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2013年 03月 31日

注目の新訳と復刊:バフチン『ドストエフスキーの創作の問題』など

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ドストエフスキーの創作の問題――付:より大胆に可能性を利用せよ
ミハイル・バフチン著 桑野隆訳
平凡社ライブラリー 2013年3月 本体1,500円 HL判並製384頁 ISBN978-4-582-76783-4

帯文より:バフチン・ドストエフスキー論の初志〔オリジナル〕。筆を矯めざるを得なかった増補改訂版(『ドストエフスキーの詩学の問題』)よりも、初版は率直かつ理路鮮明に言語論・ポリフォニー論を語る。バフチン思想の核心部を明らかにする待望の本邦初訳。

カバー裏紹介文より:原語はつねに他者の言葉への応答としてある――独自の言語理論・文学論は、ドストエフスキー作品を場にポリフォニー論という結晶をもった。カーニヴァル論などを加えただけでなく、編集部の要求などにより変更され、『詩学の問題』と改題された増補改訂版ではなく、そのオリジナル版『創作の問題』こそ、バフチンの理論の革新がより率直に鮮明に語られる。待望の初訳!

★発売済。バフチン特有のポリフォニー論やカーニヴァル論が展開されているドストエフスキー論はこれまで、増補改訂版(1963年)が二度翻訳されてきました。今回の新訳は増補改訂版ではなく、初版本(1929年)の本邦初訳になります。初版本にはカーニヴァル論がありません。また、増補改訂版では出版社による書き直し依頼があったため、初版本はバフチンの当初の構想にいっそう近いものだと言えると思います。初版本と増補改訂版の違いについては、桑野先生による「訳者解説」で簡潔にまとめられています。なお、今回の訳書では、1970年に「新世界(ノーヴイ・ミール)」誌に掲載された論文「より大胆に可能性を利用せよ」が付録として訳出されています。

★御参考までに、今回の初版本の初訳をAとし、増補改訂版の翻訳2種、すなわち、新谷敬三郎訳『ドストエフスキー論――創作方法の諸問題』(冬樹社、1968年;第二版1974年)をB、望月哲男・鈴木淳一訳『ドストエフスキーの詩学』(ちくま学芸文庫、1995年)をCとして、目次を以下に比較して掲載します。

【A】序
【B】はしがき
【C】著者より

【A】第一部 ドストエフスキーのポリフォニー小説(問題提起)

【A】第一章 ドストエフスキーの創作の基本的特徴と、批評文献におけるその解明
【B】第一章 ドストエフスキイのポリフォニイ小説と従来の批評
【C】第一章 ドストエフスキーのポリフォニー小説および従来の批評におけるその解釈

【A】第二章 ドストエフスキーにおける主人公
【B】第二章 主人公と作者との関係
【C】第二章 ドストエフスキーの創作における主人公および主人公に対する作者の位置

【A】第三章 ドストエフスキーにおけるイデー
【B】第三章 ドストエフスキイのイデエ
【C】第三章 ドストエフスキーのイデエ

【A】第四章 ドストエフスキーの作品における冒険的プロットの機能
【B】第四章 ジャンル、題材構成上の特徴
【C】第四章 ドストエフスキーの作品のジャンルおよびプロット構成の諸特徴

【A】第二部 ドストエフスキーにおける言葉(文体論の試み)
【B】第五章 ドストエフスキイの言葉
【C】第五章 ドストエフスキーの言葉

【A】第一章 散文の言葉の類型。ドストエフスキーにおける言葉
【B】1 散文の言葉の型とドストエフスキイの言葉
【C】1 散文の言葉の諸タイプ――ドストエフスキーの言葉

【A】第二章 ドストエフスキーの中篇小説における主人公のモノローグ的言葉と語りの言葉
【B】2 中篇小説の主人公の独白の言葉と叙述の言葉
【C】2 ドストエフスキーの中編小説における主人公のモノローグ的言葉と叙述の言葉

【A】第三章 ドストエフスキーの長篇小説における主人公の言葉と語りの言葉
【B】3 長篇小説の主人公の言葉と叙述の言葉
【C】3 ドストエフスキーの長編小説における主人公の言葉と叙述の言葉

【A】第四章 ドストエフスキーにおける対話
【B】4 ドストエフスキイの対話
【C】4 ドストエフスキーの対話

【A】結語
【B】結び
【C】結語

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カント「視霊者の夢」
イマヌエル・カント著 金森誠也訳
講談社学術文庫 2013年3月 本体680円 A6判並製174頁 ISBN978-4-06-292161-9

帯文より:〈心霊現象〉に哲学者が挑む。霊界は空想家がでっち上げた楽園である――。哲学者として「霊魂」への見解を示し、『純粋理性批判』へのステップとなった重要著作を初めて文庫化。解説=三浦雅士

カバー裏紹介文より:理性によって認識できないものは、形而上学の対象になりうるか――。哲学者カントが、同時代の神秘思想家スヴェーデンボリの「視霊現象」を徹底的に検証。当時高い世評を得ていた霊能者へのシニカルかつ鋭利な批判を通して、人間の「霊魂」に対する哲学者としての見解を示す。『純粋理性批判』に至るステップとなった、重要著作。

目次:
訳者まえがき
詳述する前に、きわめてわずかなことしか約束しないまえがき
第一部 独断編
 第一章 好き勝手に解きほぐしたりあるいは断ち切ることができる混乱した形而上学的な糸の結び目
 第二章 霊界との連帯を開くための隠秘哲学の断片
 第三章 反カバラ。霊界との共同体をとりこわそうとする通俗哲学の断片
 第四章 第一部の全考察からの理論的結論
第二部 歴史編
 第一章 それが本当かどうかは読者の皆さんの随意の探究にお委せする一つの物語
 第二章 夢想家の有頂天になった霊界旅行
 第三章 本論文全体の実践的結末
参考資料1 『神秘な天体』(抜粋)――エマニュエル・スヴェーデンボリ
参考資料2 シャルロッテ・フォン・クノープロッホ嬢への手紙――イマヌエル・カント
訳者あとがき
学術文庫版の訳者あとがき
解説 批評家の夢(三浦雅士)

★発売済。奥付前頁の特記によれば本書は「1991年に論創社より刊行された『霊界と哲学の対話――カントとスヴェーデンボリ』(金森誠也編訳)所収の「視霊者の夢」その他を文庫化したもの」とのことです。実際に親本と比べてみると、まず冒頭の「訳者まえがき」は、末尾に署名された日付が文庫版でも親本と同じままであり、本書のイントロとしての大筋は同じなですが、省略や書き直しが見られます。親本ではそのあとに置かれたスヴェーデンボリ『神秘な天体』(抜粋)とカントの「シャルロッテ・フォン・クノープロッホ嬢への手紙」は、文庫版では巻末の参考資料となっています。続いて親本、文庫版ともにカントが1766年に公刊した『形而上学の夢によって解釈された視霊者の夢』の翻訳です。親本ではその後に「同時代人の批評」と題し、約70頁を割いて、15編のテクストが収められています。以下に詳述します。

『形而上学の講義』(抜萃・1) イマヌエル・カント
『形而上学の講義』(抜萃・2) イマヌエル・カント
モーゼス・メンデルスゾーンあての手紙 ヨーハン・ゲオルク・ハーマン
モーゼス・メンデルスゾーンあての手紙・1 イマヌエル・カント
モーゼス・メンデルスゾーンあての手紙・2 イマヌエル・カント
『視霊者の夢』の批評 モーゼス・メンデルスゾーン
『視霊者の夢』の批評 ヨーハン・ゴットフリート・ヘルダー
ホランドあての手紙 ヨーハン・ハインリッヒ・ランベルト
『夢の批評』 コーハン・ゲオルク・ハインリッヒ・フェダー
スヴェーデンボリあての手紙 フリードリッヒ・クリストフ・オエティンガー
「キリストの大司教職についての会話」から フリードリッヒ・クリストフ・オエティンガー
『宗教と全神学への完全な入門』(抜萃) ハインリッヒ・ヴィルヘルム・クレム
イマヌエル・カントへの手紙 ヒエロニムス・ゴットフリート・ヴィルケス
「スヴェーデンボリが夢想家の一人だということはすでにはっきりきまったことなのかどうなのかをしらべる試み 匿名氏
『イマヌエル・カントの生涯と性格の叙述』(抜萃) ルートヴィッヒ・エルンスト・ボロフスキー

★「学術文庫版の訳者あとがき」で金森先生は、「今回は私が前書で訳出した多くの参考資料のうち、最も重要と思われる二件のみを取り上げたため、かえって、本書が、軽快、簡便な読みやすい書物になった」と記されています。むろん、上記の15編の明細を見てがぜん興味が沸いてくる読者もいらっしゃると思いますので、親本はまた別の価値があると言えるでしょう。当時は2000円ぽっきりの本でしたが、現在古書では倍以上の値段がついています。なお、『視霊者の夢』は1922年(大正11年)4月に小川義章訳がロゴス社より「ロゴス叢書」の第一弾(記載通りに書くと第一編)『視霊者の夢(形而上学の夢により説明されたる)』として初訳が刊行されています。この初訳本では1794年の論文「萬有の終局」の翻訳も併録されています。なお、ロゴス叢書では、第二編がニイチェ『反基督――一切價値の轉換』(平山良吉譯、1922年10月)、第三編がクーリー『社會組織』(井上吉次郎譯、1922年11月)、第四編がボロウスキー『イムマヌエル・カントの生涯と性格』(兒玉達童譯、1923年3月)と続きます。

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絶望と確信――20世紀末の芸術と文学のために
グスタフ・ルネ・ホッケ(Gustav René Hocke, 1908-1985)著 種村季弘訳
白水社 2013年3月 本体6,000円 四六判上製446頁 ISBN978-4-560-08303-1

帯文より:危機の時代を超えて。現代マニエリスム論。〈絶望〉と〈確信〉の間で揺れる世界舞台の上で、人間はどのような役を演じるのか。『迷宮としての世界』『文学におけるマニエリスム』に続く、ホッケ・マニエリスム論の総決算ともいうべき警世の書。解説=高山宏

★発売済。「《知的巨人》の選書で贈る、名著復刊と初訳」を謳ったシリーズ「高山宏セレクション〈異貌の人文学〉」の第三弾。巻末の特記によれば本書は「『絶望と確信』(種村季弘訳、朝日出版社、1977年刊)の再刊です。なお、再刊に際して固有名詞の一部修訂、原綴の追加などを行なっています」とのこと。巻末の高山さんの解説は「「不安を持つ能力(ちから)」──マニエリスムの普遍人間学」(405-420頁)。そのなかでこんな予告が明かされています。「生前の氏[種村氏]との様々な口約束のこともあって、畏友原研二氏にお願いして、ホッケに一番近い仕事をしているジョン・ノイバウアー、ホルスト・ブレーデカンプ、エルネスト・グラッシ邦訳計画の重要な一貫としてホッケ・マニエリスム四部作(?!)最後のこの大作[『ネオ・マニエリスム』1975年]の邦訳を進めてもらっているところである」。なんとも待ち遠しいことです。昨今『迷宮としての世界』は岩波文庫で、『文学におけるマニエリスム』は平凡社ライブラリーで再刊されました。今回の『絶望と確信』の再刊で、ホッケの品切本は紀行小説『マグナ・グラエキア』(種村季弘訳、平凡社、1996年)を除き、すべて再刊されたことになります。
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by urag | 2013-03-31 21:14 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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