2014年 09月 21日

注目新刊:ダヴィド=メナール『ドゥルーズと精神分析』河出書房新社、ほか

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ドゥルーズと精神分析
モニク・ダヴィド=メナール(Monique David-Ménard, 1947-)著 財津理訳
河出書房新社 2014年9月 本体4,300円 46判上製316頁 ISBN978-4-309-24672-7

帯文より:ドゥルーズは精神分析の同伴者なのか。ドゥルーズはフロイト/ラカンをどう受け止めたのか。その錯綜した関係を明快に論じながら、ドゥルーズ哲学の秘められた可能性に、精神分析の根本的立場から極限においてせまるドゥルーズ論の新たな古典。『差異と反復』の訳者による達意の翻訳。
版元紹介文より:ドゥルーズと精神分析の関係について本格的に論じた唯一の研究書として紹介が待ち望まれてきた名著をドゥルーズ紹介の第一人者として知られる財津理が翻訳。ドゥルーズ読解が根底から変わる。

目次:
プロローグ ドゥルーズは精神分析家の同伴者か
I 臨床と哲学
II マゾヒズム礼賛、快の概念に対する批判
III 反復の哲学
IV 器官なき身体――精神分析に対する批判か、精神分析の放棄か
V 生成として離接的総合
VI 無限の哲学――概念を創造することは、「カオスを無限な速度で循環すること」だろうか
VII 無限なき離接的総合――精神分析における転移
VIII カントと否定的なもの
結論 精神分析の哲学的地勢
訳者あとがき

★まもなく発売。版元さんの公式情報では発売日が9月25日となっていますので、おそらく早ければ明日以降に店頭に並び始めるのではないかと思われます。『普遍の構築――カント、サド、そしてラカン』(川崎惣一訳、せりか書房、2001年)からはや13年、ようやく訳書第2弾の登場です。原書は、Deleuze et la psychanalyse(PUF, 2005)です。2005年のうちに3刷に達したという話題書ですが、訳者によれば「ざっと読んでわかるほど生易しい本ではな」く、「文章がたいへん長く複雑」だとのことで、翻訳のご苦労が忍ばれます。著者の不正確な引用の指摘も含め、訳注では文献指示を多数補われています。本書では『差異と反復』『マゾッホとサド』などのドゥルーズの著作が読み解かれています。また、ドゥルーズとデリダの違いが分析される(83-84頁)こともあれば、バディウによるドゥルーズ理解への批判(196頁以下)もあり、あるいはグレッグ・ランバート(Gregg Lambert, 1961-)による『ジル・ドゥルーズの非哲学』(2002年)のような英語圏での若手によるドゥルーズ研究への論及もあって(163-164頁)、興味深いです。帯の背に「ドゥルーズ論の新たな古典」と謳われている通り、本書はドゥルーズと精神分析との「あいだ」を考える上で欠かせない文献ではないかと思われます。

★河出書房新社さんの来月新刊で気になるものの中に、10月14日発売の次の2点があります。『「知の技法」入門』(小林康夫・大澤真幸著、本体1,500円、ISBN 978-4-309-24677-2)、『美しい知の遺産 世界の図書館』(ジェームズ・W・P・キャンベル著、ウィル・プライス写真、桂英史監修、本体8,800円、ISBN978-4-309-25555-2)。『「知の技法」入門』は、90年代の人文書のベストセラーのひとつである『知の技法――東京大学教養学部「基礎演習」テキスト』(小林康夫・船曳建夫編、東京大学出版会、1994年、ISBN978-4-13-003305-3)の刊行から実に20年ぶりに放たれる新刊です。大澤さんは「知の~」シリーズには寄稿されていませんが、『思考術』(河出ブックス、2013年12月)がヒットした大澤さんと、若手研究者を長年育成されてきた小林さんによる、プラクティカルなアドバイスが読めるのではないかと思います。『美しい知の遺産 世界の図書館』は版元紹介文によれば「古代メソポタミアから現代日本の最新図書館まで、5400年にわたる絢爛豪華な「知」の世界史を、写真図版300点、掲載図書館数188館で総観する決定版。オールカラー豪華本」とのこと。図書館好きにはたまらない本になりそうです。


文字の霊力――杉浦康平デザインの言葉
杉浦康平著
工作舎 2014年9月 本体2,800円 A5判変型並製300頁 ISBN978-4-87502-459-0

帯文より:漢字と身体の記憶・・・印す文字、祀る文字・・・壽時爛漫、変幻する文字・・・「手」文字の象・・・。【対談】松岡正剛さんと・・・「文字を巡って――漢字からクレオール文字まで」
版元紹介文より:日本語タイポグラフィに大きな影響を与え続けた杉浦康平。その真骨頂たる「文字」をテーマにエッセイ・論考を収録。松岡正剛との対話では、白川静の漢字学から文字のクレオール化まで、文字の可能性が縦横無尽に語られる。

★まもなく発売。明日22日取次搬入の新刊です。2010年の『多主語的なアジア』、2011年の『アジアの音・光・夢幻』に続く、「杉浦康平 デザインの言葉」シリーズの第3弾です。目次詳細はこちらをご覧ください。第1章「「文字」を巡って――漢字からクレオール文字まで」は『武蔵野美術』誌1999年夏号に掲載されたものの再録。第2、3、5章は『ひと』誌(太郎次郎社)での91~92年の連載「漢字のカタチ」をまとめたものです。第4章は工作舎さんの月報「土星紀」での91~94年の連載から収録されています。あとがきに曰く「既発表の文章を集めたものなのだが、入念な見直しを繰り返し、図版もより適切なものに差し替えないと気がすま」なかったことを明かしておられます。本書のアートディレクションは杉浦さんご本人によるものです。一冊の書物がそのまま一つの異界であるような造本は、杉浦さんならではのものです。書物が時間と空間を冒険しうる仮想現実であることを杉浦さんほど教えて下さるデザイナーはいないと思います。文字の豊饒な世界への魅力的な招待状である本書はきっと多くの読者を魅了することでしょう。工作舎さんでは10月には松岡さんの著書『にほんとニッポン――読みとばし日本文化譜』を刊行予定とのことです。杉浦さんと松岡さんのトークイベントやブックフェアも企画中だそうで、楽しみです。


◎今月の文庫新刊より

宗教生活の基本形態――オーストラリアにおけるトーテム体系(上)』エミール・デュルケーム著、山崎亮訳、ちくま学芸文庫、2014年9月、本体1,500円、544頁、ISBN978-4-480-09621-0
宗教生活の基本形態――オーストラリアにおけるトーテム体系(下)』エミール・デュルケーム著、山崎亮訳、ちくま学芸文庫、2014年9月、本体1,500円、512頁、ISBN978-4-480-09622-7
公衆とその諸問題――現代政治の基礎』ジョン・デューイ著、阿部齊訳、ちくま学芸文庫、2014年9月、本体1,300円、320頁、ISBN978-4-480-09606-7
三国志演義(一)』井波律子訳、講談社学術文庫、2014年9月、本体1,750円、704頁、ISBN978-4-06-292257-9
「私小説」を読む』蓮實重彦著、講談社文芸文庫、2014年9月、本体1,600円、336頁、ISBN978-4-06-290234-2
ユダヤ人問題に寄せて/ヘーゲル法哲学批判序説』マルクス著、中山元訳、光文社古典新訳文庫、2014年9月、本体1,400円、562頁、ISBN978-4-334-75298-9
文学とは何か――現代批評理論への招待(下)』テリー・イーグルトン著、大橋洋一訳、岩波文庫、本体840円、342頁、ISBN978-4-00-372042-4

★まず、ちくま学術文庫です。『宗教生活の基本形態』全二巻は文庫オリジナルの新訳です。既訳には、古野清人訳『宗教生活の原初形態』(上下巻、岩波文庫、1941~42年初版;1975年改訳版)があります。岩波版で「原初的信念」と訳されていた語は新訳で「基本的信念」、旧訳での「固有のトーテム的信念」は新訳で「本来的にトーテム的な信念」となっています。訳語の選択についてや原書各版の異同については下巻の巻末所収の訳者解説で説明されています。『公衆とその諸問題』は、『現代政治の基礎――公衆とその諸問題』(みすず書房、1969年)の文庫化です。訳者は10年前に逝去されており、文庫版解説を書かれた宇野重規さんと編集部との判断で、訳語の一部を近年通用の術語に置き換えるなど若干の訂正を施されています。「デューイはアソシエーションと習慣による社会の変革、そしてその結果生まれる新たな社会的組織化による公衆の再生に、民主主義の可能性を見ようとしたのである。「もっと民主主義を」と説いたデューイの政治思想の輝きは、21世紀の今日ますます明らかになっているのではなかろうか」と宇野さんは書かれています。なお、ちくま学芸文庫の10月8日発売の新刊は以下の通りです。バートランド・ラッセル『現代哲学』高村夏輝訳、ヘルマン・ワイル『精神と自然――ワイル講演録』ピーター・ペジック編/岡村浩訳、『梁塵秘抄』植木朝子編訳、マイケル・ウォルツァー『解釈としての社会批判』大川正彦・川本隆史訳、トーマス・カスーリス『神道』衣笠正晃訳/守屋友江監訳。ウォルツァーの文庫本が出るのは初めてですね。

★次に、講談社学術文庫と講談社文芸文庫です。井波訳『三国志演義』は、2002~2003年に刊行された『三国志演義』(全7巻、ちくま文庫)を全4巻に再構成したもの。これだけのコンテンツがいつから品切だったのか驚きますが、よりコンパクトな巻数になって再刊されるのは実に喜ばしいことです。ちなみに村上知行訳『金瓶梅』(全4巻、ちくま文庫、1999~2000年)は第三書館から全一巻愛蔵版として2006年に再刊され、駒田信二訳『水滸伝』(全8巻、ちくま文庫、2005~2006年)は講談社文庫から一度ちくま文庫にスイッチされたあと、今年また講談社文庫からKindle版が再刊されています。『「私小説」を読む』は、同名の親本(中央公論社、1985年)の文庫化。編集部の附記によれば「明らかな誤記、誤植と思われる箇所は正しましたが、原則として底本に従い、多少ルビを加え」たとのことです。文庫化にあたって巻末には著者による「「私小説」の一語は、あくまで「わたくし小説」と発音されねばならない」と、作家の小野正嗣さんによる解説「「私小説」を文字通りに読む」が収められ、年賦と著書目録が添えられています。講談社学術文庫の10月10日発売新刊には『三国志演義(二)』井波律子訳、高田珠樹『ハイデガー 存在の歴史』、ヴィクトール・E・フランクル『生きがい喪失の悩み』中村友太郎訳、などがあります。意外ですが、フランクルが文庫で出るのはこれが初めてになります。

★続いて、光文社古典新訳文庫です。同文庫でのマルクスの新訳は長谷川宏訳『経済学・哲学草稿』(2010年)、森田成也訳『賃労働と資本/賃金・価格・利潤』(2014年4月)に続き3冊目。中山さんによるマルクス新訳は『資本論――経済学批判 第1巻』(全4巻、日経BPクラシックス、2011~2012年)に続く第2弾です。本書の半分以上は中山さんによる長編解説で、ゆうに文庫1冊分の分量があります。中山さんは目下、同文庫でカントの『判断力批判』を手掛けておられるのだろうと思います。同文庫の10月新刊は、フローベール『感情教育(上)』太田浩一訳とのことです。さらに続刊予定には、アラン『芸術についての二十講』長谷川宏訳、などが上がっています。

★最後に、岩波文庫です。イーグルトン『文学とは何か』は全2巻完結です。カヴァー紹介文に曰く「下巻では20世紀後半の多様な批評を解説する。ポスト構造主義、精神分析批評に加えて、ポストコロニアル批評、新歴史主義、カルチュラル・スタディーズ、フェミニズム批評など1990年代以降に展開した文学、言論をめぐる動向を手際よく整理する。理論への入門のみならず理論からの脱却をも視野に入れた画期的な書」と。上巻ではカヴァーにエリオット、ハイデガー、ソシュールの顔写真が使われていましたが、下巻はバルト、ラカン、フロイトの三人です。訳者あとがきの「文庫版のためのあとがき」で、大橋さんは本書を凌ぐ書物が未だ出現していないと指摘し、20世紀の人文思想の優れた入門書である、と評価されるとともに、「理論の時代」について端的に解説されています。おとなしい(?)書名とはうらはらに、本書が縦走横断する地平は訳者が指摘するように古典化されないアクチュアリティを今なお放射しています。10月16日発売の岩波文庫新刊は、ロレンツォ・ヴァッラ『快楽について』近藤恒一訳、ロバート・A・ダール『ポリアーキー』、ナディン・ゴーディマ『ジャンプ 他十一篇』柳沢由美子訳、森鴎外『椋鳥通信(上)』池内紀編注、『太平記(二)』兵藤裕己校注、の5点です。ヴァッラの訳書がまさか1年のうちに2冊も(1冊目は『「コンスタンティヌスの寄進状」を論ず』高橋薫訳、水声社、2014年4月)出ることになるとは誰が予想できたでしょうか。


◎平凡社さんの新刊より

台湾現代史――二・二八事件をめぐる歴史の再記憶』何義麟著、平凡社、2014年9月、本体2,800円、4-6判上製280頁、ISBN978-4-582-41110-2
持続可能な社会をめざして――「未来」をつくるESD』飯吉厚夫・稲崎一郎・福井弘道編、平凡社、2014年9月、A5判並製199頁、ISBN978-4-582-45004-0
ツイン・タイム・トラベル――イザベラ・バードの旅の世界』金坂清則著、平凡社、2014年9月、本体3,600円、A4判上製160頁、ISBN978-4-582-27812-5
やねのいえ』手塚貴晴・手塚由比著、平凡社、2014年9月、本体2,000円、A4変判上製40頁、ISBN978-4-582-83672-1

★まずは発売済の新刊から。『台湾現代史』は国立台北教育大学の何(か)副教授による、『二・二八事件――「台湾人」形成のエスノポリティクス』(東京大学出版会、2003年)に続く最新著です。二・二八事件とは、「1947年2月28日から3月中旬にかけて台湾人と政府側との間に発生した衝突事件」で、台湾全島へと広がった反政府暴動の結果、大陸からの増援を受けた政府が知的エリートを含む民間人を厳しく弾圧し多数の死者が出たものです。これによって戦前からの台湾出身者である「本省人」と、戦後中国から渡ってきたいわゆる「外省人」との深刻な対立が生じたといいます。この事件をめぐる歴史認識問題はこんにちも続いているそうで、著者は「馬政府の政策は中国との結びつきを強化し、「祖国」に対する期待感を醸し出しているが、その期待に背き自主性が奪われ期待が不満や反発に変われば、「第二の二・二八事件」が起こる可能性が高い」(11頁)と危惧しています。中台関係や台湾社会を理解する上で重要な文献ではないかと思います。

★『持続可能な社会をめざして』は巻頭の「はじめに」によれば、2015年に日本で開催される「ESDの10年の世界大会」と中部大学開学50周年を記念して刊行される論文集です。ESDというのは「持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Developement)」のことで、日本が国連に提案して採択されたものです。環境、天然資源、経済、防災、健康、自治等の様々な次元を絡め合わせた問題系から、現代人に襲いかかるグローバルリスクへの対処法を探求し教育に活かすというのが本書の大きな主題のようです。こうした大きな問題系の中で出版社や書店が為しうる役割を想像しながら読みたい本です。

★次にまもなく発売の新刊です。『ツイン・タイム・トラベル』はイザベラ・バードの旅程を写真で辿る本で、2004年からこの10年間、日英各地で行われてきた写真展がついに写真集として結実したものです。旅路の地図と美麗な写真群を眺めていると、書名の通り、イザベラのかつての足跡をこんにち辿り直す心地がします。世界旅行への憧憬に襲われること間違いなしのたいへん魅力的な写真集で、特に現在リタイアして第二の人生を送る方々にうってつけのプレゼントになるのではないかと思います。『やねのいえ』は「くうねるところにすむところ」シリーズの第35弾(平凡社さんでの再開から数えて第10弾目)です。版元紹介文に曰く「屋根の上で遊びたいご飯が食べたい。突飛な希望を建築家が実現させた「やねの家」は屋根の上と下の生活を同時に楽しむことができる」。屋根の上は空に繋がっていて開放感がある心地よい空間。大人も子供も楽しい、見晴らしがよくて風を感じる空間。素敵ですね。

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by urag | 2014-09-21 23:55 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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