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2014年 07月 21日

2014年7月の注目文庫より

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昨日は単行本新刊でエントリーがいっぱいになってしまったので、今日は文庫本新刊をご紹介します。

◎ちくま学芸文庫の7月新刊より

ヴァルター・ベンヤミン『ベンヤミン・コレクション(7)〈私〉記から超〈私〉記へ』浅井健二郎編訳、ちくま学芸文庫、2014年7月、本体1,700円、656頁、ISBN978-4-480-09598-5
エルヴィン・シュレーディンガー『自然とギリシャ人・科学と人間性』水谷淳訳、ちくま学芸文庫、2014年7月、本体1,000円、224頁、ISBN978-4-480-09617-3

★『ベンヤミン・コレクション(7)』は、新編新訳アンソロジーの最終巻。版元紹介文に曰く「文人たちとの対話を記録した日記、若き日の履歴書、死を覚悟して友人たちに送った手紙――20世紀を代表する評論家の個人史から激動の時代精神を読む」。第1巻『近代の意味』が刊行されたのが1995年6月。約20年の歳月をかけてコレクションを手掛けられる間に、浅井さんは『ドイツ悲劇の根源』(上下巻)や『ドイツ・ロマン主義における芸術批評の概念』を上梓されましたし、訳者としてコレクションに参加されていた久保哲司さんは『図説 写真小史』や、ケイギル+コールズ+アピニャネジによる入門書『ベンヤミン』を翻訳されています。もう少し詳しく説明すると、もともとこのコレクションは全3巻の予定で、95年から1年に1冊ずつ刊行され、97年3月にいったん完結。その後、98年に『図説 写真小史』、99年に『ドイツ悲劇の根源』(上下巻)、01年に『ドイツ・ロマン主義における芸術批評の概念』が刊行されました。そして、コレクションの続巻として第4巻『批評の瞬間』が10年ぶりとなる07年3月に刊行。担当編集者であり、コレクションの企画者=「生みの親」(浅井さんによる解説での表現)である熊沢敏之さんは第6巻から社長=発行者として奥付にお名前が記載されています。ぜひこの完結の機会に高額古書となっている『ドイツ悲劇の根源』(上下巻)と『ドイツ・ロマン主義における芸術批評の概念』を重版していただければと願わずにいられません。浅井さんの解説を読む限りで推測すれば、「全集」へと可能な限り今後も翻訳を進められていくような気配を感じます。

★『自然とギリシャ人・科学と人間性』は文庫オリジナル訳し下ろしです。前半の「自然とギリシャ人」は1948年の講演で公刊が1954年、「科学と人間性」は1950年の講演で公刊が1951年です。両者を合わせて訳したのが『科学とヒューマニズム』(伏見康治ほか訳、みすず書房、1956年;後者は「ギリシヤ人の自然観」と訳されています)で、前者は『自然とギリシャ人――原子論をめぐる古代と現代の対話』(河辺六男訳、工作舎、1991年)として新訳されています。そして今回あらたに両者が新訳されたわけです。底本は1996年にケンブリッジ大学出版から発行された二篇の合本版で、ロジャー・ペンローズの序文が新たに加わっており、これも訳出されています。シュレーディンガーの著書の文庫本には『わが世界観』(中村量空ほか訳、ちくま学芸文庫、2002年)や『生命とは何か――物理的にみた生細胞』(岡小天+鎮目恭夫訳、2008年)がありますが、前者は品切。何度も書いている気がしますが、親本を持っているからと言って油断しているといつの間にか品切になって価格が高騰するので、必ず新刊発売時に買っておくのが得策です。


◎講談社学術文庫の7月新刊より

ジョン・メイナード・ケインズ『お金の改革論』山形浩生訳、講談社学術文庫、2014年7月、本体800円、220頁、ISBN978-4-06-292245-6
アイザック・アシモフ『生物学の歴史』太田次郎訳、講談社学術文庫、2014年7月、本体960円、286頁、ISBN978-4-06-292248-7
ダンテ・アリギエリ『神曲 煉獄篇』原基晶訳、講談社学術文庫、2014年7月、本体1,450円、644頁、ISBN978-4-06-292243-2

★『お金の改革論』は、2012年3月刊の『雇用、利子、お金の一般理論』に続く、講談社学術文庫での山形さん訳のケインズ新訳の第二弾です。原書は1923年の初版本を使用しつつ、著作集での修正を反映させた訳になっています。ただし、著作集版に記載された異同や改訂についての注や、フランス語版の序文は収録されていません。既訳(全訳)には、『貨幣改革問題』(岡部菅司ほか訳、岩波書店、1924年)や『貨幣改革論』(中内恒夫訳、『ケインズ全集(4)』所収、東洋経済新報社、1978年;同訳、『貨幣改革論・若き日の信条』所収、中公クラシックス、2005年)があります。山形さんは5月にフィリップ・K・ディックの『ヴァリス〔新訳版〕』を早川文庫より上梓されており、今月はケインズのほかに、二冊も共訳書を手掛けられています。

★『生物学の歴史』は「アシモフ選集」の生物編第1『生物学小史』(共立出版、1969年)の文庫化です。原著「A Short History of Biology」は1964年刊。文庫化にあたって巻末に「訳者あとがき――学術文庫版の刊行にあたって」が付されています。「アシモフ選集」には生物編、数学編、物理編、化学編、天文編、歴史編などがあり、生物編にはほかに第2『人体の話』(寺田春水訳)、第3『人種とは』(ボイド共著、太田次郎訳)、第4「生命の化合物」(太田次郎訳)がありました。さすがに全部は文庫化されないような予感がしますが、アシモフの小説以外の著作は文庫化が多くはないですから、貴重ですね。

★『神曲 煉獄篇』は先月の地獄篇に続く刊行で来月12日には完結篇となる天国篇が発売されます。訳文にはみずみずしさが感じられ、巻末の各歌解説は読みごたえがあります。講談社が「これぞ決定版!」と謳うのも頷けます。


◎岩波文庫の7月新刊より

マルセル・モース『贈与論 他二篇』森山工訳、岩波文庫、2014年7月、本体1,140円、490頁、ISBN978-4-00-342281-6

★1923~24年「贈与論――アルカイックな社会における交換の形態と理由」の新訳(51-453頁)のほか、1921年「トラキア人における古代的な契約形態」(11-34頁)、1924年「ギフト,ギフト」(35-49頁)の二篇の初訳を収めています。巻末の「訳者解説――マルセル・モースという「場所」」によれば、今回の新訳のきっかけを作ったのは、今村仁司さんだったようです。今後、平凡社版「モース著作集」でも『贈与論』の新訳が出ることと思いますが、重要な古典を複数の翻訳で読めるというのはありがたいことで、贅沢なことでもあります。特に資本制の限界が見えてきたこんにち、『贈与論』の重要性はいよいよ輝きを増すように見えます。

★岩波文庫の来月新刊ではイーグルトン『文学とは何か――現代批評理論への招待(上)』(大橋洋一訳)が予定されています。全2巻。イーグルトンが文庫化されるのは今回が初めてですね。また、単行本ですが26日発売で、ジャン=リュック・ナンシー『思考の取引――書物と書店と』(西宮かおり訳)が予定されています。たいへん楽しみです。


◎中公文庫の7月新刊より

吉田光邦『錬金術――仙術と科学の間』中公文庫、2014年7月、本体840円、288頁、ISBN978-4-12-205980-1
島尾敏雄/吉田満『新編 特攻体験と戦後』中公文庫、2014年7月、本体800円、224頁、ISBN978-4-12-205984-9

★『錬金術――仙術と科学の間』は、中公新書(1963年)のロングセラーの文庫化。「錬金術」というと西洋の化学や魔術が真っ先に思い浮かびますが、本書の魅力は、西洋だけでなく、中国や日本も加えた三本立てになっているところです。「仙術と哲学の混沌――中国」では、道教や本草学、『周易参同契』『抱朴子』などが取り上げられ、続く「魔術から科学へ――西洋」では、古代ギリシア、イスラム、中世、ルネサンスの各時代が概観され、東洋と西洋の歴史的交流も言及されています。最後の「日本の錬金、錬丹術」では、役小角から舶来丹薬まで様々なエピソードが紹介されます。ここまで凝縮された入門書は今日でもなお類を見ません。著者は1991年に亡くなられており、巻末の解説は関西大学名誉教授の坂出祥伸さんがお書きになっています。

★『新編 特攻体験と戦後』は、『特攻体験と戦後』(中央公論社、1978年;中公文庫、1981年)の増補版です。戦艦大和の生還者であり『戦艦大和ノ最期』(講談社文芸文庫)で有名な作家の吉田満さんと、特攻隊隊長として終戦を迎えた作家の島尾敏雄さんの対談本。橋川文三「戦中派とその「時間」」、吉本隆明「島尾敏雄――戦争世代のおおきな砦」、鶴見俊輔「吉田満――戦中派が戦後を生きた道」が第II部として増補されており、巻末には加藤典洋さんが「もう一つの「0」」と題した解説を寄せておられます。加藤さんの解説が何を枕にしているかを大方の読者はご明察でしょうから説明は省きます。印象的だったのは、島尾さんが旧版解説で対談相手である吉田さんと自分とのもっとも大きな違いをこう記されているくだりです。「彼〔吉田さん〕がすさまじい一大海戦の渦中に巻き込まれて多くの仲間を失い、自らも負傷しつつ地獄の相を見てきたのにくらべ、私の方は一つの戦闘すら経験することなく、又周辺からは一人の死者も出なかった」(176-177頁)。むろん島尾さんの人生に戦争は大きな影を落としています。話を思いきって広げるなら、戦闘を経験しておらず周囲に戦死者もいない大方の現代人の人生にも、世界各地でいまなお続いている戦争はニュースを通じて影を落とし続けています。しかし、ニュースを前に絶句するだけでは何かが足りないのです。私たちは証人から歴史を学ばねばなりません。
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by urag | 2014-07-21 23:41 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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