2005年 06月 05日

今週の注目新刊(第7回:05年6月5日)

他社版元さんの新刊で、要チェックだなと感じた本を、毎週末、リストアップします。このほかにもたくさん素晴らしい本はありますが、自分がぜひ購読してみたいと思った書目に絞ります。

書誌情報の見方と配列は次のようになっています。

書名――副題
著者、訳者など
版元、本体価格、判型サイズ、頁数(本文, 本文とは別立ての巻末索引や巻頭口絵など)
ISBN、発行年月
■は、図書館流通センターさんや版元さんのデータを引用&活用した内容紹介。
●は、私のコメントです。

今週、もっとも食指が動いたのは、ラカンと孫歌さんの新刊です。それ以外にも、中味に目を通しておきたい新刊を同時に掲げます。

***

無意識の形成物(上)
ジャック・ラカン(1901-1981)著 ジャック=アラン・ミレール編 佐々木孝次+原和之+川崎惣一訳
岩波書店 本体5000円 タテ22cm 366p
4-00-023410-2 / 2005.05.
■「精神分析を言語という礎の上に改めて据える」という目標に向け、フロイトの著作を読み直したラカンが、独自の概念装置の上にその成果を結晶させたセミネール第5巻。上巻は「機知のフロイト的諸構造」「去勢の論理」を収録。
●セミネールが着実に翻訳刊行されているのは喜ぶべきことですが、『エクリ』の新訳の噂や、拾遺論文集『他のエクリ』(2001年、スイユ社)の翻訳はどの版元でどうなっているのでしょうか。気になります。

迫り来る革命――レーニンを繰り返す
スラヴォイ・ジジェク(1949-)著 長原豊訳
岩波書店 本体3200円 タテ20cm 326p
4-00-023652-0 / 2005.05.
■現代社会の状況を批判的に捉え、資本主義の新展開にいまだ対峙しうるレーニンの可能性を能動的に説く。稀代の論客による痛烈な現代社会批判。
●飽きたわけではないのですが、ジジェクの訳書をもはや急いで買い求めようとしていない自分がいます。

レーニンの言語
ヴィクトル・シクロフスキイ+ボリス・エイヘンバウム+レフ・ヤクビンスキイ+ユーリイ・トゥイニャーノフ+ボリス・カザンスキイ+ボリス・トマシェフスキイ著 桑野隆訳
水声社 本体2500円 タテ22cm 233p
4-89176-555-0 / 2005.06.
■三一書房1975年刊の改訳。叢書「記号学的実践」第22巻。
●水声社さんは私にとってひとつのモデル版元さんです。長く読み継がれるだろう良書をたくさん出しておられますし、実験的な新刊もあります。わが社もこちらのようにコンテンツの厚みを増していけたらなあと思います。

竹内好という問い
孫歌(1955-)著
岩波書店 本体3600円 タテ20cm 321p
4-00-023764-0 / 2005.05.
■10年におよぶ竹内好との思想的格闘の記録。魯迅を最も深いところでつかんだ竹内の思想実践を、いま新たにアジアの思想遺産として学び直し、その作業を通じて普遍的な思考営為への展望を切り開く。著者は1955年中国生まれ。中国社会科学院文学研究所研究員。著書に「アジアを語ることのジレンマ」ほか。
●竹内好の再評価というのはここしばらく続いていますが、昨今の中日関係の困難な局面を考えるとき、孫歌さんの研究はかならず参照しておきたい成果です。一度お目にかかったことがありますが、素朴でお話しやすいお人柄でした。なお、3年前に刊行された女史の著書の書誌情報は以下の通りです。

アジアを語ることのジレンマ――知の共同空間を求めて
孫歌著
岩波書店 本体2600円 タテ20cm 256p
4-00-022008-X / 2002.06.
■日中からアジアへ、政治化された言説空間の束縛をどうとらえたらよいか。日中間の歴史問題の磁場にたち、知識人同士の知的対話の試行錯誤を通して、アジアという共通の思考空間が開けていく、葛藤と省察の記録。

自由は進化する
ダニエル・C・デネット(1942-)著 山形浩生訳
NTT出版 本体2800円 タテ20cm 478p
4-7571-6012-7 / 2005.06.
■「自由意志」って何だろう? この哲学上の難問を唯物論・進化論的に説明し、人間を魂の呪縛から解放する本。自由意志の進化を原子レベルから説き起こし、同時に自由意志と関連した責任の問題についても一定の解答を提示する。著者は現在、タフツ大学教授、同認知科学研究センター所長。
●山形さんの訳ということで、こなれた文章が期待できます。大著ですね。

自然界と人間の運命
K.ローレンツ(1903-1989)著 谷口茂訳
新思索社 本体4800円 タテ22cm 514p
4-7835-0232-3 / 2005.06.
■進化現象の記述と解釈、および現在と未来の人間の生存の諸問題を取り扱った論文を集めてまとめた、ローレンツ行動学の集大成。進化論と行動学の総合を行い、人間理解へのアプローチを確立したローレンツの論考二編を収める。(1)進化論と行動をめぐって、(2)生存の諸問題をめぐって。思索社1990年刊新装版に続く再装版。 著者は73年ノーベル賞医学生理学賞受賞。
●古典ということで。恥ずかしながら「再装版」という言葉ははじめて目にしました。これはTRC側がデータ登録した業界的なテクニカル・タームなんでしょうね。

エミリー・デュ・シャトレとマリー・ラヴワジエ――18世紀フランスのジェンダーと科学
川島慶子(1959-)著
東京大学出版会 本体2800円 タテ20cm 249,18p
4-13-060303-5 / 2005.05.
■18世紀フランスの前半と後半を生きた二人の女性を、ジェンダーと科学という視点から再評価する。科学者共同体(科学愛好者のネットワーク)と女性との関係に注目して論じる。著者は名古屋工業大学工学部助教授。研究テーマは科学史、女性史。
●イヴリン・フォックス・ケラー女史の著書を読んできた読者ならば、この新刊にもピンと来るはず。ジェンダーと科学、というテーマは、大型書店ならばきちんと棚をつくっておいて欲しいところです。

一七世紀科学革命
ジョン・ヘンリー著 東慎一郎訳
岩波書店 本体2500円 タテ20cm 169,66p
4-00-027095-8 / 2005.05.
■自然認識の構造変動を「革命」と捉える意味を考察し、近代科学形成の社会的・文化的・知的要因を概観する。
●シリーズ「ヨーロッパ史入門」全10冊のうちの6冊目ですね。6月末には『ロシア革命1900-1927』ロバート・サーヴィス著、中嶋毅訳が刊行される予定。

石の思い出
A.E.フェルスマン(1883-1945)著 堀秀道訳
草思社 本体1700円 タテ20cm 205p
4-7942-1414-6 / 2005.06.
■ロシアの高名な鉱物学者フェルスマンの名著『石の思い出』は少年時代からの鉱物にまつわる思い出を詩的な文章でつづった鉱物エッセイである。コラ半島のユージアル石からオルスクの碧玉まで、19の珍しい話を集めている。ロシアの自然を描いた珠玉のエッセイとして、また鉱物入門書としても楽しめる本書を、新訳で贈る。
●理論社1956年刊「石の思いで」の新訳とのことですが、なぜいま刊行なのか、未調査です。草思社さんは販売の仕掛けがうまい出版社さんですから、何か理由があるはずだと考えてしまうのですが。

海の生物資源――生命は海でどう変動しているか
渡辺良朗編
東海大学出版会 本体3600円 タテ22cm 436p
4-486-01688-2 / 2005.05.
■東京大学海洋研究所のシリーズ「海洋生命系のダイナミクス」第4巻。海洋生命系の変動は人類に何をもたらすか? 自然変動する海洋生物資源の生態を理解し、資源再生産の場である海洋環境保全、それぞれの種の生態にあった資源の利用方法を考える、現代海洋生命科学の集大成。
●海洋資源全般がいま熱い視線を集めています。生物然り、ガス然り。このアンソロジーでは前者を学べます。読まねばなりますまい。

エネルギー・環境キーワード辞典
日本エネルギー学会編
コロナ社 本体8000円 タテ19cm 480,31p
4-339-06608-7 / 2005.06.
■エネルギーと環境に関するキーワードを約2700語に厳選、50音順に解説するとともに、18のカテゴリーに分類。小分類ごとに集められた用語から関連する掲載用語を検索することができ、それぞれの分類の相互関係が分かる。分野別用語一覧付。
●天然資源、エネルギー、環境をめぐる諸問題は、繰り替えすまでもなく現代人にとって大きな課題です。辞典をざっとサーフィンしていくだけでも何かを得られるのではないかと思います。

アラム語-日本語単語集(シリア語付き)
飯島紀編著
国際語学社 本体2500円 タテ19cm 166,22p
4-87731-256-0 / 2005.05.
■イエス・キリストの日常使用言語であり、アッシリア帝国、ペルシャ帝国時代にペルシャ、アッカド、カナーン、エジプトまで使用されていた国際公共語であるアラム語の単語集。カタカナ読みと日本語訳に加え、シリア語も併記。単語で辿る古代の歴史ロマン第1巻。編著者はオリエント学会会員。著書に「ハンムラビ法典直訳」「日本語-セム語族比較辞典」などがある。
●古典語の学習は重要です。キリスト教にとってアラム語の重要性は言うまでもありません。そういえば、映画「パッション」も全編アラム語なのでしたっけね。

本づくりの厨房から
秋田公士(1945-)著
出版メディアパル 本体1500円 タテ19cm 148,2p
4-902251-86-8 / 2005.06.
■出版社に勤務する著者が、本づくりの周辺や思いを綴る。ポイント、白いページ、DTP、帯のいのち、活版時代の文字コード、デジタル世界の職人などをテーマに取り上げる。2003年に私家版として刊行されたものの再刊。著者は1945年神奈川県生まれ。法政大学文学部卒業。法政大学出版局勤務。
●叢書ウニベルシタスをよく手にとっておられる読者なら、秋田さんのお名前はしばしば目にしていることと思います。人文系書籍編集者を目指す若い方にお奨めします。

モダン古書案内――昭和カルチャーの万華鏡「古くて新しい」本のたのしみ
マーブルトロン発行 中央公論新社発売
本体1400円 タテ19cm 123p
4-12-390096-8 / 2005.05.
■昭和モダンに触れられる古書の世界を紹介。作家からニューウェーブ古書店主まで、頑固に、そして愛情たっぷりに推薦する。2002年刊の改訂版。便利な東京・京都古書街マップと最新オンライン古書店ガイド付き。
●初版本を知らなかったのはお恥ずかしい話で。昨今は若い人が古書店を開業する例が増えてきましたよね。共感できる店作りに出会う機会が増えました。とても嬉しいことです。

***
以上、今回は1360点の新刊のなかから、単行本14冊を選びました。(H)
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by urag | 2005-06-05 00:50 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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