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2013年 11月 17日

注目の近刊と既刊:古典的名著の新訳や復刊

今月から年末にかけて、古典ものの魅力的な訳書の刊行が続きます。

11月22日『存在と時間』マルティン・ハイデガー/高田珠樹訳/作品社/本体6,800円
11月25日『新天文学――楕円軌道の発見』ヨハネス・ケプラー/岸本良彦訳/工作舎/本体10,000円
11月28日『増補新版 愛の新世界』シャルル・フーリエ/福島知己訳/作品社/本体8,200円
12月05日『アリストテレス全集(5)天界について/生成と消滅について』岩波書店/本体5,600円
12月10日『ノイマン・コレクション(1)数理物理学の方法』J・フォン・ノイマン/伊東恵一編訳/ちくま学芸文庫Math&Science/本体1,500円
12月17日『存在と時間(四)』ハイデガー/熊野純彦訳/岩波文庫/本体1,200円
12月予定『ヘーゲル論理の学 第三巻 概念論』ヘーゲル/山口祐弘訳/作品社/予価6,800円

高田訳『存在と時間』は全一巻。原書が全一巻なので、訳書の方も分冊の煩わしさがない方が便利です。用語・訳語解説、詳細事項索引を完備。12月には熊野訳『存在と時間』も第四巻が出て全四巻完結。美装ケースセットも同時発売でセット本体4,980円。20世紀哲学を代表する難解な書の新完訳が連続で出るというのは本当に驚きです。

ケプラー『新天文学』は『宇宙の神秘』『宇宙の調和』に続く天文三部作の第三弾です。副題にある通り、惑星の楕円軌道の発見に至るケプラーの研究を示した歴史的古典です。ラテン語原典より本邦初完訳。訳注・解説・索引 を完備。第一弾『宇宙の神秘』が刊行されたのが1982年ですから30年越しの完結になります。感激、ただただ感動です。

なお、ケプラー関連の近刊には、ドイツの科学ジャーナリストによるベストセラー評伝、トーマス・デ・パドヴァ『ケプラーとガリレイ――書簡が明かす天才たちの素顔』(藤川芳朗訳、白水社)が12月に刊行予定と聞きます。

フーリエ『増補新版 愛の新世界』は、2006年に800部限定で刊行され、一時期はアマゾン・マーケットプレイスで古書価が数十万円もの異常な高騰を示していた幻の書の、待望の再刊です。旧版を増補し、草稿ノートと照合して厳密に校訂したとのことで、初版を持っている読者も絶対に買っておきたい一冊。発行部数が劇的に増えるということではないでしょうから、買っておかないとまた品切になるだろうと思います。7年前の旧版が本体7,800円で今回わずか400円の値上がりに過ぎないというのは良心的です。

『アリストテレス全集(5)天界について/生成と消滅について』は第二回配本。「天界について」「生成と消滅について」は、旧全集では第4巻(1968年刊)に収録。前者は村治能就訳、後者は戸塚七郎訳でした。今回の新訳では前者が山田道夫訳、後者は金山弥平訳です。周知の通り、近年、二作とも京都大学学術出版会の「西洋古典叢書」で池田康男さんによる新訳が刊行されてきました。前者は『天について』(1997年)、後者は『生成と消滅について』(2012年)です。

『ノイマン・コレクション』は全三巻予定でまず第一巻が「数理物理学の方法」です。ちくま学芸文庫ではこれまでに『計算機と脳』(柴田裕之訳、2011年)や、モルゲンシュテルンとの共著『ゲームの理論と経済行動』(全三巻、銀林浩ほか完訳、2009年)など、ノイマンの名著の新訳や復刊を手掛けてきましたが、今回はすべて新訳ということになるものと思われます。

『ヘーゲル論理の学 第三巻 概念論』は第一巻「存在論」(2012年12月)、第二巻「本質論」(2013年5月)に続く「大論理学」新訳全三巻の最終巻です。まだ発売日が確定していないようですが、もし年内の刊行となると、編集担当が高田訳『存在と時間』と同じ方(ヴェテランのTさん)なので、大作を二点続けて手掛けられることになり、今年は熊野訳『実践理性批判』も担当されておられますので、そのご活躍たるや、2013年の哲学書編集者賞を差し上げるべきなくらいです。

これらのほかにも、注目新刊はまだあります。たとえば、昨春から昨秋にかけて縮刷版全6巻という形で復刻された雄山閣さんの『プリニウスの博物誌』が、その後別巻を刊行していて、9月の別巻1『古代へのいざない』(H・N・ウェザーレッド著、中野里美訳;1990年『古代へのいざない――プリニウスの博物誌』の復刊)に続いて、まもなく別巻2である中野里美『ローマのプリニウス(仮)』が刊行予定と聞いています。

また、京都大学学術出版会の「西洋古典叢書」や「近代社会思想コレクション」の近刊も見逃せません。「西洋古典叢書」では今年、通算100点目となるヘシオドス『全作品』(中務哲郎訳、2013年5月)を刊行したほか、先月はプルタルコス/ヘラクレイトス『古代ホメロス論集』(内田次信訳、2013年10月)、そして来月は本邦初訳となるリバニオス『書簡集(1)』(田中創訳、2013年12月5日頃発売、全三巻予定)が刊行されます。「近代社会思想コレクション」では、これも本邦初訳でサン−ピエール『永久平和論』(本田裕志訳、全二巻)の第1巻が先月刊行、第2巻が来月刊行予定です。

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今年も一年があっという間に過ぎようとしていますが、当ブログでまだご紹介していなかった(あるいは簡単に触れただけだった)既刊書の中から、どうしても振り返っておいた方がいいと思う古典ものについて最後に列記しておきたいと思います。

2013年07月『アナキスト地人論――エリゼ・ルクリュの思想と生涯』エリゼ・ルクリュ+石川三四郎/書肆心水/本体3,600円
2013年09月『エントロピーの起源としての力学的熱理論――クラウジウス熱理論論文集』ルドルフ・クラウジウス/八木江里監訳/林春雄・依田聖・岡本里夏訳/東海大学出版会/本体4,200円
2013年09月『[増補版] 政治における合理主義』マイケル・オークショット/嶋津格ほか訳/勁草書房/本体4,500円
2013年09月『ジョルダーノ・ブルーノ著作集(5)傲れる野獣の追放』ブルーノ/加藤守通訳/東信堂/本体4,800円
2013年10月『新装版 老い』巻/シモーヌ・ド・ボーヴォワール/朝吹三吉訳/人文書院/本体上巻2,800円・下巻3,000円

まず『アナキスト地人論』は前半がルクリュ「地人論」で、後半が石川三四郎のルクリュ論です。「地人論」は、石川三四郎訳『地人論(1)人祖論』(春秋社、1930年)から、序、第2章、第3章、第6章を抜き出して収録したものです。後半のルクリュ論は、石川三四郎『エリゼ・ルクリュ――思想と生涯』(国民科学社、1948年)が底本。フランスの地理学者エリゼ・ルクリュ(Élisée Reclus, 1830-1905)の『人間と大地』全4巻はアナーキスト地理学の古典的名著で、とりわけその第一巻『人祖論』全六章は、石川三四郎(いしかわ・さんしろう:1876-1956)の訳で春秋社より昭和5年(1930年)に刊行されて以来、1943年に有光社より『世界文化地史大系・第一巻』として再刊され、さらに1978年には黒色戦線社版「石川三四郎選集」第6巻として再々刊されてきました。それぞれ紙型再利用版と縮小写真版でしたが、今回の『アナキスト地人論』では新組のため、抄録版とはいえ、読者にとってより接しやすくなっていると思います。なお、石川のルクリュ論は黒色戦線社版選集では第5巻(1983年)に収められています。石川選集第6巻の解題で大沢正道さんはこう書かれていました。「『地人論』の翻訳は石川の悲願にもかかわらず、未完成のままに終っている。この復刻を機会として、石川の悲願を継承する篤学の士は現れぬものだろうか」。この言葉からはや35年、ルクリュは近年再評価の機運が高まりつつあります。

『エントロピーの起源としての力学的熱理論』は、ドイツの物理学者クラウジウス(Rudolf Julius Emmanuel Clausius, 1822-1888)の著書『力学的熱理論論文集』(全二巻、1864/1867年)の抄訳で、1850~65年に発表された、熱力学、蒸気機関、輻射理論、電気理論などの熱理論論文7篇が選ばれ、翻訳され解説されています。詳細目次は版元サイトをご覧ください。これまでクラウジウスの原典の翻訳は論文単位でしか存在しませんでした。初の単著単行本であり、たいへん貴重な成果です。造本は函、カバー、表紙、花切、スピン、すべてが爽やかな緑色でまとめられていて、とても美しいです。

『[増補版] 政治における合理主義』は、こんにち「保守主義」とは何かを考える上で絶対欠かせない古典です。原書初版は1962年で、10篇の論文が収められていました。この初版本の全訳が1988年に刊行、2008年になってようやく2刷を数えましたが、原書は著者の死去の翌年(1991年)に6篇の論文を加え、初版の2倍近い分量となった増補新版が刊行されました。本書はその増補新版から5篇を訳して刊行されたものです。もう1篇はどうしたのかというと、それは「Introduction to Leviathan」という論文で、原書では70頁以上を占めるかなりの長篇であり、なおかつ別の著書『リヴァイアサン序説』(中金聡訳、法政大学出版局、2007年)にすでに収録されています。新しく追加された5篇は、「新しいベンサム」「代表民主主義における大衆」「ロゴスとテロス」「政治を語る」「政治的言説」です。これらを含め、論文の並び順は原書とは異なります。原書では後半に配置されている論文「保守的であるということ On being conservative」は保守主義の特徴を詳しく説明したもので、この論文を読む人は自分自身の内にも保守主義が厳然として存在することを思い知るだろうと思います。どこかで小林秀雄が似たようなことを言っていたと記憶するのですが、それは田中美知太郎との対談「教養と言うこと」においてでした(最近では『読書について』中央公論新社、2013年9月刊に所収)。文明が変化していく「速度」について語っているのですが、田中さんの指摘を受けて彼は卒然と自身が「保守主義である」ことを宣言します。右か左かという浅い議論ではなく、誰しもが保守と革新の二面性を持っているのではないかと私は思います。

なお、勁草書房さんでは今月、ポール・グライス(Herbert Paul Grice, 1913-1988)の『理性と価値――後期グライス形而上学論集』(岡部勉編訳)を刊行されます。版元紹介文によれば「『理性の諸相』(2001年)の全訳に行為論と価値論の論文を加え、晩年の思索の全体像が見渡せる形で翻訳する」とのことで、『論理と会話』(清塚邦彦訳、勁草書房、1998年)以来、久しぶりの訳書になります。

『傲れる野獣の追放』は東信堂版『ジョルダーノ・ブルーノ著作集』(全10巻、別巻2)の7年ぶりの第4回配本で、今回もまた加藤守通さんがお訳しになっています。本邦初訳です。1584年にロンドンで公刊された本作は、ジェンティーレの分類に従えば、『天馬のカバラ』(未訳、当著作集第6巻)や『英雄的狂気』(加藤守通訳、著作集第7巻、2006年)と並ぶ道徳哲学的対話篇のひとつです。帯文には「闊達・躍動的に描き出す人間精神浄化の物語」と書かれ、「ギリシア神話を題材に、ユピテルの道徳的改悛と悪徳を象徴する諸星座追放の物語を通じ、人間の自己改革と新たな自己形成の相をカラフルに描き出した雄編」とも紹介されています。「天の浄化」をめぐる三つの対話から成る本作は、キリスト教的世界観とは異なるブルーノの思想が自在に展開されており、たいへん読み応えがあります。

『新装版 老い』上下巻は、ボーヴォワールの名著の再刊で、日野原重明さんが愛読していることを明かされてから注文が殺到しているそうです。超高齢化社会に突入しつつある現代日本に生きる私たちの人生にとって、「老い」は絶対に避けて通ることのできないとても大きな問題です。原著『La Vieillesse』は、1970年にガリマールより全1巻で刊行され、その後2巻に分かたれた普及版が出ています。訳書でも本文2段組で上下合わせて約650頁ほどにもなる大著ですから分冊はやむを得ません。

以上の既刊書の他にも、最後に2点だけ、白水iクラシックスの「コント・コレクション」や、水崎博明訳『プラトーン著作集』については特記したいと思います。「コント・コレクション」は今年3月に『ソシオロジーの起源へ』、そして9月に『科学=宗教という地平』がいずれも杉本隆司さんの訳で刊行されています。ハーバート・スペンサーと並んで社会学の祖と仰がれるオーギュスト・コント(Isidore Auguste Marie François Xavier Comte, 1798-1857)の訳書は、戦後日本ではけっして多いとは言えず、入手可能な訳書は限られていただけに、このコレクションはたいへん有意義な企画となっています。ちなみに先述したルクリュの訳者、石川三四郎はコントの訳書も手掛けています。『實證哲學』(上下巻、春秋社、1928-1931年:『世界大思想全集』第25-26巻)がそれです。

水崎博明さんによる個人全訳と見ていいはずの櫂歌書房版『プラトーン著作集』は一昨年春から刊行開始され、今月は3点も新刊が出ています。櫂歌書房(とうかしょぼう)さんは福岡の版元で、星雲社発売です。大型書店に出向かないとなかなかお目に掛らないかもしれませんが、岩波書店が『アリストテレス全集』の新訳を刊行開始した昨今、地方の版元さんがこうして古典の翻訳出版に地道に取り組んでいることは後進の私たちにとって本当に励みになります。

◎水崎博明訳/櫂歌書房版『プラトーン著作集』既刊書

2013年11月第5巻「言葉とイデア」第2分冊「ヒッピアース(大)」
2013年11月第5巻「言葉とイデア」第1分冊「クラテュロス」
2013年11月第4巻「「ある」ことと「知る」こと」第4分冊「ポリティコス」
2013年07月第4巻「「ある」ことと「知る」こと」第3分冊「ソピステース」
2013年06月第4巻「「ある」ことと「知る」こと」第2分冊「テアイテートス」
2013年04月第4巻「「ある」ことと「知る」こと」第1分冊「メノーン」
2012年10月第3巻「プラトーンと言論」第3分冊「ゴルギアース」
2012年07月第3巻「プラトーンと言論」第2分冊「パイドロス」
2012年03月第3巻「プラトーンと言論」第1分冊「恋がたきたち/メネクセノス/イオーン/ヒッピアース(小)」
2011年11月第2巻「「徳」を問う」第2分冊「ラケース/リュシス/エウテュデーモス」
2011年08月第2巻「「徳」を問う」第1分冊「エウテュプローン/テアゲース/カルミデース」
2011年05月第1巻「ソークラテースの四福音書」第3分冊「饗宴―恋について―」
2011年04月第1巻「ソークラテースの四福音書」第2分冊「パイドン―魂について―」
2011年02月第1巻「ソークラテースの四福音書」第1分冊「ソークラテースの弁明/クリトーン」
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by urag | 2013-11-17 23:52 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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