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2014年 03月 22日

注目新刊:グリロ『メキシコ麻薬戦争』現代企画室、ほか

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メキシコ麻薬戦争――アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱
ヨアン・グリロ著 山本昭代訳
現代企画室 2014年3月 本体2,200円 4-6判並製420頁 ISBN978-4-7738-1404-0

帯文より:グローバル化社会の影にひそむ不条理な日常。米国人のあくなき需要を満たすため、米墨国境を越える末端価格300億ドルもの麻薬。幾重にも張りめぐらされた密輸人のネットワーク。警察と癒着したカルテル間の抗争とおびただしい死者。軍隊並みの装備で国家権力に対抗するパラミリタリー。麻薬王たちの豪奢な暮らし。10 代で「殺し屋」となり、たった85ドルで殺人を請け負う少年たち……
帯文(裏)より:メキシコとアメリカの歴史的な関係を背景に、近年のグローバル化と新自由主義の進展のひずみの中で急拡大した「メキシコ麻薬戦争」の内実を、綿密な調査に基づき明らかにするルポルタージュ。米墨国境地帯で麻薬取引と暴力に依存して生きる「ナルコ(麻薬密輸人)」たちに密着し、犯罪者たちの生活や文化、彼らを取り巻く凄惨な暴力の実態を明らかにすると同時に、世界各地で注目されている「麻薬合法化」の議論など、問題解決に向けた方向性も指ししめす。

目次:
第1章 ゴースト――イントロダクション
Part I 歴史
第2章 ケシ――麻薬生産の黎明期
第3章 ヒッピー――第一次麻薬ブーム
第4章 カルテル――メキシコ麻薬組織の形成
第5章 麻薬王たち――三大カルテルの時代
第6章 政権移行――高まる戦争の足音
第7章 戦国時代――カルデロンの「麻薬戦争」
Part II 内臓
第8章 運び屋――麻薬密輸とマネー・ロンダリング
第9章 殺し屋――殺人という仕事
第10章 文化――マフィアの音楽・映画
第11章 信仰――ギャングの宗教
第12章 犯罪的蜂起――体制に挑む暴力
Part III 運命
第13章 捜査――スパイと裏切り
第14章 拡大――国際化する組織犯罪
第15章 多様化――犯罪の多角化
第16章 平和――麻薬戦争終結への道
謝辞
参考文献
訳者あとがき

★発売済。原書は、El Narco: Inside Mexico's Criminal Insurgency(Bloomsbury Press, 2011)です。著者のグリロはイギリス出身のジャーナリスト。命の危険に曝されながら10年間に渡って取材した成果である本書は彼のデビュー作で、複数の麻薬組織が跋扈するメキシコにおける、凄惨な報復合戦の続く内戦の実態に多角的に迫った衝撃作です。訳者あとがきによれば、原書は大著のため、「記述が詳しすぎて日本の読者にはかえってわかりにくい部分を中心に簡略化」したとのことです。また、「猟奇的とも思えるような残虐行為に関する記述は、一般の日本人読者に配慮して大幅に省略や短縮している」とも断っておられます。それでもなお、本書が描き出す、麻薬をめぐって延々と続いていく負のスパイラルは、日本人読者には地獄そのもののように映るのではないかと思います。日本ではほとんど報道されない深い闇を教えてくれる恐ろしい本です。


TTT――トラのトリオのトラウマトロジー
ギジェルモ・カブレラ・インファンテ(Guillermo Cabrera Infante, 1929-2005)著 寺尾隆吉(1971-)訳
現代企画室 2014年2月 本体3,600円 4-6判上製608頁 ISBN978-4-7738-1405-7

帯文より:1958年、革命前夜のハバナを舞台にした、キューバの鬼才、カブレラ・インファンテの翻訳不可能な怪作、遂に「超訳」なる! 【警告】真っ黒なページも、連続して登場する真っ白なページも、ひらがなを多用してたどたどしく書かれた手紙も、その中の誤字も、反転している文字も、すべてが作家が意図した「表現」です。印刷ミスだ、乱丁だ、誤植が多いと言って、返品なさらないでください。
帯文(裏)より:エル・ベダードと呼ばれる3ブロックほどの「夜も眠らぬ」歓楽街。そこには、外国人観光客、知識人、ポン引き、娼婦などが蝟集する。多くの極貧労働者によって購われた特権階級の遊び場にオマージュを捧げることで、作家は何を言おうとしたのだろうか?

★発売済。シリーズ「セルバンテス賞コレクション」の最新刊です。原書は、1965年、キューバ生まれの著者が数え年で36歳の折に原稿を完成させ、ロンドンへ移住してすぐの1967年に刊行した、Tres tristes tigresです。原意は「三頭の寂しい虎」。訳者あとがきによれば底本は「初めてノーカットで出版された1990年のビブリオテカ・アヤークチョ版」とのことです。帯の「警告」文にある通り、本書は視覚的に特殊な頁を含み、中でも本書の真ん中あたりの「いくつかの新事実」の章では真っ白な頁が続いたかと思えば、文字が全部左右反転した頁や、微妙に綴りを弄られた固有名詞の羅列が続き、めまいを起こさせます。騒ぎが収まったかと思われた後段でも「バッハ騒ぎ」の「譜面」ではゲシュタルト崩壊に襲われるかもしれません。ちなみに本書の発表後、著者はジョイスの『ダブリン市民』のスペイン語訳を依頼されたそうです。


疎外と反逆――ガルシア・マルケスとバルガス・ジョサの対話
寺尾隆吉訳
水声社 2014年3月 本体1,800円 46判上製176頁 ISBN978-4-8010-0023-0

帯文(裏)より:厳密な理論派で文学への熱い情熱を隠さないM・バルガス・ジョサと、辛辣な知性から諧謔的ユーモアを繰り出すG・ガルシア・マルケス、現代ラテンアメリカ作家の頂点2人による若かりし頃の貴重な対談。バルガス・ジョサによるガルシア・マルケス論の白眉「アラカタカからマコンドへ」、文学への誠実な態度が垣間みえる「バルガス・ジョサへのインタビュー」を収録。
推薦文:ラテンアメリカ小説の稀代の語り部らが、自作の秘密を明かす。(鼓直)

★まもなく発売。「ガルシア・マルケスとバルガス・ジョサの対話」(1967年)、バルガス・ジョサによるガルシア・マルケス論「アラカタカからマコンドへ」(1969年)、エレナ・ポニアトウスカによる「バルガス・ジョサへのインタビュー」(1965年)を一冊にまとめた日本語版オリジナルのアンソロジーです。小さな本ですが、非常に濃密な内容です(それにしてもほとんど同時期に『TTT』のような翻訳不可能とされてきた作品とともにこうした重要なアンソロジーを手掛けられる寺尾さんの精力的なご活躍には目を瞠るばかりです)。ガルシア・マルケス(1928-)とバルガス・ジョサ(1936-)の二人の作家観の差異が見え隠れするような印象的なくだりを「対話」から引用しておきます。

ガルシア・マルケス:つまり、あなたの見解では、『百年の孤独』であれ、他の作家の作品であれ、読者がラテンアメリカの政治的・社会的現実を理解するための手引きとなりうる、というわけですか?
バルガス・ジョサ:私の考えでは、あらゆるすぐれた文学は、作者の意図に関わらず、避けがたく進歩的性格を持つものです。例えば、ボルヘスのように、保守的な、完全に反動的なメンタリティを持つ作家でも、創作においては保守的でも反動的でもないでしょう。彼の署名する愚かしい声明文を除けば、ボルヘスの作品には、社会や歴史への反動的姿勢を示すものなど何もないし、固定化された世界観とでも言うのか、ファシズムとか帝国主義とか、彼が称賛するイデオロギーを肯定するものは見当たらないでしょう。違いますか・・・?
ガルシア・マルケス:それはそうでしょう、自分の信条からも逃避するような作家なのですから・・・
バルガス・ジョサ:偉大な作家というのは、たとえ反動的な思想の持ち主であれ、自らの信条から逃避することで、現実のありのままの姿を描き出そうとするものでしょう。現実自体が反動的だということはないでしょうし・・・
ガルシア・マルケス:いや、我々は自分の信条から逃げるようなことはしていませんよ。例えば、私が小説のなかで描いたバナナ農園の悲劇は、私の信念に沿う形で提示されています。私が明らかに労働者の側に立っているでしょう。違いますか? だから、私の考えでは、作家の大きな政治的貢献とは、自らの信条や現実世界に背を向けることではなく、作品を通して読者が、自国の、さらには大陸全体の政治的・社会的現実をより深く理解できるよう努めることです。それは意味のある重要な仕事だし、それこそ作家の政治的機能だと思いますよ。というか、作家の機能はそれ以外にないでしょう。もちろん、一市民としてなら、作家は特定の政治思想に与してかまわない、というか、与するべきです。作家にはそれなりの影響力があるのだから、それを行使して政治的役割を果たすのは当然です。


ハンナ・アーレント――「戦争の世紀」を生きた政治哲学者
矢野久美子著
中公新書 2014年3月 本体820円 新書判上製256頁 ISBN978-4-12-102257-8

カバーソデ紹介文より:『全体主義の起原』『人間の条件』などで知られる政治哲学者ハンナ・アーレント(1906-1975)。未曽有の破局の世紀を生き抜いた彼女は、全体主義と対決し、「悪の陳腐さ」を問い、公共性を求めつづけた。ユダヤ人としての出自、ハイデガーとの出会いとヤスパースによる薫陶、ナチ台頭後の亡命生活、アイヒマン論争――。幾多のドラマに彩られた生涯と、強靭でラディカルな思考の軌跡を、繊細な筆致によって克明に描き出す。

目次:
まえがき
第1章 哲学と詩への目覚め 1906-33年
 I 子供時代
 II マールブルクとハイデルベルクでの学生生活
 III ナチス前夜
第2章 亡命の時代 1933-41年
 I パリ
 II 収容所体験とベンヤミンとの別れ
第3章 ニューヨークのユダヤ人難民 1941-51年
 I 難民として
 II 人類にたいする犯罪
 III 『全体主義の起原』
第4章 1950年代の日々
 I ヨーロッパ再訪
 II アメリカでの友人たち
 III 『人間の条件』
第5章 世界への義務
 I アメリカ社会
 II レッシングをとおして
 III アイヒマン論争
第6章 思考と政治
 I 「論争」以後
 II 暗い時代
 III 「はじまり」を残して
あとがき
主要参考文献
ハンナ・アーレント略年譜

★まもなく発売。アーレントは近年ますます著書や書簡集などの翻訳が充実してきており、持続的な再評価の波が続いています。ただ、アーレントについての研究書は複数見かけても入門書が少なく、さらに言えば新書のようなハンディな形態では仲正昌樹さんの『今こそアーレントを読み直す』(講談社現代新書、2012年)しかなかったのは不思議でした。そんななか、アーレントの翻訳に長年携わり、ご自身でも『ハンナ・アーレント、あるいは政治的思考の場所』(みすず書房、2002年)を上梓されたことのある矢野さんがアーレントの生涯と思想をコンパクトにまとめてくださったのは読書界にとって非常にありがたいことです。彼女の起伏に富んだ人生、数々の友情と決裂、孤高を畏れない発言の数々はいずれも印象的です。いくつもの困難に襲われながらも生き延び、いくつもの別れを繰り返しながらも生き抜いた彼女はしかし必ずしも孤独ではありませんでした。彼女の生涯を思う時、人は「誠実さとは何か」という問いに真摯に向き合わざるをえないのではないでしょうか。


脳の中の時間旅行――なぜ時間はワープするのか
クラウディア・ハモンド著 渡会圭子訳
インターシフト発行 合同出版発売 2014年3月 本体2,100円 46判上製304頁 ISBN978-4-7726-9539-8

帯文より:時間の不思議から、時間操縦術まで、数々の賞を受賞した著者が明かす。心のミステリーは時間が鍵を握っている! 年間ベストブック!(英国心理学協会 ポピュラーサイエンス部門)
帯文(裏より):「時間」の謎を解き明かす決定版! 脳の中に「時計」がある? うつになると、時間がゆがむ。言語は、時間の感じ方を変える? 時間が動く派、自分が動く派。ホリデー・パラドックスって? 時間の流れを変えるコツ。

★まもなく発売。原書は、Time Warped: Unlocking the Mysteries of Time Perception(Canongate Books, 2012)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ポピュラーサイエンス(一般向けの科学読みもの)の分野で話題作を続々と出版されているインターソフトさんの最新刊です。本書は時計で計測できる時間についてではなく、「頭の中の時間(マインド・タイム)」について書かれている興味深い本です。集中しているときは長く感じ、ぼんやり過ごすとあっという間に流れ去る時間。あるいは逆に、熱中していると時間の経過を忘れ、ぼうっとしているといつまでも流れ去らない時間。こうした誰にでもある時間のワープ(ゆがみ)の感覚は単なる錯覚ではなく、その感覚を脳が生み出していることを本書は教え、その仕組みを明かしていきます。「将来への展望をもとに決断をするとき、どのくらい正しい判断ができているか不安を感じたことがあるなら、第5章を読んでみるといいかもしれない。事故にあって時間が止まった感覚を経験したことがある人なら、第1章を読めばその理由がわかるだろう。時間がたつのがどんどん速くなっている、あるいは世界中で大きなニュースになった事件を、いつも実際より一年か二年前のこととして記憶しているという人なら、第3章がぴったりだ」(15頁)。読み進めるほどに「まじか」と感心しっぱなしで、時間の秘密を誰かに教えたくなる本です。マインド・タイムをコントロールできるかどうかが、時間と人生を操れるかどうかの鍵なわけです。書店さんでは本来、理工書売場で本書を扱われるのだと思いますが、ビジネス書や人文書でもヒットする予感がします。


現代デザイン事典 2014年版
勝井三雄・田中一光・向井周太朗監修 伊東順二・柏木博編集委員
平凡社 2014年3月 本体3,400円 B5変型判並製324頁 ISBN978-4-582-12933-5

帯文より:エキスパートによる〈思考〉と〈実践〉。特集=「〈弱い〉デザイン」。転換期に求められる多様なあり方。
帯文(裏)より:デザイン25分野800項目を収録。第一線で活躍中のクリエイター70余名による体験的・実践的な記述。【巻頭特集】「弱い」デザイン。【クローズアップ】デザインの歴史から現代的課題まで11本。【コラム】デザインを考える24本。【資料】デザイン賞受賞作品の紹介、デザイン人名録、ブックガイド、学校案内など最新の基本情報を網羅。カラー図版650点。

★まもなく発売。1986年に発刊以来、豊富な情報量と多数のカラー図版でデザインの現在を収集し続けてきた定番書目の最新版です。巻頭特集は「〈弱い〉デザイン」。現代の古典的論集『弱い思考』(法政大学出版局、2012年)が翻訳出版されている現在、「強さ」を凌ぐ「弱さ」の効用が見直される機運が高まっている気がします。ちなみに2011年度版の巻頭特集は「KOGEI(工芸)」、2012年度版は「兆しのデザイン」、2013年年度は「エネルギーシフト」でした。眺めているだけでも自分の創造力がアップするような気がする、感性が磨かれるハンドブックです。
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by urag | 2014-03-22 00:34 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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