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2005年 07月 04日

竹内書店版『ブランショ著作集』全9巻――計画と推移

故・安原顕氏(1939-2003)が季刊「パイデイア」誌の編集人をつとめていたころの竹内書店で、『ブランショ著作集』全9巻が60年代末に企画されたことがありました。結局は頓挫してしまったのですが、その経過を追ってみましょう。

1968年4月25日、季刊誌「パイデイア」創刊。創刊号の特集名は「構造主義とは何か」でした。発行人は竹内博。印刷は奈良県天理市の(株)天理時報社。発行発売元である(株)竹内書店は当時、書籍出版のほか、洋書輸入販売、和書販売などの事業を展開しており、北青山2丁目に本社を置き、中央区八重洲5丁目の興銀ビル内の「興銀売店」と、大阪東区高麗橋5丁目45の興銀ビル別館内に「大阪営業所」を有していました。

1968年7月15日、第2号発行。特集名は「映像とは何か」。発行人と印刷所は変わらず。

1968年10月25日、第3号発行。特集名は「変革の演劇――オフ・オフ・ブロードウェイ」。発行人と印刷所は変わらず。

1969年2月10日、第4号発行。特集名は「ヌーヴォー・ロマンの可能性」。発行人と印刷所は変わらず。本号より、編集人・安原顕の名前がクレジットされます。装丁や本文レイアウトも一新。表紙・本文レイアウトが「杉浦康平」、目次カットが池田満寿夫によって担当されています。この4号の巻末に挟み込まれている「竹内書店愛読者カード」に、『ブランショ著作集』全9巻の予告が載っているのです。

曰く、「興味をお持ちの書籍に○印をおつけ下さい(当社続刊) ブランショ著作集(全九巻) ゴダール全集(全四巻) デュラス戯曲全集(全二巻) ピンター戯曲全集(全二巻) 現代アメリカ戯曲全集(全二巻) E・カッシラー 象徴形式の哲学(全三巻)」。大々的な予告というよりは、ほんの一行情報です。

1969年5月15日(奥付では30日)、第5号発行。特集名は「瓦解と創造――革命の中のアメリカ」。発行人、印刷所、編集人は変わらず。表紙・本文・目次レイアウトは杉浦康平、目次カットは野中ユリ、本文カットは辻修平。ここでも「愛読者カード」に、ブランショ著作集(全九巻)とあります。

1969年8月30日、第6号発行。特集名は「シュルレアリスムと革命」。発行人、印刷所、編集人は変わらず。表紙・本文・目次レイアウトは杉浦康平。目次カットは加納光於。本文カットは辻修平。この号では、ブランショのエッセイ「好きなだけ書きつづけたまえ」が菅野昭正訳で掲載され、巻末の「編集後記」にて唐突に以下のような告知が掲載されます。

「小社ではかねてより「ブランショ著作集」を企画進行してまいりましたが、周知のようにブランショの著作の大部分はすでに版権切れのため、単行本のかたちで各社が出版することも可能であり、小社の予告以後にも主要作品のいくつかが他社より刊行されることになりました。もちろんこの場合、訳者を変えて数種の訳書を出すことも可能ですが、小社では、このような状況下にあって敢えて「著作集」を刊行することは、読者にとっても、また出版界にとっても、必ずしも意義のあることではないと考えます。今までこの企画を熱烈に支持してくださった読者の皆様はもちろん、われわれスタッフにとっても残念でなりませんが、このような事情で今回この企画は断念せざるをえなくなりました。深くお詫びいたします。」

当時すでに刊行されていたブランショの著書には次のようなものがありました。

1958年9月「焔の文学」重信常喜訳、紀伊國屋書店
1962年10月「文学空間」粟津則雄+出口裕弘訳、現代思潮社
1964年8月「ラスコオの野獣 〔「世界詩論大系(1)現代フランス詩論大系」所収〕」篠沢秀夫訳、思潮社
1966年1月「待つこと忘れること」平井照敏訳、思潮社
1966年12月「謎の男トマ 〔「現代フランス文学13人集(4)」所収〕」菅野昭正訳、新潮社
1967年8月「アミナダブ 〔「世界文学全集(26)グラック/ブランショ」所収〕」清水徹訳、集英社
1968年7月「カフカ論」粟津則雄訳、筑摩書房
1968年9月「来るべき書物」粟津則雄訳、現代思潮社

そしてこのあとに1969年2月発行の「パイデイア」第4号で「ブランショ著作集」全9巻の予告が出ます。企画を断念することを発表したのが、同1969年8月発行の第6号。全9巻の内訳がどのようなものだったのかはわかりません。「パイデイア」には詳細は出ていませんし、予告された当時に刊行された竹内書店の単行本『新しい小説・新しい詩』フーコーほか著の裏広告にも出てきません。当時、竹内書店が投げ込み広告を作成していたかどうかは調べ切れませんでした。ちなみにそのあと数年間で刊行されたブランショ本は以下の通りです。

1969年10月「虚構の言語」重信常喜+橋口守人訳、紀伊國屋書店
1970年4月「ロートレアモンとサド」小浜俊郎訳、国文社
1970年12月「至高者」天沢退二郎訳、筑摩書房
1971年2月「最後の人/期待 忘却」豊崎光一訳、白水社
1971年4月「死の宣告 〔併録「牧歌」「窮極の言葉」〕」三輪秀彦訳、河出書房新社
1973年6月「至高者」篠沢秀夫訳、現代思潮社

そんなわけで、全9巻の内訳は色々な推測が成り立ちます。おそらくは1968年までに刊行されたブランショの著書をほぼ網羅的に翻訳出版しようとしたのでしょうが、本当のところは関係者しか知らないことなのでしょう。

さて、ご承知のように、「パイデイア」誌では第7号でブランショを特集します。まず第6号の「編集後記」には次のように書かれていました。

「次号は「ブランショ特集」の予定です。「ブランショ著作集」をご期待下さった方々が、また別の意味で楽しんで下されば幸いです。」

第7号は季刊の予定からいえば、1969年秋号となるはずでしたが、実際に刊行されたのは、1970年春号としてでした。編集人は安原顕氏ではなく、鈴木道子氏に替わっています。

1970年3月15日、第7号発行。特集名は「モーリス・ブランショ」。国内雑誌ではじめてのブランショ特集で、ブランショ自身から寄稿があった画期的な特集でした。同時にこの号からジョイスの「フィネガンズ・ウェイク」の翻訳連載が開始されます。発行人、印刷所、表紙・本文・目次レイアウト、本文カットは変わらず。目次カットは高松次郎。

注目の「編集後記」ですが、以下のようになっています。

「第七号「モーリス・ブランショ特集」をようやくお送りできることになりました。種々の原因により発行が非常に遅れましたことをお詫びいたします。したがって一九六九年秋号・冬号は抜けることになりましたが、悪しからずご了承下さい。(中略)前号にも書きましたように、小社の企画しておりました「ブランショ著作集」は残念ながら断念せざるを得なくなりました。今号の特集は、そのような事情のもとに初めて個人特集号を行なったわけです。」

さらに末尾には、安原氏の退社のことが書いてあります。

「なお、『パイデイア』創刊以来編集人をつとめてきた安原が退社のため、今号より編集責任者が変わりましたが、一同今後とも『パイデイア』の充実をはかってゆきたいと考えております〔……〕。」

このあと、第8号(1970年8月5日発行)が「特集=ジョルジュ・バタイユ」編集人鈴木道子、第9号(1970年12月30日発行で「秋+冬」号となっている)が「特集=ヌーヴェル・クリティック」編集人鈴木道子、第10号(1971年6月15日発行だが「春」号となっている)が「特集=シンボル・錬金術」編集人鈴木道子、第11号(1972年2月1日発行)が「特集=〈思想史〉を超えて――ミシェル・フーコー」編集人中野幹隆、と続きます。

第11号の「編集後記」によれば、「次号から装いも新たに(年五回発行)文学と思想にあいわたる空間に、いっそう巨きな軌跡を刻みたい」とあります。個人的な感想ですが、おそらく「パイデイア」誌のピークは、造本的にも内容的にも、フーコーの特別寄稿を掲載したこの第11号にあったように思います。その後、1973年1月の第16号をもって終刊となりました。

なお、第7号のブランショ特集と第8号のバタイユ特集は、それらの一部ずつがのちに再編集されて、『バタイユ・ブランショ研究』として書籍化され、1972年10月20日に竹内書店から発行されました。

今回のご報告はとりあえずこの辺で。(H)
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by urag | 2005-07-04 22:00 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(2)
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Commented by aquirax at 2005-07-05 12:09 x
なるほど、中野幹隆氏のその後の「エピステーメー」誌における御活躍のとっかかりはここからなのですね。興味深い記事ありがとうございました。
Commented by urag at 2005-07-05 14:44
aquiraxさん、こんにちは。中野さんがかかわられたのは、より詳しく補足しますと、日本読書新聞→パイデイア(竹内書店)→現代思想(青土社)→エピステーメー/モノンクル/エピステーメーII(朝日出版社)→哲学/ビオス/セーマ(哲学書房)といったところかと思います。日本読書新聞とパイデイア以外はすべて創刊にたずさわられています。機会があればまた書こうと思います。


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