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2014年 11月 24日

注目新刊:『来るべき経済学のために』人文書院、ほか

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◎人文書院さんの新刊より

橘木俊詔・根井雅弘『来るべき経済学のために』(人文書院、2014年11月、ISBN978-4-409-24100-4)
マンリー・P・ホール『新版 象徴哲学大系 II 秘密の博物誌』(大沼忠弘・山田耕士・吉村正和訳、人文書院、2014年11月、ISBN978-4-409-03083-7)

『来るべき経済学のために』は発売済。労働経済学者の橘木さんと経済思想史家の根井さんによるざっくばらんな対話篇です。門外漢でも楽しく読める本で、日本における経済学の今昔話だけでなく大学教育の問題に切り込んでいく批判的な視座が眼を惹きます。『新版 象徴哲学大系 II 秘密の博物誌』は発売済。図版をカラーに差替え本文を新組にした新版の第2巻です。前半ではピュタゴラスの数学・天文学・音楽論・色彩論が論究され、後半では動植物・鉱物等の象徴学が展開されます。第3巻『カバラと薔薇十字団』は来年1月刊行予定。


◎紀伊國屋書店さんの新刊より

フランス・ドゥ・ヴァール『道徳性の起源――ボノボが教えてくれること』(柴田裕之訳、紀伊國屋書店、2014年11月、ISBN978-4-314-01125-9)
田辺茂一著『わが町・新宿』(紀伊國屋書店、2014年11月、ISBN978-4-314-01124-2)

『道徳性の起源』は発売済。原書はThe Bonobo and the Atheist: In Search of Humanism Among the Primates (W. W. Norton & Company, 2013)です。ボノボの生態研究を通じて宗教的なトップダウンの道徳性ではなく無神論的なボトムアップの道徳性を見つめた好著。『わが町新宿』はまもなく発売。紀伊國屋書店創業者による回想録の復刊です。親本は1976年にサンケイ出版より刊行され、1981年に旺文社文庫で再刊(もともとは新聞連載)。1967年の同書店創業40年に寄せられた28名のエッセイを巻末付録として収録しています。解説は坪内祐三さん。商人として、また文化人として存分にとんがっていた書店人がいた時代の証言です。


◎中央公論新社さんの新刊より

アマンダ・リプリー『世界教育戦争――優秀な子供をいかに生み出すか』(北和丈訳、中央公論新社、2014年11月、ISBN978-4-12-004661-2)
原彬久編『岸信介証言録』(中公文庫、2014年11月、ISBN978-4-12-206041-8)
木下長宏『カラー版 ゴッホ〈自画像〉紀行』(中公新書、2014年11月、ISBN978-4-12-102292-9)

『世界教育戦争』は発売済。原書はThe Smartest Kids in the World: And How They Got That Way (Simon & Schuster, 2013)です。フィンランド、韓国、ポーランドに留学したアメリカ人生徒に密着したドキュメント。参加国の教育実態をそれぞれユートピア型、圧力鍋型、変容型として考察しています。リプリーの訳書は『生き残る判断 生き残れない行動』(岡真知子訳、光文社、2009年)に続く2冊目。『岸信介証言録』は発売済。毎日新聞社より2003年に刊行された本の文庫化。加除訂正を行い、人名等の注記を大幅に増やしたとのこと。言うまでもありませんが、岸は安倍晋三首相の祖父です。『カラー版 ゴッホ〈自画像〉紀行』はゴッホが数多く残した自画像の制作過程に迫る力作。自画像全点がカラーで収録されているのがミソ。



◎作品社さんの新刊より

三宅芳夫・菊池恵介編『[共同研究]近代世界システムと新自由主義グローバリズム――資本主義は持続可能か?』(作品社、2014年11月、ISBN978-4-86182-504-0)
三田誠広『偉大な罪人の生涯――続・カラマーゾフの兄弟』(作品社、2014年11月、ISBN978-4-86182-506-4)

『[共同研究]近代世界システムと新自由主義グローバリズム』は発売済。序論によれば、「新自由主義グローバリズム」への批判的視座に立って、現在進行形のそれを長期の資本主義システムのひとつの局面として捉え直す討議と論考を集成したもの。近代世界システムを考察する上での基礎文献の懇切な紹介があるのが書店員さんにとっても有益かと思われます。『偉大な罪人の生涯』は副題にも明らかなようにドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の続編を構想するという不可能な領域へと大胆に踏み込んだ長篇小説。すでに三冊の「小説によるドストエフスキー論」を上梓しておられる三田さんは作家の霊が憑依したかのように「筆はひとりでに動いて一気に書き上げ」たそうです。なお作品社さんでは来年1月から『川村湊自選集』(全5巻)を刊行されるとのこと。


◎水声社さんの新刊より

河村彩『ロトチェンコとソヴィエト文化の建設』(水声社、2014年11月、ISBN978-4-8010-0076-6)
『小島信夫短篇集成(2)アメリカン・スクール/無限後退』(水声社、2014年12月、ISBN978-4-8010-0062-9)
エリック・ファーユ『みどりの国 滞在日記』(三野博司訳、水声社、2014年12月、ISBN978-4-8010-0077-3)
川崎公平『黒沢清と〈断続〉の映画』(水声社、2014年12月、ISBN978-4-8010-0072-8)
真武真喜子・神山亮子・沢山遼・野田吉郎・森啓輔『高松次郎を読む』(水声社、2014年12月、ISBN978-4-8010-0074-2)
長尾天『イヴ・タンギー――アーチの増殖』(水声社、2014年12月、ISBN978-4-8010-0075-9)

河村彩(かわむら・あや:1979-)、川崎公平(かわさき・こうへい:1979-)、長尾天(ながお・たかし:1980-)の各氏による書籍は博士論文を改稿したもの。それぞれ特徴ある研究対象を選んでおり刺激的。河村さんと長夫さんの本は発売済。まもなく発売となる川崎さんの黒沢清論には弊社刊、リピット水田堯『原子の光(影の光学)』が論究されており、嬉しい限りです。『小島信夫短篇集成(2)』は発売済。第3回配本で、1954年から56年までの26作を収録。月報は伊藤氏貴、松本潤一郎、猪俣和也の三氏のエッセイを掲載。次回配本は第3巻「愛の完結/異郷の道化師」。『みどりの国 滞在日記』は発売済。フランス人作家ファーユによる日本滞在記。原書は今年2月に刊行されたばかりのMalgré Fukushima (José Corti, 2014)です。直訳すると「フクシマにもかかわらず」。巻末に訳者による著者インタビュー「エリック・ファーユ、日本を語る」が収録されています。『高松次郎を読む』は発売済。98年に死去した現代美術家の作品をめぐって60年代から2000年代にかけて、宮川淳や寺山修司らによって書かれた批評28篇が収められた資料価値のある論集です。水声社さんでは高松さんの著書『世界拡大計画』『不在への問い』を2003年に刊行されています。

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by urag | 2014-11-24 21:56 | 本のコンシェルジュ | Comments(4)
Commented by たくじ at 2014-11-25 00:15 x
書籍の紹介が短文になってからやっぱり少し寂しいですね。
以前のような長さに戻すのは作業量から言っても難しいのでしょうか。それとも、短文の方が……というような要望が来たとかでしょうか?
私個人としては、以前のような長さの方が、書籍の情報がたくさん知れて便利でした。小林さんの該博な補足もおもしろく。
難しいのでしょうかね? 無視してくださってもかまいません。個人的な要望の呟きと思ってください。
それでは、これからも新発売の書籍の有益な情報源として毎回楽しみにしておりますので、可能な範囲で頑張ってください。
Commented by urag at 2014-11-25 10:27
たくじさんこんにちは。率直なご感想に深謝申し上げます。長文だと読むのに時間がかかるし、どこがポイントなのか、どの本を特に推したいのかが分かりにくいということは実際にあるようです。今回に関して言えばそれぞれの本について一言二言で端的に表現するという課題に挑んでみたのと、単純に諸事情が重なって6時間ほどしか時間が取れなかったのです。今後はもう少しメリハリをつけて長いものと短いものに分けていければとも考えています(一冊一冊平等に扱いたいというのが本音ですが)。
Commented by たくじ at 2014-11-26 19:32 x
小林さん、こんばんは。ご返信ありがとうございます。
「6時間ほど〈しか〉時間が取れなかった」というあたりに、普段の大変さをお察し致します。そうですよね、時間かかりますよね。
今後の「メリハリをつけ」た記事紹介、期待しております。
小林さんのこのブログは新刊の情報のみならず、フェアの情報なども取り上げることで、書籍業界を盛り上げるのに一役買っているのではないかと勝手に思っております。(紹介された書籍を実際に楽しそうだと思って購入したり、紹介されたフェアに行っている具体例がここにいますし。まだまだ他にも確実にいると思っております。)
今後の更新も楽しみにしております。乱文失礼致しました。
Commented by urag at 2014-11-27 10:54
たくじさんこんにちは。励ましのお言葉を賜りありがとうございます。普段はあまり時間を気にしていないのですが、今回改めて数えてみて、かかっている時間の割にはあまり大したことができていないことに自分でもびっくりしました。なんとか人文書業界を盛り上げたいという一心でやっています。今後も試行錯誤が続くと思いますが、厳しく見守っていただけると幸いです。


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