2015年 03月 29日
介入 Ⅰ――社会科学と政治行動1961-2001 介入 Ⅱ――社会科学と政治行動1961-2001 ピエール・ブルデュー著 フランク・プポー+ティエリー・ディセポロ編 櫻本陽一訳・解説 藤原書店 2015年3月 本体各3,600円 A5並製408/368頁 ISBN978-4-86578-016-1/017-8 帯文より:40年にわたる「政治的発言」の主要テクストを網羅! グローバリズムに対するブルデューの「回答」の核心。1960年代の活動当初から社会に介入=発言し続ける「知識人」であった、社会学者ブルデューの真価とは何だったのか。冷戦終結を経て、20世紀型知識人が有効性を失っていく今、全生涯の社会的発言を集成し、旧来型の「社会運動」への挺身でも「国家」の単純な再評価でもなく、その両者を乗り越えてグローバリズムと対峙したブルデュー思想の現代的意味を炙り出す、決定版論集。 ★発売済。原書は、Interventions, 1961-2001: Science sociale et action politique (Agone, 2002)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。本書は「1961年から2001年までという、ブルデューの知的生涯の全期間にわたって、一方ではブルデューの政治社会状況に対する発言、他方で、政治やメディアと学問あるいは知識人の関わりについて、言及、考察しているテクストを、フランス人読者にとっても一般には入手が容易でないものも含めて集成した論集」(訳者序)であり、フランス語原書では未収録の「「ヨーロッパ社会運動憲章に向けての提案」第一次文案」(1999年12月)が第II巻に付録として併載されています。そこでは新自由主義に対する批判的勢力の結集が呼びかけられています。 ★藤原書店さんは今春創業25周年をお迎えになるとのことです。最初の刊行物(1990年3月)のひとつはほかでもないブルデューの『ディスタンクシオン』でした。周知の通り第I巻はまず社長の藤原良雄さんが新評論に在籍時代の1989年に刊行され、その翌年の藤原書店独立時に第II巻とともに再刊されます。藤原さんの特徴は新評論時代から変わらず、一人ひとりの著者ととことん付き合うこと。ブルデューをはじめ、コルバン、ブローデル、トッド、イリイチ等々、数多くの訳書を手掛けられてきました。同版元のPR誌「機」276号(2015年3月)に掲載された「出版随想」で藤原社長はこう述懐しておられます。「我が出版屋は、人と人との関係からすべてが生まれてくる商売。〔・・・〕今、出版界にとってもっとも大事なのは〔・・・〕人間の中身であり、人間関係である」。藤原書店さんはこの四半世紀で1106点もの書籍を世に送り出されました。来月はいよいよアニー・コーエン=ソラルの『サルトル伝』上下巻が刊行予定とのことです。 『21世紀に、資本論をいかによむべきか』フレドリック・ジェイムソン著、野尻英一訳、作品社、2015年3月、本体2,400円、46判上製320頁、ISBN978-4-86182-513-2 『原子爆弾 1938~1950年――いかに物理学者たちは、世界を残虐と恐怖へ導いていったか?』ジム・バゴット著、青柳伸子訳、作品社、2015年3月、46判上製640頁、ISBN978-4-86182-512-5 ★作品社さんの3月新刊より2点をご紹介します。いずれも発売済。『21世紀に、資本論をいかによむべきか』の原書は、Representing "Capital": A Reading of Volume One (Verso, 2011)です。序章「資本論をいかに読むべきか」、第一章「カテゴリーの演奏」、第二章「対立物の統一」、第三章「コーダ(終楽章)としての歴史」、第四章「『資本論』の時間性」、第五章「『資本論』の空間性」、第六章「『資本論』と弁証法」、第七章「政治的結論」といった構成で、巻末に「訳者解説――本書をいかに読むべきか?」と「『資本論』日独英目次対照表」が付されています。著者は序章でこう述べています。「『資本論』は、政治についての本ではないし、労働についての本ですらない。『資本論』は失業についての本なのである。私はこのスキャンダラスな主張を、『資本論』の議論の各段階およびその要点ごとの展開に注意を払うことによって、証明していくつもりである」(5頁)。第七章ではこうも書いています。「「不公正と不平等」は、この全体的なシステムそのものと構造的に一体のものであり、不公正や不平等は決して修復などされないと示したことこそが、まさに『資本論』の力であり、建設的な偉業なのである」(247頁)。トマ・ピケティの『21世紀の資本』(みすず書房)をお読みになった方は、本書もまた興味深く読まれるだろうと思います。 ★『原子爆弾 1938~1950年』の原書は、Atomic: The First War of Physics and The Secret History of the Atom Bomb 1939-1949 (Icon Books, 2006)です。「物理学者たちの戦い」「原爆開発競争」「戦争と原爆投下」の3部構成で、巻末には英米独ソの4カ国対照版「原子爆弾年表(1938~1950年)」と、「登場人物の紹介」と題した人物小辞典が付されています。著者のバゴットさんは著名なサイエンス・ライターで既訳書に『究極のシンメトリー――フラーレン発見物語』(白揚社、1996年)や『ヒッグス粒子――神の粒子の発見まで』(東京化学同人、2013年)があります。若い読者層向けの類書としては先月、スティーヴ・シャンキン『原爆を盗め!――史上最も恐ろしい爆弾はこうしてつくられた』が紀伊國屋書店さんから刊行され話題を集めていますが、こちらは原書が2012年の刊行。バゴットさんの作品はさらにその3年前で、当時各紙誌から絶賛を浴びた傑作です。『原爆を盗め!』をお読みになって原爆開発競争のさらにもっと深く詳しい歴史を知りたいと感じた方はぜひ『原子爆弾 1938~1950年』を手に取ってみて下さい。 『イタリア建築紀行――ゲーテと旅する7つの都市』渡辺真弓著、平凡社、2015年3月、本体2,600円、4-6判並製448頁、ISBN978-4-582-54452-7 『現代デザイン事典 2015年版』平凡社、2015年3月、B5変型判並製326頁、ISBN978-4-582-12934-2 ★平凡社さんの3月新刊より2点をご紹介します。いずれも発売済。『イタリア建築紀行』は、ゲーテの『イタリア紀行』(全3巻、相良守峯訳、岩波文庫)の旅程をひもとき、イタリアの7都市(ヴィンチェンツァ、パドヴァ、ヴェネツィア、アッシージ、ローマ、ナポリ、パレルモ)の町並みや建築の魅力を語り尽くすという「机上の旅」(437頁)です。写真多数。机上の旅とは言っても、著者は建築史家なので、各都市を実際に巡った経験をお持ちです。「ゲーテが見たもののほかに、見なかったもの、見ようとしなかったものも取り上げている。都市と建築を主に論じた章もあれば、歴史的な推移に重点を置いた章もある」(435-436頁)と著者は終章で書いておられます。 ★『現代デザイン事典 2015年版』の今年の巻頭特集は「風景再考――記憶をつなぐデザイン」。「今あらためて風景と人間の関係に着目したい。風景がどのうように発見され考察されたのか、書物を通して概観し、さらに現在どのように見られ、想像されているのか、記憶と結びついてきたかを考えていく。そして最後に、戦争や災害といった讃辞から人々が立ち直るためのひとつの方法論=デザインという視点で、風景と記憶の継承に取り組んでいる事例を紹介する」と特集頁の扉に特記されています。「風景と記憶の継承」では、近年試みられるようになってきたデジタルマップやデジタルアーカイヴが紹介されています。そのあとに続く通常頁では25分野800項目に及ぶキーワードの解説や、デザイン人名録、ブックガイドなどの情報を網羅。文化拠点としての未来の出版像・書店像を考える上で、数知れないアイデアと触発を毎年与えてくれるのが『現代デザイン事典』です。 『サイエンス・ブック・トラベル――世界を見晴らす100冊』山本貴光編、河出書房新社、本体1,600円、46判並製216頁、ISBN978-4-309-25323-7 『ポスト代表制の政治学――デモクラシーの危機に抗して』山崎望・山本圭編、ナカニシヤ出版、2015年3月、本体3,500円、4-6判並製318頁、ISBN978-4-7795-0919-3 ★続いて2点のアンソロジーをご紹介します。いずれも発売済。『サイエンス・ブック・トラベル』は物理学者、天文学者、生物学者、情報学者、サイエンスライター、医師等々、多彩な執筆陣30名が最先端の科学書を丁寧に紹介してくれるブックガイドです。「宇宙を探り、世界を知る」「生命のふしぎ、心の謎」「未来を映す」の3章立てで、コラムや特別対談などが挟まれています。編者の山本さんによる巻頭言を引用しておくと、「第一部は、地球や宇宙といった物質環境をテーマとし〔・・・〕第二部では、生物や人間の精神を含む生命現象に関わる分野に注目〔・・・〕そして第三部は、科学の歴史や科学を理解すること、あるいは科学の未来に関わる謎を集めて」いるとのことです。ジュンク堂書店池袋本店の理工書担当Uさんもインタビューで登場。100冊の情報は、書店さんの理工書の現場の方に有益なだけでなく、人文書売場で科学哲学コーナーを作っていらっしゃる方にとっても要チェックな情報源だろうと思います。 ★『ポスト代表制の政治学』は現代の政治と社会が抱える難問をめぐる真摯な探究を集めています。巻頭の「序」の説明を借りると、「本書では、自由民主主義において一般に前提されてきた、人民の意志を議会に集約する諸制度および理念を総合して「議会制民主主義(Parliamentary democracy)」と理解している。これに対して「代表制民主主義(representative democracy)」とは、住民投票はネオコーポラティズム[政府・経営者・労働組合団体の協調にもとづく政策過程の制度化]など、議会にとどまらない多様な場における代表関係を射程に含んでいる。さらに、代表制度が存続しているにもかかわらず、政治がその枠内に回収されず、代表のメカニズムそれ自体がうまく機能していないような状況を、本書では「ポスト代表制」と呼ぶことにしよう。本書において私たちが捉えようとするのは、このポスト代表制状況における私たちの代表制民主主義の行方である。アラブの春、オキュパイ・ウォール・ストリート、そして3・11以後の脱原発デモであらわになったポスト代表的な状況において、政治学にはいかなるレスポンスができるだろうか」(7頁)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。 『山岳信仰――日本文化の根底を探る』鈴木正崇著、中公新書、2015年3月、本体880円、新書判320頁、ISBN978-4-12-102310-0 『十九世紀イギリス自転車事情』坂元正樹著、共和国、2015年3月、本体3,700円、菊変判上製288頁、ISBN978-4-907986-07-0 『出版とは闘争である』西谷能英著、論創社、2015年3月、本体2,000円、四六版並製246頁、ISBN978-4-8460-1425-4 ★『山岳信仰』は発売済。カバーソデ紹介文に曰く「本書は山岳信仰の歴史をたどりつつ、修験道の成立と展開、登拝の民衆化と女人禁制を解説。さらに八つの霊山の信仰と祭祀、神仏分離後の状況までを詳解する。長年、山岳修験研究に携わってきた著者による決定版」。序章「山岳とは何か」、第一章「出羽三山――死と再生のコスモロジー」、第二章「大峯山――修験道の揺籃の地」、第三章「英彦山――西日本の山岳信仰の拠点」、第四章「富士山――日本人の心のふるさと」、第五章「立山――天空の浄土の盛衰」、第六章「恐山――死者の魂の行方」、第七章「木曽御嶽山――神がかりによる救済」、第八章「石鎚山――修行から講へ」という構成。著者は文化人類学・宗教学・民俗学の専門家で今月慶應義塾大学を定年退職。若い頃から山登りがお好きで、日本山岳会の会員でいらっしゃるほか、日本山岳修験学会の会長をつとめておられます。 ★『十九世紀イギリス自転車事情』は著者のデビュー作で、2011年に京都大学に提出された博士論文「オーディナリ型自転車の時代」に加筆修正したもの。帯文はこうです。「「自転車趣味」はこうして生まれた! わたしたちの日常生活に欠かせない移動手段・自転車は、なぜ現在のような形態になったのか? 1880年代の英国で、趣味から娯楽・スポーツへと発展した、前輪の大きな「オーディナリ型自転車」の発展と消滅を、雑誌・地図・旅行記・カタログなど、豊富な資料を駆使して描き出す《自転車秘史》」。今回も特徴的な、天地の短い「菊判変型」サイズ(宗利淳一さん造本)が採用されています。かつてA5判の左右の横幅を短くしたスマートな造本で他社本と差別化したパピルスさんの本(東幸見さん装丁)のように、共和国さんの本はその個性的な愛らしい形で存在感を放っています。共和国さんは来月4月2日で創業1周年をお迎えになるとのこと。おめでとうございます! ★『出版とは闘争である』は未來社社長の西谷能英さんによるブログ「出版文化再生」から選ばれたエントリーをまとめたもの。西谷さんご自身による告知によれば、「前著『出版文化再生――あらためて本の力を考える』(未來社)刊行後の出版事情、出版界をふくむ社会への批判的エッセイ、書物にかんするさまざまなエピソードなどをそのつど書きためてきたエッセイをテーマ別に編集しなおし、注を加えた集成です」とのことです。「出版とは闘争である」という書名はもともと前著『出版文化再生』の帯文に大書されていた文言でした。「現在のような政治状況、文化状況、出版環境のなかでは、私が考えてきたような専門書、人文書をあえて刊行していくことは、ひとつの文化闘争のありかたなのだ」(iii頁)と本書の「はじめに」で西谷さんはお書きになっておられます。なお、未來社さんではいよいよ来月から『【新版】日本の民話』全79巻を刊行されます。46判ソフトカバーで各巻平均270頁、本体価格は2000~2200円とのことです。全巻揃えても本体16万円ほどという高コスパ。第1回配本は3冊同時で『信濃の民話』『岩手の民話』『越後の民話1』。内容見本は書店などで配布されています。
by urag
| 2015-03-29 23:21
| 本のコンシェルジュ
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Comments(2)
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by
久野広
at 2015-03-31 12:49
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月曜社はもちろん、藤原書店→書肆心水の清藤氏、松籟社→洛北出版の竹中氏、水声社→共和国の下平尾氏など、連綿と布置として知の営為が受け継がれていることがわかります。上にあげた方々は一例にすぎず、布置を構成する皆様に敬意を忘れてはならないと思います。
サルトル伝は、サルトル読本(法政大学出版局)などとあわせ生誕110年の必読書ですね。一時期読まれたとはいえ、日本ではまだまだサルトルへの尊敬が足りないと個人的には思っていますので、再読の機運となるとよいのですが。新たな全集が組まれるべきとも思います。
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by
urag at 2015-03-31 15:17
久野広さんこんにちは。いつもご高覧いただきありがとうございます。お挙げになられた3氏は私も含めほぼ同世代なので、連帯感とまで甘ったるく言わないにしても、並走感があります。サルトルの新全集というのは確かにあってもおかしくないですね。それと並行して、バタイユやベンヤミンのように文庫でどんどん既訳が読めるようになるといいと思います。
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