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2005年 05月 06日

川田喜久治さんが言及されていた写真集"100 SUNS"

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写真に写っている本は、川田喜久治さんが『地図』新版に寄せられたエッセイ「「しみ」のイリュージョン」で言及されていた写真集"100 SUNS"です。川田さんは次のように書いておられます。

「二〇〇四年に『100 SUNS』という原水爆実験一〇〇の記録を編んだ写真集がロンドンで出版された。人類を瞬時に消滅させる分裂連鎖反応が発するキノコ雲は、時に美しく、茫然自失の光景だが、絵巻として、とどめなくてはならない。」

「曖昧な眠りを裂くための枕頭の書」と川田さんが表現されたこの写真集のことを知ったのは、たしか一昨年のこと、『地図』新版製作の打ち合わせの際でした。川田さんが示された一冊の写真集の印象は強烈で、その日のうちにオンライン書店へ注文を出しました。

本書に収められた百景の恐ろしさと輝きは、実験の淡々とした記録に「過ぎない」ために、よりいっそうニュートラルなものに見えます。これを怒りをもって見つめる人もいれば、美の顕現として恍惚のうちに眺める人もいるでしょう。この「ニュートラル」はしかし、憤激からも恍惚からも本当に等距離にあるような「中立」を意味するのでしょうか。

写真におけるそうした中立的境位の問題はなかなか議論が難しいように思います。写真は「視線」を持ちます。「視線」は中立的でしょうか。写真の再現性が中立的なのでしょうか。

核実験はある種の政治的軍事的立場から行われるものなのですから、その立場から記録された写真は、少なくとも「公平」や「不偏不党」という意味でのニュートラルな視点から撮られたものではありえません。また、核実験はいわゆる「中立国」という意味でのニュートラルな立場から実行されたものでもないわけです。

アメリカ公文書館とロス・アラモス国立研究所が収蔵するこれらの景色(1945年7月から1962年11月までの記録)は、たしかに、かつてロバート・オッペンハイマーが初の核実験成功を目の当たりにした時、脳裏に浮かんだという『バガヴァッド・ギーター』の一節を、私たちの胸に再び呼び起させる気がします。

「私は世界を滅亡させる強大なるカーラ(時間[運命、死])である。諸世界を回収する(帰滅させる)ために、ここに活動を開始した。」

破壊のために生み出された人工の巨神たちの降臨を映し出した、恐るべき写真集です。購入しておいて損はないと思います。

写真資料をディジタル処理して再現し、本書をデザインしたのは、"Full Moon"などで著名な写真家マイケル・ライト氏です。2003年10月のクレジットで、ニューヨークのクノップフ社から刊行されています。イギリス版は、ジョナサン・ケイプ社より刊行。

Michael Light, "100 SUNS", Alfred A. Knopf, 2003, ISBN1-4000-4113-9.

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by urag | 2005-05-06 23:02 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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