2014年 04月 27日

注目新刊:ヴァッラ『「コンスタンティヌスの寄進状」を論ず』水声社、ほか

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◎水声社さんの4月新刊より

『「コンスタンティヌスの寄進状」を論ず』ロレンツォ・ヴァッラ著、高橋薫訳、水声社、2014年4月、本体3,000円、ISBN978-4-8010-0008-7
『哲学とナショナリズム――ハイデガー結審』中田光雄著、水声社、2014年4月、本体4,000円、ISBN978-4-8010-0011-7
『現代思想と〈幾何学の起源〉――超越論的主観から超越論的客観へ』中田光雄著、水声社、2014年4月、本体4,000円、ISBN978-4-8010-0012-4
『差異と協成――B・スティグレールと新ヨーロッパ構想』中田光雄著、水声社、本体5,000円、2014年4月、ISBN978-4-8010-0013-1
『シャルル・クロ――詩人にして科学者:詩・蓄音機・色彩写真』福田裕大著、水声社、2014年3月、本体4,500円、ISBN978-4-8010-0034-6
『言語と狂気――シュレーバーと世紀転換期ドイツ』熊谷哲哉著、水声社、2014年3月、本体4,500円、ISBN978-4-8010-0037-7
『風刺画家グランヴィル――テクストとイメージの19世紀』野村正人著、水声社、2014年5月、本体6,000円、ISBN978-4-8010-0029-2
『山高帽と黒いオーバーの背』近藤耕人著、水声社、2014年4月、本体2,500円、ISBN978-4-8010-0025-4

『「コンスタンティヌスの寄進状」を論ず』は帯文に曰く「イタリア・ルネサンス期の思想家が徹底的な〈文献学的考証〉〈歴史的考証〉によって、かつてローマ皇帝コンスタンティヌスが教皇シルウェステルに教皇領を寄進した証拠とされた「コンスタンティヌスの寄進状」を駁論し、その真性を否定する論争の書」。15世紀ローマの高名なウマニスタ(人文主義者)であるヴァッラ(Lorenzo Valla, 1407-1457)の著作の翻訳にはこれまで「自由意志について」(佐藤三夫訳、『ルネサンスの人間論――原典翻訳集』所収、有信堂高文社、1984年、109-143頁)や「快楽論」第1巻(近藤恒一訳、『原典イタリア・ルネサンス人文主義』所収、名古屋大学出版会、2010年、385-448頁) がありますが、アンソロジーではなく単独本としては本邦初になります。1440年の著作『間違って帰せられ、偽ものである「コンスタンティヌスの寄進状」を論ず』と、当の批判対象である「コンスタンティヌスの寄進状」(『偽イシドルス教令集』所収)が訳出されています。この寄進状が偽書であると最終的に判定されたのは18世紀になってからだそうで、ヴァッラの鋭い分析力に後世の私たちが学ぶところは今なお多いと思われます。

『哲学とナショナリズム』『現代思想と〈幾何学の起源〉』『差異と協成』はいずれも筑波大学名誉教授の中田光雄さんによる著書です。かつて中田さんは『政治と哲学――〈ハイデガーとナチズム〉論争史の一決算』(上下巻、岩波書店、2002年)という大著を上梓されており、『哲学とナショナリズム』はそれ以後の論争史の新たな山場のひとつとしてエマニュエル・ファユ(Emmanuel Faye, 1956-:日本ではファイユと音写されることもあります)の2005年の大著『ハイデガー、哲学へのナチズムの導入――未刊行1933~35年ゼミによる』(中田さんが参照しておられるのは2009年のマイケル・B・スミスによる英訳版)によるハイデガー弾劾を受け止めつつ、ハイデガー哲学をBewegung(活動、運動)という術語から大胆に読み解き、その過去から未来へと渡る問いの所在を解明しようとするものです。『現代思想と〈幾何学の起源〉』は故・滝浦静雄さんに捧げられており、フッサールの高名な論考『幾何学の起源』と、それを読み解くメルロ=ポンティ、デリダ、セールらによる再主題化を論じたものです。『差異と協成』は故・今道友信さんに捧げられており、スティグレールの技術哲学などに学びつつ「現代デジタル情報文明」の行く末を論じておられます。

『シャルル・クロ』『言語と狂気』はいずれも博士論文を加筆修正したもので、お二人(福田さんと熊谷さん)それぞれの単独著デビュー作になります。前者は19世紀フランスの詩人であり、蓄音機の考案者、色彩写真の先駆者でもあるユニークな人物を取り上げたとても貴重な研究書です。後者はシュレーバーの『回想録』を読み解くものでこちらも類書が少ない研究書になります。『風刺画家グランヴィル』は「あとがき」の言葉を借りれば「19世紀のフランスを生きた風刺画家J・J・グランヴィルの代表的な作品をとりあげ、彼の創造的世界を描き出そうとする試み」です。これまでに発表済の諸論考に書き下ろしを加えたもの。業界人にとっては特に第一章「フランスの出版文化とその背景」は必読かと思われます。『山高帽と黒いオーバーの背』はソンタグやジョイスの訳書や数々の写真論・映像論で知られる英文学者による小説集。2007年の『石の中から聞こえる声』に続く第二弾になります。

なお、水声社さんの来月(2014年5月)の新刊には、ランシエール『マラルメ――セイレーンの政治学』やプランセス・サッフォーによる19世紀末パリの小説『チュチュ』などの訳書が予定されているそうです。


◎平凡社さんの4月新刊より

往生写集』荒木経惟写真、平凡社、2014年4月、本体2,800円、ISBN978-4-582-27811-8
親子でたのしむ日本の行事』平凡社編、平凡社、2014年4月、本体1,400円、ISBN978-4-582-83655-4

『往生写集』は版元紹介文によれば、「荒木経惟往生写集展(2014年4月22日~6月29日@豊田市美術館、8月9日~10月5日@新潟市美術館、10月22日~12月25日@資生堂ギャラリー)にあわせて刊行された写真集。第1回太陽賞受賞作「さっちん」や「センチメンタルな旅・冬の旅」「チロ愛死」などの名高い作品から、最新作「8月」「去年の戦後」「道路」まで、荒木が50年にわたって見つめてきた生と死のすべてを収録。写真点数=300点(モノクロ/カラー)」とのこと。60年代からこんにちに至るまでの作品群から再構成された写真集です。巻末に、4篇のテクストを収録しています。浜田優「メランコリックな旅」、マリオ・ペルニオーラ「荒木の地獄」鯖江秀樹訳、藤野可織「Aと私たちみんなの秘密」。写真展の特設サイトではたくさんのサンプル写真を見ることができます。

『親子でたのしむ日本の行事』は帯文を引くと、「おうちでできる季節の遊びがもりだくさん!! お正月をはじめとした伝統的な日本の年中行事から、クリスマスやバレンタインデーなどの外国由来のイベントまで。現代版・家族のための「歳時記」」とのこと。誰でもできる1月から12月までの様々な行事を紹介し、由来や作法を愛らしい四色のイラストで解説してくれます。月日の流れを漫然とやりすごしがちな父親にとっては、家族と一緒に過ごすためのひとつのヒントとして月々のイベントを教えてもらえて嬉しい限りです。


◎注目の4月新刊人文書より

博物誌――世界を写すイメージの歴史』S・ピーター・ダンス著、奥本大三郎訳、東洋書林、2014年4月、本体4,500円、ISBN978-4-88721-817-8
美味しさの脳科学――においが味わいを決めている』ゴードン・M・シェファード著、小松淳子訳、インターシフト発行、合同出版発売、本体2,450円、ISBN978-4-7726-9540-4
天皇制の隠語〔ジャーゴン〕』絓秀実著、航思社、2014年4月、本体3,500円、ISBN978-4-906738-07-6

『博物誌』の原書はThe Art of Natural History(Country Life Books, 1978)です。帯文に曰く「ゲスナー、ビュフォン、リンネ、オーデュボン、ヴォルフ・・・・暗い洞窟にしつらえられた太古の画廊から書物の華たるヴィクトリア朝の石版プレートまでを鳥瞰し、幾人もの観察者がとらえ続けた生物相の〈象(かたち)の系譜〉を、描法や出版事情を交えて通説する、写実と綺想がせめぎあう〈自然画〉の大パノラマ」。巻頭は西洋の古い図鑑から動植物や昆虫の美麗なフルカラー図版を配した圧巻の「資料篇」で、そのあとに2部10章立ての「解説篇」が続きます。この解説篇にも300点以上のモノクロ図版を収録。巻末には、博物学者や挿絵画家・彫版師たち209組の略伝が付録として掲載されています。博物学愛好者は押さえておきたい一冊です。

『美味しさの脳科学』はまもなく発売。原書はNeurogastronomy: How the Brain Creates Flavor and Why It Matters(Columbia University Press, 2012)です。著者のシェファード(Gordon Murray Shepherd, 1933-)はイェール大学医学大学院(Yale School of Medicine)の神経生物学教授。本書は匂いや風味が実は食材やモノが備えているのではなく、脳の産物であることを教え、人間の知覚、情動、記憶、意識、言語、意志決定など広範囲にわたって「風味」が関係していることを科学的に解説してくれます。食の科学の新分野「ニューロガストロノミー」は、人類の進化や、胎児から老年に及ぶ人間の一生と健康をその射程に収めるもので興味は尽きません。人間の嗅覚は実はすごいのだということが分かってきた昨今、「ヒト脳風味系」の探究が果たす役割は大きいに違いありません。

『天皇制の隠語〔ジャーゴン〕』は2004年から2013年にかけて各媒体に発表された諸論考に、書名にもなっている長篇書き下ろしを加え、一冊にまとめたものです。書き下ろし作「天皇制の隠語――日本資本主義論争と文学」だけでも185頁になるため、これでも充分ヴォリュームがあるのですが、さすが航思社さんだけあって全24篇470頁もの大冊を恐れない姿勢をきっちり示して下さっています。本書は「1968年」や「福島原発事故」をめぐる絓さんの言論活動の線上に位置する「アナクロニックに見えるかも知れない」(466頁)試みであり、現代資本主義への批判のための遡及と迂回を厭わず、主に小林秀雄、中村光夫、柄谷行人といった先人たちの文学史観を参照しつつ、今なお私たちの歴史認識を規定する問題に取り組んでおられます。「かつて、天皇制の隠語としてあった封建制は、今や、リベラル・デモクラットを指す隠語とさえ化するのかも知れない」(同)と絓さんは書きます。日本の民主主義の底流にある拭い難い何物かへと迫る好著です。
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by urag | 2014-04-27 21:00 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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