2014年 10月 12日

小林康夫×大澤真幸『「知の技法」入門』河出書房新社、ほか

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「知の技法」入門
小林康夫+大澤真幸著
河出書房新社 2014年10月 本体1,500円 46判並製232頁 ISBN978-4-309-24677-2

帯文より:ベストセラー『知の技法』から20年――東大新入生必読のまったく新しい基礎教養。東大教授と知の巨人が読書術と思考術を徹底伝授。

目次:
I――入門篇
 第1章 「人文書」入門――タイタニック号の乗員のためのブック・ガイド
 第2章 「読書の技法」入門――速読、精読、ノート法
II――理論篇
 第3章 誰にもわかる「実存主義・構造主義・ポスト構造主義」――二〇世紀の思考の大きな流れを知る
 第4章 自然科学と人文科学のインターフェイス――意識と物質のミッシングリンクを考える
III――「知の技法」とは何か?

★まもなく発売。版元サイトの公式情報では10月15日発売です。90年代半ばにベストセラーになった東大発「知の~」シリーズ三部作(「技法」94年、「論理」95年、「倫理」96年)からはや20年、編者を務められた小林さんが、近作『思考術』が話題を呼んだ大澤さんとともに、こんにちあらためて必要な教養について縦横に対談されたのが本書です。ざっくばらんな対談なので読みやすいですし、ハウツー本にありがちな薄っぺらさもありません。人文学を学ぶこと、知を身につけることの根本的な意義がその都度確認されつつ、概論として知っておきたい現代思想の基礎が言及されています。東大新入生必読、と帯に謳われていますが、全国書店の人文書担当(特に哲学思想)の皆さんにも広くお薦めします。54~56頁には、「タイタニック号の乗員が世界の「外」を思考するために読むべき人文書案内」というブックリストが添えられており、実際にすでにブックフェアを展開されている書店さんもあるようです。ちなみにシリーズ本家の東京大学出版会では98年に『新・知の技法』が編まれ、さらには今夏、『人文知』という新しい教養シリーズが刊行され、全3巻が今月完結します。

★また、現在発売中の「文藝」2014年冬号では「特別企画」として、斎藤環×斎藤美奈子×成田龍一の三氏による鼎談「[短期集中連載]1980年代再考 第一回:ニューアカ・オタク・ヤンキー」が掲載されています。三氏にとってのそれぞれのニューアカ像があって興味深いです。この対談もいずれ書籍化されるのでしょうか。


全体史の誕生――若き日の日記と書簡
ジュール・ミシュレ著 大野一道編訳
藤原書店 2014年9月 本体3,000円 四六変上製320頁 ISBN978-4-89434-987-2

帯文より:「すべての学問は一つである」。ミシュレは、いかにしてミシュレとなりえたか? アナール歴史学の父、ミシュレは、古典と友情の海から誕生した。万巻の書を読み精神の礎を築き、親友と真情を語り合い人間の核心を見つめたミシュレの青春時代の日記や書簡から、その稀有な精神の源に迫る。

★発売済。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。1825年の「学問の統一性についてのスピーチ」に始まり、少年時代の回想や、20代~30代前半の青年時代の日記、そして親友ポワンソとの往復書簡が収められています。凡例によれば、本書はミシュレのEcrits de Jeunesse(Gallimard, 1959)を参考に編集したものとのことです。訳者による序文には「ミシュレの若き日々の、日常を記録し、歴史化の出発点となっただろう学びの後を証言する」と本書を位置づけておられます。1818年から1829年の読書日記にはミシュレが読んだ本の書名が列記されており、その読書量に圧倒されます。猛烈な読書家だったことが窺われます。

★藤原書店さんではまもなく、ジュール・ミシュレ『学生よ――1848年革命前夜の講義録〈新版〉』(大野一道訳、藤原書店、2014年10月、ISBN978-4-89434-992-6)も刊行されます。本書は95年に刊行された同書に訳者による新しい序文を添えた新装版です。パリの1968年「5月革命」のバイブルになったというミシュレの講義録は今なお熱い波動を放っています。彼は革命を論じ、世界が一つになるべきことを強く訴えます。聴講生は時に拍手喝采をもってそれに答えます。原書は、L'Etudiant(Seuil, 1970)です。同原書にはガエタン・ピコンによるミシュレ論が添えられていますので、興味のある方は原書にあたってみてください。


フランクフルト学派と反ユダヤ主義
古松丈周著
ナカニシヤ出版 2014年10月 本体3,500円 4-6判上製228頁 ISBN978-4-7795-0887-5

帯文より:フランクフルト社会研究所のメンバーたちは、時代を席巻していく反ユダヤ主義と国民社会主義をどのように捉え、それに対抗しようとしたのか。ホルクハイマー、アドルノを中心に、『啓蒙の弁証法』へと結実する「反ユダヤ主義研究プロジェクト」の全貌を明らかにする。

★まもなく発売。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。同書は同名の博士論文(2009年、関西大学)がもとになっているとのこと。著者の古松丈周(こまつ・たけのり)さんは1971年生まれで、ご専門は社会思想史。現在、旭川大学経済学部准教授でいらっしゃいます。反ユダヤ主義は世界のあちこちで今なお生き延びていますが、ホルクハイマーは反ユダヤ主義を次のような類型に細かく分けて注意を喚起しています(72頁)。「生まれながら」の反ユダヤ主義者、宗教的-哲学的反ユダヤ主義者、粗野なセクト的ユダヤ主義者、敗北した競争相手、上品な反ユダヤ主義者、「傭兵」の反ユダヤ主義者、「ユダヤ人迫害者」、ファシズム的-政治的反ユダヤ主義者、ユダヤ人愛好者。これらを混同すると誤解が生じる、とホルクハイマーは警告しました。「ユダヤ人憎悪は〔・・・〕決して克服されたことはなく、今にも燃え上がる可能性を秘めている」(66-67頁)と彼は書きます。1941年の話です。『啓蒙の弁証法』(岩波文庫)には病的憎悪への鋭い分析があり、アドルノの『権威主義的パーソナリティ』(青木書店)は真のリベラルがどういうものかを教えています。本書はホルクハイマーとアドルノを再読解するための道しるべとなってくれるものです。



背骨のフルート
マヤコフスキー著 小笠原豊樹訳 高橋睦郎序文
土曜社 2014年10月 本体952円 ペーパーバック判(172×112mm)並製64頁 ISBN978-4-907511-03-6

版元紹介文より:よろしい! ぼくは出て行く!《声の力で世界を完膚なきまでに破壊して、ぼくは進む、美男子で二十二歳》と言い放ったその年に詩人は奇妙な夫妻と知る。のちに秘密警察 OGPU の工作員として働くことになるオシップとリーリャのブリーク夫妻である。詩人と妻の関係を知りながら、あろうことか、夫オシップは詩人の作品を一行50カペイカで買いとり、『ズボンをはいた雲』『背骨のフルート』を出版する。『フルート』初版600部が世に出たのは16年2月。来る5月に詩人は《ロシア式ルーレット》を実行し、さいわい、弾丸は不発に終る……。

★発売済。小笠原豊樹さんによる新訳の『ズボンをはいた雲』『悲劇ヴラジーミル・マヤコフスキー』に続く「マヤコフスキー叢書」第3弾です。これまでの2篇とは異なる印象があります。生きるか死ぬかの恋心を謳った捨て身のラヴソング。彼ほどのプライドの高いイケメン(表紙の写真は上段右端が彼)でも恋する相手を思うとこんな風に頼りなくなるのか、と却って好感度が上がります。「こころを盗んだ女よ、そのこころをすべて失い、たわごとでぼくの魂をさいなんだ女よ、ぼくの贈物を受けてくれ、いとしい女よ、たぶんぼくはもう何一つ考えつくまい」(42-43)頁。「高くよじのぼり、疲れて、裸で待つ月」(31頁)であるぼくが吹く「自分の背骨のフルート」(18頁)の響きの切なさが男心にも沁みます。

★「マヤコフスキー叢書」第4弾『戦争と世界』は、2014年11月上旬発売予定。町田康さんが序文を寄稿されるそうです。さらに第5弾『ミステリヤ・ブッフ』は12月刊とのこと。これまでに大杉栄、マヤコフスキーと読者に古典を再発見させてくれ続けている土曜社さんですが、今後はベンジャミン・フランクリンを読書界に再導入してくださるようで、楽しみです。


◎平凡社さんの新刊より
狂講 深井志道軒――トトントン、とんだ江戸の講釈師』斎田作楽著、平凡社、2014年10月、本体2,800円、4-6判上製324頁、ISBN978-4-582-65409-7
貧困の哲学 上』ピエール=ジョゼフ・プルードン著、斉藤悦則訳、平凡社ライブラリー、2014年10月、B6変判並製568頁、ISBN978-4-582-76820-6

★『狂講 深井志道軒』は発売済。帯文に曰く「鬼才平賀源内が師と仰いだ稀代の講釈師がいた! 軍談のあいまに繰り広げられる過激な統制批判とエロ談義で、一世を風靡。その絶妙な話芸と虚実なかばする伝説的な生涯を解明する」。著者の斎田作楽(さいた・さくら)さんは1941年生まれ。「太平書屋」という出版社の創業者でもあり、2006年には『志道軒全書』を刊行されています。斎田さんは志道軒について虚実を峻別したいわば痩せ細った実像ではなく「彼を生んだ時代、彼を愛で楽しんだ人たち、そして彼を記録し追跡した多彩な人たちを、一旦まるごと受け入れ」(8頁)て吟味整理していく手法を採っています。「歌舞伎役者二世市川団十郎(海老象)と天下の人気を二分した」(同頁)という志道軒への愛情に溢れた一冊です。

★『貧困の哲学』上巻は発売済。下巻は11月刊行予定。まさかまさか、の本邦初訳です。マルクスによる本書への論難の書『哲学の貧困』は幾度も訳されているというのに、またその論難がいささか意地悪にすぎるものだと知られているにもかかわらず、当の批判対象が訳されずに今まで来たというのはある意味滑稽なほどです。「経済社会において矛盾(アンチノミー)が系列的に連鎖していく様相を緻密に解き明かし、独占でも共有でもない新たな可能性として交換の法則と相互性の理論を提唱する」(カヴァー紹介文より)という本書の原題は『経済の矛盾の大系あるいは哲学の貧困』(1846年)で、上巻にはプロローグから第八章までが収録されています。斉藤さんによる訳文はこなれていて読みやすく、プルードンの本作の約170年ぶりの復活を見事に飾っています。本書を高額で持ち運びにくい単行本ではなくライブラリー・オリジナルで刊行した平凡社さんの判断も素晴らしいです。そもそも文庫本サイズでプルードンの著作が入手可能なのはこれまで平凡社ライブラリーの『プルードン・セレクション』(河野健二編訳、2009年;親本は『世界の思想家(13)プルードン』平凡社、1977年)だけでした。このセレクションにも『貧困の哲学』からの断片が翻訳されていますが、全編を通しで読めるのは今回が初めてということになりそうです。


◎水声社さんの新刊より

『物語における時間と話法の比較詩学――日本語と中国語からのナラトロジー』橋本陽介著、水声社、2014年9月、本体7,000円、A5判上製520頁、ISBN978-4-8010-0057-5
『まなざしに触れる』高野隆大+新城郁夫著、水声社、2014年9月、本体3,000円、A5判上製152頁、ISBN978-4-8010-0047-6
『夢かもしれない娯楽の技術』ボリス・ヴィアン著、原野葉子訳、水声社、2014年9月、本体2,800円、46判上製264頁、ISBN978-4-8010-0058-2
『経験と出来事――メルロ=ポンティとドゥルーズにおける身体の哲学』小林徹著、水声社、本体6,000円、A5判上製416頁、ISBN978-4-8010-0069-8
『美術、市場、地域通貨をめぐって〔第二版(新装版)〕』白川昌生著、水声社、2014年10月、本体2,800円、46判上製264頁、ISBN978-4-8010-0070-4

★『物語における時間と話法の比較詩学』は発売済。「叢書 記号学的実践」の第29弾です。2013年度に慶應義塾大学に提出された博士論文に訂正を加えたものとのことです。同叢書ではこれまでジュネットの訳書を始め、日本の若手研究者の力作もいくつか刊行しています。例えば『《力》の思想家ソシュール』が刊行された1986年当時、著者の立川健二さんは28歳でした。橋本さんは1982年生まれなので数え年で32歳。充分に若いだけでなく、デビュー作『7カ国語をモノにした人の勉強法』(祥伝社新書、2013年)で知られている通り、マルチリンガルな才能をお持ちです。『物語における時間と話法の比較詩学』はカヴァー裏紹介文によると「これまでの物語論の議論を振り返り、「比較詩学」の立場から追究可能な問題について整理し、「時間」や「語る声と視点」などの問題を詳細に考察」したもの。今後ますますご活躍されるのではないかと想像しています。

★『まなざしに触れる』は発売済。鷹野さんによるモノクロ写真と新城さんによる作品論を交差させた非常に魅惑的な一冊です。写真家の作品群とそれへの丁寧な批評がここまで幸福に絡み合った例というのは現代ではまれではないかと感じます。「私たちは、写真に触れて写真に触れられ、これを眼で愛撫しこれに愛撫され、指で、唇で、舌で、影をなぞり、ときに身体に刻印しそこに移されたものたちと生きた(生きられなかった)時間を守る。感光体としての私たちの身体は、そこに写されたものたちの影を遺してこれを留め、閉じられることのない喪失を生きることができる。この可能性のなかでこそ、私たちの身体は、自分自身を含めた幾多の存在の生の痕跡あるいは遺影が重なり触れ合う場となる」(23頁)。鷹野さんの作品群は「毎日写真」というシリーズから選び出されたもの。男たちの肉体が無防備にさらけ出されています。「一つの身体のなかを、別の身体たちが生きる。みずからから抜け出た影が、誰とも知れぬ誰かの身体に影を落とし、その誰かは、私の影を、あなたの影を、自ら知ることなく自分の影に重ねて共なる時を共に生きる。この共なる時間が、街角を、部屋を、身体を横切っていく瞬間を、鷹野は写真に刻印する」(98頁)。

★『夢かもしれない娯楽の技術』は発売済。著者が新聞や雑誌に実名もしくは筆名で寄稿したエッセイ20篇を「くらす」「でかける」「まなぶ」の3部構成で収録したオリジナル版で、訳者解説によれば「単行本でいうと、コラム集『ベル・エポック』の収録作品が中心になっている」とのことです。書名はその『ベル・エポック』所収の1篇から採られています。帯文に「ささやかな日々の暮らしを贅沢に過ごすためのアイディアが満載」とあるのですが、一方で「ユーモア全開、人生を愉しむための(非)実用的エッセイ集」とも書いてあります。この(非)がミソです。仕事に追われ続けるだけのささくれだった毎日に一方的にカラ元気を注入してくれるようなカンフル剤ではありません。仕事も勉強もだんだんすべてが馬鹿馬鹿しくなってきた割には休日に外に出てリフレッシュする気力も湧かない午後、ちらりとひもといてみるとヴィアンの見事に無責任な(けれどもなかなか風刺の効いた)脱線ぶりに思わず乾いた笑いが鼻腔から漏れてしまう、そんな(素敵な)、肩の力が良い意味で抜けている本です。

★『経験と出来事』は発売済。パリ第一大学へ2012年に提出された博士論文の翻訳改訂版とのことです。指導教官はルノー・バルバラスさん。口頭試問の審査員は、バルバラスさんのほか、ピエール・モンテベロ、エティエンヌ・バンブネ、ダヴィド・ラプージャドの各氏だったとのことです。参考文献には國分功一郎(1974-)さんや千葉雅也(1978-)さんなど若手研究者の文献も挙がっており、小林さんご自身も1975年生まれで、新世代の息吹を感じます。帯文にある次の文章が本書の実践的核を端的に言い当てているようです。「「経験」に根差したメルロ=ポンティの「内部の思考」と、絶えず「出来事」へ滑り込んでいくドゥルーズの「外部の思考」を往還しながら、現代における〈身体〉の在り処を指し示す」。レーモン・リュイエル(1902-1987)やジルベール・シモンドン(1924-1989)といった哲学者、さらには作家のアンリ・ミショー(1899-1984)をも経由しつつ探究は進みます。肉と襞、奥深さと平面、いくつものキーワードが見事に縫合されつつほどかれていきます。その手さばきは次回作でのステップやジャンプを期待させるものではないかと思われます。

★『美術、市場、地域通貨をめぐって』は発売済。2001年に刊行された同名書籍の第二版(新装版)です。初版本のISBNは9784891764531です。本体価格は据え置き。内容は初版本と変わりないようです。帯文の背にある「展覧会は政治である」との言葉が印象的です。「美術館そのものがすでにして公的な情報と価値の「交換」の場であり、「市場」以外の何ものでもないことが理解されなければならないのだ。そこで売るか否かは重要ではなく、そこに参加すること自体が、「作家」という価値物として市場に参加することになるのだ。「労働」が商品であるように、「作家」という社会的認知を得た存在自体が価値を持った商品である」(71頁)。本書の巻頭には夏目漱石のこんな言葉がエピグラフとして引かれています。「直接世間を相手にする芸術家に至っては、もしその述作なり制作なりがどこか社会の一部に反響を起して、その反響が物質的報酬となって現われて来ない以上は、餓死するより外は仕方がない」。この一節を含む漱石の講演「道楽と職業」は青空文庫で読めます。

★水声社さんでは『小島信夫批評集成』全8巻に続いて、今月から『小島信夫短篇集成』全8巻の配本開始が書籍への投げ込みチラシで予告されています。初回配本は2冊刊行で、以後毎月1冊発売で来春には完結予定だそうです。詳しくは水声社さん(電話03-3818-6040)へお問い合わせください。
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by urag | 2014-10-12 23:40 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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