2005年 05月 22日

今週の注目新刊(第5回:05年5月22日)

他社版元さんの新刊で、要チェックだなと感じた本を、毎週末、リストアップします。このほかにもたくさん素晴らしい本はありますが、自分がぜひ購読してみたいと思った書目に絞ります。

書誌情報の見方と配列は次のようになっています。

書名――副題
著者、訳者など
版元、本体価格、判型サイズ、頁数(本文, 本文とは別立ての巻末索引や巻頭口絵など)
ISBN、発行年月
■は、図書館流通センターさんや版元さんのデータを引用&活用した内容紹介。
●は、私のコメントです。

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英国美術と地中海世界
フリッツ・ザクスル+ルドルフ・ウィトカウアー著 鯨井秀伸訳
勉誠出版 本体15000円 タテ39cm 214p
4-585-00318-5 / 2005.04.
■英国を舞台とした全ヨーロッパを背景とする地中海世界の影響を跡付けるもので、イメージのライフサイクルをその研究主題とした、ウォーバーグ研究所の1948年までのほとんどすべての研究業績の集大成。
●サイズをご覧いただけたらお分かりになると思いますが、デカい本です。高額だしなあ、などとつべこべ言わずに購入しておくべき古典的基本図書です。

ルネサンスの哲学――ライプチヒ大学哲学史講義
エルンスト・ブロッホ著 古川千家+原千史訳
白水社 本体2600円 タテ20cm 229, 3p.
4-560-02449-9 / 2005.05.
■「ルネサンスとは人間の脳裏に未だ浮かんだことのないものの新生である」 自然を発見し限界突破を試みる10余名の先人を軸にすえ、特異な時代の意味を問う。極大と極小を同時に見据えるブロッホ哲学の原像。
●ブロッホの翻訳書は畢生の大著である『希望の原理』(白水社)をふくめ、すでに数多くありますが、未訳本はまだまだ多くあります。その意味においてだけでなく、ブロッホの思想的本質は、本来的に「来たるべき哲学者」であり続ける点に存すると思います。

正義の他者――実践哲学論集
アクセル・ホネット(1949-)著 加藤泰史+日暮雅夫+ほか訳
法政大学出版局 本体4800円 タテ20cm 399, 50p
4-588-00793-9 / 2005.05.
■実践哲学の相違する領域において何が正義の「他者」と言われうるのか。社会哲学・道徳哲学・政治哲学それぞれの体系的課題を独自の承認論を展開させて分析、正義の原理とその「他者」との関わりに新たな照明を当てる。叢書ウニベルシタス(793)。
●これまでの翻訳書も法政大学出版局の叢書ウニベルシタスから刊行されています。1992年『権力の批判――批判的社会理論の新たな地平』、2003年『承認をめぐる闘争――社会的コンフリクトの道徳的文法』。売れる売れないではなく、継続的に一人一人の著者や研究者と付き合っていくという法政さんの姿勢には見習うべきものがあります。たとえば、ドイツの文明史家であるハンス-ペーター・デュルやノルベルト・エリアス、フランスの哲学者ミシェル・セールやジョルジュ・カンギレムなどは、ほとんど法政さんが手がけられたものです。売れないと見るや二度とその著者の本は出さなくなるような日和見的出版社よりかはずっと良心的だと言えます。

離脱・発言・忠誠――企業・組織・国家における衰退への反応
A.O.ハーシュマン(1915-)著 矢野修一訳
ミネルヴァ書房 本体3500円 タテ22cm 212, 8p
4-623-04374-6 / 2005.06.
■人間の社会的行為の三類型を剔出したグランド・セオリーの改訳新版。経済学と政治学の対話の試みであるとともに、新古典派の市場主義原理によって切り裂かれつつある公共性復権の手がかりを与える現代社会科学の古典。MINERVA人文・社会科学叢書(99)。
●初版本は『組織社会の論理構造 : 退出・告発・ロイヤルティ』アルバート・O・ハーシュマン著、三浦隆之 (1945-)訳、ミネルヴァ書房、1975年、タテ22cm、198, 2p、当時の定価1600円。

モダニティと自己アイデンティティ――後期近代における自己と社会
アンソニー・ギデンズ著 秋吉美都+安藤太郎+筒井淳也訳
ハーベスト社 本体2800円 タテ21cm 299, 12p
4-938551-74-8 / 2005.04.
■モダニティの顕著な性格の一つである、グローバル化する力と個人的性向という二つの極の強くなっていく相互結合の特徴を分析し、それについて考えるための概念的語彙を提供する。
ハーベスト社さんは地道に社会科学系の基本図書を出版を続けておられる出版社さんです。この「地道」というのがどんなにかたいへんな事業であることか。

南アフリカでのサッティヤーグラハの歴史(2)非暴力不服従運動の展開
M.K.ガーンディー著 田中敏雄訳注
平凡社 本体2600円 タテ18cm 276p
4-582-80738-0 / 2005.05.
■南アフリカのインド人社会のために誕生し展開された非暴力不服従運動。やがてインド独立へと向かう運動の精神と実際。
●東洋文庫第738巻。全2巻完結です。第1巻の副題は「非暴力不服従運動の展開」でした。

魔術と狂気
酒井明夫(1950-)著
勉誠出版 本体2000円 タテ20cm 243p
4-585-05271-2 / 2005.05.
■古代における魔術的治療者の役割と意味、ルネッサンスの魔術師・自然哲学者の足跡、変身と憑依の系譜、魔術と狂気の類縁性などを検討しつつ、歴史から見た「狂気」の本質に迫る。著者は、岩手医科大学神経精神科教授。専門領域は精神医学史、医学哲学、文化精神医学、総合病院精神医学など。
●シリーズ「精神科医からのメッセージ 」の一冊。勉誠出版さんの書籍紹介ページによれば、本書の内容と目次は以下の通りです。大いに興味をそそられます。

内容紹介・解説:
西欧には、古代ギリシャの時代から、変身や魔女など狂気と深いかかわりを持つ魔術的事象が存在し、それとともに、呪文や秘薬など魔術的癒しの業も伝えられてきた。ここでは、超自然的モデルと、精神医学的モデルの双方から、古代における魔術的治療者の役割と意味、ルネッサンスの魔術師・自然哲学者の足跡、変身と憑依の系譜、魔術と狂気の類縁性などを検討しつつ、「歴史から見た狂気とは何か」に迫る。

目次:

第一章 メランプスの物語
メランプス伝説/預言者にして医師/薬と浄め/神と人間のメランプス
第二章 変身の病理
履歴としての変身/リュカントロピア/悪魔とリュカントロピア/レジナルド・スコットの反論/変身の意味
第三章 コルネリウス・アグリッパの肖像
アグリッパの生涯/アグリッパの著作について/アグリッパと狂気/フロル(furor)/恍惚状態(Raptus)/アグリッパと魔女裁判/魔術師アグリッパ/アグリッパとは何だったのか?
第四章 魔術と狂気
「ヒポクラテス」とガレノス/魔術師(マゴス)と呼ばれた人々/魔術の効能/非合理なるもの

バフチンと文化理論
ケン・ハーシュコップ+デイヴィッド・シェパード編著 宍戸通庸訳
松柏社 本体4000円 タテ22cm 377p
4-7754-0072-X / 2005.05.
■記号論者の先駆け、ロシアの文学者、 ミハエル・バフチンの思想の全貌に迫る一冊。
詩学、文芸評論に多大なる影響をあたえ、生成する対話 を軸に、ドストエフスキーとラブレーを読み解き、テクストの〈ポリフォニー〉に着目するバフチンの新たな側面に迫る、11名の俊英による論文集。執筆者:ニコライ・パンコフ、グレアム・ペチイ、クレア・ウィルズ、ブライアン・プール、ナンシー・グレイジナー、トニー・クローリー、アン・ジェファーソン、テリー・イーグルトン、キャロル・アドラム。
●叢書「言語科学の冒険」第24巻。バフチンといえば、水声社さんから1999年より刊行中の『ミハイル・バフチン全著作』はぜひ完結してほしいと切に願っています。それにしても、新時代社さんから刊行されていた『ミハイル・バフチン著作集』全8巻が絶版になっているのはかえずがえすももったいないことだと思います。ちくま学芸文庫さんあたりが文庫化してくださらないのかなあ、と妄想。

【今週の文庫編】

弁論家について(上)
キケロー著 大西英文訳
岩波書店(岩波文庫) 本体800円 タテ15cm 394p
4-00-336114-8 / 2005.05.
■ローマ最高の弁論家キケロー(前106─前43)が、既存の弁論術を批判し、実践弁論の復権、哲学と弁論の再結合を説く。〈人間的教養〉の勧めである本書は、ヨーロッパ的精神の一大指導理念たる〈ヒューマニズム〉の形成にも大きな影響を与えた。自らの理念に忠実に生き、それに殉じた一つの偉大な精神の金字塔。(全2冊)
●わが国の国会議員全員の必読書に指定したいと思います。

法学講義
アダム・スミス(1723-1790)著 水田洋(1919-)訳
岩波書店(岩波文庫) 本体1100円 タテ15cm 522p
4-00-341058-0 / 2005.05.
■スミスは、道徳哲学、経済学、法学の三部作によって、産業革命期のイギリス近代社会の構造を道徳哲学(あるいは社会哲学)の体系として提示しようとした。前二者については「道徳感情論」「国富論」として結実したが、法学については未刊のまま没。本書はグラスゴウ大学の道徳哲学教授として行なった法学講義の筆記録。
●1947年に日本評論社より刊行された『グラスゴウ大学講議』高島善哉 (1904-1990) +水田洋訳、タテ22cm、488ページの改訳と思われます。この、高島先生との共訳書が、水田先生にとっての、スミスの初めての翻訳単行本だと思います。以後、半世紀以上の長きにわたって、水田先生のスミス翻訳書は刊行され続けています。

『国富論草稿』日本評論社(世界古典文庫・ 第86巻)、1948年、タテ15cm、190ページ。
『世界大思想全集(第2期第3巻)国富論』河出書房新社、1961年、タテ19cm、290ページ。水田洋監訳、岩波文庫版全4巻、2000年-2001年。
『道徳感情論』筑摩書房、1973年、タテ23cm、558ページ。岩波文庫版上下巻、2003年。
『アダム・スミス哲学論文集』水田洋訳者代表、名古屋大学出版会、1993年、タテ20cm、362,9ページ。
『アダム・スミス修辞学・文学講義』水田洋+松原慶子訳、名古屋大学出版会、 2004年、タテ20cm、390,25ページ。グラースゴウ大学所蔵の手稿に基づく新訳決定版。未来社から1972年に刊行されたのは、ジョン・M・ロージアン編、宇山直亮訳、タテ22cm、383,14ページ。

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以上、今回は1192点の新刊のなかから、単行本8冊、文庫本2冊を選びました。全部を購入した場合、39,200円也。(H)
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by urag | 2005-05-22 02:51 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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