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2014年 10月 04日

注目新刊:『吉本隆明全集4:1952-1957』晶文社、ほか

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吉本隆明全集4:1952-1957
吉本隆明著
晶文社 2014年10月 本体6,400円 A5判変型上製680頁 ISBN978-4-7949-7104-3

帯文より:長く深い時間の射程で考えつづけた思想家の全貌と軌跡。周到に用意された2冊の詩集『固有時との対話』『転位のための十篇』と、それに続く詩篇、および初期の代表的評論「マチウ書試論」などを収める。

★まもなく発売。10月9日刊行予定の第3回配本です。詩人として文壇に登場し、次々に評論を発表し始めた時期、いわばデビュー期の吉本さんを充分に堪能できる巻となっています。間宮幹彦さんによる巻末の解題を見てみると、単行本未収録で本全集に初収録となったのは「一酸化鉛結晶の生成過程における色の問題」「労働組合問題の初歩的な段階から(1)組合員各位へ(『青戸ニュース』第4号)」「挫折することなく成長を」「『浜田知章詩集』」「三谷晃一詩集『蝶の記憶』」の5篇のようです。「一酸化鉛結晶の生成過程における色の問題」というのは東洋インキ製造に勤めていた吉本さんが『色材協会誌』第26巻第1号(1953年2月発行)に発表したレポート論文で、写真版が『吉本隆明資料集60』(猫々堂、2006年)に掲載されていたことがあります。収録にあたって発表当時のレイアウトを再現するべく横2段組で組まれています。この論文が収録されていると知らずに本書をパラパラとめくった読者は突然「一酸化鉛の発光スペクトル写真」が出てくるので「これは何の本だっけ」と驚かれるかもしれません。吉本さんのファンにとっては自明のことかもしれませんが、ここまで一著者を追いかける人々の熱意にはただならないものを感じます。

★吉本さんの評論は難しくて分からない、という読者がいらっしゃるかもしれませんが、そんな方にはぜひ本巻に収録された詩作品の方を読んでいただければと思います。吉本さんの詩作の頂点と批評的思考が混然一体となった作品には『言葉からの触手』(河出書房新社、1989年;河出文庫、2003年)があります。50年代の詩『固有時との対話』と80年代の詩『言葉からの触手』は、それらの間にある膨大な評論群を挟み込むようにして存在しており、吉本さんの内面世界のもっとも能動的な先端を垣間見せてくれます。今回の月報は、小林康夫さんによる「吉本隆明、一本の樹の出発」と、ハルノ宵子さんの「空の座」を収録しており、小林さんと吉本さんとの出会いの話や、ハルノさんによる「一家の秘密」の話は読者の心の琴線に触れるものがあります。次回配本は12月、第5巻(1957-1959)とのことです。


ヴァールブルク著作集 別巻2 怪物から天球へ――講演・書簡・エッセイ
アビ・ヴァールブルク著 伊藤博明+加藤哲弘訳 石井朗企画構成
ありな書房 2014年9月 本体4,500円 A5判上製464頁 ISBN978-4-7566-1435-3

帯文より:ダイモーン的古代崇拝の魔術的・ヘレニズム的呪縛を解き、古典古代を再っ創出する、時空を貫き、表象の閾をとりはらい、世界の隠された徴を顕わにする、イコノロジーというテクノ-イデアの精華!

★発売済。「ヴァールブルク著作集」(全7巻別巻2)の全巻完結となる最終配本です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。あとがきによれば本書は「これまでの著作集に採録されなかったヴァールブルクのさまざまな文章を、占星術やフィレンツェの初期ルネサンス美術、イコノロジーなどを主題にした講演や書簡と、ハンブルクのヴァールブルク文化科学図書館を中心に展開された、同時代の文化政治学的な状況に対する発言を中心に収めている」とのことです。ありな書房版著作集の構成は以下の通り。

1巻『サンドロ・ボッティチェッリの《ウェヌスの誕生》と《春》――イタリア初期ルネサンスにおける古代表象に関する研究』伊藤博明監訳、富松保文訳、2003年3月
2巻『フィレンツェ市民文化における古典世界』伊藤博明監訳、上村清雄+岡田温司訳、2004年6月
3巻『フィレンツェ文化とフランドル文化の交流』伊藤博明+岡田温司+加藤哲弘訳、2005年5月
4巻『ルネサンスの祝祭的生における古代と近代』伊藤博明+岡田温司+加藤哲弘訳、2006年1月
5巻『デューラーの古代性とスキファノイア宮の国際的占星術』伊藤博明監訳、加藤哲弘訳、2003年11月
6巻『ルターの時代の言葉と図像における異教的 = 古代的予言』伊藤博明監訳、富松保文訳、2006年7月
7巻『蛇儀礼――北アメリカ、プエブロ・インディアン居住地域からのイメージ』加藤哲弘訳、 2003年3月
別1『ムネモシュネ・アトラス』伊藤博明+加藤哲弘+田中純訳著、石井朗企画構成、2012年3月
別2『怪物から天球へ――講演・書簡・エッセイ』伊藤博明+加藤哲弘訳、石井朗企画構成、2014年9月

ヴァールブルクのような硬派な美術研究の著作集が10年ちょっとのあいだに完結を見たというのはすごいことです。今なお全巻購入可能ですし、2万4000円の大冊『ムネモシュネ・アトラス』はなんと重版したと聞きます。あれほどの大型本を重版するというのは相当にしんどいはずですが、品切にしなかった版元さんの意気込みを感じます。加藤さんによる「あとがき」ではこの11年間の刊行の足跡を振り返って関係者に謝意を述べておられるものの、はっきりとは「これで最後」とも「完結」とも書かれておらず、「まだ多くの課題が残されている」と記されています。期待感が膨らんだための単なる深読みかもしれませんが、ひょっとしたらいずれ続刊が刊行されることもあるのだろうかと想像しています。


哲学を回避するアメリカ知識人――プラグマティズムの系譜
コーネル・ウェスト(Cornel West, 1953-)著 村山淳彦・堀智弘・権田建二訳
未來社 2014年9月 本体5,800円 四六判上製544頁 ISBN978-4-624-93262-6

帯文より:パース、ジェームズ、デューイ、ローティ――アメリカ知識人たちの系譜の起原に、ウェストはエマソンの名を刻み込む。認識論や基礎づけ、真理の探究をはじめとするヨーロッパ哲学の伝統的課題を避けようとするエマソンの知的態度こそが、アメリカ流哲学・プラグマティズムの原型である、と・・・。

★発売済。「ポイエーシス叢書」第62弾。原書は、The American Evasion of Philosophy: A Genealogy of Pragmatism(The University of Wisconsin Press, 1989)です。コーネルが36歳の折の著作。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「回避する」というとどこか否定的なニュアンスを感じさせますが、ここで言われている哲学とは「西欧哲学」のそれです。つまり、真善美を追究する超越論的思索の伝統が否応なく孕んでいる陥穽を巧みに避けてアメリカにおいて登場したのがプラグマティズムであり、その営為が文化批評として機能したことを再評価し、知的遺産を批判的に継承しようというのが本書の主張です。いわゆる通史的な概論ではありませんが、プラグマティズムを未来へと開こうとするその積極的な再検討は多くの示唆を含んでいます。ちょうど作品社さんからも、パース、ジェイムズ、デューイの論考を集めた『プラグマティズム古典集成』(植木豊編訳)が発売されたばかりなので、すでに併売で展開されている書店員さんもおられることでしょう。日本教文社版のエマソン著作集やジェイムズ著作集のオンデマンド復刊もタイミングよく始まっています。サンデルのほかにアメリカ思想でどの本を置いたらいいかと悩んでおられる方は、本書や『プラグマティズム古典集成』、さらにエマソンやソローあたりの古典に目を通されることをお薦めします。難解な哲学書とは異なる味わいを発見されるはずです。

★なお未来社さんの月刊PR誌「未来」は2014年10月号をもって月一回の刊行を終え、来年1月から季刊誌として再スタートされます。同誌の「季刊化にかんするお知らせとお願い」によれば、「刊行ペースを落とす代わりに、時代状況に見合った内容を盛り込むなど、本誌を質量ともに充実させる方向での転換をめざすもの」とのことです。季刊誌は頒価は100円から200円にアップ。出版業界ではこのところ紙媒体のPR誌は続々と終刊していますから、そうした時代状況下で刊行継続というのはなかなかできないことです。どんなふうに変わっていくのか楽しみにしたいと思います。


鈴木書店の成長と衰退
小泉孝一著
論創社 2014年10月 本体1,600円 四六判並製200頁 ISBN978-4-8460-1360-8

帯文より:1948年に取次「鈴木書店」に入社し、1996年に退社する間、取締役仕入部長を兼任した著者が、敗戦直後から今日までの出版社―取次―書店の実像を初めて語る。「鈴木書店」倒産(2001年)後、10年にして思うこと。

★発売済。シリーズ「出版人に聞く」の第15弾です。人文書専門取次の鈴木書店(2001年倒産)の元仕入部長で、近年は新思索社代表取締役をおつとめだった小泉孝一さんへのインタビューです。月曜社が第一作『アウシュヴィッツの残りのもの』を刊行した3カ月後に鈴木書店は倒産しており、色んな記憶が蘇ります。インタヴュワーの小田光雄さんが「出版状況クロニクル75(2014年7月1日~7月31日)」で述べておられる通り、「この一冊は現在の取次危機下にあって、あまりにもリアルな証言として迫って」きます。出版業界の変遷は日本における文化問題や教育問題を考える上で欠かせない要素ですから、一取次の興亡史の証言本とはいえ、本書が提起する観点は実際の経済規模以上にこの国の課題として大きな可能性やリスクを反映しています。「取次の危機とそれに続く破綻の先行例」(クロニクル75)として業界人必読なのはもちろんですが、たくさんの方々に読んでいただけたらと思います。

★出版社や書店とのせめぎ合いや編集者への苦言など、非常にひりひりする証言も多く、興味深いです。版元にせよ本屋さんにせよ、取次人とは別の言い分があるでしょうけれど、互いの立場の違いにまずじっくりと想像を巡らせてみることが大事だと思います。「出版人に聞く」シリーズの続刊予定は、井家上隆幸『三一新書の時代』、植田康夫『「週刊読書人」と戦後の書評史』と続き、さらに「出版状況クロニクル77(2014年9月1日~9月30日)」によれば、野上暁『小学館の学年誌と児童書(仮)』もインタヴューを終えられたとのことです。


現代思想 2014年10月号 特集=大学崩壊
青土社 2014年9月 本体1,300円 A5判並製246頁 ISBN978-4-7917-1286-1

★発売済。同誌ではいつも好評だと聞く大学特集号の最新版です。今回の特集名は以前にもまして過激ですが、教育現場の困難さを反映しているものだと感じます。國分功一郎さんと白井聡さんの対談「教員は働きたいのであって、働くフリをしたいのではない」や、入江公康さんら四氏による討議「労働現場としての大学――非常勤講師問題から考える」を始め、痛切な問題意識が伝わってくる特集となっています。巻末に、さる8月16日にお亡くなりになった木田元さんへの追悼文が2本収められています。財津理さんによる「生ける木田元」と、高田珠樹さんによる「とっつきやすい高峰」です。いずれも生前の木田さんを偲ぶ味わい深い追悼文となっており、必読です。

★同号では青土社さんの「新卒採用のご案内」が掲載されています。応募締切は10月31日。卒業予定の方だけでなく、卒業後3年以内の方(2012年3月以降卒業)も対象となっています。詳しくは同誌をご覧になるか、同社ウェブサイトの採用情報をご覧ください。なお、今月27日発売予定の11月号の特集は「戦争の現在」で、西谷修さんらによる討議のほか、デランダの論考などが載るようです。
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by urag | 2014-10-04 23:35 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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