2013年 05月 12日

注目新刊:ミュラー『メディアとしての紙の文化史』東洋書林、ほか

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◎東洋書林さんの新刊:まもなく発売となる、5月14日取次搬入の新刊をご紹介します。紙を三つの視点から概説した魅力的な研究書で、「物質としての紙」「蓄積と伝導の媒体としての紙」「紙の時代」が解説されています。三つ目の「紙の時代」というのは、「デジタル技術を応用した蓄積・流通メディアの先史」であり、著者がその重要性を「過去の歴史のなかにこそ、未来へのヒントが隠されている」と評価している「アナログな」紙の年代記です。製紙技術の発達についてだけでなく、西洋文学史が紙の歴史との関わり合いの中で論じられます。業界人必読の書ではないかと思います。

メディアとしての紙の文化史
ローター・ミュラー著 三谷武司訳
東洋書林 2013年5月 本体4,500円 A5判上製402頁 ISBN978-4-88721-813-0

帯文より:〈カミ〉はシヌノカ・・・? 人が漉き、記し、読み、保ち、汎め〔ひろめ〕(包み)、そして崇め、もしくは叛いてきた《魔術的媒体》――モノと行為と時間とのあわいで揺れるその可能性を再点検する、電子書籍を読む前の10章の練習曲〔エチュード〕。《解説・原克》

カバーソデ紹介文より:印刷することもできれば、物を書くことも、破ることも折りたたむこともできる、白い魔術の顕現――紙。電子ペーパーの時代を迎えた今、近代以降の礎となったアナログの世界、すなわち「グーテンベルクの時代」とそれを包括する「紙の時代」を新たに検証し、文学・史料の援用をまじえながら、物質/情報両面の媒体〔メディア〕たる紙を論じる。

原書:Weisse Magie: die Epoche des Papiers, Hanser Verlag, 2012.

目次:
プロローグ――紙を蝕む細菌
Ⅰ ヨーロッパにおける紙の普及
 第1章 サマルカンドからの紙片
 第2章 高まるざわめき
 第3章 普遍物質
Ⅱ 版面の裏で
 第4章 〈印刷されるもの〉と〈印刷されないもの〉
 第5章 冒険者と紙
 第6章 透明な活字
Ⅲ 大規模な拡大
 第7章 整紙機の悪魔
 第8章 新聞用紙と、大衆紙の成立
 第9章 照らし出された内面世界
 第10章 近代の紙
エピローグ――アナログとデジタル
解説(原克)
参考文献
原注
索引


◎平凡社さんの新刊:発売されたばかりの、2012年度ピュリッツァー賞(詩部門)受賞の詩集と、まもなく発売となる東洋文庫の最新刊をご紹介します。アフロアメリカンの詩人トレイシー・K・スミス(1972-)の『LIFE ON MARS 火星の生命』は原書が2011年にGraywolf Pressから刊行されたもので、彼女の最新作となる三番目の詩集です(いずれも版元はGraywolf Press)。意外なことに本書が初めての訳書になるのですね。投げ込みの栞では、アメリカの詩人で批評家のダン・チャイアソン(1971-)が「ニューヨーカー」誌に寄せた書評「別世界」の抜粋を読むことができます。ミルキイ・イソベさんとスチュディオ・パラボリカの林千穂さんによる装幀が印象的で、頁をめくると、小口に宇宙が広がっています。どういう意味なのかは現物を手にとっていただければと思います。

一方、東洋文庫の最新刊『シャマニズム2』は第1巻刊行の時もご紹介した通り、親本は三省堂から1971年に刊行され1989年に再刊されたもので、本書で全2巻完結となります。第2巻の末尾には訳者による「東洋文庫版へのあとがき」が付されています。シャマンという言葉はツングース語が起源だそうで、アクセントは「マ」に置かれます。東洋文庫の次回配本は来月、『新訳 ラーマーヤナ』第6巻です。

LIFE ON MARS 火星の生命 
トレイシー・K・スミス著 中村和恵訳
平凡社 2013年5月 本体2,800円 A5判上製160頁 ISBN978-4-582-83609-7
版元紹介文より:D・ボウイ、 『2001年宇宙の旅』、 ハッブル宇宙望遠鏡――神なきポスト宇宙時代を生きる孤独な人類の日常生活と心象風景を綴った新感覚詩集。2012年度ピュリッツァー賞受賞。

シャマニズム2 アルタイ系諸民族の世界像
ウノ・ハルヴァ著 田中克彦訳
東洋文庫 2015年5月 本体3,000円 全書判上製326頁 ISBN978-4-582-80835-3
帯文より:シャマニズムに関する調査研究の蓄積を集約し、北方ユーラシア諸民族の世界観を描き出す、シベリアの『金枝篇』。日本についても言及。第2巻はいよいよシャマンの実像に近づく。全2巻完結。

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◎文庫/ライブラリー新刊:発売されたばかりの注目新刊を3点ほどご紹介します。

G・W・F・ヘーゲル『へ―ゲル初期哲学論集』村上恭一訳、平凡社ライブラリー、2013年5月 
ショーペンハウアー『読書について』鈴木芳子訳、光文社古典新訳文庫、2013年5月
アーサー・O・ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖』内藤健二訳、ちくま学芸文庫、2013年5月

まず『ヘーゲル初期哲学論集』は、「フィヒテとシェリングとの哲学体系の差異――十九世紀の初頭における哲学の状況を展望するためのラインホルトの寄与に関して」(1801年)と、「哲学の軌道に関する哲学的論文」(1801年)の2篇を収めたものです。前者「差異」論文は新訳です。後者は、その質疑応答用要約版である「惑星の軌道に関する哲学的論文への暫定的テーゼ」とそれらの訳注、そして巻末の訳者解説「若きヘーゲルの学問の曲がり角――1801年イエナのヘーゲルの立場」と併せ、『惑星軌道論』(法政大学出版局、1991年)を改訂したものとのことです。聖職者志望だったヘーゲルが三十路となって哲学者へと転身した時期の著作であり、ヘーゲルはイエナ大学の私講師として、大学人の第一歩を記します。

次に『読書について』は、他社文庫のショーペンハウアーの「~について」シリーズと同様、『余録と補遺 Parerga und Paralipomena』(1851年)から抜き出したもので、「自分の頭で考える Selbstdenken」「著述と文体について Ueber Schriftstellerei und Stil」「読書について Ueber Lesen und Buecher」の3篇の新訳が収められています。つまり、同名の岩波文庫(斎藤忍随訳、1960年)とまったく同じです。3篇はいずれも名品で、毒舌まじりの処世訓として一級品です。巻末の解説でも紹介されていますが、1820年、32歳のショーペンハウアーは、ベルリン大学で大人気を博していた50歳のヘーゲルの講義と同じ時間帯に授業を行い、受講者数でヘーゲルに大惨敗を喫しました。これが大学人を諦めて在野の哲学者になるきっかけだったとも言われていますが、人生において様々な苦い経験をしたショーペンハウアーだからこそ、晩年の『余録と補遺』に味わいが増し、同書が広く読まれることで復権を果たしたのだと思います。

最後に『存在の大いなる連鎖』は、1975年に晶文社から刊行されたものの待望の文庫化です。巻末の注記によれば、「文庫化にあたり、原本の巻頭文を、高山宏氏の訳で新たに掲出した(7頁)」とのことです。この巻頭文というのは、ハーヴァード大学での「ウィリアム・ジェイムズ哲学・心理学講義」において本書の元となる講義が行われたことを、原著版元ハーヴァード大学出版部が記したものです。さらに注記の続きがあって、「「序文」および「第一講」冒頭は、同じく高山氏の指摘により、著作権継承者の許可を得たうえで、底本の訳語の一部を近年通用の定番訳語に置き換えるなど、訳の文意文体を損なわない範囲で、若干の訂正を行った」とあります。高山さんの解説「この鎖、きみは「きずな」と読む」は観念史派の魅力を伝えるもので、山口昌男さんの逝去についても一言触れておられます。
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by urag | 2013-05-12 18:22 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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