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2012年 12月 16日

注目の新刊、近刊:渡邉大輔『イメージの進行形』人文書院、ほか

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イメージの進行形――ソーシャル時代の映画と映像文化
渡邉大輔(わたなべ・だいすけ:1982-)著
人文書院 2012年12月 本体2,300円 4-6判並製324頁 ISBN978-4-409-10031-8

帯文より:ゼロ年代批評の到達点にして、新たなる出発点。ネットを介して流れる無数の映像群と、ソーシャルネットワークによる絶え間ないコミュニケーションが変える「映画」と社会。「表層批評」(蓮實重彦)を越えて、9.11/3.11以後の映像=社会批評を更新する画期的成果、待望の書籍化。ウェルズから「踊ってみた」まで、カントから「きっかけはYOU!」まで

あとがきより(305頁):今日のグローバル資本主義とソーシャル・ネットワーキングの巨大な社会的影響を踏まえた、これまでにはない新たな「映画(的なもの)」の輪郭を、映画史および視覚文化史、あるいは批評的言説を縦横に参照しながらいかに見出すか――それが、本書全体を貫く大きな試みだったといってよい。つまり、筆者が仮に「映像圏Imagosphere」と名づける、その新たな文化的な地平での映像に対する有力な「合理化」のあり方を、主に「コミュニケーション」(冗長性)と「情動」(観客身体)というふたつの要素に着目しつつ具体的な検討を試みてきたわけである。

★20日取次搬入予定。東浩紀さんのメルマガ「波状言論」で2005年にデビューした若手による待望の単著デビュー作です。ウェブ版『早稲田文学』である「Wasebun on Web」での不定期連載「イメージの進行形――映像環境はどこに向かうか」(2010年7月~2012年2月)に大幅加筆修正を施して単行本化されたもの。著者は日芸で芸術学の博士号を得て、現在は同大学で非常勤講師を務められています。

★本書の概要は「はじめに」で明かされており、第I部「環境分析」では映画および映像文化の現況を俯瞰し、ソーシャル時代の映像美学の可能性と映像文化における身体性が論じられます。第II部「歴史」では、前段で分析された21世紀の現況を20世紀の映像文化史との繋がりの中で、その連続性と切断点を明らかにします。第III部「作品/メディア分析」はオーソン・ウェルズや岩井俊二の映像作品、Twitterなどのメディアの具体的な分析。第IV部「社会論」では映像文化の社会性や公共性をめぐる問いに映り、映像特有の公共性を対抗的公共圏と位置づけ、著者が言う「映像圏〔イマゴスフィア〕」のこれからが展望されます。

★本書は映像文化論ではあるのですが、ひとつひとつの議論は広義の「出版文化」の行く末を考える上で示唆的であり、業界人必読の本だと思います。特に人文書業界にとっては、渡邉さんが「おわりに」で論及している、スピヴァクの『ある学問の死』(みすず書房、2004年)との交差が興味深いところではないかと思います。


環境と社会
西城戸誠(にしきど・まこと:1972-)+舩戸修一(ふなと・しゅういち:1970-)編
人文書院 2012年12月 本体1,800円 4-6判並製224頁 ISBN978-4-409-00109-7

帯文より:気鋭の環境社会学者らによる画期的ガイドの誕生。自然災害、原発、リスク社会、エコロジーなど、3.11以後、われわれの生きる世界を根底から捉え直し、新たな一歩を踏み出すための刺激的な30冊。

★発売済。「ブックガイドシリーズ 基本の30冊」の最新刊。編者の一人、西城戸誠さんは『抗いの条件――社会運動の文化的アプローチ』(人文書院、2008年)の著者です。取り上げられる30冊や、その分類については、書名のリンク先に掲載されている目次詳細をご覧ください。3.11以後、多くの日本人にとっていっそう切実な課題になりつつある環境問題の幅広さとその根源を考える上で役に立つブックガイドになっています。このシリーズは本書を含めすでに9点刊行されており、今後も「マンガ・スタディーズ」「人文地理学」「沖縄論」「精神分析学」「臨床心理学」「経済学」などが続刊予定です。これらすべてを一人の編集者、Mさんが担当されていることにただただ脱帽するばかりです。

★『環境と社会』はエコロジー、公害問題、リスク社会、当事者性、公正と正義をめぐるこれまで出版されてきた国内外の名著を紹介しており、現代人がこれらの問題群にどう立ち向かってきたかを教えてくれますが、以下にご紹介する新刊3点も、それぞれの歴史を振り返ることによって私たちの「現在」を逆照射する貴重な資料となっていると思います。

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書評紙と共に歩んだ五〇年
井出彰(いで・あきら:1943-)著
論創社 2012年12月 本体1,600円 46判並製178頁 ISBN978-4-8460-1197-0

帯文より:1968年に『日本読書新聞』に入社した著者は、三交社などを経て、88年には『図書新聞』編集長となる。多くのエピソードをもって語る、書評紙の“編集と経営”の苦闘の日々。過ぎた昔も過ぎゆく今も、〈書評紙〉のなかにある。

★発売済。シリーズ「出版人に聞く」第9弾。著者は早稲田大学卒業後、日本読書新聞編集長、三交社取締役を経て、1988年より図書新聞代表を務められています。一般の読者にとってはほとんど未知であろう書評紙の内幕や、出版業界の編集者人脈、作家との交流関係を垣間見ることのできる稀有な証言です。井出さんは幾度となく「時代は変わった」と述懐されていますが、それはかつて出版文化が華やかだったころへのノスタルジーでもなく、かと言って現在への諦めでもないのが印象的。後塵を拝する私たちの方がよっぽど、時代の変化のただなかにありながら、物事に対峙することができていないのかもしれない。そう戦慄させる、襟を正したくなる本です。単なる思い出話に留まるものではない、いくつものヒントがこの「出版人に聞く」シリーズの本にはいつも隠されています。


ベルリンの壁――ドイツ分断の歴史
エトガー・ヴォルフルム(Edgar Wolfrum, 1960-)著 飯田収治+木村明夫+村上亮訳
洛北出版 2012年12月 本体2,400円 四六判並製284頁 ISBN978-4-903127-17-0

帯文より:壁が倒れたとき、あなたは何歳でした? なぜ人びとは壁に慣れてしまったのか? その壁がどうして、1989年に倒れたのか? 建設から倒壊までの、冷戦期の壁の歴史を、壁のことをよく知らない若い人にむけて、簡潔かつ明瞭に解き明かす。写真を多数掲載。

カバー裏紹介文より:1989年、ベルリンの壁は倒壊しました。今の若い人たちには、記憶のない事件でしょう。その後に生まれたのですから。/この本は、壁の構築から倒壊に至るまでの人びとの苦悩、抵抗、無関心の歴史について、壁のことをよく知らない人に向けて書かれています。今なお世界中にある「壁」にも目を向けてほしいからです。たとえば、イスラエルとパレスチナのあいだ、アメリカとメキシコのあいだ、インドとバングラデシュのあいだ、都市の富裕層と貧困層とのあいだに、「壁」が構築され続けていることに、あなたは気づくでしょう。

★発売済。東西ドイツを分断するベルリンの壁に人々が大勢よじ登り、ツルハシを打ちおろして壁を壊していく、あの当時の映像をほぼリアルタイムで見ることのできた同時代人は今では例外なくいい大人の世代ですが、なるほど、今の10代や20代の若い人にとってみると紛れもない過去の出来事で、同時代的な感覚はないのかもしれません。同じように、壁が崩壊してまもなく日本で起きたバブル崩壊やそれにともなう経済の長期停滞、出版不況などは若い世代にはもはやデフォルトの世界の基底を成しているわけで、時の移り変わりは否定すべくもありません。本書はベルリンの壁の歴史を教えるとともに、末尾では、今なお世界のあちこちに築かれている壁にも言及しています。実体的なものであれ、内面的なものであれ、人々を分断する暴力的な壁がまだまだ存続し、新たに生まれていることへの痛烈な批判が本書にはあります。異国の話のようで、実はその教訓の矢は日本に住む私たちにも返ってくるという、非常に啓発的な本です。


上野駅の幕間――本橋成一写真集
本橋成一(もとはし・せいいち:1940-)著
平凡社 2012年12月 本体4,600円 B5変型判上製208頁 ISBN978-4-582-27795-1

帯文より:旅立つ人、送る人、帰る人、迎える人、待つ人、佇む人、働く人、住む人……。物語がつむがれては幕間が訪れ、ふたたび新しいドラマが始まる。昭和の上野には、北の国と都会を結んだ〈駅〉という名の広場があった。上野駅改行130周年を機に、新装改訂して送る名作写真集。

★発売済。昨年上梓された『屠場』(平凡社)が印象的だった映像作家、写真家による名作の再刊です。親本は1983年に現代書館より刊行されました。記録映画作家の土本典昭さんが構成と解説を手掛けられています。長らく品切で入手しにくく、古書価が高いままでしたから、この機会に復刊されたのは非常に嬉しいですね。巻末に置かれた本橋さんによる「新装版によせて」によれば、「土本氏の構成案に基づきながら、伊勢功治氏の手により一部の写真を差し替え、新たに再構成し、レイアウト・造本を一新したもの」とのことです。

★昭和の上野駅は当時少年だった私のような世代にとってもすでに遠い記憶で、駅構内やホームに新聞紙をひいてどこでも座りこんでいる私たちの父母、祖父母世代、あるいは彼らに伴われた自分たちを本書の中に見る時、何ともいえない落ち着かなさや寂しい感じが胸に迫ります。本書の題名にもある「幕間」が意味する、人々の往来のあわただしさや活気に満ちためまぐるしい流動性のさなかで、見知らぬ者同士がひと時を共有するそのはかなさ、「旅の途中」というあの移ろいやすさの中でまたたく群像が、本書には空気感としてくっきり残っています。平凡な光景のように見えて、本橋さんの視線には実に目ざといものがあると分かる時、読者は衝撃を受けるでしょう。

書影は左が筒函、右が写真集本体です。
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by urag | 2012-12-16 14:08 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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