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2013年 01月 27日

注目の新刊と近刊:デュピュイ『経済の未来』以文社、ほか

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経済の未来――世界をその幻惑から解くために
ジャン=ピエール・デュピュイ著 森元庸介訳
以文社 2013年1月 本体3,000円 四六判上製280頁 ISBN978-4-7531-0309-6

帯文より:今日の金融危機に象徴される資本主義の全般的危機の真相が、〈市場〉万能主義という神話に基づいたパラドキシカルな帰結であることを論証し、かつ現代のグローバル化社会では、市場経済が政治の位置を簒奪していることに警鐘を鳴らす、本格的な現代文明批評。

版元紹介文より:2000年代以降、「破局主義」の概念をめぐる諸著作(『ツナミの小形而上学』、『チェルノブイリ』他)によって注目を集めた、ジャン=ピエール・デュピュイの金融危機=経済を中心にした最新作。本書は、2008年以来の金融危機を対象として、それが、市場万能主義という神話に基づいたパラドキシカルなメカニズムであり、その結果、現代のグローバル化世界では政治(社会保障、外交などあらゆる政策)が経済の関数に成り下がっていることに警鐘を鳴らす。

原書:L'avenir de l'économie: Sortir de l'économystification, Flammarion, 2012.

目次:
序 政治を手玉に取る経済
第一章 経済と悪という問題
第二章 自己超越
第三章 終わりの経済学と経済の終わり
第四章 経済理性批判
結び 運命論を脱けて
補遺 時間、パラドクス
訳者あとがき

★発売済。昨年2月に刊行された話題書が1年足らずで翻訳されました。「この本は、政治が経済に、また権力が経理になぶりものとされるのを目の当たりにしての恥辱から、やむにやまれず書いたものである」(3頁)。これが本書の書き出しです。かつて宗教が政治の上に立っていたように、今は経済が政治を「みずからの卑屈な手先」(8頁)としており、結果、「わたしたちの社会は動きが取れなくなっている」(9頁)とデュピュイは指摘します。「脱け出すべきは資本主義というよりむしろ経済が政治を幻惑している現下の状況であり、そこから抜け出した先で新しい経済理性そのものを創り出すべきなのだ」(9-10頁)。「わたしたちが現に知っている経済にはおそらく未来がない」(11頁)ものの、「あたかも破局の到来がわたしたちの運命であるかのように、しかしわたしたちにそれを拒む自由のある運命であるかのように考えること」(239頁)、これがデュピュイの言う「賢明な破局主義」です。「資本主義の延命は今日、グローバリゼーションの成否と分かちがたく結びついている。〔…〕グローバリゼーションの失敗は反グローバリゼーションの勝利ではない。それは必ずや何かしらの大きな破局、付随的(コラテラル)ダメージとして資本主義の終わりをともなう破局であるはずだ」(166頁)。人間の経済活動がもつ根本的な問題点を抉りつつ、破局ではない別の運命を選ぼうとする本書は、まさにビジネスマンや政治家にとって必読の痛烈な皮肉で読者の日常的まどろみを覚ましてくれます。

★デュピュイはかつてイヴァン・イリイチと共同研究を行った実績もあり、人間の幸福ために生み出されたはずのものがかえって人間に牙をむくというパラドックスと長年向き合ってきました。3.11以後に日本語訳された『ありえないことが現実になるとき』『ツナミの小形而上学』『チェルノブイリ』はそれぞれ原書が2004年、2005年、2006年に出版されたもので、デュピュイはまさに「政治の予言的次元を回復すること」(240頁)を実践したがゆえに、大災害の前にそれらの著書を上梓しえたのでした。デュピュイは今や日本でもっとも注目されているフランスの思想家の一人ですから、ますます訳書も今後増えるだろうと思われます。なお、以文社さんではデュピュイの『聖なるものの徴』(2009年;増補版2010年)の訳書を刊行する予定であることが「訳者あとがき」で明かされています。

◎ジャン=ピエール・デュピュイ(Jean-Pierre Dupuy, 1941-)単独著既訳書
1987年02月『秩序と無秩序――新しいパラダイムの探求』古田幸男訳、法政大学出版局
2003年10月『犠牲と羨望――自由主義社会における正義の問題』米山親能+泉谷安規訳、法政大学出版局
2011年07月『ツナミの小形而上学』嶋崎正樹訳、岩波書店
2012年03月『チェルノブイリ ある科学哲学者の怒り――現代の「悪」とカタストロフィー』永倉千夏子訳、明石書店
2012年05月『ありえないことが現実になるとき――賢明な破局論にむけて』桑田光平+本田貴久訳、筑摩書房
2013年01月『経済の未来――世界をその幻惑から解くために』森元庸介訳、以文社

★なお、訳者の森元庸介さんは今後、ディディ=ユベルマン『ニンファ・モデルナ』(平凡社)や、レーベンシュテイン『猫の音楽』(勁草書房)などの訳書を上梓されるそうで、大注目です。また、以文社さんでは来月(2013年2月)22日発売予定で以下の新刊を刊行されます。

他処からやって来た声――デ・フォレ、シャール、ツェラン、フーコー
モーリス・ブランショ著 守中高明訳
以文社 2013年2月 本体2,800円 四六判上製216頁 ISBN978-4-7531-0310-2

目次:
アナクルシス――ルイ= ルネ・デ・フォレの詩について
ラスコーの獣――ルネ・シャール 
最後に語る人――パウル・ツェラン 
ミシェル・フーコー――わが想像のうちの

★これはUne Voix venue d'ailleurs, Gallimard, 2002の翻訳かと思います。収録された4つのテクストはかつてそれぞれ別々に訳されていたものですが、今回すべて新訳されることになるわけです。

★さて、以下では1月から3月までの注目新刊を列記します。

◆2013年1月
発売済『ガリレオの生涯』ブレヒト著、谷川道子訳、光文社古典新訳文庫、1,100円
発売済『アナキストサッカーマニュアル――スタジアムに歓声を、革命にサッカーを』ガブリエル・クーン著、甘糟智子訳、現代企画室、2,200円
発売済『神の文化史事典』松村一男+平藤喜久子+山田仁史編、白水社、3,990円
発売済『ジャン=リュック・ナンシー――分有のためのエチュード』澤田直著、白水社、2,940円
発売済『希望の原理 3』エルンスト・ブロッホ著、山下肇ほか訳、白水iクラシックス、4,410円
01月31日『根源悪の系譜――カントからアーレントまで』リチャード・J・バーンスタイン著、阿部ふく子ほか訳、法政大学出版局、4,500円

★『ガリレオの生涯』は『母アンナの子連れ従軍記』(2009年)に続く、谷川道子訳ブレヒトです。『アナキストサッカーマニュアル』は、マティルド・セレル『コンバ――オルタナティヴ・ライフスタイル・マニュアル』と併せてチェックしたい楽しい本。『神の文化史事典』は900項目もの神様事典。『ジャン=リュック・ナンシー』はシリーズ「哲学の現代を読む」の第10弾。『希望の原理 3』は第四部「よりよい世界の見取図」の前半を収録。『根源悪の系譜』のバーンスタインは単独著の翻訳が『科学・解釈学・実践――客観主義と相対主義を超えて』(全2巻、丸山高司ほか訳、岩波書店、1990年)、『手すりなき思考――現代思想の倫理-政治的地平』(谷徹+谷優訳、産業図書、1997年)とまだ少なく、今回の新刊も約16年ぶり。

◆2013年2月
02月06日『クォンタム・ファミリーズ』東浩紀著、河出文庫、798円
02月06日『澁澤龍彦訳 幻想怪奇短篇集』河出文庫、998円
02月06日『原典訳 ウパニシャッド』岩本裕編訳、ちくま学芸文庫、1470円
02月06日『反・仏教学――仏教vs.倫理』末木文美士著、ちくま学芸文庫、1155円
02月06日『美術で読み解く聖人伝説』秦剛平著、ちくま学芸文庫、1575円
02月07日『生権力の思想――事件から読み解くその転換』大澤真幸著、ちくま新書、840円
02月08日『ケルト神話ファンタジー――炎の戦士クーフリン/黄金の騎士フィン・マックール』R・サトクリフ著、灰島かりほか訳、ちくま文庫、924円(全2巻予定)
02月08日『現代語訳 文明論之概略』福澤諭吉著、齋藤孝訳、ちくま文庫、903円
02月08日『ルーマニアの変容』シオラン著、金井裕訳、法政大学出版局、3,800円
02月10日『ルネサンスの聖史劇』杉山博昭著、中央公論新社、4,410円
02月12日『悪魔の話』池内紀著、講談社学術文庫、882円
02月13日『口語訳 遠野物語』柳田國男著、後藤総一郎監修、佐藤誠輔訳、河出書房新社、1,890円
02月13日『超人の倫理――〈哲学すること〉入門』江川隆男著、河出ブックス、1,575円
02月13日『東大の大罪』和田秀樹著、朝日新書、798円
02月15日『おどろきの中国』橋爪大三郎+大澤真幸+宮台真司著、講談社現代新書、未定
02月15日『「知」の挑戦――本と新聞の大学』全2巻、姜尚中+一色清+依光隆明+杉田敦+加藤千洋+池内了著、集英社新書、777円/798円
02月15日『ウンベルト・エーコ 小説の森散策』ウンベルト・エーコ著、和田忠彦訳、岩波文庫、882円
02月20日『散種』ジャック・デリダ著、藤本一勇+立花史+郷原佳以訳、法政大学出版局、5,800円
02月22日『水の迷宮――クラッシャージョウ11』高千穂遙著、ハヤカワ文庫、798円
02月22日『バウンダリー叢書版 内なる異性――アニムスとアニマ』エンマ・ユング著、海鳴社、1,200円
02月25日『ラインズ――線の文化史』ティム・インゴルド(1948-)著、左右社、2,800円
02月25日『昨日までの世界』上下巻、ジャレド・ダイアモンド著、日本経済新聞出版社、各2,100円
02月25日『集合知とは何か――ネット時代の「知」のゆくえ』西垣通著、中公新書、987円
02月25日『科学史人物事典――150のエピソードが語る天才たち』小山慶太著、中公新書、987円
02月25日『聖書考古学――遺跡が語る史実』長谷川修一著、中公新書、840円
02月25日『お伊勢参り――江戸庶民の旅と信心』鎌田道隆著、中公新書、840円
02月27日『中身化する社会(仮)』菅付雅信著、星海社新書、861円
02月27日『フッサール心理学宣言――他者の自明性がひび割れる時代に』渡辺恒夫著、講談社、1,890円
02月中旬『国民アイデンティティの創造――十八~十九世紀のヨーロッパ』アンヌ=マリ・ティエス著、斎藤かぐみ訳、工藤庸子監修、勁草書房、4,200円
02月下旬『リアリズムの法解釈理論――ミシェル・トロペール論文撰』南野森編訳、勁草書房、4,200円
02月中旬『レニングラード封鎖――飢餓と非情の都市1941-44』マイケル・ジョーンズ著、松本幸重訳、白水社、3,990円
02月下旬『ビザンツ帝国の最期』ジョナサン・ハリス著、井上浩一訳、白水社、3,990円
02月不詳『エセー 5』ミシェル・ド・モンテーニュ著、宮下志朗訳、白水社、2,520円
02月不詳『創造的進化――新訳ベルクソン全集4』アンリ・ベルクソン著、竹内信夫訳、4,200円
02月不詳『希望の原理 4』エルンスト・ブロッホ著、山下肇ほか訳、白水iクラシックス、4,200円
発売延期?『不測のいまをいき抜くために――終わりなき液状化世界からの44通の手紙』ジグムント・バウマン著、ちくま学芸文庫、1050円

★2月新刊でもっとも楽しみなのはデリダ『散種』。数十年もの昔からウニベルシタスで予告が出ていましたが、訳者も世代交代して、ついに完成を見ることになります。弊社の『ブランショ政治論集』の共訳者、郷原佳以さんが訳者の一人として参加されています。訳者を代表される御立場と拝察する藤本一勇さんは3月に単著(下記参照)を刊行されます。バウマンの文庫は、取次の近刊情報(e-hon)には出ていましたが、版元サイトからは漏れているので、発売が3月以降になったものと推測しています。

◆2013年3月
03月01日『魔法使いハウルと火の悪魔――ハウルの動く城1』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著、西村醇子訳、徳間文庫、690円
03月08日『情報のマテリアリズム』藤本一勇著、NTT出版、2,730円
03月09日『マス・イメージ論』吉本隆明著、講談社文芸文庫、未定
03月12日『カント「視霊者の夢」』金森誠也編訳、講談社学術文庫、未定
03月26日『僕らは「労働」について何も知らずに死ぬほど働いている(仮) 』今野晴貴著、星海社新書、未定
03月中旬『ラカン』ポール=ローラン・アスン著、西尾彰泰訳、文庫クセジュ、1,260円
03月中旬『希望の原理 5』エルンスト・ブロッホ著、山下肇ほか訳、白水iクラシックス、4,515円
03月下旬『コント・コレクション ソシオロジーの起源へ』オーギュスト・コント著、杉本隆司訳、白水iクラシックス、2,100円

★3月新刊で楽しみなのは白水iクラシックスでスタートする「コント・コレクション」です。コントの訳書はほとんどが戦前のもので、新訳は『世界の名著(36)コント/スペンサー』(中央公論社、1970年)を最後に途絶したはずです。半世紀近い快挙となるのがこの「コント・コレクション」なわけで、これは本当にすごいことです。
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by urag | 2013-01-27 21:32 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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