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2015年 02月 22日

注目新刊:サルトル『家の馬鹿息子』第4巻、ほか

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◎サルトル『家の馬鹿息子』第4巻、新版『象徴哲学大系』第IV巻、など

家の馬鹿息子4――ギュスターヴ・フローベール論(1821年より1857年まで)』ジャン-ポール・サルトル著、鈴木道彦・海老坂武監訳、黒川学・坂井由加里・澤田直訳、人文書院、2015年2月、本体15,000円、A5判上製448頁、ISBN978-4-409-14066-6
新版 錬金術』マンリー・P・ホール著、大沼忠弘・山田耕士・吉村正和訳、人文書院、2015年2月、本体4,000円、A5判上製330頁、ISBN978-4-409-03086-8
うちあけ話』ポール・コンスタン著、藪崎利美訳、人文書院、2015年2月、本体2,000円、4-6判上製248頁、ISBN978-4-409-13037-7

★人文書院さんの新刊より3点ご紹介します。まず『家の馬鹿息子』第4巻はまもなく発売。23日(月)取次搬入と聞いています。「家」は「いえ」ではなく「うち」と読みます。既刊書の第1巻(82年、本体12,000円)、第2巻(88年、本体9,000円)、第3巻(2006年、本体15,000円)はすべて版元在庫あり。他の巻よりは頁数が少ないせいか、お高い印象がありますけれども、ほぼ10年前の既刊書より高額には設定していないというだけでも、版元が踏ん張って下さっていることが分かります。第4巻は第三部「エルベノンまたは最後の螺旋」のIIの最後までを収録。これで原書全3巻のうち、第2巻までが翻訳されたことになります。残るは原書第3巻が訳書第5巻として、最後の大冊として、いずれ刊行される予定だそうです。

★『新版 錬金術』もまもなく発売。25日頃取次搬入予定と聞いています。新版『象徴哲学大系』の第IV巻であり、これで全4巻完結となります。最終巻では錬金術師たちとその理論と実践が紹介され、なかでもローゼンクロイツ『化学の結婚』には単独の章を割いています。さらにキリスト教やイスラーム、アメリカ・インディアン(ママ)の神秘体系についても解説が試みられています。「ヘルメスのエメラルド表」をはじめ、カラー図版多数。巻末には全4巻を通じた参考文献や事項索引が付されています。人文書院さんでのホールの既訳書にはこのほか『フリーメーソンの失われた鍵』(吉村正和訳、1983年)や『人間――密儀の神殿』(大沼忠弘ほか訳、1982年)がありますが、現在は品切。ご興味がある方は古書店をお探しになってください。

★『うちあけ話』は発売済。1998年度のゴンクール賞を受賞した小説で、コンスタン(Paule Constant, 1944-)の作品が訳されるのは本書が初めてのようです。原書は、Confisdence pour confidence (Gallimard, 1998)で、フランスでは60万部を超えるロングセラーとのこと。帯文に曰く「仕事面では成功しながら、愛する人や家族にそっぽを向かれた女性たち。同じ屋根の下で一夜を明かすという偶然から、はからずも自分の弱点を認め、他者と向き合い、互いに胸の内をうちあけ合うことで自分の原点を見つめ直し、明日への活力を見出していこうとする女性たちの健気さと逞しさが、諷刺とユーモアたっぷりに描かれている」と。著者は「ポール」とカタカナで読むと男性かと勘違いしがちですが、女性です。彼女のこれまでの活躍については訳者あとがきに詳しいです。


◎神経犯罪学(ニューロクリミノロジー)の第一人者による包括的解説書、など

暴力の解剖学』エイドリアン・レイン著、高橋洋訳、紀伊國屋書店、2015年2月、本体3,500円、46判上製640頁、ISBN978-4-314-01126-6
原爆を盗め!』スティーヴ・シャンキン著、梶山あゆみ訳、紀伊國屋書店、2015年2月、本体1,900円、46判並製352頁、ISBN978-4-314-01127-3
論語集注4』朱熹著、土田健次郎訳注、東洋文庫、2015年2月、本体3,200円、B6変判函入494頁、ISBN978-4-582-80858-2
残影』桐谷美香著、鷹野隆大写真、平凡社、2015年2月、本体2,800円、B5変型判上製80頁、ISBN978-4-582-27818-7
近代の超克――その戦前・戦中・戦後』鈴木貞美著、作品社、2015年2月、本体4,200円、46判上製576頁、ISBN978-4-86182-524-8
銀幕の村――フランス映画の山里巡り』西出真一郎著、作品社、2015年2月、本体1,800円、46判上製216頁、ISBN978-4-86182-526-2

★まず、紀伊國屋書店さんの今月新刊より2点をご紹介します。『暴力の解剖学』『原爆を盗め!』、どちらもまもなく発売です。『暴力の解剖学』の原書は、The Anatomy of Violence: The Biological Roots of Crime (Pantheon, 2013)です。帯文には「犯罪研究は新時代に突入した!」と大書されています。エイドリアン・レインはペンシルベニア大学教授で、神経犯罪学(ニューロクリミノロジー)の開拓者です。訳者あとがきの文言を借りると、神経犯罪学とは「脳や自律神経系などの生物学的な構造や機能の欠如が、いかに反社会的性格を生み、ひいてはその人を犯罪に至らしめるのかを研究する学問分野」であり、本書はその包括的な解説本です。ロンブローゾの亡霊かと眉をひそめる方もいらっしゃるかもしれませんが、いわゆるトンデモ本ではなく、著者は険しい道であることを知りつつも地道に研究を続けています。かのダマシオも「ありのままの事実が徹底的に精査されている。非常に貴重な一冊だ」と評価しているとのことです。本書は冒頭から、著者自身があやうく殺されかけた事件の生々しい描写から始まり、あっという間に読者を惹きこみます。「生物学は運命ではない。私たちは、公衆衛生の視点と組み合わされた、新時代の学際的な研究によって得られつつある一連の「バイオソーシャル」な知見を活用すれば、犯罪が起こる原因を解明できるはずだ」(26頁)という言葉に著者の探求心がよく表れているように思います。各紙誌の書評欄で取り上げられそうな、ヒットの予感がします。

★『原爆を盗め!』の原書は、Bomb: The Race to Build -and Steal- the World's Most Dangerous Weapon (Roaring Brook Press, 2012)です。帯文はこうです。「第二次大戦下、原爆開発競争のゴングが鳴った。米英の「マンハッタン計画」に天才科学者が集結し、その情報を盗もうとソ連のスパイが暗躍する。一方で、ヒトラーも原爆製作を進めていた。現在世界に1万6千発以上、私たちの時代を決定的に変えてしまった核兵器開発の知られざる物語」。かの「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙は本書を「歴史が「退屈」だと考えている若者の目を一気に覚まさせる、手に汗握るノンフィクション」と評したのだとか。なぜ「若者の目」なのかというと、訳者あとがきによれば本書はもともとヤングアダルト向けの本として出版されたのだそうで、確かに今時の映画のようにテンポよく読ませます。軍人と科学者とスパイと政治家が渦となって入り乱れ、読者の胸の鼓動もそれにあわせて高まるであろうその果てに、あの特異点が死神となって世界を突如覆い始めます。米軍による広島への原爆投下です。被爆の描写は日本語文献の引用が中心で英語圏の読者のショックを最小限に抑えるように配慮されているように思われますが、日本の読者の眼前に広がる闇はたとえようもなく暗いものです。科学者たちの後悔はすべて遅まきであり、哀れです。核戦争がすなわち世界の滅亡であることを著者は警告していますが、私たち現代人に欠けているのはそれを文字通りに受け取る想像力なのかもしれません。

★次に、平凡社さんの今月新刊より2点をご紹介します。『論語集注4』は発売済。全4巻完結です。第4巻には「憲問第十四」から「尭曰第二十」までを収めます。「訳注者あとがき」で土田先生は「この注釈書は数ある『論語』の注釈書の中でも獲得した読者数、及ぼした影響において冠絶した存在である。本書を抜きにして東アジアの近世の思想や文化は論じられない」と評しておられます。また、こうも書かれています。「『論語集注』は「集注」という書名が示すように注を集めたことを標榜していながら、実は朱子がかなり自分の解釈をもとにアレンジし、結果的には朱子の創作のようになっている書物なのである。朱子にとって重要だったのは、道学諸儒の説の忠実なトレースではなく、自分の信ずる道学流『論語』注釈を提出することであった」(487頁)。

★『残影』はまもなく発売。版元紹介文によれば本書は「現代美術家で花の造型をテーマに活躍する著者の作品集。室町時代の「たてはな」と桃山の「立花」を継承し、現代のいけばなを創作。撮影はいま注目の写真家・鷹野隆大による撮り下ろし」。一年前に同じく平凡社さんから刊行された『心像』に続く作品集です。どう表現したらいいのか、そぎ落とされた感じと艶めかしさを同時に感じる作品群がモノクロ写真で紹介されています。一瞥して通り過ぎてしまえるような素っ気なさがありながら、どうしても何度も見直してしまうことになるのは、触れれば壊れてしまいそうな静けさの中に凝縮された不穏な烈しさが押し包まれているからのように感じます。「境界線の花」と題された桐谷さんのテクストにはそうした印象を裏付けする言葉があるような気がしますが、引用はせずにおきます。読者一人ひとりが直接感じるべきものです。

★最後に、作品社さんの今月新刊より2点をご紹介します。『近代の超克』はまもなく発売。23日(月)ごろ取次搬入予定と聞いています。章立てを列記すると、序章「いま、何を問うべきか」、第一章「近代化と「近代の超克」思想」、第二章「日本の近代化と「近代の超克」」、第三章「「東亜協同体」論から「大東亜共栄圏」構想へ」、第四章「戦時期「近代の超克」をめぐる論議」、第五章「丸山真男の「近代の超克」論」、第六章「廣松渉による「近代の超克」」、第七章「「近代の超克」問題を立てなおす」、です。「私がライフ・ワークと思い定めた戦時期の「近代の超克」問題に、ようやく一応の決着をつけることができたと思う」と鈴木さんは「あとがき」で振り返っておられます。「それは19世紀イギリスに発する「近代の超克」思想が、マルクス主義諸派と生命原理主義諸潮流となって相克しながら国際的に展開したという構図のもとに、各国それぞれの動きを眺望し、かつ、その日本版を考えたときに、はじめてえられた結論である。その構図は、20世紀思潮史を総括し、かつ地球環境問題を課題として抱える21世紀に展望を拓くためにも有効と確信している」(517-518頁)。おそらく読者は本書巻末の人名索引と事項索引を立ち読みするだけでも圧倒されることと思いますが、本書全体の構造を押さえるうえではまず序章末尾(90~92頁)の「本書の構成」をご覧のうえ、現代社会に警鐘を鳴らす序章の先頭に戻られるのが良いかと思います。

★『銀幕の村』は発売済。帯文に曰く「田舎町で撮影された映画の舞台を訪ね歩き、作品を紹介しながら、長閑やかな村の風景、人々との交流、そして胸に浮かぶ貧しくも心豊かな戦中/戦後の日本の姿をあたたかい筆致で綴る、詩情に富んだフランス紀行。各地へのアクセスガイド付」。章立てと取り上げられている映画および地名は、書名のリンク先をご覧ください。「映画の舞台を訪ね歩く」というのは好きな作品なら誰もがやってみたくなることですが、海外が舞台ともなればなかなかできない贅沢です。行間に身を任せれば、想像の翼とともに読者の胸に旅情が沁みていく、素敵なフランス紀行です。中には回想の脱線もあります。16歳の少年に「先生は意外と有名なんですね」と言われた時の著者の顔を想像すると吹き出しそうになります。その少年は大学卒業後、編集者になったのだとか。

by urag | 2015-02-22 01:46 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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