界を教育の相のもとに』(相馬伸一編訳、九州大学出版会、2014年8月)、北詰裕子『コメニウスの世界観と教育思想――17世紀における事物・言葉・書物』(勁草書房、2015年1月)と、このところ研究書の刊行が続いていることにも注目したいです。

『フランス・ルネサンス文学集』は『フランス中世文学集』(全4巻、白水社、1990-1996年)や『フランス中世文学名作選』(白水社、2013年)に続くシリーズで、第1巻「学問と信仰と」は思想・宗教・科学・芸術に関する貴重な作品が収録されている感動的な大冊です。目次は書名のリンク先をご覧ください。抄訳とはいえ、ジャン・ボダンの国家論と魔女論が収録されていることに眼をみはります。田中雅志編訳『魔女の誕生と衰退――原典資料で読む西洋悪魔学の歴史』(三交社、2008年)でボダンの魔女論をすでに読まれた方にもお薦めします。『フランス・ルネサンス文学集』は今後、第2巻「笑いと涙と」、第3感「旅と日常と」の刊行が予定されています。

『痴愚神の勝利』は帯文に曰く「名作『痴愚神礼讃』は二番煎じか?! ルネサンスの天才作家エラスムスが『痴愚神礼讃』の執筆にあたり底本にしながら、極秘にしてきた原典の本邦初訳。イタリア以外では、世界初の"秘書"公開である。(詳しくは訳者解説を参照)」と。ペリザウリ(1450c-1523)はイタリアのほぼ無名の神父。エラスムスの変名ではありません。『痴愚神の勝利』は1524年刊、『痴愚神礼讃』は1511年刊です。なぜ前者が後者の種本だと推理されうるのかについては訳者解説にごく簡潔に書かれています(ネタバレは避けたいので、どうぞ本書をご覧ください)。それをどう評価するかは読者によって賛否があるかもしれません。

これらのほかに、以下の新刊も見逃せません。アリストテレスとロセッティは新訳、『法華経』はかの梵漢和対照版(上下巻、岩波書店、2008年)の改訳で、そのほかは文庫化です。『法華経』改訳版は、梵漢和対照版から現代語訳のみを抜き出し「日本語として読みやすいように大幅に手を入れた」(はしがき)とのことで訳者の献身に深い感銘を覚えます。対照版をお持ちの方にもお薦めします。『スッタニパータ』は講談社版『原始仏典』第7巻「ブッダの詩I」から「スッタニパータ」を独立させたもの。訂正は最小限に留めたと文庫版あとがきにあります。ロック『知性の正しい導き方』は御茶の水書房の親本に訳者が適宜修正を加えたとのことなので、文庫版を決定版と見るべきかと思います。ヤスパース『われわれの戦争責任について』は平凡社ライブラリー版『戦争の罪を問う』(1998年)からの再文庫化です。初訳時は創元文庫(『戦争の罪』1952年)でしたから、再々文庫化と言うべきでしょうか。

新版 アリストテレス全集(6)気象論/宇宙について』三浦要/金澤修訳、岩波書店、2015年3月、本体5,600円、A5判上製函入402頁、ISBN978-4-00-092776-5
サンスクリット原典現代語訳 法華経』上下巻、植木雅俊訳、岩波書店、2015年3月、本体各2,300円、四六判上製302頁/310頁、ISBN978-4-00-024787-0/024788-7
スッタニパータ[釈尊のことば]全現代語訳』荒牧典俊・本庄良文・榎本文雄訳、講談社学術文庫、2015年4月、 本体1,080円、336頁、ISBN978-4-06-292289-0
知性の正しい導き方』ジョン・ロック著、下川潔訳、ちくま学芸文庫、2015年3月、本体1,300円、336頁、ISBN978-4-480-09658-6
D.G.ロセッティ作品集』南條竹則・松村伸一編訳、岩波文庫、2015年3月、本体900円、380頁、ISBN978-4-00-372051-6
われわれの戦争責任について』カール・ヤスパース著、橋本文夫訳、ちくま学芸文庫、2015年3月、本体1,100円、256頁、ISBN978-4-480-09669-2

続いて、20世紀の古典の新訳や初訳本、伝記の注目新刊です。

メルロ=ポンティ『眼と精神』を読む』モーリス・メルロ=ポンティ著、富松保文訳注、武蔵野美術大学出版局、2015年3月、本体1,700円、四六判並製264頁、ISBN978-4-86463-020-7
政治と歴史――エコール・ノルマル講義 1955-1972』ルイ・アルチュセール著、市田良彦・王寺賢太訳、平凡社、2015年4月、本体7,200円、A5判上製560頁、ISBN978-4-582-70339-9
ヒロシマの人々の物語』ジョルジュ・バタイユ著、酒井健訳、景文館書店、2015年3月、本体520円、四六判ペーパーバック64頁、ISBN978-4-907105-04-4
映画とは何か』上下巻、アンドレ・バザン著、野崎歓・大原宣久・谷本道昭訳、岩波文庫、2015年2月、本体1,020円/840円、370頁/284+21頁、ISBN978-4-00-335781-1/335782-8
『ヴィクトル・セガレン伝』ジル・マンスロン著、木下誠訳、水声社、2015年3月、本体10,000円、A5判上製688+8頁、ISBN978-4-8010-0087-2

『メルロ=ポンティ『眼と精神』を読む』はメルロ=ポンティ生前最後の公刊となる『眼と精神』の新訳です。既訳には『眼と精神』所収の滝浦静雄・木田元の両先生による共訳(みすず書房、1966年、251-301頁)があります。今回の新訳では既訳になかったクロード・ルフォールの序文が読めるほか、ジャコメッティ、セザンヌ、マティス、クレーなど、没後の原書単行本版に掲載されている図版のほかにも、芸術家たちの作品が採録されており、非常に嬉しい一冊となっています。訳者による丁寧で啓発的な補注の数々も、本書の背景を知る上で有益です。訳者あとがきでは、翻訳独占権を持っているみすず書房さんが、新訳の刊行を許可されたことに触れられています。とても良い話ですね。なにせ『眼と精神』は難解で冒頭の一文「科学は物を操作するのであって、物に住みつくことは諦めている(La science manipule les choses et renonce à les habiter)」からして読者を絶句させるには充分ですから、複数の翻訳を読めるということは本当にありがたいことです。

『政治と歴史』はまもなく発売となるアルチュセールの講義録で、同名の訳書(『政治と歴史――モンテスキュー・ルソー・ヘーゲルとマルクス』西川長夫・阪上孝訳、紀伊國屋書店、1974年;新訂版『政治と歴史――モンテスキュー・ヘーゲルとマルクス』西川長夫・阪上孝訳、紀伊國屋書店、2004年)とは別物です。平凡社版は2006年にSeuilから刊行されたものの翻訳に、2012年にTemps des Cerisesから刊行されたルソー講義の訳を付け加えたものです。巻頭にはフランソワ・マトゥロンによる編者解題が置かれ、続いて「歴史哲学の諸問題(1955-1956)」「マキァヴェッリ(1962)」「ルソーとその先行者たち――17-18世紀における政治哲学(1965-1966)」「ホッブズ(1971-1972)」「ルソー講義(1972)」が収められています。ちなみに紀伊國屋書店初版本に収められていたルソー講義「ルソーの「社会契約」について」(143-209頁)は1965-1966年のエコール・ノルマル講義の再録でした(新訂版には版権の都合で収録から外されています)。平凡社版では331~367頁に当たり、趣旨は同じですが、平凡社版は聴講ノートとタイプ原稿からテクストが確定されているため、紀伊國屋書店版の再録論文とは互いに別ヴァージョンの関係にあると言っていいと思われます。

『ヒロシマの人々の物語』は1947年の「クリティーク」誌1-2月合併号で発表された「ヒロシマの人々の物語について」の新訳です。既訳には「広島のひとたちの物語」(山本功訳、『バタイユ著作集(14)戦争/政治/実存――社会科学論集1』所収、二見書房、1972年、10-37頁)があります。新訳を手掛けられた酒井さんにはバタイユの訳書・共訳書だけでなく、バタイユ論を多数上梓されていることは周知の通りです。今回の新訳はエッセイ1本ではあるものの、再読に値する内容であると同時に文庫本以上に廉価であるため、バタイユの読者層を広げてくれるのではないかと思います。同書の奥付裏の近刊予告によれば、「魔法使いの弟子」が酒井さんの新訳で同版元から刊行予定だそうです。バタイユによる〈恋人の共同体〉論として知られる同エッセイの既訳には入沢康夫訳(『バタイユ・ブランショ研究』竹内書店や『バタイユの世界』青土社に所収)や、西谷修訳(『聖社会学』工作舎所収)があります。

『映画とは何か』は周知の通りバザンの評論集ですが、とりわけ巻頭論文の「写真映像の存在論」(上巻、9-24頁)における「ミイラ・コンプレックス」という死に抵抗する人間の保存願望をうまく言い表した言葉で有名かもしれません。既訳には小海永二訳(『映画とは何か』全4巻、美術出版社、1967-1977年;『小海永二翻訳撰集(4)映画とは何か』丸善、2008年)があります。映画研究における有名な基本的文献なので、新訳はある意味当然ではあります。しかしそれは訳者と版元の努力の賜物なわけで、先述の『眼と精神』と同様にありがたいことです。欲を言えば分厚く高価になってもいいから全1巻にしてもらった方が使い勝手がよかった気もしますけれど、紙媒体での分冊はやむをえないでしょうか。

『ヴィクトル・セガレン伝』は、1991年にフランスで刊行された記念碑的大冊の翻訳です。A5判2段組で本論が450頁近くあり、そのあと140頁ほど原注がたっぷり続きます。文献案内(「書誌」)や人名索引を完備。巻頭には著者による「日本語版への序文」が付されています。「ヴィクトル・セガレンの伝記が日本の読者に読めるようになることをどうして喜ばないわけがあろうか」という一文がその書き出しです。その序文で著者はセガレンが1910年に日本を訪問したことについて言及しています。その当時の日記は『煉瓦と瓦』(水声社版『セガレン著作集』第8巻、未刊)で読むことができます。著者の祖父はセガレンと友人だったそうです。訳者あとがきで木下さんは本書を「その後もこれを上回る内容の伝記は出版されていないため、現在まで最も信頼できるセガレン伝としてセガレン研究者の誰もが参照する本であり続けている」と紹介しておられます。セガレンの著作の初訳は1959年(スガラン『滅びゆく島』室淳介訳、角川書店)と古いのですが、その後30年以上翻訳がなく、単行本が再び出始めたのは90年代になってからでした。そのためか、セガレンは現代の作家のように思われがちでしたが、実際にはあと数年で没後百年を迎えます。水声社さんでは2001年から『セガレン著作集』を刊行され、残る配本は第2巻「ゴーガン礼讃/異教の思考」と上記の第8巻のみです。長く続く出版不況の最中でのこの長丁場は版元さんにとっては並大抵のものではなかったのではないかと思います。

水声社さんでは周知の通りアマゾン・ジャパンへの出荷を引き続き停止し、ポイントサービスへの異議申し立てを続けておられます。アマゾンだけをもっぱら利用されている方にはなかなかお目に留まっていないかもしれませんが、2月から4月にかけて同社では以下の新刊を刊行されています。

まずは芸術書の分野で2点(展覧会の図録『高松次郎 制作の軌跡』を含めると3点):

『幽霊の真理――絶対自由に向かうために《対話集》』荒川修作+小林康夫著、水声社、2015年3月、本体3,000円、46判上製312頁、ISBN978-4-8010-0088-9
『タイムコレクション』今井祝雄著、大日方欣一構成・テキスト、水声社、2015年3月、本体3,200円、A5判上製120頁、ISBN978-4-8010-0081-0

続いて文芸書の分野で4点(上述のセガレン伝と先日ご紹介したル・クレジオ『氷山へ』、未見のモディアノ『地平線』を含めると7点):

『ガラスの国境』カルロス・フエンテス著、寺尾隆吉訳、水声社、2015年3月、本体3,000円、46判上製352頁、ISBN978-4-89176-956-7
『カフカの動物物語――〈檻〉に囚われた生』山尾涼著、水声社、2015年3月、本体4,000円、A5判上製256頁、ISBN978-4-8010-0091-9
『小島信夫短篇集成(5)眼/階段のあがりはな』水声社、2015年3月、本体6,000円、A5判上製416頁、ISBN978-4-8010-0065-0
『小島信夫短篇集成(6)ハッピネス/女たち』水声社、2015年3月、本体7,000円、A5判上製472頁、ISBN978-4-8010-0066-7

さらに人文書の分野では4点(未見のパツラフ+ザスマンスハウゼン『シュタイナー教育基本指針(II)三歳から九歳まで』を含めると5点):

『ポストメディア人類学に向けて――集合的知性』ピエール・レヴィ著、米山優・清水高志・曽我千亜紀・井上寛雄訳、水声社、2015年3月、本体4,000円、46判上製368頁、ISBN978-4-8010-0090-2
『平成ボーダー文化論』阿部嘉昭著、水声社、2015年3月、本体4,500円、46判上製440頁、ISBN978-4-8010-0089-6
『甦るレヴィナス――『全体性と無限』読解』小手川正二郎著、水声社、2015年2月、本体3,500円、46判上製352頁、ISBN978-4-8010-0085-8
『ベンヤミンにおける「純化」の思考――「アンファング」から「カール・クラウス」まで』小林哲也著、水声社、2015年4月、本体6,500円、A5判上製488頁、ISBN978-4-8010-0092-6

以上、15点が発売済であり、まもなく赤羽研三『〈冒険〉としての小説――ロマネスクをめぐって』が近刊と聞きます。

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by urag | 2015-04-19 23:58 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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