2013年 08月 25日

注目新刊:オブリスト『キュレーション』、ほか

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キュレーション――「現代アート」をつくったキュレーターたち
ハンス・ウルリッヒ・オブリスト(Hans Ulrich Obrist, 1968-)著 村上華子訳
フィルムアート社 2013年8月 本体2,400円 四六判並製360頁 ISBN978-4-8459-1312-1

帯文より:世界的なキュレーター、H. U. オブリストが迫る、現代アートのシステムがつくられるまでの歴史。

★発売済。原書は、A Brief History of Curating(Les presses du réel, 2009)です。版元さんによる紹介によれば本書は「キュレーションという概念の黎明期に活躍したキュレーター11名に、ハンス・ウルリッヒ・オブリストが行なったインタビューを収録」したもので、「1960年代から1970年代の初期インディペンデント・キュレーティングから、実験的なアートプログラムの台頭、ドクメンタや国際展の発展を通じてヨーロッパからアメリカにキュレーションが広がっていった様」が明らかにされます。キュレーターという職業が「どのように成立してきたか、展示の方法や展覧会の作り方はどのように進化してきたか、今後キュレーションはどのような方向へ向かうのか。アートとキュレーションの関係を考える上で決定的な1冊」になっているとのことです。

★11人のキュレーターというのは次の方々です。ウォルター・ホップス(Walter Hopps, 1932-2005)、ポントゥス・フルテン(Pontus Hultén, 1924-2006)、ヨハネス・クラダース(Johannes Cladders, 1924-2009)、ジャン・レーリング(Jean Leering, 1934-2005)、ハラルド・ゼーマン(Harald Szeemann, 1933-2005)、フランツ・マイヤー(Franz Meyer, 1919-2007)、セス・ジーゲローブ(Seth Siegelaub, 1942-2013)、ヴェルナー・ホフマン(Werner Hofmann, 1928-2013)、ヴァウテル・ザニーニ(Walter Zanini, 1925-)、アン・ダノンコート(Anne d'Harnoncourt, 1943-2008)、ルーシー・リパード(Lucy Lippard, 1937-)。巻頭の序文をクリストフ・シェリックス(Christophe Cherix)、巻末の「後記――来るべきものの考古学」をダニエル・バーンバウム(Daniel Birnbaum)が書いています。

★オブリスト自身もキュレーターであり、美術評論家であり、インタヴューの名手でもあります。これまで翻訳されたインタヴュー集に、『コールハースは語る』(瀧口範子訳、筑摩書房、2008年)、『ザハ・ハディッドは語る』(瀧口範子訳、筑摩書房、2010年)、『アイ・ウェイウェイは語る』(尾方邦雄訳、みすず書房、2011年)、『プロジェクト・ジャパン――メタボリズムは語る』(レム・コールハース共著、平凡社、2012年)などがあります。これらの既刊書によってこれまで日本では、オブリストの活躍は建築系の分野で認知されてきました。瀧口範子さんによる取材記『行動主義――レム・コールハース・ドキュメント』(TOTO出版、2004年)の中では「コールハースとともに走る11人」の内の一人として瀧口さんによるオブリストへのインタヴューが顔写真とともに掲載されています(308-317頁)。

★一方、美術系ではアーティストへのインタヴューが『ゲルハルト・リヒター――写真論/絵画論』(清水穣訳、淡交社、1996年;増補版、2005年)や、『ヴォルフガング・ティルマンス“インタビュー”』(清水穣ほか訳、Wako Works of Art、2010年)に掲載されています。また、この分野でのオブリストへのインタヴュー「アートとは思わぬところに立ち現れるものである」が辛美沙『アート・インダストリー――究極のコモディティーを求めて』(美学出版、2008年)に収録されています。今回の新刊はむろん美術系インタヴューに属するわけで、書店さんの芸術書売場においてオブリストの名前がいっそう浸透しそうな気がします。本書は「数多いオブリスト関連書の中で、初の「キュレーション」に関する内容」(版元案内文より)で、オブリストが自身の先達にキュレーションの開拓史を尋ねていきます。彼らの多くは美術館の館長だったり、独立系キュレーターだったりしますが、アートディーラー(ジーゲローブ)や美術評論家(リパード)としての顔も持っている人々にも話を聞いています。これまでキュレーションないしキュレーターの役割についての本は日本では新書や訳書など複数刊行されてきましたが、その道の世界的に著名なプロフェッショナルの貴重な肉声を集積したものは本書が初めてだと言って良いと思います。

★キュレーションは編集術の賜物ですから、私たち出版人や書店人にとってもその歴史や技法はたいへん興味深いものです。職業としてのキュレーターに興味をもたれた方は、本書とともに『キュレーターになる! ――アートを世に出す表現者』(住友文彦ほか編、フィルムアート社、2009年)や、長谷川祐子『キュレーション――知と感性を揺さぶる力』(集英社新書、2013年2月)を読まれると良いかと思います。書店業における近年のVMD(ヴィジュアル・マーチャンダイジング)の重視は、「空間/劇場」としての書店の更なる洗練と進化を模索するものですが、わけてもキュレーション的要素は今後いっそう業界で研究され応用され検証されることになるでしょう。そうした過程における基本的なアーカイヴのひとつとしてオブリストの本は残っていくと思われます。


地震以前の私たち、地震以後の私たち――それぞれの記憶よ、語れ
エドウィージ・ダンティカ(Edwidge Danticat, 1969-)著 佐川愛子訳
作品社 2013年8月 本体2,400円 46判上製256頁 ISBN978-4-86182-450-0

帯文より:ハイチに生を享け、アメリカに暮らす気鋭の女性作家が語る、母国への思い、芸術家の仕事の意義、ディアスポラとして生きる人々、そして、ハイチ大地震のこと――。生命と魂と創造についての根源的な省察。カリブ文学OCMボーカス賞受賞作。

目次:
日本の読者のための序文
第一章 危険を冒して創作せよ――創作する移民芸術家
第二章 まっすぐ歩きなさい
第三章 私はジャーナリストではない
第四章 記憶の娘たち
第五章 私は発言する
第六章 水の向こう側
第七章 二百年祭
第八章 もう一つの国
第九章 故国への飛行
第十章 幽霊を喜び迎える
第十一章 アケイロポイエートス(人の手で作られたものに非ず)
第十二章 私たちのゲルニカ
訳者あとがき

★発売済。原書は、Create Dangerously: The Immigrant Artist at Work(Princeton University Press, 2010)です。原題の「危険を冒して創作せよ」は、カミュがウプサラ大学で1957年12月に行った講義から借りていると、ダンティカは「日本の読者のための序文」で明かしています。「今日、創造することとは、危険を冒して創造することです。出版とはひとつの行為であって、その行為は、作者を、なにものをも容赦しない時代の熱情に曝すのです」とカミュは語ったと言います。ダンティカはこう書きます。「危険を冒して創作する、危険を冒して読む人びとのために。これが、作家であることの意味だと私が常々思ってきたことだ。自分の言葉がたとえどんなに取るに足らないものに思えても、いつか、どこかで、だれかが命を賭けて読んでくれるかもしれないと頭のどこかで信じて、書くこと。〔・・・〕私はこれを、すべての作家たちを一つに結びつける行動原理だとずっと考えてきた。〔・・・〕もし今でなくとも何年も先の、これからのまだ夢見なければならぬであろう未来に、どこかでだれかが命の危険を冒して私たちの作品を読むかもしれない。たとえ今でなくとも、何年も先の将来に、私たちはどこかでまただれかの命を救うかもしれない。なぜなら、彼らが私たちに、私たちを彼らの文化の名誉市民とするパスポートを与えてくれているから」(22-23頁)。

★「危険を冒して創作するということが何を意味するかについては、多くの解釈が可能だが、アルベール・カミュは、詩人オシップ・マンデリシュタームと同じように説明している。それは、沈黙に対する反抗としての創作なのだと。創作することとそれを受け取ることの両方が、書くことと読むことの両方が、危険な行為であり、かつ命令への不服従であるときに創作することを指しているのだ」(23-24頁)。「おそらく、だれでもがとても簡単に銃撃されたり、おおっぴらに暗殺されたりするような時代には、読みも書きもしないことが、生き延びるための手段だったのだろう」(24頁)。

★東日本大震災の一年と少し前にハイチを襲った大地震をめぐっては第十二章に書かれています。死者への、そして生者への果てしない慈しみの中で書かれた本書を読む時、ダンティカの手があたかも自分の肩や背中に触れているような心地がします。


現代思想 2013年9月号 特集=婚活のリアル
青土社 2013年8月 本体1,238円 A5判並製230頁 ISBN978-4-7917-1267-0

★発売済。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。竹信三恵子さんと大内裕和さんによる討議「全身婚活」では乗り切れない」、雨宮処凛さんへのインタビュー「「あがり」は結婚?――オルタナティヴな幸せモデルを探して」を始め、海妻径子、蓑輪明子、石田光規、大橋由香子、赤石千衣子、いちむらみさこ、栗田隆子、綾屋紗月、平山洋介、村上潔、白石嘉治、栗原康、島田暁、武田里子、の14名の方々が寄稿されています。ちなみに青土社さんでは来月、雨宮処凛さんの新刊『バカだけど社会のことを考えてみた』を刊行される予定です。

★「現代思想」の次号は9月上旬刊行の10月臨時増刊号「特集=ブルース・リー(仮)」で、通常の10月号は9月27日発売で「特集=富士山と日本人(仮)」と予告されています。世界遺産登録を受けての特集かと思いますが、社会の幅広いテーマと切り結ぼうという意気込みを感じます。なお、「ユリイカ」誌の10月臨時増刊号は「特集=高橋幸宏(仮)」とのことでこちらもたいへん楽しみです。
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by urag | 2013-08-25 19:24 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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