2013年 05月 26日
ヘーゲル 論理の学(II)本質論 ヘーゲル著 山口祐弘訳 作品社 2013年5月 本体5,800円 A5判上製272頁 ISBN978-4-86182-409-8 帯文より:本質は止揚された存在である。存在の本質は反省にあり、存在が自己自身に還帰する生成と移行の無限運動とするヘーゲル論理学の核心。先行する本質論を転倒し、存在から本質を導くことでダイナミックな存在の形而上学体系を確立。 ★発売済。『大論理学』の50年ぶりの新訳決定版となる全3巻本の第II巻です。第I巻「存在論」は昨年12月に刊行済で、第III巻「概念論」は今年10月刊行予定。第II巻大まかな章立ては以下の通りです。 第一編 客観的論理学 第二巻 本質論 第一部 それ自身のうちでの反省としての本質 第一章 影像 第二章 本質規定性ないし反省規定 第三章 根拠 第二部 現象 第一章 実存 第二章 現象 第三章 本質的関係 第三部 現実性 第一章 絶対者 第二章 現実性 第三章 絶対的関係 ★本書は「存在の真理は本質である」と始まり、存在論から本質論への橋渡しが開始されます。「本質は存在と概念の間にあり、両者の中間を成し、その運動は存在から概念への移行となる。〔・・・〕本質はまず自己自身のうちで映現する。すなわり、それは反省である。第二に、本質は現象する。第三に、本質は自己を啓示する。それは、運動する中で次の諸規定となる。I、その内部にある諸規定のうちで単純であり自体的にある本質として。II、定在へと出て行くものとして、あるいはその実存及び現象に従って。III、その現象と一体である本質、現実性として」(7頁)。ヘーゲルの『大論理学』は最難関の書ではありますが、明瞭な図式的性格を持っており、繰り返し読むうちにその体系が見えてくるように思います。 2011――危うく夢みた一年 スラヴォイ・ジジェク著 長原豊訳 航思社 2013年5月 本体2,200円 四六判並製272頁 ISBN978-4-906738-03-8 帯文より:この年に何が起きたのか? ウォール街占拠運動、アラブの春、ロンドンやギリシャの大衆蜂起、EU内でのポピュリズムの台頭、ノルウェイの連続射殺事件、そして日本での福島原発事故と首相官邸前行動……はたしてこれは、革命の前兆なのか、それとも保守反動の台頭なのか? ★発売済。航思社さんの新刊第4弾が発売されました。原書はThe Year of Dreaming Dangerously, Verso, 2012です。巻頭には長文の書き下ろしとなる日本語版序文「衆愚の街〔ゴッサム・シティ〕におけるプロレタリア独裁」(7-36頁)が置かれています。クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト ライジング』を題材に、いつもの手際で旬の映画に仮託しつつ現代政治の状況を鮮やかに図式化したものです。「序論」によれば本書は「まず現代資本主義の主要な特徴についての簡単な描写を提示し、次いで社会的敵対性への反作用において起きた反動現象(とくにポピュリスト的な叛乱)に焦点を絞り込んで、そこでヘゲモニーを握っているイデオロギーの輪郭にラフな描写を与える〔…〕。後半では〈アラブの春〉と〈ウォール街占拠運動〉を論じ、システムの機能強化をもたらすことなくシステムと闘うにはどうしたらよいのかという難問に立ち向かう」(40-41頁)。カバーを取ると、ウォール街占拠運動のさなか、群衆の中でスピーチするジジェクの写真が表紙に印刷されています。巻末で告知されている航思社さんの刊行予定によれば、ジジェクの大著『レス・ザン・ナッシング』が上下巻で来春発売とのことです。 宗教について――宗教を侮蔑する教養人のための講話 F・シュライアマハー著 深井智朗訳 春秋社 2013年4月 本体4,000円 四六判上製352頁 ISBN978-4-393-32345-8 帯文より:宗教論の古典にして金字塔、待望の新訳! 宗教の本質は宇宙の直観と感情であると喝破し、その法悦を甘美な筆致で描写して、キリスト教の枠をも超え、宗教哲学の祖ともなった名著。その衝撃をストレートに伝えるべく、底本に1799年刊の初版を用い、時代背景とシュライアマハー個人の思想・精神状況を精査して、本書に託された真の意義を探る充実した解題を付す。 ★発売済。『Ueber die Religion』(1799年)の新訳です。豊川昇訳(創元社、1948年)や佐野勝也・石井次郎訳(岩波文庫、1949年)をはじめ、1914年から1960年までのあいだに6回翻訳されており、これまではたいてい『宗教論』と訳されていました。著者名も過去はシュライエルマッヘルという表記が多かったのですがシュライアマハーと改められています。5つの講話「弁明」「宗教の本質について」「宗教への教育について」「宗教における社交、あるいは教会と聖職者について」「諸宗教について」から成り、巻末には「シュライアマハーと『宗教について』(1799年)」と題された詳細な解題が配されています。旧訳はすべて新刊では入手できない状態であり、一番新しい訳から数えても半世紀以上が経過していますから、今回の新訳がまさに時宜に適ったものでした。訳者の深井さんは金城学院大学教授で、シュライアマハーの翻訳は『神学通論 1811年/1830年』(加藤常昭共訳、教文館、2009年)に次いで二冊目です。 ユリイカ 2013年6月号 特集:山口昌男――道化・王権・敗者 青土社 2013年5月 本体1,238円 A5判並製246頁 ISBN978-4-7917-0255-8 ★発売済。今年3月10日に逝去された山口昌男の追悼特集。山口さん自身のテクストは、「道化と幻想絵画――イコンの遊戯」(85-101頁)と「ウィリアム・ウィルフォード『道化と笏杖』書評」(102-103頁)の二篇。前者は「1969年9月3日脱稿」とあり、瀧口修造『幻想画家論』改訂版(せりか書房、1972年)のために書かれたものの、実際には収録されなかったという論考で、初出は『山口昌男山脈』第4号(国書刊行会、2004年)。後者は初出が中央公論社の『海』1983年1月号。 ★ともに山口さんに愛された二人、高山宏(1947-)さんと中沢新一(1950-)さんの対談「軽業としての学問――ヘルメス・トリスメギストスとトリックスター」が異色です。お二人の対談は珍しいと思うのですが、最近では学生向けの非売品『MEIDAI BOOK NAVI 2013』(明治大学出版会、2013年3月)の特集「〈3・11以降〉を生きるための3冊」の巻頭でお二人の対談「カタストロフィを突き抜ける」(4-17頁)が読めるそうです。高山さんは今回の追悼特集では「アルス・エルディータ――澁澤龍彦と山口昌男」というエッセイを寄稿されており、弊社刊『ブラジルのホモ・ルーデンス』の著者・今福龍太さんは「素描的精神の鉱脈――デシナトゥール山口昌男」という一文を寄せておられます。また、先般『ルールズ・オブ・プレイ』をついに完訳した山本貴光さんは「遊びを知り、知で遊ぶ――山口昌男、遊びの骨法」というテクストと「山口昌男主要著作目録+重要著作解題」を執筆されています。このほかにもずらりと並んだ著名人の寄稿の数々から、山口さんの偉大さというのがひしひしと伝わってきます。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。 植民地主義の時代を生きて 西川長夫著 平凡社 2013年5月 本体4,800円 A5判上製622頁 ISBN978-4-582-70295-8 帯文より:朝鮮に生まれ、占領下の日本に引き揚げ、戦後冷戦体制とグローバル化の時代に、国民国家と植民地主義を批判し続けた著者が、原爆/原発体制の彼方へ手わたす32篇。 ★発売済。病床の著者が自ら「最後の論集」と位置づけられておられ、巻末には著者の略歴年譜と論文を含めた詳細な著作目録が巻末に配されています。凡例によれば、最初期にあたる1960年からこんにち(2013年)に至る半世紀以上の執筆活動の中から著者自身が選んだ32篇の論文、エッセイ、講演原稿を、4つの部門「国民国家論再論」「植民地主義の再発見」「多言語・多文化主義再論」「スタンダールと戦後文学」に分けてそれぞれ年代順に収録したものとのことです。情熱と静謐を兼ね備えた青白い焔のようなその姿に圧倒されます。
by urag
| 2013-05-26 23:32
| 本のコンシェルジュ
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