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2014年 06月 29日

注目新刊と近刊:2014年6月~8月

◎注目新刊(2014年5月~6月)

ここ約1カ月の間に発売された新刊の中から、未言及だったものを中心に要チェックな書目をもう一度列記します。今月は特に、蓮實重彦『「ボヴァリー夫人」論』をはじめ、松浦寿輝『明治の表象空間』、大西巨人『日本人論争――大西巨人回想』といった国内著者の三冊と、デリダ『プシュケー――他なるものの発明(I)』、フォン・ノイマン+モルゲンシュテルン『ゲーム理論と経済行動 刊行60周年記念版』の海外著者の二冊というように大冊が続いたおかげで、とても充実感のある一か月でした。この五冊で45,000円以上かかるので、一般読者にとっては厳しい出費です。

もっと安くならないのかとお感じの読者もおられることと思いますが、おそらく今後、紙媒体の書籍が安くなることはないと私は予想しています。一昔前より販売数は落ちていますし、それに伴い初版部数も減っています。単価が上がらざるをえないのです。良い本を出せば絶対に売れるなどという幻想は持てません。これは幻想を否定しているのではありません。時代を駆動させる幻想があることも事実です。その上で、今は安売競争に走る戦略は経営上の根拠に乏しいというのが業界の本音だと思います。日本全体の読書熱や教養熱、そして景気が上向きになるように出版界にできることは何なのかが問われています。しかしおそらくそれは出版界が孤軍奮闘すれば解決できるような問題ではないのです。

05月22日『魂のレイヤー――社会システムから心身問題へ』西川アサキ著、青土社、3,024円
05月23日『言語起源論の系譜』互盛央著、講談社、2,484円
05月23日『好奇心の赴くままに――ドーキンス自伝(I)私が科学者になるまで』リチャード・ドーキンス著、垂水雄二訳、早川書房、3,024円
05月30日『明治の表象空間』松浦寿輝著、新潮社、5,400円
05月30日『「4分33秒」論──「音楽」とは何か』佐々木敦著、Pヴァイン、2,376円
05月31日『翻訳の倫理学――彼方のものを迎える文字』アントワーヌ・ベルマン著、藤田省一訳、晃洋書房、3,024円
06月06日『科学の地理学――場所が問題になるとき』デイヴィッド・リヴィングストン著、梶雅範+山田俊弘訳、法政大学出版局、4,104円
06月07日『情報汚染の時代』高田明典著、メディアファクトリー/KADOKAWA、1,512円
06月16日『琉球共和社会憲法の潜勢力――群島・アジア・越境の思想』川満信一+仲里効編、未來社、2,808円
06月19日『あなたが救える命――世界の貧困を終わらせるために今すぐできること』ピーター・シンガー著、児玉聡+石川涼子訳、勁草書房、2,700円
06月20日『アメリカ〈帝国〉の現在――イデオロギーの守護者たち』ハリー・ハルトゥーニアン著、平野克弥訳、みすず書房、3,672円
06月20日『編集者になろう!』大沢昇著、青弓社、1,728円
06月20日『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている――再生・日本製紙石巻工場』佐々涼子著、早川書房、1,620円
06月20日『背信の科学者たち――論文捏造はなぜ繰り返されるのか?』ウイリアム・ブロード+ニコラス・ウェイド著、牧野賢治訳、講談社、1,728円
06月22日『陶酔とテクノロジーの美学――ドイツ文化の諸相1900-1933』鍛治哲郎+竹峰義和編著、青弓社、4,320円
06月23日『ユングとジェイムズ――個と普遍をめぐる探求』小木曽由佳著、創元社、3,024円
06月24日『グラムシとフレイレ――対抗ヘゲモニー文化の形成と成人教育』ピーター・メイヨー著、里見実訳、太郎次郎社エディタス、4,860円
06月24日『現代思想の時代――〈歴史の読み方〉を問う』大澤真幸+成田龍一著、青土社、2,376円
06月25日『脱成長(ダウンシフト)のとき――人間らしい時間をとりもどすために』セルジュ・ラトゥーシュ+ディディエ・アルパジェス著、佐藤直樹+佐藤薫訳、未來社、1,944円
06月25日『写真講義』ルイジ・ギッリ著、萱野有美訳、みすず書房、5,940円
06月26日『華氏451度〔新訳版〕』レイ・ブラッドベリ著、伊藤典夫訳、ハヤカワ文庫SF、929円
06月27日『「ボヴァリー夫人」論』蓮實重彦著、筑摩書房、6,912円
06月27日『日本人論争――大西巨人回想』大西巨人著、左右社、8,964円
06月27日『新版 アリストテレス全集(13)問題集』岩波書店、7,992円
06月28日『プシュケー――他なるものの発明(I)』ジャック・デリダ著、藤本一勇訳、岩波書店、10,260円
06月28日『アダム・スミスとその時代』ニコラス フィリップソン著、永井大輔訳、白水社、3,024円
06月30日『ゲーム理論と経済行動 刊行60周年記念版』ジョン・フォン・ノイマン+オスカー・モルゲンシュテルン著、武藤滋夫訳、中山幹夫訳協力、勁草書房、14,040円

蓮實さんの『「ボヴァリー夫人」論』は6月の人文書新刊のベストブックと言っていいと思います。ちょうど良いこの機会に、マリオ・バルガス・リョサ『果てしなき饗宴――フロベールと『ボヴァリー夫人』』(工藤庸子訳、筑摩叢書、1988年)が文庫化されたらいいなと想像しています。

◎注目近刊(2014年7月~8月)

来月とさ来月の新刊ですでにネット書店や版元サイト等で情報公開が始まっている書目の中から注目書を挙げてみます。話題を呼ぶだろうことが予想されるのは、国内著者の近刊では柄谷行人『帝国の構造――中心・周辺・亜周辺』、海外著者の訳書ではレザー・アスラン『イエス・キリストは実在したのか』かと思います。後者は版元サイトの紹介文によれば、「全米騒然の大ベストセラー。救世主(キリスト)としてのイエスは実在しなかった。いたのは、暴力で秩序転覆を図った革命家(ゼロット)としてのイエスだった」。同社サイトで公開されている担当編集者氏の紹介文にはこうあります。「実際のイエスは、ローマ帝国に反抗した暴力も辞さない革命家(ゼロット)だった。しかし死後、切迫した歴史的事情から愛と平和を説いた救世主(キリスト)というイエス像に書き換えられた――イエスの実像とキリスト教誕生の核心に迫った本書は、全米で20万部超の大ベストセラーとなりました」。「本書の執筆にあたって」という原著者の文章も立ち読みできます。

07月02日『耳を傾ける技術』レス・バック著、有元健訳、せりか書房、3,456円
07月02日『ベンヤミンの言語哲学』柿木伸之著、平凡社、4104円
07月08日『無神論の歴史――始原から今日にいたるヨーロッパ世界の信仰を持たざる人々(上・下)』ジョルジュ・ミノワ著、石川光一訳、法政大学出版局、14,040円
07月09日『増補版 承認をめぐる闘争――社会的コンフリクトの道徳的文法』アクセル・ホネット著、山本啓+直江清隆訳、法政大学出版局、3,888円
07月09日『イラク戦争は民主主義をもたらしたのか』トビー・ドッジ著、山岡由美訳、みすず書房、3,888円
07月10日『イエス・キリストは実在したのか』レザー・アスラン著、白須英子訳、文藝春秋、1,836円
07月10日『書店不屈宣言――わたしたちはへこたれない』田口久美子著、筑摩書房、1,620円
07月10日『冤罪を生む構造――アメリカ雪冤事件の実証研究』ブランドン・L・ギャレット著、笹倉香奈ほか訳、日本評論社、5,940円
07月14日『別のしかたで――ツイッター哲学』千葉雅也著、河出書房新社、1,728円
07月14日『ドゥルーズと狂気』小泉義之著、河出ブックス、1,944円
07月14日『境界の現象学――始原の海から流体の存在論へ』河野哲也著、筑摩選書、1,620円
07月14日『幸福論』アラン著、村井章子訳、日経BP社、1,728円
07月15日『民族の創出――まつろわぬ人々、隠された多様性』岡本雅享著、岩波書店、4,536円
07月15日『戦争に隠された「震度7」――1944東南海地震・1945三河地震』木村玲欧著、吉川弘文館、2,160円
07月16日『[新世界]透明標本2』冨田伊織作、小学館、1,728円
07月18日『戦後日本公害史論』宮本憲一著、岩波書店、8,856円
07月18日『アラブ・イスラム用語辞典』松岡信宏著、成甲書房、2,484円
07月18日『ディルタイ全集(9)シュライアーマッハーの生涯(上)』法政大学出版局、29,160円
07月19日『「無」の科学』イアン・スチュアートほか著、ジェレミー・ウェッブ編、水谷淳訳、ソフトバンククリエイティブ、1,728円
07月19日『いま、幸福について語ろう――宮台真司「幸福学」対談集(仮)』宮台真司著、コアマガジン、1,620円
07月22日『靖国神社と幕末維新の祭神たち――明治国家の「英霊」創出』吉原康和著、吉川弘文館、2,484円
07月24日『プロパガンダ・ラジオ――日米電波戦争 幻の録音テープ』渡辺考著、筑摩書房、2,484円
07月24日『人間が人間でなくなるとき――フッサールの影を追え、とメルロ=ポンティは言った』岡山敬二著、亜紀書房、2,916円
07月24日『あなたのなかの宇宙』ニール・シュービン著、吉田三知世訳、早川書房、2,592円
07月25日『帝国の構造――中心・周辺・亜周辺』柄谷行人著、青土社、2,376円
07月25日『処女神――少女が神になるとき』植島啓司著、集英社、2,160円
07月25日『1968 パリに吹いた「東風」――フランス知識人と文化大革命』リチャード・ウォーリン著、福岡愛子訳、岩波書店、5,184円
07月25日『描かれた倭寇――「倭寇図巻」と「抗倭図巻」』東京大学史料編纂所編、吉川弘文館、2,700円
07月25日『工芸とナショナリズムの近代――「日本的なもの」の創出』木田拓也著、吉川弘文館、5,184円
07月25日『消されたマッカーサーの戦い――日本人に刷り込まれた〈太平洋戦争史〉』田中宏巳著、吉川弘文館、3,024円
07月25日『平和と命こそ』日野原重明+宝田明+澤地久枝著、新日本出版社、1,296円
07月28日『欲望と消費の系譜』ジョン・スタイルズ+ジョン・ブリューア+イヴ・ローゼンハフト+アヴナー・オファ著、草光俊雄+眞嶋史叙監修、NTT出版、2,592円
07月28日『世界の妖精・妖怪事典〔普及版〕』キャロル・ローズ著、松村一男監訳、原書房、3,024円
07月29日『サイボーグ昆虫、フェロモンを追う』神﨑亮平著、岩波科学ライブラリー、1,296円
07月30日『アベノミクス批判――四本の矢を折る』伊東光晴著、岩波書店、1,836円
07月30日『民主党政権とは何だったのか――キーパーソンたちの証言』山口二郎+中北浩爾編、岩波書店、2,592円
07月30日『集団的自衛権の何が問題か――解釈改憲批判』奥平康弘+山口二郎編、岩波書店、2,052円
07月30日『薩摩・朝鮮陶工村の四百年』久留島浩+須田努+趙景達編、岩波書店、3,888円
07月30日『創造と狂気――精神病理学的判断の歴史』フレデリック・グロ著、澤田直+黒川学訳、法政大学出版局、3,672円
07月31日『ニーズ・価値・真理――ウィギンズ倫理学論文集』デイヴィッド・ウィギンズ著、大庭健+奥田太郎監修、勁草書房、3,996円

08月12日『反逆の神話――カウンターカルチャーはいかにして消費文化になったか』ジョセフ・ヒース+アンドルー・ポッター著、栗原百代訳、NTT出版、3,024円
08月15日『ゴヤ――啓蒙の光の影で』ツヴェタン・トドロフ著、小野潮訳、法政大学出版局、4,104円
08月18日『粒でできた世界(ワンダー・ラボラトリ 01)』結城千代子+田中幸著、西岡千晶絵、太郎次郎社エディタス、1,620円
08月18日『空気は踊る(ワンダー・ラボラトリ 02)』結城千代子+田中幸著、西岡千晶絵、太郎次郎社エディタス、1,620円
08月22日『リスク、人間の本性、予測の未来』アラン・グリーンスパン著、日本経済新聞出版社、2,376円
08月25日『発達障害の時代(仮)』立岩真也著、みすず書房、3,888円

また、近刊文庫・新書では次の書目が目に留まりました。驚いたのは岩波文庫のモース『贈与論』新訳です。有地亨訳(勁草書房)が2008年に新装復刊され、翌年には、吉田禎吾・江川純一の両氏による新訳もちくま学芸文庫で出ました。さらには以前から予告されている通り、平凡社版『モース著作集』の第一回配本予定もやはり『贈与論』だったはずです。こんにち資本主義のオルタナティヴを考える上では「贈与」の歴史をひもとくことは避けて通れません。なにもそんなに集中しなくたって(ほかにもやるべきことがあるのでは)と思われる読者もあるいはいらっしゃるかもしれませんが、意図して便乗できるような本でもない気がします。競合を恐れず複数の新訳が出版されるのは喜ばしいことです。

07月04日『口語訳 遠野物語』柳田國男著、佐藤誠輔訳、小田富英注釈、河出文庫、691円
07月07日『日本劣化論』笠井潔+白井聡著、ちくま新書、907円
07月07日『空海の思想』竹内信夫著、ちくま新書、864円
07月07日『入門 老荘思想』湯浅邦弘著、ちくま新書、907円
07月07日『古典を読んでみましょう』橋本治著、ちくまプリマー新書、929円
07月09日『ベンヤミン・コレクション(7)〈私〉記から超〈私〉記へ』浅井健次郎編訳、ちくま学芸文庫、1,836円
07月09日『自然とギリシャ人・科学と人間性』エルヴィン・シュレーディンガー著、水谷淳訳、ちくま学芸文庫、1,080円
07月09日『増補 靖国史観』小島毅著、ちくま学芸文庫、1,080円
07月09日『十八史略』曾先之著、今西凱夫訳、ちくま学芸文庫、1,512円
07月09日『オーギュスト・コント』清水幾太郎著、ちくま学芸文庫、1,404円
07月10日『やわらかな遺伝子』マット・リドレー著、中村桂子+斉藤隆央訳、ハヤカワ文庫NF、972円
07月10日『小さな黒い箱』フィリップ・K・ディック著、ハヤカワ文庫SF、1,102円
07月11日『神曲 煉獄篇』ダンテ・アリギエリ著、原基晶訳・解説、講談社学術文庫、1,566円
07月11日『お金の改革論』ジョン・メイナード・ケインズ著、山形浩生訳、講談社学術文庫、864円
07月11日『生物学の歴史』アイザック・アシモフ著、太田次郎訳、講談社学術文庫、1,037円
07月16日『ラデツキー行進曲(上)』ヨーゼフ・ロート著、平田達治訳、岩波文庫、842円
07月16日『おんな二代の記』山川菊栄著、岩波文庫、1,166円
07月16日『江戸東京実見画録』長谷川渓石画、進士慶幹+花咲一男注解、岩波文庫、842円
07月16日『贈与論 他二篇』マルセル・モース著、森山工訳、岩波文庫、1,231円
07月16日『復活(上)』トルストイ著、藤沼貴訳、岩波文庫、1,102円
07月16日『法華経物語』渡辺照宏著、岩波現代文庫、1,469円
07月16日『現代語訳 東海道中膝栗毛(上)』伊馬春部訳、岩波現代文庫、1,058円
07月16日『「日本国憲法」を読み直す』井上ひさし+樋口陽一著、岩波現代文庫、1,123円
07月16日『デカルトの旅/デカルトの夢――『方法序説』を読む』田中仁彦著、岩波現代文庫、1,469円
07月18日『若い藝術家の肖像』ジェイムズ・ジョイス著、丸谷才一訳、集英社文庫、1,296円
07月18日『集団的自衛権と安全保障』豊下楢彦+古関彰一著、岩波新書、886円
07月18日『サッカーと人種差別』陣野俊史著、文春新書、810円
07月21日『ポール・リクール』ジャン・グロンダン著、杉村靖彦訳、文庫クセジュ、1,296円
07月23日『錬金術』吉田光邦著、中公文庫、864円
07月23日『マッカーサー大戦回顧録』ダグラス・マッカーサー著、津島一夫訳、中公文庫、1,512円
07月25日『青春論』亀井勝一郎著、角川ソフィア文庫、648円
07月25日『日本国憲法を生んだ密室の九日間』鈴木昭典著、角川ソフィア文庫、1,080円
07月25日『文学とは何か』加藤周一著、角川ソフィア文庫、778円
07月25日『呪いと日本人』小松和彦著、角川ソフィア文庫、778円

08月07日『50歳からの知的生活術』三輪裕範著、ちくま新書、842円
08月07日『汚染水との闘い』空本誠喜著、ちくま新書、799円
08月12日『神曲 天国篇』ダンテ・アリギエリ著、原基晶訳・解説、講談社学術文庫、価格未定

by urag | 2014-06-29 23:25 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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