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2013年 12月 22日

注目文庫10月~12月:平凡社ライブラリー、岩波文庫、ほか

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10月から12月のここ3ヶ月間で発売された注目の文庫新刊について版元別にチェックします。取り上げる点数の多い順番にご紹介しますが、分量が多いため、二回に分けてアップします。先週はちくま学芸文庫と講談社学術文庫について書きした。今回は平凡社ライブラリー、岩波文庫、角川ソフィア文庫、文春学藝ライブラリー、文春ジブリ文庫、河出文庫について取り上げます。

◎平凡社ライブラリー:5点5冊

2013年10月『ボルヘス・エッセイ集』ホルヘ・ルイス・ボルヘス著、木村榮一編訳、本体1,200円 
2013年11月『向こう岸から』アレクサンドル・ゲルツェン著、長縄光男訳、本体1,400円 
2013年11月『技術への問い』マルティン・ハイデッガー著、関口浩訳、本体1,500円 
2013年12月『美学イデオロギー』ポール・ド・マン著、上野成利訳、本体1,900円 
2013年12月『中国奥地紀行1』イザベラ・バード著、金坂清則訳、本体1,600円 

『ボルヘス・エッセイ集』は、2005年の『エル・アレフ』に続く、木村榮一さん訳の新訳ボルヘス本です。今回は3つのエッセイ集から20篇を選んだオリジナル版となっています。『論議』(1932年)全20篇から4篇、「現実の措定」「物語の技法と魔術」「ホメロスの翻訳」「フロベールと模範的な運命」。『永遠の歴史』(1936年)から序文を除く全10篇のうち1篇、「永遠の歴史」。『続・審問』(1952年)からエピローグを除く全38篇のうち15篇「城壁と書物」「パスカルの球体」「コールリッジの花」「『キホーテ』の部分的魔術」「オスカー・ワイルドについて」「ジョン・ウィルキンズの分析原語」「カフカとその先駆者たち」「書物の信仰について」「キーツの小夜啼き鳥」「ある人から誰でもない人へ」「アレゴリーから小説へ」「バーナード・ショーに関する(に向けての)ノート」「歴史を通してこだまする名前」「時間に関する新たな反駁」「古典について」。なお、『論議』の全訳には牛島信明訳(国書刊行会、2000年)が、『永遠の歴史』は土岐恒二訳(筑摩叢書、1986年;ちくま学芸文庫、2001年)が、『続審問』は中村健二訳(『異端審問』晶文社、1982年;改題、岩波文庫、2009年)があります。ボルヘスは何度新訳が出ても嬉しい作家の一人です。

ゲルツェン『向こう岸から』はライブラリー・オリジナルの新訳。訳者の長縄光男さんはかつてゲルツェンの大著『過去と思索』の改訳ならびに完訳を達成され(全3巻、筑摩書房、1998-1999年)、日本翻訳出版文化賞を受賞されており、昨年のゲルツェン生誕200周年の折には『評伝ゲルツェン』(成文社、2012年)を上梓されています。回想録である『過去と思索』に対し、『向こう岸から』は、トクヴィル『フランス二月革命の日々』(喜安朗訳、岩波文庫、1988年)やマルクス『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』(伊藤新一・北条元一訳、岩波文庫、1954年;植村邦彦訳、太田出版、1996年/平凡社ライブラリー、2008年)と並ぶ、1848年革命論の古典的名著のひとつです。これまでの既訳に、外川継男訳(『向う岸から』、現代思潮新社、1970年;オンデマンド復刊、2008年)や、森宏一訳(「向う岸から」、『ゲルツェン著作選集(2)』所収、同時代社、1985年)があります。

今回の新訳の巻末に付された訳者による「解説」で、長縄さんは「〔トクヴィルの本は〕勝利したブルジョアジー、とりわけ中産的ブルジョアジーの視点から書かれた著作であり、〔マルクスの本は〕敗北したパリの市民・労働者の視点から書かれた著作であるとすれば、ゲルツェンの著作もまた、明確に、敗者の視点から書かれている」と説明されておられます。現代の日本において、とりわけ「3・11」以後の複雑な状況下で『向こう岸から』を読むことは、ある種の戦慄を伴わずにはいられません。革命ではなく、地震と津波、原発事故の複合災害を経験してきた私たちにとって、なぜ『向こう岸から』が胸にこうも刺さるのか。「一見したところ、まだ多くのものがしっかりと立ち、物事は捗っているように見える。判事は裁き、教会は開かれ、取引所は活況を呈している。軍隊は演習を行い、宮中には明かりが煌々と灯っている。――だが、命の息吹は消え、誰の心にも不安がある。死は背後に忍び寄り、そして、本質的には何一つとして捗っていない。本質において、教会もなく、軍隊もなく、政府もなく、裁判所もない。すべてが警察に変わってしまったのだ」(209-210頁)。

ハイデッガー『技術への問い』の親本は2009年刊。ライブラリー化にあたって、科学哲学者の村田純一さんによる解説「技術との自由な関係とは?――福島原子力発電所事故とハイデッガーの技術論」が加えられています。帯文には國分功一郎さんの推薦文が掲げられています。曰く「本書から見えてくるのは、我々がいま直面している危機に他ならない。ハイデッガーを読むとは、すなわち、危機について思考することである」。ハイデッガーはこう書きます。「教養の時代は終わりつつあるが、それは無教養な者が支配権を握ったからではない。問うに値するものがはじめてあらゆる事物と命運とにおける本質的なものへの門をふたたび開く、そのような時代の兆しが明らかになったからなのである」(110頁)。

ド・マン『美学イデオロギー』の親本は2005年刊。先日もご紹介した通り、本年2013年は、ド・マンの没後30年にあたり、岩波の月刊誌「思想」7月号では特集号「ポール・ド・マン――没後三〇年を迎えて」が組まれました。来年は盟友のデリダの没後10年であり、まもなく『エクリチュールと差異』の新訳が法政大学出版局より刊行されます。バード『中国奥地紀行1』の親本は2002年刊の東洋文庫。同文庫と同様に全2巻で刊行されます。同紀行は『日本奥地紀行』『朝鮮奥地紀行』に続く、バードのアジア紀行第3弾にして、彼女の最後の旅行記です。19世紀末の揚子江流域を奥へ奥へと遡行する旅程が、貴重な写真とともに綴られています。読めば分かる通り、大都会である上海はともかく、上流へと遡るほどに旅行というよりは探検並みの苦労をしています。とても60代後半を迎えた老婦人の旅路とは思えません。


◎岩波文庫:2点2冊

2013年11月『ブレイク詩集』寿岳文章訳、本体1,020円
2013年12月『存在と時間(四)』ハイデガー著、熊野純彦訳、本体1,200円

『ブレイク詩集』は弥生書房版『ブレイク詩集』(1968年)や、西村書店版『エルサレムへの道――ブレイク詩文選』(1947年)、酣燈社版『ブレイク詩集』(1950年)、さらに私家版2点とその再刊(『複製 向日庵私版「無染の歌」「無明の歌」』集英社、1990年)などを底本に編まれた一書です。詳しくは文庫編集部による例外的に長い「編集付記」(319頁)をご覧ください。要するにこれまで別々に刊行されてきた本が一冊にまとまり、旧仮名旧字体が新仮名新字体に改まって(一部文語調のものは旧仮名のまま)、読みやすく入手しやすくなった決定版が生まれたと言っていいと思います。

岩波文庫ではこれまで同訳者による『ブレイク抒情詩抄』(1931年)、『改訳 ブレイク抒情詩抄』(1940年)を刊行し、さらに近年では対訳版の「イギリス詩人選」第4巻として、松村正一編『対訳 ブレイク詩集』(2004年)を出版してきました。また、現在も入手可能な文庫版詩集には、土居光知訳『ブレイク詩集』(平凡社ライブラリー、1995年)があります。何と言っても惜しいのは、角川文庫版の寿岳文章訳『無心の歌、有心の歌』(1999年)が長期品切のままなことです。同書はブレイクの原書のオリジナル図版がカラーで収録されており、巻末には中沢新一さんによる解説「はちきれそうな無垢」が置かれています。小さいサイズとはいえ、ブレイクの豊かな色彩感覚を堪能できる貴重な文庫だっただけに、たいへんもったいないです。アマゾン・ジャパンでは同書のなか見!検索で、いくつかの図版を見ることができます。当時で1000円というのは角川文庫では例外的に高い部類だったろうと思いますが、再刊される場合はさらに値段が高くなるのもやむをえないとして、ぜひ紙質を上げて、切らさずに重版し続けてほしいです。

ハイデガー『存在と時間(四)』は、熊野純彦さんによる新訳の完結編です。巻末に訳者あとがきの類いはなく、今まで通り巻頭に「梗概」があるのみ。一見、そっけないように感じるこうしたシンプルさにかえって好感を覚えます。熊野さんは今年は『存在と時間』新訳の完結だけでなく、昨年に続いてカント三批判書の新訳第二弾『実践理性批判』(作品社)を春に上梓されましたし、さらには大著『マルクス資本論の思考』(せりか書房)を秋に出版されました。今年の哲学書売場では、著書に訳書にと熊野さんのご活躍は強く印象付けられました。また、『存在と時間』は今年、熊野さん訳だけでなく高田珠樹訳(作品社)が先月刊行されており、二種類の新訳の出現には本当に驚きました。

岩波文庫恒例の秋の一括重版についても一言触れておこうと思います。重版や復刊で買い直しておきたいのは、そろそろ重版が終わりそうだったり、重版のペースが遅かったりする書目です。デカルト『精神指導の規則』(野田又夫訳)は初版が1950年で、今回の重版書の中ではもっとも古い刊行物です。74年以降は改訳版になっているとはいえ、累計44刷を数えますので、『方法序説』のようにそろそろ新訳が出たとしてもおかしくありません。文庫の本文紙は経年劣化しやすいですから、同じ本を持っていたとしても買い直しておいた方が良いこともあります。今回の重版は同文庫で野田又夫(1910-2004)さんの『哲学の三つの伝統 他十二篇』が今月刊行されたことによるカップリングかと想像しました。1984年に刊行されたものの今回の重版でまだ3刷を数えるのみのカウティリヤ『実利論――古代インドの帝王学』(上下巻、上村勝彦訳)も念のため買っておきます。また、88年に刊行され、今回10刷となるシャンカラ『ウパデーシャ・サーハスリー』(前田専学訳)もインドの古典繋がりで押さえておきます。いずれも名著ですから今後も定期的に重版されるでしょうし、電子書籍にもなるだろうと思いますが、紙媒体ではいつ途切れるか、保証はありません。

さらに古典ものの現代語訳や解説本といった趣向では、岩波現代文庫がここ三カ月連続で注目新刊を出しています。『現代語訳 学問のすすめ』(伊藤正雄訳、本体1,080円、2013年10月)、『現代語訳 徒然草』(嵐山光三郎訳、本体740円、2013年11月)、『岡倉天心『茶の本』を読む』(若松英輔著、本体900円、2013年12月)です。こういう試みは今後も続けてほしいです。


◎角川ソフィア文庫:1点3冊

2013年11月『神曲 地獄篇』ダンテ著、三浦逸雄訳、本体880円
2013年11月『神曲 煉獄篇』ダンテ著、三浦逸雄訳、本体880円
2013年11月『神曲 天国篇』ダンテ著、三浦逸雄訳、本体880円

三浦逸雄訳『神曲』全三巻は、角川文庫より1970年(地獄篇、煉獄篇)と1972年(天国篇)に刊行されたものの再刊です。挿絵はボッティチェリの素描を使用。同作地獄篇を題材にしたダン・ブラウンの最新作『インフェルノ』の刊行に合わせての発売です。各篇巻末には作家によるエッセイが併載されています。地獄篇には島田雅彦さんによる「文字の時限爆弾」、煉獄篇には、訳者の息子である三浦朱門さんによる「父・三浦逸雄とダンテの神曲」、天国篇には中沢新一さんによる「ダンテのトポロジー」が載っています。現在も入手可能な『神曲』三部作の文庫本には、山川丙三郎訳(岩波文庫、1952/1953/1958年)、寿岳文章訳(集英社文庫、2003年)、平川祐弘訳(河出文庫、2008/2008/2009年)があります。入手困難だった三浦訳の再刊によって、四種を読み比べできることになったわけです。

先週、ちくま学芸文庫の空海『秘密曼荼羅十住心論』上下巻を取り上げましたが、文庫で読める空海の現代語訳は、角川ソフィア文庫も出しています。ここ三カ月の新刊ではありませんけれども、7月には『「即身成仏義」「声字実相義」「吽字義」』(加藤精一編)が刊行され、2年前に刊行された『般若心経秘鍵』(加藤精一編)も今年4月に第5版を数えています。また、上記2作と『秘密曼荼羅十住心論』の簡略本『秘蔵宝鑰』、そして空海の青年期の著書『三教指帰』(どちらも加藤純隆・加藤精一訳)、これら角川ソフィア文庫のすべての空海本は今年9月に電子書籍版も発売されています。


◎文春学藝ライブラリー/文春ジブリ文庫/河出文庫:各1点1冊

2013年10月『デフレ不況をいかに克服するか――ケインズ1930年代評論集』ジョン・メイナード・ケインズ著、松川周二編訳、文春学藝ライブラリー、本体1,120円
2013年11月『シネマ・コミック(4)火垂るの墓』野坂昭如原作、高畑勲脚本・監督、文春ジブリ文庫、本体1,570円
2013年10月『生命とリズム』三木成夫著、河出文庫、本体850円

以前も取り上げましたが、今年10月に創刊された文春学藝ライブラリーは、上記のケインズの訳書のほか、内藤湖南『支那論』、文藝春秋編『天才・菊池寛――逸話でつづる作家の素顔』、江藤淳『近代以前』、福田恆存『保守とは何か』浜崎洋介編、の合計5点を創刊時に同時発売し、今月はリチャード・ニクソン『指導者とは』徳岡孝夫訳、磯田道史『近世大名家臣団の社会構造』、保田與重郎『わが萬葉集』片山杜秀解説、山本七平『聖書の常識』佐藤優解説、の4点を刊行しています。ケインズ『デフレ不況をいかに克服するか』は副題の通り1930年代の評論(論文や講演録)16篇をまとめたものです。すべて初訳。失業、不況、財政危機、関税、自給(国内での生産と消費)、人口減少など、今なお続いている問題に対して分析と提言を行っています。

文春ジブリ文庫の「シネマ・コミック」待望の第4弾は『火垂るの墓』。オリジナル新編集で全セリフと全シーンを収録するシリーズで、毎回楽しみにしています。『火垂るの墓』は何回見ても胸が締め付けられる名作。以前、アメリカの著名なアニメ研究家が本作を論じているのを読んで、その薄っぺらい分析に心底失望した記憶が蘇ります。戦勝国には理解できないのだ、とまでは言いたくありませんが、言い知れぬ隔たりを感じました。同文庫では11月に宮崎駿監督のインタヴュー集『風の帰る場所――ナウシカから千尋までの軌跡』を発売し、また今月は文春文庫で大塚ひかりさんによる現代語訳『ひかりナビで読む竹取物語』が刊行されました。言うまでもなく、高畑勲監督の最新作映画「かぐや姫の物語」公開に合わせた出版で、現代語訳はほかにも川端康成訳(河出文庫)が先月、田辺聖子訳(岩波現代文庫)が来月発売。なお、「シネマ・コミック」の第5弾は来月初旬発売予定の『魔女の宅急便』です。キキがデッキブラシで飛ぶシーンは何度見ても鳥肌が立ちます。

河出文庫の今月新刊、三木成夫『生命とリズム』は、今年3月刊の『内臓とこころ』に続く文庫化。親本は『人間生命の誕生』(築地書館、1996年)で、文庫化にあたって「胎児の世界と〈いのちの波〉」(1987年)と「呼吸について」(1985年)の二篇を増補し、巻末に甲野善紀さんによる文庫版解説「生物は環境に適応する」が収録されています。帯文にある「「ツボ」や「おしゃべり」、「朝寝坊」から「イッキ飲み」までを宇宙レベルで説き起こす、「三木生命学」のエッセンス」という宣伝文句が素敵です。

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文庫についての紹介はここまでですが、先週および今週の話題と関連する今月発売の新刊2点について言及しておきたいと思います。まず、中公クラシックスのトゥキュディデス『戦史』ですが、岩波文庫全三巻と同じ久保正彰訳で予告されていたので、全訳全一巻で読めるのではとワクワクしていたところ、『世界の名著(5)ヘロドトス/トゥキュディデス』からのスイッチのため、親本通り、抄訳なのでした。岩波が全訳本の版権を押さえているのでしょうから仕方ありません(私の手元にある最新版は2005年2月の復刊ですが来年2月にも重版されます)。クラシックスでの再刊にあたり、巻頭には桜井万里子さんによる長篇解説「『戦史』の拓く地平」が置かれています。

次に、三木成夫さんの新刊『生命の形態学――地層・記憶・リズム』(うぶすな書院、2013年12月)です。この著作は、もともと現代社の季刊誌「綜合看護」に、77年から79年にかけて全6回が連載されたものです。うぶすな書院さんの既刊書『生命形態の自然誌(I)』(1989年)に全文が、また、『生命形態学序説――根原形象とメタモルフォーゼ』(1992年)に前半3回分が掲載されています。前者は高額本で、後者は全文ではないという理由から、今回の新刊の必要性が出てきたものかと拝察します。B5判上製248頁という大判本ですが、本体2,500円という驚きの安さ。巻頭には谷川俊太郎さんによる序文「変幻するかたち」が置かれ、巻末には発行者の塚本庸夫さんによる「あとがき 編集後記」が配されています。いずれも三木さんへの思いが温かい、素晴らしい文章です。ISBNは978-4-900470-29-3です。ちなみに奥付裏の自社広告には、ヴェサリウスのかの『ファブリカ 第I巻・第II巻』(島崎三郎訳、うぶすな書院、2007年、本体35,000円)が掲載されています。新刊書店での扱いは今や皆無なので削除しそびれたのだろうかと思う半面、ひょっとして、という思いもよぎります。

『生命の形態学』をご紹介する際に、ぜひとももう一冊言及しておかねばならない本があります。新刊ではなく今年9月の既刊書で、クリストファー・アレグザンダー『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー:建築の美学と世界の本質――生命の現象』(中埜博監訳、鹿島出版会)です。『生命の形態学』と同様のB5判の大冊。本体9,500円と高額ではあるものの、この版型で490頁の上製本、図版も600点強を収録している訳本ですから、むしろ1万円以内に収まっていることに版元さんの良識を感じます。三木さんの本は生物学や生命論、解剖学の棚で扱われ、アレグザンダーの本は建築学の棚で扱われると思うのですが、ともに「生命とかたちと美」へのアプローチが根底にあって、じつに感動的です。これまでアレグザンダーの主著と言えば『パタン・ランゲージ――環境設計の手引』(平田翰那訳、鹿島出版会、1984年)で決まりでした。おそらくこれからは『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』こそがアレグザンダー理論の集大成だと呼ばねばなりません。

今回訳されたのは『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』4部作の第1巻で、原著は2002年にCenter for Environmental Structureから刊行されています。監訳者による巻末解説によれば、第2巻以降の出版も「可能にしていきたい」とのことで、期待せずにはいられません。「有機、無機にかかわらず、すべての空間やものには一定量の「生命」があり、これらのものや空間はその構造や配置により「生命」を強くすることも弱くすることもある」(4頁)とアレグザンダーは書きます。秩序の本質や本物の美といった、抽象的思考の対象でしかないと思われがちなものに向けられたアレグザンダーの飽くなき視線は、多岐の分野に渡る図版と探求心に溢れた筆致、分析と論証への物怖じしない意志を伴って、読者を未聞の旅へと誘います。本書は建築書売場だけでなく、哲学書の売場で展開しても大いに注目を浴びるのではないでしょうか。このクリスマスに自分へのプレゼントとして何か本を買おうと考えておられる方には本気で本書をお薦めしておきます。世界の見え方が変わるかもしれません。

鹿島出版会さんでは、本書の刊行を記念して、同じ9月にアレグザンダーの既刊書のうち、品切本の再刊がSD選書で果たされています。『オレゴン大学の実験』は4刷出来、91年の単行本『パタンランゲージによる住宅の建築』(中埜博監訳)は『パタン・ランゲージによる住宅の生産』と改題され、SD選書に編入されました。さらに驚くべきことに、古書価が異様に高くてなかなか手を出しにくかった『形の合成に関するノート』(稲葉武司訳、鹿島出版会、1978年)が今月、SD選書で再刊されました。しかも、初期アレグザンダーの有名な概念「セミラチス」の出典であり、古い雑誌でしか読むことのできなかった重要論考「都市はツリーではない」(押野見邦英訳)を併録しての再刊です。巻末の解説は中埜博さんが書かれています。アレグザンダーの新刊や再刊の刊行に合わせて、鹿島出版会さんでは9月に非売品の冊子「SD選書の本」を製作されました。これは単なる選書の目録ではなくて、識者34名によるアンケート「私のSD選書」や、過去の書評の貴重な再録などを含んだ、たいへん読み応えのある冊子です。巻頭グラビアは選書の装丁の変遷の紹介。書店店頭で見かけたらぜひ入手されてください。

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by urag | 2013-12-22 23:04 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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