2013年 02月 11日

注目新刊:『死と神秘と夢のボーダーランド』インターシフト、ほか

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死と神秘と夢のボーダーランド――死ぬとき、脳はなにを感じるか
ケヴィン・ネルソン著 小松淳子訳
インターシフト発行 合同出版発売 2013年2月 本体2,300円 46判上製360頁 ISBN978-4-7726-9534-3

帯文より:死ぬとき、脳はなにを感じるか? 臨死脳研究の第一人者が、スピリチュアル体験の謎に挑む。最期に、脳はボーダーランドに入り込む。だれもが最後に体験する死――その間際に、脳はいかに働き、なにを感じるのか? 脳は死に瀕しても活動し、私たちを覚醒-夢-無意識の混在した〈ボーダーランド〉へと誘う。臨死体験と、レム睡眠、脳の原始的な領域とのかかわりを、最新の脳科学が解き明かす。

推薦文:「本書の考察は、際立っており、挑戦的で、しかも面白く読める」(V・S・ラマチャンドラン)。「ネルソンの脳は、夢と信と、そして死(まだ未体験だが)を知っている」(アラン・ホブソン)。

原書:The Spiritual Doorway in the Brain, Dutton(Penguin), 2011.

目次:
プロローグ 自分のベッドの足元で
第I部 脳と意識の変容
 第1章 霊的(スピリチュアル)体験とは何か?――恐怖からピンボール、お花畑まで
 第2章 三つの意識状態――霊的覚醒の場
 第3章 断片化した自己――私たちが自己の偽証者となる時
第II部 死の入り口で
 第4章 さまざまな臨死体験――物語を紡ぐ
 第5章 脳が死の入り口に立った時――光と血
 第6章 古代のメトロノーム――恐怖から霊的至福に至るテンポ
 第7章 夢と死のボーダーランド――レム睡眠の侵入
第III部 向こうの世界
 第8章 合一の美と恐怖――神秘の脳の奥深く
エピローグ 英知の新生
謝辞

参考文献
解説


★発売済。著者ケヴィン・ネルソンはケンタッキー大学・神経学教授。同大学で医療部門の所長も務めています。本書は人間のスピリチュアルな体験が脳内の現象によって実現していることを明らかにしています。「臨死体験と、臨死体験に関連していると思われる霊的事象、つまり体外離脱体験、恍惚感や解脱の境地、“合一”の神秘体験、聖人や死者の幻視について、現在私が進めている研究を紹介しよう。原始的な脳幹が、脳の中で進化上最も新しい大脳皮質のうち最も古く誕生した大脳辺縁系と連動して活動し、多種多様な霊的体験につながることを説明するつもり」(18頁)とあり、「霊性の神経学的基盤を解明する」(19頁)ことが目指されています。レム睡眠と臨死体験(体外離脱)との関係をはじめとして、さまざまな霊的体験が脳神経科学で鮮やかに説明されていきますが、かと言って霊的体験が無意味な幻想なのだと決めつける傲慢さはなく、むしろ非常に説得的に人間の脳の「神秘」への興味を掻き立てられます。気が早いですが、個人的には2013年上半期のベスト本の一冊に数えたい本です。


ルネサンスの聖史劇
杉山博昭(すぎやま・ひろあき:1975-)著
中央公論新社 2013年2月 本体4,200円 A5判上製448頁 ISBN978-4-12-004467-0

帯文より:ルネサンスが宗教劇に刻み込んだ断裂。聖史劇は、活版印刷技術と出版ブームが到来する以前、世界最大のマスメディアであった。最も盛んに催された15世紀フィレンツェに焦点を当て、台本、上演、受容の実態を精緻に探る。さらに、同時代の絵画作品とのあいだに存在する照応関係をも検証した本格的論考。本邦初訳の聖史劇台本14本を収録、図版64点、内27点をカラーで掲載。

目次:
I 序論
II 台本
III 室内
IV 野外
V 脇役
VI 図像
VII 結論
VIII 翻訳
謝辞

文献
索引

★発売済。本書は著者が京大に昨年提出した博士論文に加筆修正したもの。聖史劇とは聖書を題材につくられた宗教劇のことで、中世末期のヨーロッパで流行したと一般的に言われています。本書は15世紀のフィレンツェで上演された聖史劇を、台本、制作、上演の三点から考察し、「当時の社会で果たした役割と機能をあきらかにすること」(7頁)を目的としています。類書が少ない中、165頁にわたって台本原典の翻訳を掲載しているところも貴重です。

★第VIII章「翻訳」に収録されている聖史劇14本の詳細は次の通り。『神が世界と人間、そして万物をお造りになったときの聖史劇』『放蕩息子の帰還の聖史劇』『栄光に満ちた聖人、聖バルトロメウスの殉教の聖史劇』『皇帝オクタヴィアヌスのフェスタのスタンツェ』『聖母マリアのお清めの聖史劇』『洗礼者ヨハネの斬首の聖史劇』『スザンナのフェスタ』『モーセとエジプト王ファラオの聖史劇』『マギのフェスタの聖史劇』『イエスがラザロを蘇らせたときの聖史劇』『聖霊降臨祭の聖史劇』『最後の晩餐と受難の聖史劇』『キリストの復活の聖史劇』『聖霊の奇跡のフェスタ』。

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同化と他者化――戦後沖縄の本土就職者たち
岸政彦(きし・まさひこ:1967-)著
ナカニシヤ出版 2013年2月 本体3,600円 四六判並製450頁 ISBN978-4-7795-0723-6

帯文より:復帰前、「祖国」へのあこがれと希望を胸に、本土へ渡った膨大な数の沖縄の若者たち。しかしそれは壮大な「沖縄への帰還」の旅でもあった──。

版元紹介文より:「もうひとつの復帰運動」としての戦後の大規模な本土移動。なぜ彼らのほとんどは、結局は沖縄に帰ることとなったのか。詳細な聞き取りと資料をもとに、「沖縄的アイデンティティ」、さらにはマイノリティのアイデンティティのあり方を探る。

目次:
序章 オキナワから来た少年
第一章 戦後沖縄の経済成長と労働力流出
 一 沖縄の戦後
 二 戦後の人口移動と都市集中
 三 沖縄の高度経済成長
 四 本土就職の概要
第二章 本土就職者たちの生活史
 一 調査の概要
 二 本土就職者たちの生活史
第三章 ノスタルジックな語り
 一 ノスタルジックな語り
 二 「繋留点」としての定型的な語り
第四章 本土就職とはなにか
 一 過剰移動――戦後沖縄の労働力移動における政治的要因
 二 自己言及と他者化――本土就職者のための「合宿訓練」
 三 過剰移動その後
結論 同化と他者化
 一 沖縄的同郷性
 二 アイデンティティとはなにか
 三 マジョリティとマイノリティ
 四 同化と他者化
参考文献
あとがき
関連年表

★近日発売。著者の岸政彦さんは龍谷大学社会学部准教授。ジョック・ヤング『排除型社会』(洛北出版、2007年)の共訳などの実績をお持ちですが、単独著は本書が初めてかと思います。副題にある通り「戦後沖縄の本土就職者」の方々への聞き取り調査や、当時の行政資料の統計的検証、メディア報道の分析などを通じて、「本土に対する他者性の感覚」(13頁)とも言える沖縄的アイデンティティを研究し、特に「同化を通じた他者化」(9頁)、「島ぐるみでの日本への同化運動」(15頁)としての戦後の復帰運動について描写を試みています。何と言っても本土就職者の肉声はそのひとつひとつが生々しく、胸を打ちます。

★「沖縄の特殊性や固有性、あるいは独特のアイデンティティは、おそらくはこのような沖縄と日本との関係のなかでつくられてきた。それはこれまで考えられたよりはるかに「同化主義的」なものだったのだが、実はこのきわめて同課的な移動を通じた出会いが、そのまま逆転して沖縄の固有性や他者性をつくりだしていったのではないか。これが本書における仮説である」(17頁)。「沖縄を、社会変化と移動という観点から考えてみること。特殊な伝統文化や不変の民俗性という神話からではなく、戦後の経済成長と近代化、産業構造と労働市場の変化、多様な生活史と語りという、一見すると沖縄的ではないようなものから沖縄を語り直してみること。これが本書の課題である」(33頁)。

★そうした手法によるものでしょうか、本書は沖縄の特殊性を殊更に強調する本ではなく、〈ひととしての共感〉を自然と呼び起こす、心揺さぶる本となっていると思います。本書の編集担当者はSさん。先般ご紹介した『社会的なもののために』『ポスト3・11の科学と政治』もSさんのご担当です。昨年大いに話題を呼んだ下記のロベール・カステル『社会問題の変容』もSさんの担当書籍。専門書の場合、気になる著者というより気になる編集者の手掛けた本を追いかける方がしばしば楽しい経験になります。


社会問題の変容――賃金労働の年代記
ロベール・カステル(Robert Castel, 1933-)著 前川真行(まえがわ・まさゆき:1967-)訳
ナカニシヤ出版 2012年3月 本体6,500円 A5判上製632頁 ISBN978-4-7795-0637-6

帯文より:福祉国家「以後」の危機に迫る! 失業と労働条件の不安定化がもたらす今日の社会的危機の根源は何か。賃金労働の軌跡を14世紀から捉え返し、賃金労働社会と「社会的なもの」の成立の過程とその危機を明らかにするロベール・カステルの主著、待望の完訳。

「結論 負の個人主義」より(541頁):現在の個人主義化のプロセスを通じてみられる矛盾は、このように深刻なものである。この矛盾が社会に突きつけているのは、みずからを統治不可能なものとしかねない分断化の恐れである。すなわち、社会的地位の安定ゆえに個人主義と自律を結びつけることのできる者を一方の極に、そして個人として存在することが手がかりの不在と保障の欠落とを意味してしまうがために、それを十字架として背負わなければならない者をもうひとつの極へと置く、社会の二極化の恐れである。

原書:Les métamorphoses de la question sociale: Une chronique du salariat, Fayard, 1995.

目次:
前書き
比較のための覚え書き
第一部 後見から契約へ
 第一章 近接性に基づく保護
 第二章 土地に縛られた社会
 第三章 名もなき賃金労働者
 第四章 自由主義的近代
第二部 契約から身分規定へ
 第五章 国家なき政治
 第六章 社会的所有
 第七章 賃金労働社会
 第八章 新たな社会問題
結論 負の個人主義
訳者解説
索引〔人名/事項〕

◎ロベール・カステル(Robert Castel, 1933-)既訳書
2009年04月『社会の安全と不安全』庭田茂吉+アンヌ・ゴノン+岩﨑陽子訳、萌書房
2012年03月『社会問題の変容――賃金労働の年代記』前川真行訳、ナカニシヤ出版

★カステルというと、人文業界で有名なのは、マヌエル・カステル(Manuel Castells, 1942-)と上記のロベール・カステルです。前者はスペイン生まれの社会学者で、マヌエルはマニュエルとも表記されることがあります。現在はアメリカの大学で教鞭を執っています。専門は都市社会学で日本では80年代から翻訳が刊行されています。ロベール・カステル(Robert Castel, 1933-)はフランスの社会学者で、社会科学高等研究院(EHESS)教授。70年代は精神分析や精神医学を研究対象にしていましたが、90年代以降は賃金労働をめぐる社会史の検証で有名です。著書の翻訳が出始めたのはここ数年のこと。今後ますます注目されるだろう学者です。

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批判的想像力のために――グローバル化時代の日本
テッサ・モーリス=スズキ(Tessa Morris-Suzuki, 1951-)著
平凡社ライブラリー 2013年2月 本体1,500円 HL判並製356頁 ISBN978-4-582-76781-0

帯文より:この「ナショナリズム」は放置してよいのか?「歴史教科書問題」や「在特会」、「領土問題」、加熱するネトウヨ、批判的想像力の危機にむけた問題提起と考察は、いま、さらに切迫する! 解説=岩崎稔

カバー紹介文より:「歴史教科書論争」と「歴史主体論争」に介入し、この問題が、グローバリゼーションのなかで世界的に現出している状況の一類型にほかならないことを、鮮やかに示した現状診断。危機に瀕した批判的想像力を活性化させ、歴史を修正し、閉じた「われわれ」を立ち上げる欲望――虚無的ナショナリズムに抗すべく、粘り強くかさねられた思考。その思考と認識がいま、切実性を増して呼びかける!

★発売済。親本は2002年、平凡社刊。ライブラリー化にあたって、著者による「平凡社ライブラリー版へのあとがき」と、岩崎稔さんによる「停滞と循環の一〇年を超えるために――平凡社ライブラリー版の解説に代えて」が加わっています。著者はこの新しいあとがきで「人びとの国境を越える移動への恐怖が激しい外国人恐怖症(ゼノフォビア)に力をあたえている」(337頁)と書いています。先進国であるか否かにかかわらずこうしたゼノフォビアや排外主義は世界各地で猛威を増しつつあり、日本を含む東アジアでもその様相は変わりません。著者が住むオーストラリアも然り。帯文やカバー紹介文にある通り、本書で論じられたグローバル化時代の日本の諸問題はますます切迫しつつあります。「読み返してみて驚くのは、その批判の的確さや目配りの良さもさることながら、それがまさにいま現在進行していることを言い当てているということである」(343-344頁)と岩崎さんは述懐されています。

◎テッサ・モーリス=スズキ(Tessa Morris-Suzuki, 1951-)単独著既訳書
1991年11月『日本の経済思想――江戸期から現代まで』藤井隆至訳、岩波書店;2010年07月、岩波モダンクラシックス
2000年07月『辺境から眺める――アイヌが経験する近代』大川正彦訳、みすず書房
2002年05月『批判的想像力のために――グローバル化時代の日本』平凡社;2013年02月、平凡社ライブラリー
2004年08月『過去は死なない――メディア・記憶・歴史』田代泰子訳、岩波書店
2004年10月『自由を耐え忍ぶ』辛島理人訳、岩波書店
2007年05月『北朝鮮へのエクソダス――「帰国事業」の影をたどる』田代泰子訳、朝日新聞社
2007年09月『愛国心を考える』伊藤茂訳、岩波ブックレット

※このほか、とりわけ親書で出た2点の共著は特筆すべきかもしれません。『デモクラシーの冒険』(姜尚中共著、集英社新書、2004年11月)、『天皇とアメリカ』(吉見俊哉共著、集英社新書、2010年2月)。


共同研究 転向5 戦後篇 上
思想の科学研究会編
東洋文庫 2013年2月 本体3,400円 全書判上製528頁 ISBN978-4-582-80831-5

帯文より:戦後の民主化そのものが「転向」だったのか? それとも戦後左翼は民主主義革命から「転向」したのか? 厳しく問われる戦後思想(全6巻の5)。

版元紹介文より:『共同研究 転向』「戦後篇」は、1945年の敗戦以後の国家主義者から保守主義者・自由主義者まで、日本社会全体を覆う恥辱も罪意識も感じられない「自由な転向」をあぶり出す。

★発売済。戦後篇の上巻では、津久井龍雄、穂積五一、石川準十郎、東井義雄、石原莞爾、浅原健三、今村均、吉田満、柳田国男、白鳥義千代、蝋山政道、といった人々が取り上げられています。巻頭の論考「昭和二十年、二十七年を中心とする転向の状況」で藤田省三さんがいみじくも書いておられる通り、「戦後転向の研究は特殊なむずかしさを持っている。そのむずかしさの一つは、それが一定の上申書でもって国家権力に対して誓約するといった戦前の典型的な「獄内転向」のごときだれの目にも確かな客観的規格性をもていないということろから来ている」(17頁)。転向の問題はじっさいのところ、かたちを変えて今なお現実に進行しているように思います。政治的危機が深まれば深まるほど、知識人は転向していきます。転向がもはや問われていないように思える現代の状況は、知的誠実さという言葉が死語となって久しいこんにちの混乱期を象徴しているように思えます。

★最終配本となる『共同研究 転向』第6巻は来月(2013年3月)刊行予定とのことです。同時に、イザベラ・バードの『完訳 日本奥地紀行』第4巻も発売予定でこちらも全巻完結になります。
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by urag | 2013-02-11 23:17 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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