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2013年 08月 11日

注目新刊:蘭峯舎第二弾『屋根裏の散歩者』ほか

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屋根裏の散步者
江戸川亂步著 池田満寿夫挿畫
藍峯舎 2013年7月 350部限定記番入 定価14,000円税込 A5判変型函入本文176頁(二色刷80頁、一色刷96頁) 別丁四色刷挿画10点

目次:
屋根裏の散歩者(江戸川乱歩/池田満寿夫挿画)7-80
 挿画目録
  I 放浪者
  II 犯罪嗜好癖
  III 押入れの中 
  IV 屋根裏の散歩
  V 恐ろしい考え
  VI 毒薬の入手
  VII 殺人
  VIII 死んだ男
  IX 疑惑の煙草
  X 罪の発覚
豆本因縁噺(池田満寿夫)82-91
真珠社主人 平井通(中相作)93-173

★8月1日より発売開始。購入は版元ウェブサイトより可能(送料別、前金)。親本は1959年に乱歩の実弟である平井通の主宰する「真珠社」から豆本シリーズの第一弾として200部限定で出版されたもの。本のサイズを拡大し、池田満寿夫さんの挿画がより見やすく鮮やかに蘇っています。本文は親本とは異なり、初出である雑誌「新青年」大正14年(1925)8月増刊号掲載のテクストを使用されています。附録として池田満寿夫さんの回顧エッセイ「豆本因縁噺」と、乱歩研究者の中相作(なか・しょうさく)さんによる書下ろし評伝「真珠社主人 平井通」が併録されています。

★藍峯舎さんの処女出版、エドガー・アラン・ポー『赤き死の假面』(江戸川亂步譯、オディロン・ルドン口繪、藍峯舎、2012年12月、350部限定記番入、定価税込10,000円、A5判変型122頁函入)はすでに完売。意外なことに、同書購入者に今回の新刊の案内はされていないようです。あくまでも読者側が目を光らせて同舎の「藍峯舎通信 web version」をチェックし、動向を見守らねば買いそびれます。そういう限定的な販促も戦略のひとつなのかもしれません。今回の『屋根裏の散步者』は前作より4000円も高いですが、挿画がすべてカラーですし、親本を踏襲して本文の下地の飾紋様も鮮やかな緑色で刷られていますから、この値段になるのは納得です。

★第三弾の予告はまだ出ていません。藍峯舎さんのこだわりある編集造本から想像すると新刊は年に一冊もしくは二冊といったところかと拝察します。気長に待ちましょう。なお、同舎の本は一部ネット古書店でも扱いがあります。たとえば、中さんのブログ「名張人外境ブログ」の8月7日のエントリーでは、古書きとらさんでの販売が紹介されています。早晩品切必至かと思いますので、版元さんから買われるにせよ、古書店さんで買われるにせよ、お早めに。

★ちなみに中さんの同エントリーでは神戸の老舗書店、海文堂書店さんが来月末(2013年9月末)で閉店することにも言及されています。神戸新聞8月5日付文化欄記事「神戸の海文堂書店、9月末閉店 創業100年目前 経営不振」によれば、「1996年のピーク時に比べ、現在は6割程度にまで売り上げが減少。2000年以降はインターネット書店の台頭や周辺に大型店、新古書店の出店も相次ぎ、経営不振が深刻化していた」とのこと。売上下降に10年以上耐えてきたかたちです。老舗の閉店は辛いですが、こういう状態は同店に限ったことではありません。リアル書店は全国的な危機状態にあって、残念ながら今後も廃業は続くと思います。出版界も同様です。現在あちこちの版元が人員削減の真っ最中で、それでも持たなければ数年以内に廃業せざるをえません。J-CASTニュース経済欄8月7日付記事「神戸の老舗書店も閉店 後継者不足、ネット販売に押されて経営不振」では消費税アップでますます本が売れなくなり、本屋が閉店するのでは、という見立てを書いていますが、あながち大げさではないかもしれません。

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流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則
エイドリアン・ベジャン+J・ぺダー・ゼイン著
紀伊國屋書店 2013年8月 本体2,300円 46判上製428頁 ISBN978-4-314-01109-9

帯文より:革命的理論の誕生。すべては、より良く流れるかたちに進化する――。樹木、河川、動物の身体構造、稲妻、スポーツの記録、社会の階層制、経済、グローバリゼーション、黄金比、空港施設、道路網、メディア、文化、教育――生物・無生物を問わず、すべてのかたちの進化は「コンストラクタル法則」が支配している! ダーウィン、ドーキンス、グールド、プリゴジンらに異を唱える熱力学の鬼才が放つ、衝撃の書。

目次:

第一章 流れの誕生 
第二章 デザインの誕生 
第三章 動物の移動 
第四章 進化を目撃する 
第五章 樹木や森林の背後を見通す
第六章 階層制が支配力を揮う理由 
第七章 「遠距離を高速で」と「近距離を低速で」
第八章 学究の世界のデザイン
第九章 黄金比、視覚、認識作用、文化
第一〇章 歴史のデザイン
謝辞
解説 木村繁男(金沢大学教授)
主要参考文献
原注
索引

★8月21日取次搬入予定。ポスト・プリゴジン世代の驚くべきカウンターパンチの登場です。著者エイドリアン・ベジャン(Adrian Bejan, 1948-)はルーマニア生まれで、現在デューク大学特別教授をつとめています。彼は1995年にイリヤ・プリゴジン(1916-2003)の講演を聴いていた際に閃きを得ました。プリゴジンは「河川の流域や三角州、肺の気道、稲妻など、自然界に豊富に見られる樹状構造の類似性は、アレアトワール(サイコロを振った結果)だ」と述べたと言います。偶然の一致にしてはよく似ているな、とベジャンは思ったのでしょう、多様な事象のデザインを支配する科学の原理があるに違いないと考えた彼は、帰路にこうノートに書き留めます。「有限大の流動系が時の流れの中で存続する(生きる)ためには、その系の配置は、中を通過する流れを良くするように進化しなくてはならない」。

★原書は、Design in Nature: How the Constructal Law Governs Evolution in Biology, Physics, Technology, and Social Organization(Doubleday, 2012)です。「序」で著者はこう述べています。「本書は、自然界のデザインを科学の一分野として扱う。その核を成すのが、デザインと進化の物理法則である「コンストラクタル法則(constructal law)」だ。この法則は、血管組織や移動、社会組織などを含め、生命を持たない河川から生き物のデザインまで、自然というモザイク全体に及ぶ」(8頁)。constructalというのは著者の造語です。訳注ではこう説明されています。「本書で取り上げるコンストラクタル法則の要(かなめ)は、生物と無生物が自然界のデザインを共有する点であり、そのため、本書では無生物のものについても、普通なら生物にしか使わない概念や用語が使われることがある。人間も自然界の一部であり、自然の法則に支配されているのだ。人間の手になるもののデザインも、自然界のデザインとみなされる」(同)。

★著者はさらに「序」でこう畳みかけます。「基本的にはこういうことだ。生物・無生物の別なく、動くものはすべて流動系である。流動系はみな、抵抗(たとえば摩擦)に満ちた地表を通過するこの動きを促進するために、時とともに形と構造を生み出す。自然界で目にするデザインは偶然の所産ではない。それは自然に自発的に現れる。そのデザインが、時とともに流れを良くするからだ」(11-12頁)。「コンストラクタル法則は声高にこう叫ぶ。流れるもの動くものはすべて、存在し続けるために(生きるために)進化するデザインを生み出す。これは願望でも目標でもなく、自然の傾向、つまりは物理現象なのだ」(29頁)。「応用できるもの〔分野〕があまりにも多いため、コンストラクタル法則はまだその揺籃期にある。親愛なる読者のみなさんは、この地上を、そして書物へと、流れ始めたばかりの真新しい考え方の最先端に立っているわけだ」(31頁)。

★解説を書いておられるのは著者に師事した経験をお持ちの木村繁男教授です。「ベジャンは細分化による全体像の欠如が現代科学の悲劇であるとする。すなわち自然界が示す網羅的傾向が現代の科学者には全く見えなくなっていると嘆」いている、と教授は書きます。そして本書を「かなり革命的な理論の話でありながら、熱力学のことなど知らない読者でも楽しく読み進められる、良質なポピュラーサイエンスの一冊に仕上がっている」(394頁)と評しています。ベジャンは「優れたアイデアは移動し、伝わり続ける。流れやすい配置は既存の配置に取ってかわる。それが生命だ。それが私たちの歴史だ。そして、それこそが未来なのだ」(389頁)ときっぱり言います。賛否はあるでしょうが、このコンストラクタル法則は、一般読者にとっても直観的に無理のない説明に聞こえるのではないかと思います。


おっぱいの科学
フローレンス・ウィリアムズ著 梶山あゆみ訳
東洋書林 2013年8月 本体2,800円 A5判上製330頁 ISBN978-4-88721-814-7

帯文より:「乳房は小さなアンテナのようなもので、周囲を取り巻く情報を処理してはそれをもとに反応する」。進化、環境衛生、遺伝子、授乳、がん、豊胸……現代アメリカに生きる女性が文明批評的にからだの仕組みの自然・不自然を科学する、ちょっと気になる「まじめな話」。

目次:
序章 乳房の惑星
第1章 誰がために胸はある
第2章 哺乳はこうして始まった
第3章 乳房の配管工事のやり方、教えます
第4章 豊胸の時代
第5章 おなかのなかまで届く毒
第6章 シャンプーやマカロニが少女の思春期を早める?
第7章 妊娠と乳がんの割り切れない関係
第8章 母乳vs粉ミルク、正しいのはどっち?
第9章 母乳のなかの聖なる細菌、何より大事な人間の腸
第10章 酸っぱいミルク
第11章 未踏の荒野にひしめくピルとホルモン剤
第12章 誇り高き少数の男性患者たち
第13章 あなたは高密度?老いゆく乳房と乳がん検診
第14章 乳房の未来
訳者あとがき
原注
索引

★発売済。異色の身体文化史です。書名からして男性客はレジにもっていきにくい本ですが、極めて真面目な本です。念のため申し上げておきますと、東洋書林さんは美麗なカラー図版を多数収録する本づくりで定評がありますが、本書では象徴的なモノクロ図版が各章冒頭に掲げられているのみです。諸兄におかれましては勘違いされませんように。とはいえこの本の内容は、男性とて無関係ではなく、第12章では男性の乳がん患者が取り上げられています。環境ホルモンや身の回りの化学物質、汚染物質の影響を男性も否応なく受ける、というアメリカでの症例が紹介されています。実際のところ、本書はその響きの柔らかさにも関わらず、とても恐ろしい内容が随所に含まれています。本書を読んで自分の飲料水や経口避妊薬に疑問を抱かない読者はおそらく皆無でしょう。

★原書は、Breasts: A Natural and Unnatural History(Norton, 2012)です。訳者あとがきの紹介文によれば「大きなテーマは乳がんだが、それだけではない。なぜヒトの女性がおっぱいをもつようになったのかから始まって、哺乳の進化、乳房の構造と働き、乳房の究極の不自然史ともいうべき豊胸手術、少女の思春期の早発化、母乳vs.粉ミルク、避妊薬やホルモン剤の影響、乳がん検診など、じつに多岐に渡る。男性の乳がんだけを取り上げた章もある。それらについて、現状と研究の最前線を紹介したのがこの本」です。著者はジャーナリストで、コロラド大学で教鞭を執っているほか、雑誌の編集や各媒体への科学エッセイ寄稿で知られています。

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新訳 ラーマーヤナ 7 
ヴァールミーキ著 中村了昭訳
東洋文庫(平凡社) 本体3,000円 全書判上製函入420頁 ISBN978-4-582-80838-4

帯文より:ラーマは、王として地上に真理と正義と平和を実現すると、彼を讃える物語を残し、再びヴィシュヌ神として天上へと還っていった。サンスクリット原典からの初の邦訳全7巻、ここに完結。

★発売済。2012年4月に第1巻を刊行以来、わずか1年と数カ月で全巻完結へと至ったのは驚異的です。最終巻の巻末にある「訳者あとがき」はわずか2頁足らずですが、この完訳が多くの人々の善意に助けられたことが垣間見え、感動します。本書では本編以外の様々な逸話が挿入されています。男性から一時的に女性になって豚と結婚し子供をもうけたイラ王の話など、耳目を惹く物語を読むことができます。著者のヴァールミーキも随所に登場し、物語の最後の方では二人の弟子に『ラーマーヤナ』を人々や神々の前で琵琶を弾きつつ吟唱するよう命じます。「一日に二十章節を、優美な声で吟唱せよ」(第93章、366頁)と。「この物語は長寿を与え、素晴らしい幸運をもたらし、罪障を滅する」(第111章、415頁)と謳われる『ラーマーヤナ』は胸躍る娯楽の要素と教訓をもたらす哲学的要素を兼ね備えた、得難い古典です。


踊れわれわれの夜を、そして世界に朝を迎えよ
佐々木中著
河出書房新社 2013年8月 本体2,000円 46判上製256頁 ISBN978-4-309-24627-7

カバー裏紹介文より:「読む、そして書くということには、終わりがありません。住処がありません。安住がない、安心がない、安定がない、安逸がない。そういういかなる安堵も許されていない。戻ってくる自分が無いのだから。いつまでも、遙かな消失への雪崩れゆきとして、どこまでも流されていくということなのだから。それは流謫にある。それは苦難である。では、そこに歓びはないのか。/なかったら誰も読まない。誰も書かないよ」(「母の舌に逆らって、なお」)。/新時代の思想の旗手として衆目が一致する、佐々木中。しかし彼は時代に踊らされることを拒み、一人みずからのダンスを舞おうとする。フーコー、ジョン・ケージ、イェーリング、ルジャンドル、ロベスピエール、アメノウズメ、ベンヤミン、坂口安吾、シュレーゲル、ノヴァーリス、ヘーゲル、ヘルダーリン、ルター、カフカ、樋口一葉、吉増剛造、ベルクソン、ドゥルーズ=ガタリ、スコット・フィッツジェラルド、マイケル・ジャクソン、ロラン・バルト、中井久夫、フロイト、福島、ラカン、ディディ=ユベルマン、アウシュヴィッツ、吉田健一、フランシス・ベーコン、ジャコメッティ、いとうせいこう、チェルノブイリ、近藤よう子、島田虎之介、この多様な固有名を巻き込みつつ進む、佐々木中の息を呑む雄弁と緻密な論理を一冊で知ることができる最新刊。

★発売済。2012年から2013年に至る最新論考、講演、対談を集成。目次詳細は本書の特設サイトをご覧ください。いとうせいこうさんは本書の推薦文に「ますます濃く、熱く、深く佐々木世界が浸透してくる」と評していらっしゃいますが、まさにその通りで、〈3.11〉以後、いっそう鋭さを増した「中節(あたるぶし)」に圧倒されます。特に圧巻なのは、現代における新たな「翻訳者の使命」へと手向けられた「母の舌に逆らって、なお――翻訳・ロマン主義・ヘルダーリン」(2012年11月の熊本講演と九州講演を再編集)と、写真論から出発してトラウマ論へと至る「疵のなかで疵として見よ、疵を――NAMURA ART MEETING講演の記録」(2012年10月、大阪講演)の、講演二篇です。反改憲、反戦、反原発、と要約してしまうととても陳腐に響きますが、従来の「サヨク」的言説に回収されうるような形式的な常套句が書き連ねてあるわけではありません。講演の一部を切り出してモットー的に引用するのは不当にすら思えるので、ぜひとも全文を読んでいただけたらと思います。本書の力強さはまるで大きな斧のようです。好戦論や再軍備論がもつ「自分の弱さに耐えられないという弱さ」(131頁)へと叩きつけられる一撃。佐々木さんのくっきりとした態度表明は、表題作「踊れわれわれの夜を、そして世界に朝を迎えよ」(2013年6月、インタヴュー)や巻頭の「序」にも明らかです。

★本書は「アナレクタ」シリーズ全4巻に続くものですが、シリーズには含まれないようです。しかし第3巻『砕かれた大地に、ひとつの場処を』(2011年10月)と第4巻『この熾烈なる無力を』(2012年8月)は本書と地続きの議論が展開されていますから、ぜひご参照ください。また、その空気感は佐々木さん自身の小説最新作『夜を吸って夜より昏い』(2013年3月;初出は「文學界」2012年11月号)と共有しているものがあると思います。
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by urag | 2013-08-11 22:07 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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