ウラゲツ☆ブログ

urag.exblog.jp
ブログトップ
2014年 09月 07日

注目新刊:『総統はヒップスター』共和国新刊3点目、ほか

a0018105_22485954.jpg

◎共和国さんの新刊3点目はけっこう攻めてる「毀誉褒貶の問題作」

総統はヒップスター
ジェイムズ・カー+アルチャ・クマール著 波戸岡景太訳
共和国 2014年9月 本体2,000円 A4変判並製160頁 ISBN978-4-907986-02-5

カヴァー紹介文より:ヒップでロハスな草食系メガネ男子のヒトラーが、ゲッベルスやゲーリングを従えて世界征服……? 『帰ってきたヒトラー』に先駆けて、アメリカ、ドイツで話題騒然となったブラックなカルトコミックにして、21世紀の「わが闘争」、ついに邦訳刊行! あなたはこのヒトラーを笑えますか?

推薦文(巽孝之/慶應義塾大学教授):「こんなヒトラー見たことない! だが、カー&クマールは必ずしも突飛なだけではない。彼らには透徹した歴史的洞察がある。読み終わったときには誰もが、これこそわれらが同時代人ヒトラーであることを確信しているだろう」。

★共和国さんの出版第二弾(三作目)です。2014年9月16日頃発売の新刊。版元さんのフェイスブックによれば「来週末12日に全国の書店に発送、早ければ翌日から店頭に並びます。「ナチス本なんて……」と言わずに、どうか笑ってお買い上げください!」とのことです。装釘は宗利淳一さん。原書は、Hipster Hitler(Feral House, 2012)です。ヒトラーの人生をパロディで弄り倒した作品で、帯文にある通り「ヒップでロハスな草食系メガネ男子」としてヒトラーを現代風に描いているために必然的に生じてくるある種の親しみやすさを笑っていいのか悪いのか、吹き出しつつもひきつるという微妙な味わいがある本です。共和国のSさんによれば本書に対する「毀誉褒貶」はさまざまあるそうで、本書の訳者あとがきでも、イスラエルやアメリカでの受け取られ方とドイツでのそれとでは違いがあることが紹介されています。昭和天皇も登場しますが、作者のターゲットはそこではないのでごく薄い描写です。平凡な一隣人としてヒトラーを蘇らせたスレスレの問題作を創業間もないこの時期に市場にぶつけてくるあたり、やはり共和国さんはただものではありません。


◎ヴィトゲンシュタインの「切れ者であるがゆえに孤独」な感じがひしひしと伝わる

超訳 ヴィトゲンシュタインの言葉
ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン著 白取春彦編訳
ディスカヴァー・トゥエンティワン 2014年8月 四六判上製272頁 ISBN978-4-7993-1542-2

帯文より:きみの生き方が、世界そのものだ。 20世紀最高の哲学者、人生に新しい地平を切り拓く言葉。

★発売済。『超訳 ニーチェの言葉』(2010年)、『超訳 ニーチェの言葉 II』(2012年)に続く、白取さんによる超訳本最新作。いわゆる「超訳」ブームについては賛否が色々とあるわけですが、どんなに辛口に見るにせよ、ニーチェにしても今回のヴィトゲンシュタインにしてもそれぞれ全集や文庫が他社から出ていますから、語録としての超訳本をきっかけにさらに全訳へ読者が進んでくれるそのきっかけになれば存在意義は充分にあるのではないでしょうか。90年代を代表するベストセラー哲学書であるゴルデルの『ソフィーの世界』(NHK出版、1995年;新装版2分冊、2011年)では読者の読了率が高くはなかったこともあってソフィー本が売れてもさらにそこからプラトンやカントの販売に繋がることはほぼありませんでした。しかし超訳本は哲学者の膨大な著作群の中からそのエッセンスとなる断片を抜き出しテーマ別に並べ替えたものであり、順を追って読まなければならないものではないし、読了のハードルも高くありません。むしろ、こんなふうに親しみやすく接することができる機会を、全集を出している出版社や研究者こそが作らねばならなかったのかもしれません。

★哲学的思惟が(すべてではないにせよ)机上の空論ではなく人生をよりよく生きる実践に根差したものでもあることを再確認させてくれたという意味で、哲学思想書への読者の関心の「底上げ」に超訳本が一定の役割を果たしえただろうことは喜ばしい成果ではないでしょうか。ただ、一筋縄でいかないのは、ニーチェにせよヴィトゲンシュタインにせよ相当の切れ者であったがために、彼らの言葉を参考以上のものとして自らもその思惟を引き継いで実践しようという読者は、哲学者の苦悩をもなぞらざるをえなくなるということです。彼らの人生が波乱に満ちたものでした。ニーチェは狂気のうちに死に、ヴィトゲンシュタインは幾度となく人生をやり直した果てに病に倒れました。個人的なことを言えば、私はヴィトゲンシュタインが大好きで、学生時代に一番最初に興味を持った西洋の哲学者が彼でした。『論理哲学論考』は数式が出てくるとたちまち分からなくなるのでしたが、それ以外の言葉は哲学の歴史やルールを知らなくてもダイレクトに胸に響いてくる力がありました。その後、彼の様々な著作やその新訳を読み続けて今に至り、『ヴィトゲンシュタインの言葉』をひもとくと、あらためて新鮮な感動が蘇るとともに、新しい発見もありました。そしてじわじわと「彼のように考えていたらきっと周囲からは面倒くさがられるだろうな、孤独だろうな」という思いもこみ上げてきました。

★世界をより正確に理解したいがために考えに考え抜いた結果、彼は一つの境地に達したと思います。その境地からすれば、現実世界の曖昧さというものは一種堪えがたい苦痛に思えるのではないかと感じるのです。とことん考えぬいた地平はすでに平凡な常識人のスタートラインからかなり離れた場所であり、すでにそこは充分に孤独な展望台でした。そこから眺めた人間界は呆れかえるほどいいかげんで猥雑で混乱していたでしょう。哲学者は超人的で孤高な悲劇の存在になりたかったわけではありません。ただ、突き詰めて考えた結果、猥雑で混乱した現実に違和感を覚え、生きにくさを感じることもあったろうと推測できます。感性が鋭い人間にとってはこの世界は堪えがたいもので、一瞬たりとも息を継ぐことができない地獄かもしれません。少し大げさすぎるでしょうか。ヴィトゲンシュタインの言葉はネガティヴにもポジティヴにも読むことができます。訳者にせよ版元にせよネガティヴに読んでもらうために本書を作ったわけではないと思いますけれど、光あるところに陰があると気づく読者もきっといることでしょう。

★余談ですが、こうした語録はバインドされた書籍の形態だけではなく、かるたのようにバラバラなカードの形態にするのもいいのではないかと感じました。ニーチェかるたやヴィトゲンシュタインかるたがあってもいいような気がします。


◎平凡社さんの新刊より

バーブル『バーブル・ナーマ――ムガル帝国創設者の回想録(1)』間野英二訳注、東洋文庫、2014年9月、本体3,000円、全書判上製370頁、ISBN978-4-582-80853-7
柿沼裕朋編『種村季弘の眼 迷宮の美術家たち』平凡社、2014年9月、本体2,000円、A5判上製192頁、ISBN978-4-582-20677-7

★『バーブル・ナーマ』全三巻の初回配本第一巻はまもなく発売。東洋文庫第853巻です。凡例および解題によれば同書は「15世紀後半、シルクロードの中心地である中央アジアにティムール朝の王子として生まれ、アフガニスタンを経て、16世紀前半のインドにムガル朝を創設したザヒールッ・ディーン・ムハンマド・バーブル(1483-1530)が、母語のチャガタイ・テュルク語で著した回想録ないし自叙伝『バーブル・ナーマ』の日本語訳であり、絶版となっている間野英二『バーブル・ナーマの研究Ⅲ訳注』(松香堂、1998年)の改訂新版である」とのことです。第一巻は中央アジア・フェルガーナでの1493年から1503年にかけての出来事が記されています。さらに「訳注」「略称、訳注引用文献一覧」「解題」「系図(ティムール朝、モグーリスタン・ハン国、ムガル朝)」、術語解説」「バーブル略年譜」を収録。第二巻ではアフガニスタン・カーブル時代、第三巻ではインド・ヒンドゥスタン時代が描かれます。王様の回想録というと軽く聞こえるかもしれませんが実際の記述にはそれ以上の厚みがあり、第一級の歴史書であるという印象が強いです。訳者もこう書いています。「内陸アジア出身の君主自らが、その周囲に怒った諸事件や彼が活きた時代の諸状況を、自らの言葉で、的確無比の文体を用いて記した稀有の資料である。それゆえ、歴史研究のための資料の価値もまた絶大である」。東洋文庫の次回配本は来月10月、『論語集注3』です。

★『種村季弘の眼 迷宮の美術家たち』はまもなく発売。種村季弘さんの(1933-2004)没後10年の展覧会「種村季弘の眼 迷宮の美術家たち」(板橋区立美術館、2014年9月6日~10月19日)の公式図録です。版元紹介文に曰く「怪物タネムラの美術ラビリントス。ヤンセン、ベルメールから横尾忠則、四谷シモンまで130点を収録」。図版はすべてオールカラー(モノクロ作品はそのまま)で、絵画にせよ版画にせよ写真にせよ立体作品にせよ、夢魔の跳梁跋扈するめくるめき世界を堪能できます。これで2000円とは実にお値打ちです。編者は「はじめに」で「種村が文章を寄せた美術家たちの作品を、著書に繰り返し登場するキーワードによって章分けし、迷宮のような種村ワールドにわけ入っていく」と書いています。「種村季弘という迷宮」「夢の覗き箱」「没落とエロス」「魔術的身体」「顛倒の解剖学」「書物の祝祭――装丁の仕事」「奇想の展覧会――種村コレクション」の全7章です。種村さん自身のテクスト2篇「月の道化師――ゾンネンシュターン」「甲虫のいる病院」も併催されています。展覧会の概要は以下の通りです。

◆20世紀検証シリーズ No.4「種村季弘の眼 迷宮の美術家たち

会期:2014年9月6日(土)~10月19日(日)
会場:板橋区立美術館
 開館時間:9:30~17:00 (入館は16:30まで)
 休館日:月曜日(ただし9/15、10/13は祝日のため開館し、翌日休館)
観覧料:一般650円 高校・大学生450円 小・中学生200円
※65歳以上の方は半額割引(325円、要証明書)あり。土曜日は小・中・高校生は無料で観覧できます。20名以上団体割引、障がい者割引(要証明書)あり。

監修:柿沼裕朋
主催:板橋区立美術館、読売新聞社、美術館連絡協議会
協賛:ライオン、清水建設、大日本印刷、損保ジャパン日本興亜、日本テレビ放送網
助成:公益財団法人アサヒグループ芸術文化財団
協力:スパンアートギャラリー
展覧会図録:『種村季弘の眼 迷宮の美術家たち』平凡社、2014年9月6日刊行予定

展示点数:油彩・水彩・版画・写真・彫刻など、約160点。出品作品は予告なく変更になる場合があります。 

内容:種村季弘(たねむらすえひろ/1933年~2004年)は池袋に生まれ、板橋区の東京都立北園高等学校を経て、東京大学文学部に学んだドイツ文学者です。彼は、1966年にグスタフ・ルネ・ホッケの『迷宮としての世界』(矢川澄子と共訳)の翻訳をもって、日本でのマニエリスムブームの火付け役となりました。その後、博覧強記ぶりを遺憾なく発揮し、エロティシズム、錬金術、吸血鬼など、様々なジャンルを横断して、批評活動を行います。美術批評では、「月の道化師 ゾンネンシュターン」「カール・コーラップ 魔法の国の建築家」などと題して、当時馴染みの薄かったドイツ語圏の作家たちを精力的に紹介しました。また、画家の井上洋介、赤瀬川原平、舞踏家の土方巽をはじめ、種村が共感を覚えた日本の芸術家に対しても積極的に文章を寄せました。それらは、いずれも種村ならではの鋭い鑑識眼に貫かれています。本展は、国内外から作品を集め、種村季弘の眼を通して創造された美術の迷宮を「夢の覗き箱」「没落とエロス」「魔術的身体」「顛倒の解剖学」など、7つのキーワードで辿る初の試みです。

主な出品作品:マックス・エルンスト《ニンフ・エコー》新潟市美術館、桑原弘明《Scope「詩人の椅子」》種村季弘旧蔵、フリードリッヒ・シュレーダー=ゾンネンシュターン《おんどりのいる形而上学》浅川コレクション(足利市立美術館寄託)、《土方巽舞踏公演〈土方巽と日本人−肉体の叛乱〉8ミリフィルム映像》(撮影:中村宏)NPO法人舞踏創造資源、カール・ハイデルバッハ《二体の人形》個人蔵、ホルスト・ヤンセン《ミリー》個人蔵、井上洋介《食事A》刈谷市美術館蔵、エルンスト・フックス《サミュエルの娘》個人蔵、カール・コーラップ《頭》個人蔵、エーリヒ・ブラウアー《かぐわしき夜》新潟市美術館、美濃瓢吾《花下臨終図Ⅰ》個人蔵ほか。四谷シモン《シモンドール》、秋山祐徳太子《父の肖像》個人蔵、トーナス・カボチャラダムス《バオバブが生えたかぼちゃの方舟》個人蔵は初公開です。

関連イベント:会期中は、舞踊パフォーマンス、記念講演会、ギャラリートークを開催いたします。

◆舞踏パフォーマンス&レクチャー「種村季弘の方へ」
とき:9月13日(土)午後2時より30分程度
出演:大野慶人(舞踏家)
2F展示室ロビーにて、申込不要、当日展覧会観覧料のみ必要、先着100名、当日会場へ直接お集りください。

◆鼎談「怪人タネムラスエヒロを語る」
とき:9月20日(土)午後3時より90分程度
講師:秋山祐徳太子(美術家、本展出品作家)、美濃瓢吾(画家、本展出品作家)、種村品麻(種村季弘・子息、スパンアートギャラリー)
当館1F講義室にて、申込不要、聴講無料、先着100名、当日直接会場へお越しください。

◆講演会「種村季弘のマニエリスム 迷宮としての書物」
とき:10月4日(土)午後3時より90分程度
講師:巖谷國士(フランス文学者・美術批評家)
当館1F講義室にて、申込不要、聴講無料、先着100名、当日直接会場へお越しください。

◆ギャラリートーク
とき:9月7日(日)、21日(日)、27日(土)、10月11日(土)午後2時より
担当学芸員が展示室を参加者と一緒にめぐりながら作品や作家についてお話しいたします。いずれも午後2時より50分程度、申込不要、観覧料のみ、当日直接2階展示室ロビーへお越しください。


◎2014年上半期、特に6月の注目新刊拾遺

いつかまとめて言及しようと思っていてなかなか機会がなかった既刊書について以下に列記します。

カール・フォン・リンネの地域誌――『スコーネ旅行』に描かれた自然・経済・文化』塚田秀雄訳著、古今書院、2014年5月、本体6000円、ISBN978-4-7722-9005-0
『ニーチェの心理学的業績』ルートヴィッヒ・クラーゲス著、柴田収一・平澤伸一・吉増克實訳、うぶすな書院、2014年6月、本体3200円、ISBN978-4-90047-030-9
聖ヒルデガルトの病因と治療』ヒルデガルト・フォン・ビンゲン著、プリシラ・トゥループ英訳、臼田夜半訳、ポット出版、2014年6月、本体6900円、ISBN978-4-7808-0208-5
『死者』とその周辺』ジョルジュ・バタイユ著、吉田裕訳、書肆山田、2014年6月、本体2800円、ISBN978-4-87995-897-6
脱成長(ダウンシフト)のとき――人間らしい時間をとりもどすために』セルジュ・ラトゥーシュ+ディディエ・アルパジェス著、佐藤直樹・佐藤薫訳、未來社、2014年6月、本体1800円、ISBN978-4-624-01191-8
人種・国民・階級――「民族」という曖昧なアイデンティティ』エティエンヌ・バリバール+イマニュエル・ウォーラーステイン著、若森章孝・岡田光正・須田文明・奥西達也訳、唯学書房、2014年6月、本体4500円、ISBN978-4-902225-87-7

『カール・フォン・リンネの地域誌』は、リンネ(Carl von Linné, 1707-1778)の『スコーネ旅行』(1971年)の翻訳に、長編の論考「『スコーネ旅行』の内外」を併載したものです。帯文はこうです。「博物学者、近代的な植物分類学の祖として世に知られるリンネが、スウェーデン南端のスコーネへの調査旅行で記録した生活、文化と経済。英訳もされていない貴重な文献を徹底して解明する」。リンネは日本ではその昔「林娜」と表記されて19世紀後半には著書が紹介された長い歴史を有していますが、原典の翻訳は少ないので、たいへん貴重な成果ではないでしょうか。

『ニーチェの心理学的業績』は、1926年に公刊されたDie Psychologischen Errungenschaften Nietschesを1958年第三版に基づいて訳出したものです。本書で言われる心理学はクラーゲスの性格学に照らされた探究としてのそれであり、そのニーチェ論はハイデガーやレーヴィットのものとは異なる独自の展望を有しています。巻末にはニーチェの著作からの引用索引が付されています。訳者あとがきによれば、訳者陣はクラーゲスの最晩年作『心情学の源としての言葉』の翻訳に取りかかっておられるそうです。

『聖ヒルデガルトの病因と治療』は、トゥループによる英訳第二版(2008年)に基づく重訳。帯文に曰く「『フィジカ』(単純医学の書)と対をなすホリスティック医学の古典『病因と治療』(複合医学の書)、ついに本邦初訳」。『フィジカ』は同じくトゥループによる英訳版に基づく重訳が、『聖ヒルデガルトの医学と自然学』(井村宏次監訳、聖ヒルデガルト研究会、2002年;新装版、2005年)として刊行されています。『病因と治療』は医学書とは言っても、宇宙論や神学を含む特異なもので、非常に興味深いです。

『『死者』とその周辺』は、バタイユの小説「死者」の2004年に刊行されたプレイヤード版に基づいた新訳です。「死者」に関連する2作品「ジュリー」「ルイ三〇世の墓」、そして「アンリ・パリゾへの手紙」(1947年3月25日付)が初訳されています。巻末の訳者によつ長編解説は「死を死者のものに」と題されています。「死者」の既訳には、67年のポヴェール版を底本とした伊東守男訳(『バタイユ著作集(4)死者/空の青み』所収、1971年)と、64年のアルルの風版を底本とした生田耕作訳(『死者』奢灞都館、1972年;『マダム・エドワルダ』所収、角川文庫、1976年)があります。吉田さん訳による書肆山田でのバタイユ本はこれで5冊目になりますが、93年に刊行された『聖女たち』だけは第二版が2002年に出ています。初版と第二版との違いを特記しますと、まず印刷が活版からオフセットに変わり、本文組が変更されたことと、訳者解説が少しばかり改訂されたことです。本文は仔細に渡って照合したわけではありませんが、訳者解説には「見直しをした」等の文言は加えられていません。

『脱成長(ダウンシフト)のとき』は、Le temps de la décroissance(Le Bord de l'eau, 2012)の全訳。もともとは2010年に刊行された原著が改訂されたのが2012年版です。ですます調で訳されていて柔らかく、好感がもてます。さらに折々に「ポイント」として主張の要旨が囲み罫で強調されているので、議論も理解しやすくなっています。進歩の名のもとに経済成長を強引に持続させてきたことのツケが全世界的に露呈しつつあるこんにち、幻想からの脱出を促してくれるコンパクトな名著です。

『人種・国民・階級』は、大村書店版『人種・国民・階級――揺らぐアイデンティティ』(1995年;新装版1997年)の訳文を大幅に見直し、新たに若森さんの解説「資本主義世界経済と国民、人種主義、移民現象──『人種・国民・階級』唯学書房版に寄せて」を加えたいわば決定版。すでに旧版2点を持っている方も買い直した方が良いと思われます。版元サイトでは「民族差別、ヘイトスピーチの問題がクローズアップされる今日の東アジアにおいて切実に必要とされる視点であろう」と宣伝されています。

a0018105_22492492.jpg

[PR]

by urag | 2014-09-07 22:49 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(2)
トラックバックURL : http://urag.exblog.jp/tb/20174894
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by 白取春彦 at 2014-09-24 23:06 x
お読みくださり、ありがとうございます
Commented by urag at 2014-09-26 13:40
白取春彦先生、こんにちは。ご丁寧なコメントをありがとうございます。恐縮しております。


<< 新規開店情報:月曜社の本を置い...      パブリシティ情報:『戦争の教室... >>