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2015年 02月 15日

注目新刊:ルクリュ『新世界地理』翻訳シリーズ、ほか

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◎ルクリュの主著『新世界地理』の初訳、順次刊行開始

東アジア――清帝国・朝鮮・日本(ルクリュの19世紀世界地理 第1期セレクション1)
エリゼ・ルクリュ著 柴田匡平訳
古今書院 2015年1月 本体20,000円 A5判上製函入832頁 ISBN978-4-7722-9006-7

★発売済。版元紹介文の文言を借りると、新シリーズ『ルクリュの19世紀世界地理』は「フランスの地理学者エリゼ・ルクリュ(1830-1905)が調査旅行や文献を駆使して書き上げた代表作『新世界地理――大地と人間』全19巻(1875-1894)を初邦訳。19世紀末の世界地理を詳細に記述し資料的価値大。ルクリュは近代地理学の祖のひとりであるカール・リッターの直弟子。本シリーズは、西欧型の文化や社会組織による影響を受ける以前の諸民族のありさまを中庸な観点から精細に記述しており、ドイツ語・英語に翻訳され当時のベストセラーとなった」というもの。

★同シリーズの「第1期セレクション」は年1回刊行予定で以下の全5巻の予定だそうです。ブラケット内[]は原著での巻次です。 

1[7]:東アジア――清帝国、朝鮮、日本
2[11]:北アフリカⅡ――トリポリタニア、チュニジア、アルジェリア、モロッコ、サハラ
3[16]:アメリカ合衆国
4[1]:南ヨーロッパ――ギリシャ、トルコ、ブルガリア、ルーマニア、セルビアほか
5[8]:インドおよびインドシナ

★第一回配本として刊行される『東アジア』は、原著では1882年に刊行された第7巻にあたります。訳書巻頭では14頁にわたり、縮小版ながら地図をカラーで収録。巻末には索引が付されています。本文中にもモノクロ図版が多数ありますが、こちらは原寸再録を心がけたとのことです。『新世界地理』全19巻は仏語原書で1巻あたり約900頁ある大冊ばかりなので、訳書も当然大冊になります。今回の2万円というお値段は今後の売行次第でもし刊行部数が減らされるならばさらに高くなるでしょうから、このご時世に個人で揃えるのはたいへんですけれども、大著の翻訳にお一人で挑まれている柴田先生と出版社のご苦労に比べれば当然の対価かもしれません。

★ルクリュがその博捜と熱意によって描き出した19世紀の世界像は圧巻というほかありません。ルクリュは日本を「地球上で最も興味深い国のひとつ」と評しており、当時の情報流通量に起因する限界はあるとはいえ、健筆をふるって民族と文化、歴史、気候等について記述しています。日本のパートだけでも1冊になる分量があります。ちなみにこんにち書肆心水さんから再刊されているルクリュの『アナキスト地人論』は、『新世界地理』を書き終えたルクリュが人類と大地との調和的関係性にかんする自身の知見を端的に結論づけるために書いた『人類と大地』全4巻6分冊(1905-1908)の第1巻を石川三四郎が訳したものの復刊です。

★ルクリュは地理学者としてもアナキストとしてもこんにち再評価が高まっているように思われます。弊社でもわずかながらこの波に資する新刊企画を準備しています。


◎注目新刊:栗原康『学生に賃金を』、ガタリ『エコゾフィーとは何か』、など

学生に賃金を』栗原康著、新評論、2015年2月、四六判上製248頁、本体2,000円、ISBN978-4-7948-0995-7
エコゾフィーとは何か――ガタリが遺したもの』フェリックス・ガタリ著、杉村昌昭訳、青土社、2015年1月、四六判上製530頁、本体4,800円、ISBN978-4-7917-6848-6
ヒマラヤ探検史――地勢・文化から現代登山まで』フィリップ・パーカー編、ピーター・ヒラリー序文、藤原多伽夫訳、東洋書林、2015年2月、A5判上製354頁、本体4,500円、ISBN978-4-88721-820-8
日本の春画・艶本研究』石上阿希著、平凡社、2015年2月、A5判上製384頁、本体6,500円、ISBN978-4-582-66216-0
闇より黒い光のうたを――十五人の詩獣たち』河津聖恵著、藤原書店、2015年1月、四六変型判上製240頁、本体2,500円、ISBN978-4-86578-010-9

★栗原康『学生に賃金を』は発売済。『G8――サミット体制とはなにか』(以文社、2008年)、『大杉栄伝――永遠のアナキズム』(夜光社、2013年)に続く栗原さんの3冊目です。同姓同名に著名な生態学者の方がおられますが(1926-2006)、別人です。『学生に賃金を』の主張は端的に言えば大学無償化であり、かなりまじめに来し方を分析しつつも、堅苦しくなく、時折笑いを堪えるのがたいへんなほどユーモラスな筆致で読みやすく書かれています(先に笑いたい人は『大杉栄伝』同様、「おわりに」から読むと良いです)。同じ内容の企画を複数の新書版元に打診して断られたというのですが、本書を読めば担当者も「断らない方がよかったかも」と後悔するはずです。

★テイストとしては90年代の「だめ連」、ゼロ年代の「素人の乱(松本哉さん)」に連なる、「面白貧しいプロテスト系」の新しい顔というべき逸材が栗原さんです。「面白貧しい」というのはけっして悪口ではありません。貧しくても逞しく楽しく抵抗しつつ生きるその姿が多くの若い世代に勇気を与えてきた系譜というものがあります。清貧というのでもなく、あわよくば儲かりたい、できればモテたい、という要素があるのも自然体で良いところです。ちなみに栗原さんの場合はモテ欲よりも食欲の方が大きそうです。

★昨今、奨学金の返済が叶わず自己破産した40歳フリーター男性がニュースになりましたが、同じような苦境に置かれた人びとはまだいるでしょう。本論の末尾には「学生に賃金を! 学費も生活費も公費負担で! すべての失業者に学籍を!」と書きつけられています。そんな馬鹿な、という人もいるかもしれませんが、大学の意義と仕組みを見直す上で本書は重要な視点を私たちに示していると思います。

★ガタリ『エコゾフィーとは何か』は発売済。原書は、Qu'est-ce que l'écosophie ? (Ligne/IMEC, 2013)です。「編者のステファヌ・ナドーが、ガタリが主に晩年の5年間に書いた様々なテクストを〈エコゾフィー〉という新概念を基軸として結晶化するかたちで」(「訳者あとがき」)、論考、インタビュー、対談、エッセイなどを1冊にまとめたもので、「エコゾフィーのための論説」「エコゾフィーの実践」「精神的エコロジーに関する断章」「主観性の生産について」「社会的エコロジーと統合された世界資本主義」「メディアとポストメディアの時代」「環境エコロジーと戦争機械」の全7部構成となっています。本書の位置付けについては巻頭のナドーによる「"エコゾーフ"としてのフェリックス・ガタリ」で解説されています。晩年作『三つのエコロジー』(杉村昌昭訳、大村書店、1991年;平凡社ライブラリー、2008年)とともに、円熟期ガタリの思想の核であり鍵が示された玉手箱です。2013年に公刊された本が早くも日本語で読めるようになったのはさすが杉村先生ならではのことでありがたいです。美麗な装丁は菊地信義さんによるもの。ザラッとした手触りがたまりません。

★パーカー編『ヒマラヤ探検史』は発売済。原書は、Himalaya: The Exploration & Conquest of the Greatest Mountains on Earth (Conway, 2013)です。白銀の高峰を写したカヴァーの美しさに引きこまれますが、巻頭もカラー写真が13枚収録されており、その神々しさたるや息を飲むばかりです。しかしそこは人々を寄せつけない圧倒的に荒涼とした世界、死の空間でもあります。帯文に曰く本書はヒマラヤ山脈の「危険な容色に魅せられた人類による栄光と挫折に満ち満ちた挑戦の軌跡を、10人の研究者・アルピニストたちが描破」したもの。幕間のコラムや貴重な写真や地図など多彩な内容となっています。登頂の栄光の陰に多数の墓標なき犠牲者たちがいます。本書はその墓でもあると言えそうです。

★石上阿希『日本の春画・艶本研究』はまもなく発売。2008年に立命館大学に提出された博士論文がもとになっているとのことです。春画研究で博士号をとったのは日本初なのだそうで、当時京都新聞で報道されてもいました。「中国と日本春画」「上方の艶本」「上方と江戸をつなぐもの――祐信絵本と江戸艶本」「江戸の春画・艶本――見立ての表現をめぐって」「近現代の春画受容」の全5部構成。帯文に曰く「浮世絵や歌舞伎との関係、中国からの影響、近代の弾圧と復権など、「文化の結節点」としての春画を通観、図版100点以上収録」と。「あとがき」に書かれている研究の経緯を読むと、探究心の強さが引き寄せたのかもしれない幸運な出会いに恵まれておられ、著者その人への関心も強くなりそうです。石上阿希(いしがみ・あき)さんは1979年生まれで、現在は立命館大学の非常勤講師でいらっしゃいます。エッジの効いた美しい装丁は矢萩多聞さんによるもの。

★河津聖恵『闇より黒い光のうたを』は発売済。『環』誌での連載を加筆修正のうえ、関連するテクストを添えて1冊にまとめたものです。取り上げられる「詩獣」は、尹東柱、ツェラン、寺山修司、ロルカ、リルケ、石原吉郎、立原道造、ボードレール、ランボー、中原中也、金子みすゞ、石川啄木、宮沢賢治、小林多喜二、原民喜、の15名。著者は「プロローグ」でこう書いています。「すぐれた詩人とは、恐らく詩獣ともいうべき存在だろう。危機を感知し乗り越えるために、根源的な共鳴〔うた〕の次元で他者を求め、新たな共同性の匂いを嗅ぎ分ける獣。言い換えれば詩人とは、そのような獣性を顕現させ、人間の自由の可能性を身を挺し指し示す者である」(14頁)。著者が信じているように、私たち読者一人ひとりもまた、そうした獣性を秘めているからこそ詩を愛するのだと信じたいです。


◎作品社さんの新刊より:アタリの思想的淵源を示す大著、など

ユダヤ人、世界と貨幣――一神教と経済の4000年史』ジャック・アタリ著、的場昭弘訳、作品社、2015年2月、四六判上製672頁、ISBN978-4-86182-489-0
海の光のクレア』エドウィージ・ダンティカ著、佐川愛子訳、作品社、46判上製287頁、本体2,400円、ISBN978-4-86182-519-4
サッカー界の巨大な闇――八百長試合と違法賭博市場』ブレット・フォレスト著、堤理華訳、作品社、四六判上製312頁、本体1,800円、ISBN978-4-86182-508-8

★アタリ『ユダヤ人、世界と貨幣』は発売済。原書は、Les juifs, le monde et l'argent (Fayard, 2010)です。帯文に曰く「自身もユダヤ人であるジャック・アタリが、『21世紀の歴史』では、語り尽くせなかった壮大な人類史、そして資本主義の未来と歴史を語る待望の主著!」と。アマゾン・ジャパンで総合1位を取ったこともある怪物『21世紀の歴史――未来の人類から見た世界』(林昌宏訳、作品社、2008年)以後、アタリの著作は見通しづらい現代社会を生きるビジネスパーソンにとって必読の啓蒙書として受容されてきた観がありますが、今回の『ユダヤ人、世界と貨幣』はアタリの思想的源泉とも言うべきユダヤ文化を懇切に解説しており、賢しらな陰謀論系の本の壁に風穴を開ける快著となっています。『21世紀の歴史』における近未来のビジネスパーソンの指標「ノマド」の歴史的背景も本書で明らかにされています(本書では「ノマード」と表記)。ドゥルーズ/ガタリの言う「ノマド」とアタリのそれがどう違うのかも本書を読めば理解しやすいかもしれません。

★ダンティカ『海の光のクレア』は発売済。原書は、Claire of the Sea Light (Knopf, 2013)です。巻頭には著者による「日本の読者への手紙」が置かれています。「本書は、難しい選択についての物語です。そして、家族の話です――生まれ持った家族と、選び取った家族と。また、コミュニティの問題でもあります」(5頁)とダンティカは書いています。「訳者あとがき」によれば「本作品の基となっているのは、ダンティカが編集したHaiti Noir(『ハイチ・ノワール』)におさめられた短篇「海の光のクレア」である」とのこと。2010年1月にハイチを襲った震災より前に書かれた「スナップ写真のような」(『ハイチ・ノワール』まえがき)父娘の物語が震災後に大きく膨らんで本書となったそうです。最後の数ページは泣きながら読んだ、と訳者は明かしています。カヴァーには書名にぴったりの美しい月夜の海の写真が使われており、その上に銀箔で文字が載っています。夜空の濃紺に浮かんだ銀文字が少し読みにくいのですが(しかしそこがいい味を出しています)、光にかざせば反射の輝きによって見えるようになります。水崎真奈美さんによる装幀です。

★フォレスト『サッカー界の巨大な闇』は発売済。原書は、The Big Fix: The Hunt for the Match-Fixers Bringing Down Soccer (Harper Collins, 2014)です。帯文に曰く「巨大に成長した賭博市場と、その金に群がる犯罪組織の暗躍。全貌解明に挑んだ元FIFA保安部長と、実際に無数の八百長試合を演出した"仕掛人(フィクサー)"への綿密な取材をもとに、FIFAがひた隠すサッカー界の暗部に迫る」。フィクションかと勘違いしたくなるほど呆然とさせる生々しい不正の実態が暴かれています。悪い連中に取材した著者の命が狙われないかと危ぶまれるほどです。サッカー・ファンだけが読めばいい本というよりは、ファン以外でも知っておかなければならない犯罪の実録として銘記しておきたいと思います。本書で紹介されている、FIFAの初代保安部長が八百長王に送ったメールが印象的です。「わたしは国際的なスポーツに必要不可欠な高潔さをもたらそうと、優秀な人たちと懸命に仕事をしている。どうしても高潔さが必要なのだ。それはたいていの人よりも、きみのほうがよく知っていることだろうが」(230頁)。
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by urag | 2015-02-15 20:49 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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