2015年 03月 08日

注目新刊:『HAPAX』第3号「健康と狂気」、など

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HAPAX vol.3――健康と狂気
夜光社 2015年2月 本体1,000円 B6変判並製160頁 ISBN978-4-906944-05-7

目次:
新しい健康を発明せよ!  HAPAX
狂気の真理への勇気  小泉義之
〈戦争国家革命〉前夜  友常勉
水煙草、パンクス、〈分断法〉  シーシャ=ヤニスタ解放戦線+TOD
蜂起的イスタンブール  Snoopy+高祖岩三郎
ロジャヴァ:国境を破壊し自律を目指す闘争  アリ・ベクタシ
悲惨ノート  Deng!
孤独へと浮上せよ  アンナ・R
二〇一四年六月の恋唄  マニュエル・ヤン

★発売済。アナキズム思想誌を標榜する「ハパックス」の第3号は本号より誌面を横組から縦組にリニューアル。変更の違和感はまったくありません(なお、すべてが縦組なのではなく、注や寄稿の一部が本文から独立して横組になっています)。第3号の特徴は、書店や読者に向けた特集の要旨もしくは宣伝文がほぼ「ない」ということです。同誌第1号(2013年9月)には帯文がついていて、「もう、誰にも動員されたくないあなたのための思想誌、創刊!  世界/地球と蜂起主義アナキズムの交錯点から未来なき未来へ。いまこの世界の破滅そのものを蜂起に反転させる新しい思想/政治/文化はどこにあるか。市民の製造こそが社会的のみならず、政治的、経済的、さらには人類学的な帝国の勝利である」という宣言がありました。

★第2号(2014年6月)に帯文はありません。夜光社のブログにも目次が列記されているだけです。書店向けの新刊案内にはこうあります。「アナキズム系思想誌ハパックス第2号! 高祖岩三郎やティクーンなど論考10本(翻訳4本)。1号の執筆陣に加え、友常勉、そして関西から強力な匿名グループ、影丸13号が参加!」。そして今回の第3号ですが、帯文なし、ブログには目次の列記のみ。書店向けの新刊案内には「アナキズム思想誌ハパックス第3号! 誌面をリニューアル。本文縦組となります」と素っ気ないです。さらに言えば、同誌の編集を担当する「HAPAX」氏が毎号の巻頭に寄稿していますが、内容的に見て各号の統一的な方向性を説明したり要約したりするという役割を担っているという様子ではありません。

★つまり本誌においては複数の声がそれぞれに鳴り響き、多方向に言論を展開する、連帯なき連帯の運動となっていると言うべきだろうと思われます。表紙の寄稿者名も全員同じ大きさで横並びになっているのも、そうしたスタンスの表れであるように感じます。既刊号と唯一違うのは、第3号では「健康と狂気」という標語が掲げられていることです。既刊号にはこうしたフレーズはありませんでした。「より高次の狂気=新しい健康への覚醒」(12頁))と巻頭論文でHAPAX氏は書きます。「高次の狂気」というのは、本号でも寄稿されている小泉義之さんの近著『ドゥルーズと狂気』(河出書房新社、2014年7月)で論じられた主題です。小泉さんはこの著書においてドゥルーズの読解を通じて「高次の健康にして高次の狂気を生きる人間」(359頁)について書かれていました。

★小泉さんは第3号への寄稿論文「狂気の真理への勇気」では主にフーコーのパレーシア論を援用し、ヘイトスピーチと「行動の狂気の自由」(28頁)の問題系に切り込んでおられます。「フーコーの最後の講義録である『真理の勇気』〔慎改康之訳、筑摩書房、2012年〕によるなら、パレーシアとは、語源的には、「すべてを語ること」、「何を前にしても尻込みせず、何も隠すことなく語ること」である。したがって、ヘイトスピーチもパレーシアである。そう認めておかなければならない」(25頁)。このあとさらにフーコーの講義録からパレーシアをめぐる重要な引用が続きますが、核心的なネタバレになるので引用はやめておきます。言うまでもありませんが、小泉さんはヘイトスピーチの「内容」を擁護されているわけではありません。

★偶然ですが、青土社の月刊誌『現代思想』3月号「特集=認知症新時代」もまた、こんにちにおける「健康」を問う特集号となっています。ノンフィクションライターの向井承子さんによるエッセイ「国益としての健康」をはじめ、力作論考やインタヴューが並んでいます。「健康」志向が政治や企業にとって都合のいい道具にされてしまうリスクについて考えたい読者にお薦めです。


氷山へ
J・M・G・ル・クレジオ著 中村隆之訳
水声社 2015年3月 本体2,000円 46判上製152頁 ISBN978-4-8010-0082-7

帯文より:"ことばの極北"への旅――。2008年にノーベル文学賞を受賞したル・クレジオの思考と実践に大きな影響を与えた孤高の詩人アンリ・ミショー。彼の至高の詩篇「氷山」「イニジ」について、ル・クレジオが包括的かつ詩的に綴った珠玉の批評エッセイ。解説:今福龍太

目次:
氷山(アンリ・ミショー)
〔序文 (ル・クレジオ)〕
氷山へ(ル・クレジオ)
イニジ(アンリ・ミショー)
イニジ(ル・クレジオ)
ことばの氷海への至上の誘い(今福龍太)
訳者あとがき

★発売済。シリーズ「批評の小径」の最新刊。原書は、Vers les icebergs (Fata Morgana, 1978)です。ミショーによる2篇の詩――「氷山」(1934年執筆、35年刊『夜動く』所収)と「イニジ」(1955年頃執筆、62年『風と埃』および73年『様々な瞬間』所収)――、さらにそれらをめぐるル・クレジオのエッセイが訳され、今福龍太さんが解説を書かれています。1978年6月15日と日付を打たれた巻頭の無題の序文で、ル・クレジオはこう書いています。「「イニジ」、「氷山」、これらはフランス語が生み出したもっとも美しく、もっとも純粋で、もっとも真実な詩のうちでも究極の二篇(二十年の隔たり)だ。詩がこの力、この本能、宇宙における生命の諸元素と結びついたこの行為であるとき、文体上の工夫、技法上の達成や隠された意味などといったことはどうでもいい。ぼくはアンリ・ミショーの詩を旅するように読みたい」(12頁)。

★ル・クレジオの2篇のテクストは「旅するように読む」というその自由さにおいて、単なる批評でも論評でもない、形式やジャンルから解き放たれた独特の呼吸を獲得しています。それ自体がひとつの散文詩でもあるような、とても美しい旅です。今福さんはこう綴っておられます。「ル・クレジオが本書で示したように、書くことが旅することであるなら、読むこともまた旅である。そして、その旅が未知のものであること、人跡未踏の極北への旅であることほど高揚することはない。読者がその旅の果てで出遭う氷山は、旅人が一人としておなじ者でない以上、無限定の姿をとって、私たちの言語的想像力の氷海を蒼黝い縞模様を描きながら揺れているだろう」(120頁)。

★ル・クレジオの2篇のテクストを受け取ったミショーがル・クレジオに書き送った手紙の一節が「訳者あとがき」で紹介されています。「こんな贈物を受けた詩作者がこれまでにいたでしょうか? ばつが悪いですし、身がすくみます。美しすぎる」(1978年12月22日付)。同じく「訳者あとがき」が教えるところでは、隔週書評紙「キャンゼーヌ・リテレール」168号(1973年7月刊)掲載の初出において、ミショーの「イニジ」を取り囲むようにしてル・クレジオのイニジ論は配置されていた、とのことです。想像するだけで胸が躍る、まるで宝島の地図のようなレイアウトです。

★訳者の中村さんはこう記しておられます。「この小著の魅力は、読書を通じて、時間的にも空間的にもへだたった、聖なる場所へと読み手を連れ出してくれるところにある」(136頁)。本書のような素敵な本を誰かから送られたら、おそらくミショーだけでなく、多くの読み手が嬉しくなるのではないかと思います。そんなわけで本書はプレゼントにぴったりの本なのです。


沖縄物産志――附・清国輸出日本水産図説
河原田盛美著 増田昭子編 高江洲昌哉・中野泰・中林広一校注
東洋文庫 2015年3月 本体3,100円 B6変型判函入380頁 ISBN978-4-582-80859-9

帯文より:明治に活躍した農水産学者の著作2冊を収録。『沖縄物産志』は明治初期の沖縄で実見した物産の記録。『清国輸出日本水産図説』は当時の中国に輸出した主な水産物を解説。ともに図入り。

★まもなく発売。平凡社さんの「東洋文庫」第859巻です。幕末~明治期の農学者、河原田盛美(かわらだ・もりはる/もりよし:1842-1914)による『沖縄物産志』(中林広一さんによる校訂、高江洲昌哉さんによる注釈、底本は国文学研究資料館所蔵の自筆原稿)と、『清国輸出日本水産図説』(中野泰さんによる校訂および注釈、底本は国立国会図書館所蔵本)を収め、巻末には校訂・注釈者の3氏に編者の増田昭子さんを加えた4氏による解説と、編者あとがきを併載しています。

★解説によれば『沖縄物産志』と『清国輸出日本水産図説』は、「河原田盛美が明治七年、在勤を命じられた琉球で見聞した物産記録と、加えて清国への日本水産物輸出の書である」(354頁)。さらに、これらが書かれた背景が次のように説明されています。「本書が書かれた明治十年代の日本は、明治政府が日本国家として国を整え始めた時期で、もっとも肝要なことは、アジアのなかにあって欧米列強の外圧に屈せず、独自の国家を築くことにあった。そのために強固な法治国家を作り、海外資本の流入を避け、日本の官・民業を育成、発展させて国力を富ますことであった。殖産興業を第一とした富国を目指していた時代であった。このような時代の要請が、海外で行われる万国博覧会に日本の物産を出品し、国力を示し、輸出産業増進を図ることであった。まさにその要請に応えるべきして著作・刊行された二つの書なのである」(同頁)。

★東洋文庫の次回配本は4月刊『乾浄筆譚――朝鮮燕行使の北京筆談録』とのことです。
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by urag | 2015-03-08 18:35 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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