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2013年 10月 13日

注目新刊:晶文社の新シリーズ「犀の教室」、など

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街場の憂国論
内田樹著
晶文社 2013年10月 本体1,700円 四六判並製356頁 ISBN978-4-7949-6811-1

帯文より:先生、いったい日本はどうなってしまうんでしょう? その疑問に天下の暴論で答えます! 脱グローバリズム、贈与経済への回帰、連帯の作法から「廃県置藩」論まで、国を揺るがす危機への備え方。

カバーソデ紹介文より:行き過ぎた市場原理主義、国民を過酷な競争に駆り立てるグローバル化の波、排外的なナショナリストたちの跋扈、改憲派の危険な動き……未曾有の国難に対し、わたしたちはどう処すべきなのか? 日本が直面する危機に、誰も言えなかった天下の暴論でお答えします。真に日本の未来を憂うウチダ先生が説く、国を揺るがす危機への備え方。

★発売済。新シリーズ「犀の教室」がスタートし、本書と鷲田清一『パラレルな知性』が同時刊行されています。巻末に記載されている「犀の教室 Liberal Arts Lab」の宣伝文は以下の通りです。「生きるための教養を犀の歩みで届けます。越境する知の成果を伝えるあたらしい教養の実験室「犀の教室」。「最高の目的を達成するために努力策励し、こころが怯むことなく、行いに怠ることなく、堅固な活動をなし、体力と智力とを具え、犀の角のようにただ独り歩め」(「スッタニパータ」)。

★発売済。現代思想、アメリカ論、中国論、教育論、マンガ論、メディア論、読書論、文体論に続く、「街場の」シリーズ(版元も別々ですからシリーズとまでは言いにくいのですが)の最新刊です。好評ブログ「内田樹の研究室」で2011年から12年にかけて発表してきたエントリーを中心に新聞雑誌等に寄稿したエッセイを再編集してまとめたものです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。朝日新聞からもう二度と執筆依頼が来ないようにと願って書き、結局は好評で逆効果だったとまえがきで明かされている「壊れゆく国民国家」(2013年5月8日)をはじめ、今回もざっくばらんな「おじさんのおしゃべり」を満喫できます。ただし、この場合の「満喫する」というのは、消費することとは単純に違っていて、共感や反感が入り混じった中でいつの間にか自分の思考も何かしら動いている、というふうな運動を伴っています。「他の人が言いそうもないこと」を「できるだけリーダー・フレンドリーで、リーダブルな文章」で書く(10頁)ことを実践し続けてきた著者の努力に比例して、読むことによる思考の運動量も増えるのではないかと思います。陶酔とは違う、運動の心地よさ。

★あとがきで内田さんはこう書いています。「「エビデンスが示せない」ということと、「存在しない」ということは論理的には同定できません。そんな当たり前のことさえ気づかない程度に知性の不調な人たちが今の日本ではエスタブリッシュメントを占めている。政治でも、経済でも、学術でも、メディアでも、どこでもそうです」(352頁)。書き手と読者の実感が触れあうようなこうした瞬間がごく自然に訪れる、それをさらっとやってくださるのが内田さんの魅力ではないかと思います。本書はアマゾン・ジャパンの思想部門で1位を獲得しています。


パラレルな知性
鷲田清一著
晶文社 2013年10月 本体1,700円 四六判並製296頁 ISBN978-4-7949-6812-8

帯文より:「専門的知性」と「市民的知性」をつなぐ鍵はどこにあるか? 危機の時代における知性のあり方を問う哲学的考察。

カバーソデ紹介文より:3.11で専門家に対する信頼は崩れた。その崩れた信頼の回復のためにいま求められているのは、専門家と市民をつなぐ「パラレルな知性」ではないか。そのとき、研究者が、大学が、市民が、メディアが、それぞれに担うべきミッションとは? 「理性の公的使用」(カント)の言葉を礎に、臨床哲学者が3.11以降追究した思索の集大成。

★発売済。『街場の憂国論』と同様にアマゾン・ジャパン「思想」部門でベスト10位以内に入っています。新シリーズとしては最高の滑り出しではないでしょうか。本書の目次詳細は書名のリンク先に掲載されています。収録されたテクストの中で一番古いのは2002年ですが、2009年以降のものが多く、それが3.11以後の日本の課題にフィットするというのは鷲田さんのたゆまぬ思考実践のスタンスの賜物かと思います。専門家への信頼感の否応ない失墜が露呈しつつある現代社会における知のあるべき姿を模索し続けておられる鷲田さんならではの臨床哲学のしなやかな言葉が本書にはぎっしり詰まっています。

★「専門知というのは、それが適応される現場で、いつでも棚上げにできる用意がなければ、プロの知とはいえないものである。専門知は、現時点で何が確実に言えて、何が言えないか、その限界を正確に掴んでいなければならない。しかし、現場にいる人の不安や訴えのなかで、自身の判断をいったん括弧に入れ、問題をさらに聴きなおすこと、別の判断と摺り合わせたうえでときにそれを優先させることもしなければならない。ここでは、「この点からは」「あの点からは」という複雑性の増大にしっかりたえうるような知性の肺活量が必要となる」(7頁)と、鷲田さんはまえがきに書いておられます。その困難さたるや実際は絶望するに足るほどのものであるはずですが、沈黙への抗しがたい誘惑の中でなおも考え抜こうというのは、途方もないミッションではあります。しかし専門知と臨床知とをともに働かせる「パラレルな知性」は、専門家に任せればいいものではありません。

★「どの場所から見るかによってその相貌が大きく変わる問題、数多くの不確定な事項によって規定されている問題、だれもすべてのコンテクストを見通しえない問題、けれども人びとの日々の、そして将来の幸不幸に深く繋がる問題」(7頁)。これに対処しようとするときに求められるのが「パラレルな知性」だと鷲田さんは書きます。何かと白黒はっきりさせたがる、白黒はっきりしていると思いたい、ある種の早計な決断主義とは異なる判断力へと至るためのレッスンが本書には示されているように思います。


美の約束
ヴィンフリート・メニングハウス著 伊藤秀一訳
現代思潮新社 2013年9月 本体4,800円 4-6判上製420頁 ISBN978-4-329-00487-1

帯文より:美は性的戦略のメディアであると同時に結果として進化生物学的に発生したものなのか? 芸術とファッションは性的な求愛メカニズムから進化した文化装置なのか? ダーウィンの徹底的な精読を哲学的美学、神話論、精神分析と結びつけ、美の病理までをも射程に入れたメニングハウスの野心作。

★発売済。破格のダーウィン読解書がついに翻訳されました。原書は、Das Versprechen der Schönheit(Suhrkamp, 2003)ですが、実際には刊行後に手直しされたドイツ語原稿から訳されています。手直しに際しては、序文が書きかえられ、第V章「性的「選択」と哲学的美学」が「ダーウィンとカントにおける美的「判断」」へと大幅に短縮され書きかえられたほか、古典文献学におけるアドニス研究について述べた補論「アドニスの解釈」が削除されています。日本語版への前書きによれば、「他にもいくらか切り詰めた箇所もある」とのこと。なお、第V章のオリジナル・ヴァージョンからは、『何のための芸術家?――ダーウィン以後の芸術』(Wozu Kunst?:Ästhetik nach Darwin, Suhrkamp, 2011)という本が派生して出版されています。『美の約束』の新版もどうやら今月刊行された様子です。

★メニングハウスの訳書はこれで4冊目。そのうち、伊藤秀一さんによる訳書は本書を含め3冊あります。伊藤さんは中央大学経済学部教授でいらっしゃいます。メニングハウスさんは今春(2013年4月)フランクフルトで開設されたマックス・プランク経験美学研究所(Max-Planck-Institut für empirische Ästhetik)の初代所長を務めておいでです。周知の通りマックス・プランク研究所には文理に渡る数多くの支所があります。経験美学研究所では、「音楽」「言語・文学」の二部門がこの秋に発足するほか、「神経科学」やもう一部門が準備中だそうです。

◎ヴィンフリート・メニングハウス(Winfried Menninghaus: 1952-)既訳書
1992年03月『無限の二重化――ロマン主義・ベンヤミン・デリダにおける絶対的自己反省理論』伊藤秀一訳、法政大学出版局
2000年10月『敷居学――ベンヤミンの神話のパサージュ』伊藤秀一訳、現代思潮新社
2010年08月『吐き気――ある強烈な感覚の理論と歴史』竹峰義和・知野ゆり・由比俊行訳、法政大学出版局
2013年09月『美の約束』伊藤秀一訳、現代思潮新社

★帯にも引用されていますが、伊藤さんは「訳者あとがき」でこうお書きになっています。「本書が2003年にズーアカンプ社から刊行されたとき世間は驚愕した。ベルリン自由大学のスター・プロフェッサーが進化論と格闘し、ベンヤミンやカントのタームを駆使しつつ、性淘汰の問題を論じる。下手をすると大怪我をしかねないチャレンジを前にして、書かれた書評は50を越えた。その多くにおいて、驚愕が驚嘆に転じている」(414頁)。著者は二年間にわたってダーウィンをはじめとする進化生物学の書物を読み耽ったそうです。そうやって、ダーウィンやフロイトの読解をもとに本書を書きあげたわけです。本書について著者は緒論で次のように要約しています。「美の神話の読解と美的区別の機能についての進化論や経験心理学の研究を結合」し、「フロイトを援用して、美のメカニズムと効果について精神分析的観点を獲得し、同時に哲学的美学の基礎的な規定を新たなやり方で有効化させることを試み」、「最後に、ダーウィンとフロイトから出発して、美の性的系譜学を再構成し、美的区別の実践が成し遂げる働きとともに引き受けるリスクをも精査し、美的約束から――ひょっとしたら――利益を引き出せるようにする」(12頁)。

★まったく別件ですが、驚くべきことに、現代思潮新社さんでは9月に舞踏家の笠井叡さんによるデビュー著『天使論』と第二作『聖霊舞踏』をついに復刊されました。特に『天使論』は並々ならぬ情熱の書であり、意識論と肉体論、神秘思想とサドの稀有な結合が展開されています。第三作『神々の黄昏』はまだ復刊されていませんが、ドイツへの遊学以前、オイリュトミー以前の笠井さんの思考の全振幅がこの二冊に凝縮されていると言っても言いすぎではありません。ちなみに写真の『天使論』は1976年の新装版。このほかにも同じ本の1963年初刷を2冊持っていたりしますが、好きな本ってなぜ何度も買ってしまうのでしょうね。私の場合、笠井さんの『天使論』と、ブルーノ『無限、宇宙と/および諸世界について』(現代思潮社版と岩波文庫版)、ドゥルーズ=ガタリ『リゾーム』(朝日出版社)は何度でもつい買ってしまいます。


胞子文学名作選
田中美穂編
港の人 2013年9月 本体2,600円 四六判並製358頁 ISBN978-4-89629-266-4

版元紹介文より:大好評『きのこ文学名作選』につづく待望の姉妹編! 苔、羊歯、茸、黴、麹、海藻……。町の片隅、山の奥や海の底にひっそりと息づき、鮮やかな花や大きな木々のように人間たちに注目されることもなく、ときには敬遠されがちな、これらの生物たちもまた、命の営みを日々活発に行ない、私たちの暮らしや環境を支えてくれる大切な存在です。/本書は、これらの生物が登場する小説や詩を集めたアンソロジーです。ふだん見落とされがちな、自然界の密やかな存在に目を向けた諸作品を「胞子文学」と名づけ、文学の新しい楽しみ方を発見します。

★発売済。目次詳細はこちらのリンク先をご覧ください。巻頭に編者の田中さんによる巻頭言があり、それに続いて、以下の20名の作家による小説、詩、俳句、短歌が収録されています。登場順に、永瀬清子、小川洋子、太宰治、井伏鱒二、松尾芭蕉、小林一茶、伊藤香織、谷川俊太郎、多和田葉子、野木桃花、川上弘美、尾崎一雄、河井酔茗、栗本薫、宮沢賢治、佐伯一麦、前川佐美雄、内田百閒、尾崎翠、金子光晴。比較的に長い作品なのは、尾崎翠「第七官界彷徨」と、栗本薫「黴」の二篇の小説です。巻末にはやはり田中さんによる解説。

★編者の田中美穂(たなか・みほ:1972-)さんは、岡山県倉敷市生まれ。同市本町11-20に所在する古書店「蟲文庫」の店主でいらっしゃいます。岡山コケの会会員、日本蘚苔類学会会員で、著書に『苔とあるく』(WAVE出版、2007年)、『わたしの小さな古本屋』(洋泉社、2012年2月)、『亀のひみつ』(WAVE出版、2012年8月)があります。

★本書『胞子文学名作選』は、飯沢耕太郎編『きのこ文学名作選』(港の人、2010年、初版限定3000部完売)の姉妹篇で、今回は書店で一般販売している通常版とは別に、蟲文庫の専売商品で、表紙に緑色の箔を施した「苔バージョン限定版」(限定300部、値段は通常版と同じ)が販売されていましたが、田中さんの日記「蟲日記」によれば、10月4日時点で通信販売の受付を終了しておられます。9月22日、23日に開催された第3回「かまくらブックフェスタ」で初御披露目だったようです。

★『きのこ文学名作選』の造本もすさまじいくらい面白く美しかったですが、今回の『胞子文学名作選』もやっぱり素晴らしいです。前者のブックデザインはコズフィッシュの祖父江慎さんと吉岡秀典さんによるもの。今度は吉岡さんだけのお名前で、セプテンバーカウボーイとクレジットされています。2011年春にコズフィシュから独立され、星海社新書などのデザインを手掛けられています。『胞子文学名作選』で特に目を惹いたのは、「蝋引き」加工や活版印刷を併用されていることです。『きのこ』にも増して、モノとしての書物の可能性を広げる実験を推し進めていらっしゃる気がします。編集のご担当は『きのこ』同様、今回も井上有紀さん。次にどんな「名作選」を作って下さるのか、本当に楽しみです。
https://twitter.com/SEP_COW

★『胞子文学名作選』同様に、今年発売された新刊で造本に目を瞠ったものと言えば、私は、2月に刊行されたブリニョルフソン+マカフィー『機械との競争』(村井章子訳、日経BP社、2013年)を挙げたいです。外まわりだけでなく、中身も攻めてます。デザインはコズフィッシュの佐藤亜佐美さん。佐藤さんは、以前当ブログでご紹介した、エセル『怒れ!憤れ!』(村井章子訳、日経BP社、2011年)も手掛けていらっしゃいましたよね。この本も非常に魅力的でアグレッシヴな造本でした。日経BP社では、かの「日経BPクラシックス」も祖父江さんと佐藤さんのディレクションなのです。こういう瞬間ですね、幾度となく同じ名前に突き当たって「ああ、自分はこの人のファンなんだなあ」とはっきり気づくときというのは。


真穴みかん 
広川泰士:写真 佐藤卓:企画
愛媛県八幡浜市:発行 平凡社:発売 2013年10月 本体2,800円 A4変型判上製128頁 ISBN978-4-582-27799-9

版元紹介文より:愛媛県八幡浜市の真穴地区は、薄皮・極甘のみかん作りに適した地域。世界で活躍する写真家が、日本の原風景が残るこの地の豊かな自然、みかん栽培、生きる人々を撮り下ろした写真集。

★まもなく発売。ロッテ「キリストールガム」や、明治「おいしい牛乳」のブランディングを手掛けているグラフィック・デザイナーの佐藤卓さんが、愛媛県八幡浜市で精算されている真穴みかん「貴賓」のパッケージデザインの仕事をされたことをきっかけに、「日本の原風景」として残したいと佐藤さんが感動した八幡浜市とみかん農家の日常を写真家の広川泰士さんに撮影してもらったのがこの写真集です。昨秋には愛媛県美術館で写真展も開催されたそうで、この写真集には写真展以後に撮った新作も含むとのこと。海と山に挟まれた古い街並み、山の斜面に広がるみかん畑、そこに働く人々、そしてみかん。都会の喧騒とは異なる時間の流れの中で育まれてきた素朴なものたちの美しさが郷愁を誘う、素敵な写真集です。
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by urag | 2013-10-13 23:23 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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