2012年 10月 29日

注目新刊:各種再刊、復刊、文庫化、第二版など

★先週ついに『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 全記録全集』と『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 全記録全集』が再刊されましたね。初回特典はついていませんけれど、この『全記録全集』の造本はエヴァのファンならずとも注目してしまう美しいもので、あの恐るべきヴォリュームがたったの1万円とか1万数千円で買えると言うのは他の分野ではとうていありえないことです。いかんせん大型本なので場所を取りますが、なくならないうちに買っておいた方がいいです。

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ノンセンスの領域
エリザベス・シューエル(Elizabeth Sewell, 1919-2001)著 高山宏訳
白水社 2012年10月 本体5,800円 四六判上製438頁 ISBN978-4-560-08302-4

帯文より:本当は怖ろしいノンセンスの世界。『不思議の国のアリス』やエドワード・リアの戯詩は厳格なゲームの規則に支配されている。分析的知によって人間と世界を引き裂くノンセンスの正体を明らかにした名著。関連エッセー2篇を併録した決定版。

カバーソデ紹介文より:ノンセンスはけっしてでたらめで無秩序な世界ではない。ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』やエドワード・リアの戯詩は、日常とはかけ離れてはいるが、むしろ遥かに厳密な固有の論理をもっている。そこでは言葉遊びのルールがすべてを決定し、その厳格な支配の下、人間もなにもかもが単なる〈もの〉、一個の記号と化す。行きつく先は〈人間〉と〈世界〉が決定的に分断された終末状況である。一般に笑いの文学とされるノンセンスの徹底分析を通して、近代の分析的知性がノンセンス・ゲームへと自閉していく危険をあばき、救済への途をさぐる、いまなお刺激的なノンセンス論の決定版。

訳者解説より:シューエル版「ノンセンス大全」は1910年代から60年代にかけての「近代」の終末状況から生まれてきたものに相違なく、たしかに『ノンセンスの領域』の後半部の冴えに冴えた細かな分析の与える知的スリルもさることながら、まずこの大きな「近代」の黙示録としてのパースベクティヴのゆえに、今後あまたノンセンス論が出てこようともこの書が凌駕されるなどという事は決してない。

原書:The Field of Nonsense, Chatto and Windus, 1952.

★発売済。サイファー『文学とテクノロジー』に続く、シリーズ「高山宏セレクション〈異貌の人文学〉」の第二弾です。親本は河出書房新社、1980年11月刊。親本に付録として収録されていたシューエルの論文「ノンセンス詩人としてのルイス・キャロルとT・S・エリオット」と巻末の訳者解説はそのまま再録されており、今回の復刊にあたっては第二の付録としてシューエルの論文「ルイス・キャロルの作品と現代世界にみるノンセンス・システム」と、訳者による書き下ろしの新解説「アルス・ポエティカの閃光」が追加されています。編集担当は今回も藤原編集室さんです。

★今回の復刊にあたって、大文字で始まるNonsenseはゴシック体でノンセンスと表記し、心・知性・精神などと訳し分けられていたmindはすべてカタカナ語でマインドと表記を改めたとのことです。「二十一世紀初めを彩る"Philosophy of mind"の先駆書の一冊、と思ってもらいたい一心だから」(428頁)と高山さんは綴っておられます。

★シリーズの続刊予定ですが、シューエルの『オルペウスの声』(1960年)が高山さんの翻訳、M・H・ニコルソン『ピープスの日記と新科学』が浜口稔さんの翻訳で予告されています。また、ホッケの名著では、平凡社ライブラリーより復刊された『文学におけるマニエリスム』に代わって、『絶望と確信』(種村季弘訳、朝日出版社、1977年)がリストアップされています。


重層的な非決定へ 新装版
吉本隆明著
大和書房 2012年10月 本体3,200円 4-6判上製600頁 ISBN978-4-479-39233-0

帯文より:思想は時代を超える。コム・デ・ギャルソン、小林秀雄、中上健次、ビートたけし、「E.T.」――。文学、ファッション、TV番組、あらゆる文化を語った画期的論考が待望の復刊!

推薦文:文化が多様なら、批評は自在でなければならない。吉本隆明の至高の境地。(橋爪大三郎)

★発売済。オビには「新装復刻版」、奥付には「新装版」と記されています。親本は同版元より85年9月に刊行されています。ニューアカ・ブームの後半に出版されたもので、吉本さんの80年代の様々な文章と発言が収録されています。吉本さんはニューアカ・ブームに与した知識人ではないものの、本書の書名ともなっているテクストの背景である、埴谷雄高さんちとのいわゆる「コム・デ・ギャルソン論争」などを振り返ると、やはりあの時代の空気を吉本さんもまた、「ハイカルチャー/マスカルチャー/サブカルチャー」の分け隔てなく吸っていたのだと感じます。その意味で、今こそ「吉本隆明の80年代」というものを、冷静に振り返ることができるようになる気がします。

★旧版のカバーでは書名と著者名の「上に」、「定価=2,200円」と大きく印刷されていて、こういう体裁は空前絶後だと思うのですが、これは菊地信義さんによるデザインでした。今回の新装版は旧版よりいっそうミニマルな装丁で、鈴木成一デザイン室さんが担当されています。背から見ると、帯はあえて何も印刷せず真っ白になっていて、書名と著者名、版元名が墨色のグラデーションの中に浮かび上がっています。とても美しいです。


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天体による永遠
オーギュスト・ブランキ著 浜本正文訳
岩波文庫 2012年10月 本体660円 文庫判並製216頁 ISBN978-4-00-342251-9

カバー紹介文より:19世紀稀代の革命家ブランキ(1805-1881)は、パリ・コミューン勃発の前日に逮捕される。トーロー要塞幽閉中に書かれた最後の著作が本書である。それは革命論ではなく、宇宙の無限から人間を考察したものだった。想像力を広大な宇宙に飛翔させ、そこでブランキが見たものは? ベンヤミンを震撼させたペシミズムの深淵。

目次:
I 宇宙――無限
II 無際限
III 星々との限りない距離
IV 天体の物理的組成
V ラプラスの宇宙生成論に対する所見――彗星
VI 世界の起源
VII 宇宙の分析と総合
VIII エピローグ
〈付録〉ブランキ監獄年表
〈訳者解説〉ブランキからニーチェへ、ベンヤミンへ
〈解説付録〉アバンスール「幽閉者の解放」について
訳者あとがき

★発売済。原著刊行は1872年。親本(写真左)は雁思社、1985年6月。親本は1972年に刊行された『武装蜂起教範、天体による永遠、その他のテキスト』を底本にしており、ミゲル・アバンスールとヴァランタン・プロスによるテキスト校訂上の編者注、アバンスールによる解説「幽閉者の解放」や、原著出版当時のジャーナリズムの反響が訳出されていたほか、付録として「『天体による永遠』の第二版用プラン」や、ブランキ研究家のモーリス・ドマンジェ(1888-1978)の紹介と「ブランキ監獄年表」を付し、さらに巻頭には口絵としてブランキとその妻の肖像画や、ブランキが幽閉されたトーロー要塞の絵、初版本や手稿の写真、「ブランキと19世紀」と題された略年表が掲載されています。そして、河野健二さんによる「天文学と革命」という序文も併録されているため、古書店でお目にかかったら購入しておくのがいいかもしれません。

★今回の文庫化にあたっては、分かりやすい訳文になるように見直したとのことです。まさかブランキが文庫で読めるようになるとは思いもしませんでした。なお、ブランキの訳書には本書のほかに、『革命論集』(加藤晴康訳、上下巻、現代思潮社、1967-68年;改訂増補版、全一巻、彩流社、1991年)があります。こちらも現在品切なので、岩波書店さんが文庫化に乗り出してくださることを期待しましょう。


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常用字解 [第二版] 
白川静著
平凡社 2012年10月 本体3,000円 四六判上製函入816頁 ISBN978-4-582-12810-9

帯文より:基本を学ぼう、漢字の世界。平成22年11月内閣告示「常用漢字表」に対応。196字を追加して、全2136字の常用漢字を、平易に解説! 待望の第二版。

★発売済。中・高生に向けて書かれた入門字典『常用字解』(2003年刊)の増補版です。一つひとつの漢字の成り立ちと意味を教えてくれます。成り立ちについては学校で習わないことの方がたぶん多いかと思いますので、その分、本書のインパクトが絶大です。例えば、「謹啓」や「謹呈」など、仕事で良く使う「謹」の字はこう解説されています。つくりの「きん」の字は「飢饉に関係のある字である。〔…〕「きん」は飢饉のとき、「さい」(神への祈りの文である祝詞を入れる器の形)を頭上に載せた巫祝(神に仕える人)が前に両手を交叉して縛られ、火で焼き殺される形である。このとき雨を求めてつつしんで神に祈る言葉が謹で、「つつしむ」という意味がある。謹慎して神の怒りを鎮めることを願うという意味である」。手を交叉して縛られ、というくだりは思わず黒沢清監督の映画作品「CURE」(1997年)を彷彿とさせる怖さがありますね。すべての漢字の起源が怖いわけではありませんが、遙か昔の呪術的な世界の名残があることに気づかされます。


亡命者たちのハリウッド――歴史と映画史の結節点
吉田広明著
作品社 2012年10月 本体4,600円 A5判上製432頁 ISBN978-4-86182-406-7

帯文より:亡命という経験は、彼らの映画に何をもたらしたのか。彼らの到来が、世界の映画に与えた変化とは何なのか。30年代にナチスから逃れたフリッツ・ラング、ダグラス・サーク、ロバート・シオドマク、50年代に赤狩りでアメリカを逐われたエドワード・ドミトリク、ジョン・ベリー、サイ・エンドフィールド、ジョゼフ・ロージー、60~70年代に共産圏東欧から亡命したミロス・フォアマン、ロマン・ポランスキー。その生涯と作品。

まえがきより:三〇年代は、スタジオ・システムが円滑に機能し始めた、いわゆる古典期の劈頭であり、優れたアメリカ映画が生み出され始めた時期、五〇年代は、スタジオ・システムが崩壊し、古典期が終焉する時期、六〇~七〇年代はアメリカ映画にとって模索の時代であり、また、今日にまで至るアメリカ映画の新たな体制が形作られ始めた時期である。(中略)こうした時代には、たとえば移民といったような自身の意志による移動とは位相を異にする、強制力のようなものが働いている。時代そのものを前に動かすために働く力、それが人を弾き飛ばす。移民ではなく、亡命者を取り上げる、という選択の中には、そうした時代の強制力を見る、という意味がある。

目次:
まえがき
第一部 ナチス・ドイツからの亡命
 序論 ヨーロッパとアメリカの葛藤――「文化」から「産業」へ
 第一章 フリッツ・ラングとダグラス・サーク――メディアとしての映画作家
 第二章 ロバート・シオドマク――逆境こそわが故郷
第二部 反共アメリカからの亡命
 序論 アメリカとヨーロッパの葛藤――「産業」から「文化」へ
 第一章 エドワード・ドミトリク――生き埋めの男
 第二章 ジョン・ペリーとサイ・エンドフィールド――亡命の二重の意味
 第三章 ジョゼフ・ロージー――オールタイム・エグザイル
第三部 共産圏東欧からの亡命
 序論 映画の世界的平準化
 第一章 ミロス・フォアマン――世界的な「新しい波」に乗って
 第二章 ロマン・ポランスキー――「亡命」の新たな意味に向けて
あとがき
作品名・人名索引

★発売済。20世紀はある意味で「亡命者の世紀」であり、期せずして生まれた移動と交流が文化を豊かにしたことは歴史上否定しがたいことではないかと思います。映画の世界におけるその機微を教えてくれるのが本書です。本書の刊行を記念して、以下のトークイベントが行われるとのことです。

亡命×ノワール――滝本誠×吉田広明トークショー

日時:2012年11月17日(土)15:00~17:00
会場:ビブリオテック B2F (渋谷区千駄ヶ谷3-54‐2)
料金:1,500円、当日精算
予約:電話03-3408-9482またはメールbiblio@superedition.co.jpにて受付。
定員:80名
※イベント一週間前から当日(11/10-17)のキャンセルはキャンセル料1,500円が発生します。

内容:フィルム・ノワールの陰鬱な世界観、その暗さの魅惑を語ると共に、フィルム・ノワールの持つ政治性を、その作り手である亡命者を通して考える。

★映画評論、映画研究ではここしばらく、ジャン・ルイ・シェフェール『映画を見に行く普通の男――映画の夜の戦争』(丹生谷貴志訳、現代思潮新社、2012年5月)、アラン・ベルガラ『六〇年代ゴダール―─神話と現場』(奥村昭夫 訳、筑摩書房、2012年9月)や、ニコル・ブルネーズ『映画の前衛とは何か』(須藤健太郎訳、現代思潮新社、2012年10月)など注目作が続いていますね。ブルネーズさんは来月来日され、各所で講演を予定されています。詳しくは版元ウェブサイトのお知らせ「11月 『映画の前衛とは何か』の著者ニコル・ブルネーズ氏来日」をご覧ください。


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物語 哲学の歴史――自分と世界を考えるために
伊藤邦武著
中公新書 2012年10月 本体900円 新書判並製344頁 ISBN978-4-12-102187-8

カバーソデ紹介文より:哲学とは何だろうか――。人間が世界と向き合い、自分の生の意味を顧みるとき、哲学は生まれた。古代から二一世紀の現代まで、人間は何を思考し、その精神の営為はどのような歴史を辿ってきたのだろうか。本書は、その歴史を「魂の哲学」から「意識の哲学」「言語の哲学」を経て、「生命の哲学」へと展開する一つのストーリーとして描く。ヘーゲル、シュペングラー、ローティの歴史哲学を超えた、新しい哲学史への招待。

目次:
まえがき
序章 哲学史のストーリー
第一章 魂の哲学――古代・中世
 1 「魂」という原理
 2 アテナイの哲学――プラトンとアリストテレス
 3 地中海の哲学
第二章 意識の哲学――近代
 1 科学革命の時代――デカルトの登場
 2 心身問題
 3 経験論と超越論的観念論の立場
第三章 言語の哲学――二〇世紀
 1 論理学の革命
 2 ケンブリッジから
 3 アメリカへ
第四章 生命の哲学――二一世紀へ向けて
 1 生の哲学
 2 ジェイムズとベルクソン
 3 エコロジカルな心の哲学

あとがき
人名索引

★発売済。著者の既刊書にははパースやジェイムズの訳書および研究書があるほか、経済学者ケインズの哲学的側面を考察した本もあります。中公新書では『経済学の哲学――19世紀経済思想とラスキン』を昨秋上梓されています。今回の新著では古代から現代、現在へ至る哲学史の流れが、魂~意識~言語~生命というキーワードの変遷の中に捉えられ、読みやすい通史に仕上がっています。

★中公新書は1962年11月に創刊されて以来、今月で50周年を迎えるとのことで、全国主要書店でフェアが展開されていると聞きます。今月は5点の新刊を刊行し、古典的名作から新定番までを紹介する「ここから始める中公新書」と題したミニフェアを展開。来月は、中公新書の担当編集者や営業マンが寄せる推薦コメントをPOPにしてフェアをさらに拡大展開するようです。見逃せないのが、創刊50周年記念で無料配布されている「中公新書総解説目録」。1962年から2012年10月までに刊行した2189点すべての既刊を網羅した保存版で、巻頭には三つのエッセイ――加藤秀俊「創刊のこころ」、小林標「中公新書とホラティウスの関係」、安野光雅「バス停はほんの少し動いた」が収録されています。品切絶版書目もすべて載っているので、資料的価値が高いです。店頭で見つけたら迷わずゲットしてみて下さい。
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by urag | 2012-10-29 00:06 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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