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2013年 04月 21日

注目新刊その2:P・L・ウィルソン『海賊ユートピア』以文社、ほか

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海賊ユートピア――背教者と難民の17世紀マグリブ海洋世界
ピーター・ランボーン・ウィルソン(Peter Lamborn Wilson, 1945-)著 菰田真介(1985-)訳
以文社 2013年4月 本体2,600円 四六判並製280頁 ISBN978-4-7531-0311-9

帯文より:海賊たちは、いまだにわれわれと共にある。17世紀の北アフリカ、そこにはキリスト教の背教者=海賊たちが生み出した共和国があった。イスラームに魅せられ独自に進化した「裏切り者たち」のコミュニズムとアナキズム、その先駆的かつ躍動的な文化・統治・生を、「社会レジスタンス」の可能性として現代に鮮やかに蘇生させる、「危険な物狂いたち」のための反社会宗教史。伝説の書『T.A.Z.一時的自律ゾーン』のハキム・ベイが別名義で解き放つ、惜しげない「真の贅沢」に向けた「荒ぶる航海」!

原書:Pirate Utopias: Moorish Corsairs and European Renegadoes, Autonomedia, 1995/2003.

★発売済。原書第二版(2003年)の全訳です。第二版は初版に、第十章「「厄介なトルコ人」と呼ばれた、オールド・ニューヨークのムーア人海賊」(第二版への後書)を追加したもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ピーター・ランボーン・ウィルソンの既訳書には『天使――神々の使者』(鼓みどり訳、平凡社、1995年)や、『T.A.Z.――一時的自律ゾーン』(箕輪裕訳、インパクト出版会、1997年)があります。前者はシリーズ「イメージの博物誌」の一冊、後者はペンネーム「ハキム・ベイ」名義の本です。今回の新刊の編集担当者Mさんのご紹介によれば、『海賊ユートピア』は、「海賊史のなかでも、近代を準備しイギリス・スペインの覇権を支えたような海賊たちではなく、17世紀モロッコの、サレー・ラバト地域を拠点とした海賊、主にキリスト教からの背教者、あるいはそこから迫害された人々に焦点をあて、またそれが著者の先駆的な歴史の掘り起こし作業(手法)とも相俟って、極めてユニークな本となっている」とのことです。本書が紹介するのは「ならず者たち」の痛快な冒険譚というよりは、海賊の歴史から見出した労働と民主主義と国家のオルタナティヴです。歴史書の異端は、歴史そのものに挑戦する、切り裂く視線を持っています。


新宿ダンボール村――迫川尚子写真集 1996-1998
迫川尚子写真
DU BOOKS 2013年5月 本体2,000円 B6変型判並製232頁 ISBN978-4-925064-76-7

帯文より:『新宿駅最後の小さなお店ベルク』の副店長として、毎日、新宿駅に通いながら、駅のど真ん中に出現したホームレス村と住人たちを撮った記録集。

★まもなく発売。今は昔、新宿駅西口地下のインフォメーションセンター前には野宿者が身を寄せ合う「ダンボール村」がありました。もともとは都庁新庁舎の建設にかりだされていた日雇労働者で、1991年の庁舎完成と、それに続くバブル経済の崩壊によって失職した人々だったと聞きます。青島都政下の1996年1月24日、都は「動く歩道」着工を口実に、西口地下の四号街路にいた野宿者たちの一斉排除を強行し、それが「ダンボール村」を誕生させました。200人近い人々がそこで生きていました。2年後の2月7日早朝、不審火による火災が発生、これによって結果的に4名の命が奪われ、ダンボール村は解体します。ベルクの副店長、迫川さんはダンボール村に日参し、雑談したり撮影したりしただけでなく、詳細な記録をつけていたそうです。その中の写真記録に当たるのが本書。生々しい貴重な記録です。退去後、人々はどこに行ったのでしょうか。ダンボール村はなくなっても、ホームレス問題は今なお存在し続けています。この写真集は「忘却は解決ではない」という真実を私たちに示しているように思います。


プライドの社会学――自己をデザインする夢
奥井智之(1958-)著
筑摩選書 2013年4月 本体1,600円 四六判並製256頁 ISBN 978-4-480-01571-6

帯文より:希望は作り出せるか。自分で自分のキャリアはデザインできるか。自分に「誇り」をもつことは、美徳か悪徳か。プライド――この厄介な生の原動力をめぐる社会学的分析。

カバーソデ紹介文より:一般に、心理学の研究対象となっている「プライド」。しかしそれに、社会学的に接近することも可能ではないか。自分に「誇り」をもつことは、まさに自他=社会関係のなかで生起する出来ごとであるから。プライドをもって生きることは、たえず「理想の自己」をデザインすることに等しい。わたしたちにとってそれは、夢か、はたまた悪夢か。プライド――この厄介な生の原動力に、10の主題を通してせまる社会学の冒険。

目次:
はじめに
第1章 自己――はじめに行動がある
第2章 家族――お前の母さんデベソ
第3章 地域――羊が人間を食い殺す
第4章 階級――どっちにしても負け
第5章 容姿――蓼食う虫も好き好き
第6章 学歴――エリートは周流する
第7章 教養――アクセスを遮断する
第8章 宗教――神のほかに神はなし
第9章 職業――初心を忘るべからず
第10章 国家――国の威光を観察する
おわりに
参考文献一覧
引用映画一覧

★発売済。2004年に『社会学』、2010年に『社会学の歴史』という2冊の概説書を東京大学出版会から上梓したあと、著者の奥井さんは「わたしたちの生と深く関わる主題を選んで、より個別的な仕事がした」くなり、「そういう私の関心に最初にひっかかってきた主題が、「プライド」であ」った、と本書の「おわりに」で明かしておられます。私たち人間の魂に牙を深く食い込ませ続ける厄介な怪物を10の主題と6つの素材(=60の「小話」)を通じて鮮やかに分析したのが本書です。当然のことながら、自分の似姿もこの本の中に出てくるため、あるいは愉快な読書とは言えない瞬間もあるかもしれません。本書の仮説は「コミュニティこそがプライドの源泉である」(15頁)というものです。社会解体と個別化が進む現代において、私たちはますますコミュニティを見出しづらくなっており、それゆえにますます理想のコミュニティを希求し、待望し、憧憬するという事態も進行している、と著者は分析します。その一端が「グローバリゼーションの時代に、ナショナリズムが勃興するという逆説」(18頁)です。この逆説については最終章で分析されています。

★印象的だったのは第7章の末尾のこんな言葉です。「本当に重要なことは、時として「アクセスを遮断する」ことであろう。そして教養=自分らしい生の技法に磨きをかけるべく、深く思索することであろう。それによってわたしたちは、わずかながら知的なプライドを回復することができるかもしれない。そう言いながらわたし自身、日々くだらない事柄について「ググり」続けている。疑いなくわたしたちは、目下反教養=無秩序の時代を生きている」(160頁)。半世紀以上前に美術史家のエドガー・ウィントは講演録『芸術と無秩序』(邦訳は高階秀爾訳『芸術と狂気』岩波書店、1965年)で、大衆に広く浅く流通していく「芸術」の変容とその功罪について分析しました。彼は機械化や自動化といった進歩的潮流について警鐘を鳴らしつつも全否定はしませんでした。ウィントがもしインターネット誕生後も生きていたら、奥井さんと同じように、時としてアクセスを遮断せよ、と言ったかもしれないな、と想像が膨らみました。そしてウィント流にこう続けることもあるいは可能でしょうか、「私たちはいずれこの厄介な時代にも強い免疫性を持つようになる」と。

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行って見て聞いた精神科病院の保護室
三宅薫著
医学書院 2013年4月 本体2,800円 A4判並製152頁 ISBN978-4-260-01743-5

カバー紹介文より:「こんなにきめ細かな保護室の記録は世界に例がないんじゃないか?」(中井久夫)――歩きに歩いた35の精神科病院。おもわずうなる圧倒的な数とリアリティ。「最も閉ざされてきた部屋」の風通しをよくしたいと願う著者による、現場系調査書。

★発売済。目次詳細は書名御リンク先をご覧ください。版元さんのプレスリリースの言葉を借りると、保護室というのは「隔離という目的に特化した精神科の病室」で、「症状のために、患者さん本人あるいは周囲に危険が及ぶ可能性が非常に高く、隔離以外の方法ではその危険を避けることが出来ない場合に使用される部屋」です。この「最も閉ざされてきた部屋」は多くの一般市民にとって未知の世界であるだけでなく、病院間でも情報交換されることがほとんどないものだそうです。著者は精神科の看護師さんで、福島から佐賀までの35の病院にある40の保護室を実地訪問し調査しました。本書では多数のカラー写真と図面を添え、1病棟を見開き2頁で紹介しています。「おそらく日本初の記録ではないか」と営業担当のMさんから伺いました。明るい紙面からは一見伝わりにくいですが、読む者がひしひし感じる緊張感から察するに、著者も相当な苦労をなさったに違いありません。ただし、三宅さん自身のコメントはそうした暗さを感じさせません。むしろ、看護に役立てたいという必死の気持ちが伝わってきます。今後さらに全国を訪問したいとの抱負もお持ちです。

★なお、編集担当者のIさんは昨秋、『【現代語訳】呉秀三・樫田五郎「精神病者私宅監置の実況」』(金川英雄訳・解説)という本も手掛けられています。明治大正時代のいわゆる「座敷牢」を調査した写真付き報告書の現代語訳です。版元紹介文によれば、著者の呉秀三は、明治・大正の時代に精神病者監護法で定められていた精神病者の私宅監置義務を廃し、患者が精神病院において医療を受けられるための、新しい法制度を作ろうとした人物、だそうです。ある意味別の(下世話な)関心からこの本を求める方もいらっしゃるでしょうが、本書と上記の三宅さんの報告書に通底するのはきっちりした資料をまとめるという誠実さで、Iさんの本づくりの一貫した文脈になるほどと納得しました。
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by urag | 2013-04-21 23:48 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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