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2013年 09月 23日

注目新刊と近刊:ナティエ『レヴィ=ストロースと音楽』アルテス、ほか

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レヴィ=ストロースと音楽
ジャン=ジャック・ナティエ(Jean-Jaques Nattiez, 1945-)著 添田里子訳
アルテスパブリッシング 2013年9月 本体2,500円  A5判並製248頁 ISBN978-4-903951-69-0

帯文より:「音楽という謎が人文科学の進歩の鍵を握っている」(クロード・レヴィ=ストロース)。音楽をみずからの思想のモデルとし、あらゆる神話体系を音楽によって読み解く──現代最高の知性の最深部にせまる知的冒険の書!
カバー裏紹介文より:「音楽じたいが人文科学の最後の謎となり、人文科学はそれに突き当たっているので、この謎が人文科学の進歩の鍵を握っているのである」(レヴィ=ストロース『生のものと火を通したもの』より)――構造主義の始祖とされ、現代の人文諸科学に巨大な影響をあたえた人類学者クロード・レヴィ=ストロース(1908-2009)。彼の思想の根底には、世界と音楽の「相同性(ホモロジー)」への確信があった。音楽記号学の泰斗ナティエが、20世紀最大の知性と音楽との関係を解き明かす!

★発売済。「叢書ビブリオムジカ」最新刊。原書は、Lévi-Strauss musicien: essai sur la tentation homologique(Actes Sud, 2008)です。原題を直訳すると『音楽家レヴィ=ストロース――相同性の誘惑にかんする試論』。レヴィ=ストロースの生誕百周年を記念して公刊された本です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。著者のジャン=ジャック・ナティエ(Jean-Jaques Nattiez, 1945-)は現在、モントリオール大学音楽学部教授。音楽記号学の大家です。訳者の添田里子(そえだ・さとこ)さんは、昭和女子大学教授。ナティエの訳書は『音楽・研究・人生』(春秋社、2005年、現在品切)に続く2冊目。ご専門はプルーストでいらっしゃいます。

★「本書の目的は、この人類学者〔レヴィ=ストロース〕によって徐々に構築されていった理論的かつ方法論的な体系において、音楽がどのように特権的な位置を占めるようになったかを示すことである。すなわち、レヴィ=ストロースが音楽について抱いている観念と、方法を練り上げるさいに音楽に与えた役割の定義を試み、また音楽にかんする彼の態度表明と、それが与えた衝撃の理由を理解しようと試みることである」(8頁)とナティエは書きます。「音楽は、彼の知的な道程を端から端までつらぬいているのだ」(18頁)。ナティエはまた、「彼〔レヴィ=ストロース〕の発言はつねに相同性という観点につらぬかれて」(217頁)いるとも書きます。

★「わたしがぜひともレヴィ=ストロースの本質的なパラドックスと呼びたいものが存在する。つまり、彼の構想する構造人類学の目的は、普遍主義的な誌名をもっているのだが、しかし同時に、彼の美学に対するアプローチは、つねにはっきりと主観的な見解に基礎をおいているのである」(136頁)。「彼の著作は、はじめは構造主義の形式主義的な要請にもとづいていたが、晩年にはとりわけ、その方法的な厳密さよりはむしろ、等価や対称や逆転の関係の美学的特質がとりあげられるようになる」(216頁)。これは批判であるとともに称賛でもあります。本書はレヴィ=ストロースの音楽観への批判的分析を通じて、彼の人類学の方法論的核心の矛盾と魅力の源泉である「相同性や同型性への歩み」に迫った、ユニークな研究書だと思います。

◎ジャン=ジャック・ナティエ(Jean-Jaques Nattiez, 1945-)既訳書一覧
1996年07月『音楽記号学』足立美比古訳、春秋社;新装版2005年4月
2001年04月『音楽家プルースト――『失われた時を求めて』に音楽を聴く』斉木眞一訳、音楽之友社
2005年03月『音楽・研究・人生――音楽と言語をめぐる仮想対話』添田里子訳、春秋社
2013年09月『レヴィ=ストロースと音楽』添田里子訳、アルテスパブリッシング


ニューメディアの言語――デジタル時代のアート、デザイン、映画
レフ・マノヴィッチ著 堀潤之訳
みすず書房 2013年9月 本体5,400円 A5判上製488頁 ISBN978-4-622-07731-2

帯文より:メディアはまだ存在するのか?――メディア史を自在に横断しながら、デジタル転換後の視覚文化の新しい風景を提示する、ニューメディア研究の必読書。映画からゲーム、CG、メディアアートまで。

カバー紹介文より:1990年代以降、デジタル・テクノロジーの急速な普及によって、文化は未曾有の変容を遂げた。これははたして印刷術の発明に匹敵するような、文化の根本的な転換なのか? それとも、これまでのメディア史の延長線上にある現象にすぎないのか?/マノヴィッチの答えは、そのどちらでもある、というものだ。一方で、19世紀前半以来のコンピュータ計算と各種メディア・テクノロジーの二つの歴史の合流点に登場する「ニューメディア」は、原理的にはコンピュータで計算・操作可能なデジタルデータとしてのみ存在し、固有のかたちを持たない。その意味で、ニューメディアは、従来のメディアとは根本的に性質を異にし、「メディア」という概念そのものの再考を迫っている。/しかし他方で、マノヴィッチはウェブサイトやソフトウェア・アプリケーションからコンピュータゲームやメディアアートのデザインに至るまで、コンピュータ化された文化の広範囲にわたる現象を縦横無尽に取り上げながら、ニューメディアがいま実際に取っている姿が、従来のメディア、とりわけ映画の慣習にどれほど多くを負っているかを検証していく。デジタル黎明期の実際の現れとしては、ニューメディアはオールドメディアと連続しているのである。/マノヴィッチの広範で刺激的な議論は、メディア研究者のみならず、アートとデザインの実作者にとっても実りあるヒントをもたらすだろう。

★発売済。原書は、The Language of New Media(The MIT Press, 2001)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。本書は、1960年にモスクワに生まれ81年に渡米、博士号を取得し90年代後半から同国の大学で教鞭を執っているマノヴィッチの代表作で、彼の著書が邦訳されるのは本書が初めてになります。訳者あとがきによれば、マノヴィッチの言う「ニューメディア」というのは、「デジタル・テクノロジーの進展がもたらす変容によって新しい段階に達した既存のメディア(映画や写真などの芸術的媒体からマスメディアまで)、およびデジタル・テクノロジーのおかげで新しく登場したメディア(インターネット、コンピュータゲーム、仮想現実など)を包括的に指し示」しているとのことです(456頁)。

★引き続き訳者あとがきでの説明を借りると、本書はそうした「「ニューメディア」の美学的な諸相を、その新しさをむやみに喧伝することなく冷静に、かつ広範囲にわたって体系的・総括的に論じた」もので(453頁)、各章の内容は以下の通りです。「第1章で「デジタル媒体」の存在論とも言うべき、ニューメディアの諸原則を列挙したあと、続く各章では、デジタルデータを人間にとって了解可能なものとする「インターフェース」(第2章)、インターフェースを介在させることではじめて可能となる選択、合成などの「オペレーション」(第3章)、そうしたオペレーションを通じて出現するデジタル画像の外観という意味での「イリュージョン」(第4章)、そして「データベース」と「航行可能な空間」というデジタル・メディア特有のより高次の「フォーム」(第5章)が論じられる。最終章「映画とは何か?」では「オールドメディア」である映画に改めて目を向けて、CGをふんだんに使ったデジタル時代の映画の新しいアイデンティティが解明されるとともに〔・・・〕、来たるべき映画言語の可能性が追究されている」(455頁)。

★「本書で私がやりたいのは、ニューメディアの最初の10年間における「研究パラダイム」を、それが目に見えない状態になる前に記録するということである」(43頁)とマノヴィッチは記します。実際にその試みは称賛をもって迎えられ、本書は古典的基礎文献のひとつとして認められているようです。個人的には第5章「フォーム」の末尾にあるマノヴィッチの言葉が印象に残りました。ロシア出身者ならではの視点ではないかと思うのです。少し長くなりますが、引用してみます。

★曰く「人間の身体が連続的な軌道を描いて物理的空間を移動するのと同じように、歴史を連続的な軌道とみなすという考えは、私の見解では、一つの時代から次の時代への認識論的断絶やパラダイム・シフトを仮定する考えよりも好ましい。ミシェル・フーコーやトーマス・クーンによって1960年代に表明された後者のような考えは、エイゼンシュテインやゴダールのモダニズム的なモンタージュの美学にこそぴったり合うのであって、合成、モーフィング、航行可能な空間によって体現されるような、私たち自身の連続性の美学にはなじまないのである。/彼らのような思想家たちは、歴史の通時的な面に、自分たちの時代のトラウマ的な共時的な分割――すなわち、資本主義の西側と共産主義の東側の分裂――を投影してきたようにもみえる。だが、1990年代にこの分裂が公式に(とはいえ必ずしも実際にではなく)崩壊するとともに、私たちは歴史がどのようにして、強力かつ危険な仕方で、その連続性を再び主張したかを目の当たりにしてきた。ナショナリズムと宗教の復活や、共産主義体制と結びつくあらゆるものを消去し、過去――1917年以前のロシアと1945年以前の東欧――に戻ろうとする欲望は、そうした過程をあらわす徴候のうち特に劇的なものの一部にすぎない。過去とのラディカルな断絶には代償が伴う。歴史の軌道は、中断されたとしても、潜在的なエネルギーを蓄積し続けており、ついにある日、新たな力とともに頭をもたげ、突如、明るみに出て、その間に作り出された新しいものを何であれ押しつぶすのである」(392-393頁)。

★このマノヴィッチの言葉には、日本人もどこか最近、良かれ悪しかれ思い当たる節がなかったでしょうか――。ところで、みすず書房さんでは先週、ハンナ・アーレントの『ユダヤ論集』第1巻「反ユダヤ主義」と第2巻「アイヒマン論争」を同時発売されたばかりです。アーレントの人間観がもっとも先鋭的なかたちで表出されているのが「ユダヤ論集」だと思います。本体各6,400円、2冊で税込13,440円という出費になりますが、必読書としてやむをえません。


債務共和国の終焉――わたしたちはいつから奴隷になったのか
市田良彦+王寺賢太+小泉義之+長原豊著
河出書房新社 2013年9月 本体2,500円 46判上製232頁 ISBN978-4-309-24630-7

帯文より:資本主義はどこで何が変貌したのか。核心は人間を再び奴隷にする労働力の資本化だ。金融危機からアベノミクスまでのあらゆる経済政策の失敗と、左派の対抗理論の破産が、危機の深層を逆照する――。各分野のラディカル4人の共同執筆により、債務を軸にいままでの資本主義論を根底からくつがえす斬新なアプローチで暗黒の未来を開く衝撃の書。

目次:
第一章 経済をめぐる現在
 1 心理戦争となった経済
 2 経済的なものの〈身体〉
 3 金融-債務革命
第二章 世界共和国
 1 持続を求める共和国
 2 文化左翼から公共性左翼へ
 3 ヨーロッパ共和国の出現
 4 民主主義の病と共和主義
 5 「新しいインターナショナル」という亡霊
第三章 レント資本主義
 1 レントによる生産の侵食
 2 レント/ストックの原理論
  (1)〈共〉、レント、ストック
  (2)貨幣循環
  (3)利潤の再定義
 3 レントによる債務の拡大、あるいは投資の行方
 4 希少性をめぐる逆転と「破産管理」のソヴィエト
あとがき(市田良彦)

★発売済。裏表紙側の帯文には本書の要点が4つ紹介されています。曰く「この債務はいったい誰の責任なのだ? 借りた金はどこに消え、誰が使ったのだ? 貨幣の機能とは借財を増やすことにあったのか」。「人的資本の論理は労働者を国家の債務奴隷にする」。「債務を終わらせるプロセスはすでにはじまっている。問題は誰にそれを担わせるかのみだ」。「債務の民主的配分を図る社会民主主義とレントを守るファシズムが、一つの国のなかで共存する未来を現実的に想像するべきだ。賃金のレント化は労働者の生活をダイレクトに金融資本主義化する」。レント(rent)というのは、レンタル料、使用料、賃借料、地代、小作料、家賃、部屋代、不動産からの収益、超過利潤などを意味します。

★著者の四氏が共著を上梓するのは、『脱原発「異論」』(作品社、2011年)以来です。この本では絓秀実さんも参加されていました。あとがきを書いたのも絓さんです。今回の新刊ではあとがきは市田さんが書かれています。前著もそうでしたが、今回の本でも、守旧的左派幻想との決別が模索されています。率直に言って本書はけっして「読みやすい」本でも「理解しやすい」本でもありません。しかし、私たち現代人の錯覚やまどろみに冷水を浴びせる皮肉と論証に満ちており、その意味において、保守主義とは異なるリアリズムを読者に突きつけます。すでに時は到来しており、私たちは自らの終わりを「うすうす」ではなく、はっきりと気づかねばならず、それでもなお生きのびる意志を捨ててはならない。終末の聖書ではなく、終末以後のために現在へと差し戻された手紙。どう読むかは私たち次第です。

★河出さんでは10月15日に、千葉雅也さんのデビュー作『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』(本体2,400円、46変形判368頁、ISBN978-4-309-24635-2)がいよいよ発売されるようです。「つながりすぎ、動きすぎで〈接続過剰〉になった世界で「切断の哲学」を思考する画期的ドゥルーズ論――浅田彰、東浩紀両氏が絶賛する思想界の超新星、衝撃のデビュー!」と紹介されています。


◎中央公論新社さんの注目近刊2点(25日同時発売)

読書について』小林秀雄著、中央公論新社、2013年9月、本体1,300円、B6判上製192頁、ISBN978-4-12-004540-0
ミケランジェロ』木下長宏著、中公新書、2013年9月、本体880円、280頁、ISBN978-4-12-102232-5

★2点とも25日発売。『読書について』は、新潮社版『小林秀雄全作品』を底本に、読むこと、書くこと、観察すること、文章の良し悪しや批評などをめぐって発表された16篇のエッセイと、教養をめぐる田中美知太郎との対談を収録。巻末には木田元さんによる解説が付されています。帯には「没後30年」と銘打たれています。いずれも卓抜なエッセイばかりで、大いに啓発されます。「お勉強」臭さのない生きた智慧が本書には溢れています。書籍の大量生産への警鐘を込めて「読書安全週間」と皮肉を書いているくだり(56-57頁)などは丸々引用してこのブログのトップに掲げておきたいくらいです。

★一方の『ミケランジェロ』ですが、著者があとがきで書いておられるようにミケランジェロを書名に掲げた新書は実に、1939年に岩波新書の一冊として刊行された、羽仁五郎(はに・ごろう:1901-1983)さんの『ミケルアンヂェロ』以来のことのようです。奇しくもこの『ミケルアンヂェロ』が刊行された年にお生まれになったのが木下さんです。木下さんはミケランジェロを「持続する芸術家(サステイナブルなアーティスト)」と評します。成し遂げた仕事に満足せず、常に新しい仕事、新しい表現、新しい問いへと向かった生涯だったと。

★木下さんはこう書きます。「ミケランジェロの作品は、いわば、問いを投げ続ける。その問いの波紋が作る形である。/だから、われわれは、ミケランジェロの作品の前に佇って、まず、その問いに耳を傾けなければならない。〔・・・〕作品と向かい合い作品をめぐって観ながら、その問いかけるものに耳を傾けるとき(美術作品を観ながら耳を傾けるのである)、突然目くるめくような、言葉にならない感動に包み込まれる――そんな瞬間が訪れる。/そのとき、作品が問いを発しているのか、それを観ている自分が問いかけているのか、どっちがどうなのか、一瞬はっきりしないような感動に包まれている。/おそらく、その作品を制作している作者本人も、その制作途上の作品(未生の作品、まだ形になりかけの物体)が問いを投げかけているのか、その石を削っている自分が問いを石へ投げ出しているのか、区別がつかない経験をしているにちがいない」(119頁)。

★このくだりは、『読書について』に収められている小林秀雄の「美を求める心」の一節を連想させました。「美しい絵を眺めて感動した時、その感動はとても言葉で言い現せないと思った経験は、誰にでもあるでしょう。諸君は、何んとも言えず美しいと言うでしょう。この何んとも言えないものこそ、絵かきが諸君の眼を通じて直接に諸君の心に伝え度いと願っているのだ。音楽は、諸君の耳から這入って真直ぐに諸君の心に到り、これを波立たせるものだ。美しいものは、諸君を黙らせます。美には、人を沈黙させる力があるのです。これが美の持つ根本の力であり、根本の性質です」(88-89頁)。『読書について』と『ミケランジェロ』は実は二冊ともOさんという編集者が企画に関わっておられます。どこまでが偶然でどこからが必然なのかは分かりませんが、この共鳴関係は黒子である編集者からのプレゼントであるように思います。


◎今月の注目文庫新刊

経済の本質――自然から学ぶ』ジェイン・ジェイコブズ著、香西泰+植木直子訳、日経ビジネス人文庫、2013年9月、本体1,000円、304頁、ISBN978-4-532-19701-8
人文学と批評の使命――デモクラシーのために』エドワード・W・サイード著、村山敏勝+三宅敦子訳、岩波現代文庫、2013年9月、本体960円、240頁、ISBN978-4-00-600298-5
存在と時間(三)』ハイデガー著、熊野純彦訳、岩波文庫、2013年9月、本体1,260円、560頁、ISBN978-4-00-336516-8

★『経済の本質』は、親本が2001年4月刊。複数の登場人物が意見を交わす小説風の体裁で書かれたユニークな本です。日経ビジネス人文庫でのジェイコブズの文庫化はこれで2冊目。2003年に『市場の倫理 統治の倫理』(香西泰訳)が文庫化されていましたが、ここしばらく品切重版未定のまま。元々は900円の本ですが、アマゾン・マーケットプレイスでは2000円以上の値段で推移しており、面倒くさい状況が続いています。せめて今回の新刊発売の際に一緒に重版してくださればよかったのですが、残念です。「復刊ドットコム」でも徐々に復刊希望の投票が集まりつつあるようです。

★『人文学と批評の使命』は、親本が2006年8月刊。サイード最晩年の、確固たる信念と経験に裏付けられた名講義です。原題は、Humanism and Democratic Criticism。ここで言うHumanismは、人文学とも人文主義とも訳されます。英語版原書とともに読むとなお読書の味わいが増すと思います。文庫化にあたって、巻末に富山太佳夫さんによる解説「二人の批評家、ド・マンとサイード」が付されています。なお、現代文庫では今月、蓮田善明訳『現代語訳 古事記』、チャルマーズ・ジョンソン『ゾルゲ事件とは何か』篠崎務訳、岡倉一雄『父 岡倉天心』なども刊行されています。来月には、伊藤正雄訳『現代語訳 学問のすすめ』も刊行されるそうです。

★『存在と時間』新訳は4月に第一巻、6月に第二巻、そして今月(9月)が第三巻の刊行。第三巻から、第二部「現存在と時間性」がスタートです。第三巻の帯に第四巻が12月刊行予定と記載されています。周知の通り、『存在と時間』はもうひとつ新訳が進んでいます。作品社より10月刊行予定の高田珠樹訳全一巻です(本体予価7,000円)。中央公論社版『世界の名著』以来の全一巻というのがミソ。幾度となく書いてきた気がしますが、原書で全一巻のものは、訳書でも全一巻の方が文献の扱いとしては便利なのです。20世紀最高峰の哲学書がまさか一年の内に、二度も新訳されるとは誰が想像できたでしょうか。

★なお、熊野純彦さんは今月、せりか書房さんより最新著『マルクス資本論の思考』を上梓されています。帯文はこうです、「日本哲学界の第一人者が、マルクスの高峰に挑む! マルクスを読むことは、世界の総体を読みとくことにほかならない。「全世界を獲得するために」マルクス『資本論』全3巻を読む。渾身の書き下ろし1500枚」。カント三批判書や、ハイデガー『存在と時間』の新訳に加えてこのような大作に挑んでおられたというのは本当に驚くべき筆力です。ひょっとすると熊野訳『資本論』を将来的に読むことができるのかもしれませんね。

★岩波書店の今月の注目単行本もついでに見ておくと、マーサ・C・ヌスバウム『経済成長がすべてか?――デモクラシーが人文学を必要とする理由』(小沢自然+小野正嗣訳)が発売済。サイード本とともに購読しておきたいところです。25日発売なのが『新訳 紅楼夢』第1冊(井波陵一訳)。全7巻予定です。岩波文庫版全12巻(松枝茂夫訳)が品切重版未定なので、文庫で出るのかなと思いきや、単行本でした。また、『物語 岩波書店百年史』全3巻にも注目です。今月27日に第1巻の紅野謙介『「教養」の誕生』が、単行本の中島岳志『岩波茂雄――リベラル・ナショナリストの肖像』とともに発売予定で、第2巻の佐藤卓己『「教育」の時代』と、第3巻の苅部直『「戦後」から離れて』は来月30日の発売予定です。社史ということもあり、全文をウェブで無料公開してくださっていたらなあ、とついつい妄想してしまいました。

★また、冊子「岩波書店の新刊(2013年10月)」(PDF)によれば、いよいよ10月9日から、半世紀ぶりの新訳全集『アリストテレス全集』(全20巻+別巻総索引)が刊行開始になります。第1回配本は第1巻『カテゴリー論 命題論』で、本体価格は5,600円。たいへん素晴らしい企画で岩波書店の面目躍如といったところです。ただ、ひとつだけ気がかりなのは、旧全集の扱いです。絶版にするのではなく、せめてオンデマンド版や電子書籍版を用意していただけると嬉しいです。旧訳本だからと言って読者にとって「無用」なわけではありませんから。

★岩波書店の10月の注目新刊単行本はほかにもあって、16日発売の巽孝之『モダニズムの惑星――英米文学思想史の修辞学』と、30日発売のエミール・バンヴェニスト『言葉と主体――一般言語学の諸問題』(阿部宏監訳、前島和也・川島浩一郎訳)です。前者は「スピヴァクが提唱した「惑星思考」を発展的に継承」、後者は「長らく待望された論集、ここに完訳。1965年から72年にかけて発表された論考、インタヴュー、講演など、20篇を収録」と宣伝されています。本体7,000円也。収録されているテクストの年代と20篇という本数から推察して、これは『一般言語学の諸問題』(河村正夫+岸本通夫+木下光一+高塚洋太郎+花輪光+矢島猷三訳、みすず書房、1983年)の続巻、つまりProblèmes de linguistique généraleの第2巻の完訳ではなかろうかと想像しています。これは本当に待ちに待った訳書で、びっくりです。みすず版の第1巻の訳書は抄訳で、7篇分が未訳なので、第1巻も新訳ないし完訳が出たらいいですね。
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by urag | 2013-09-23 00:45 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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