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2012年 09月 30日

注目新刊:『世界きのこ大図鑑』東洋書林、ほか

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原色原寸 世界きのこ大図鑑
ピーター・ロバーツ+シェリー・エヴァンス著 斉藤隆央訳
東洋書林 2012年10月 本体18,000円 B5変型判上製フルカラー656頁 ISBN978-4-88721-799-7

版元紹介文より:森の小人に月下の異人が600種!「きのこ――魅惑の国に住む、摩訶不思議な生きものたち」(飯沢耕太郎)。「自然循環を支えてくれる偉大な生命体!」(福岡伸一)。「きのこは食欲、知識欲、芸術欲を刺激する!」(奥田徹)。600種を〈原色・原寸〉で紹介。索引項目、和名720・学名1550。名称・食用等の民俗的挿話多数。

原書:The Book of Fungi, The Ivy Press, 2011.

目次:
日本版序文
まえがき
はじめに
概説
 「きのこ」とは何か
 植物や動物のパートナー
 自然界のリサイクル屋
 有害生物と寄生生物
 食物、民間信仰、医薬
 分布と保護
 きのこの採取と同定
 目的のきのこを見つけるために
図鑑
 ハラタケ類
 イグチ類
 サルノコシカケ類、コウヤクタケ類、およびキクラゲ類
 ハリタケ類、アンズタケ類、およびホウキタケ類
 ホコリタケ類、ツチグリ類、チャダイゴケ類、およびスッポンタケ類
 チャワンタケ類、アミガサタケ類、トリュフ類、核菌類、および地衣類
付録
 用語解説
 参考資料
 菌類の分類
 索引(和名索引/学名索引)
 参考文献・図版出典

★まもなく発売。大判フルカラーの、見る者を圧倒させる「きのこ全書」です。英語版原書はオンライン書店で5000円以下で買えますが、やはり日本語版は必須ですし、学術専門書に比べれば、フルカラーでこの値段はむしろお得なほど。色とりどり、形も多種多様で、エイリアン図鑑でも見ているかのような迫力。視覚的に優れたレイアウトと分かりやすく簡潔な説明で、大人から子供まで一緒に楽しめます。友人、知人にも見せたくなること請け合いです。蛇足ではありますが、ジョン・ケージや南方熊楠のファンの方もぜひ手に取ってみてください。以下の写真は本書の内容見本パンフです。
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★東洋書林さんではかつて、シュルテス+ホフマン+レッチュ『図説 快楽植物大全』(鈴木立子訳)を2007年1月に刊行されています。また、来月(2012年11月)には、飯沢耕太郎さんによる『フングス・マギクス――精選きのこ文学渉猟』が発売予定だそうです。


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マザリナード――言葉のフロンド
クリスチアン・ジュオー(Christian Jouhauld, 1951-)著 嶋中博章・野呂康訳
水声社 2012年10月 本体5,000円 A5判上製376頁 ISBN978-4-89176-919-2

帯文より:叫ばれ、ばら撒かれる、言葉のパフォーマンス! 17世紀に生じたフランスの内戦、その名もフロンド。この間、5,000にも及ぶ文書〈マザリナード〉が縦横無尽に飛び交う――文芸が政治行為をテクスト化し、街は劇場となり、言葉の闘争が繰り広げられる。噂の政治利用、操作、プロパガンダ、説得……。政治における〈行為〉と〈行為者〉に着目し、フロンドの乱の歴史記述に新たな地平を開く。

原書:Mazarinades: La Fronde des mots, Aubier-Flammarion, 1985/2009.

目次:
二十年後
序文
謝辞
序章
第一章 マザリナード
第二章 短い時間と長い時間――パリの噂
第三章 記述行為〔エクリチュール〕から読書行為〔レクチュール〕へ――テクストの作成と受容
第四章 プロパガンダと行為
第五章 マザリナードとフロンドの祝祭
第六章 革命志向?
第七章 楡の木党
第八章 連鎖状況
結論に代えて
原註
訳註
マザリナード関連年表
主要参考文献
マザリナード一覧
歴史用語原語訳語対照表
人名索引
事項索引
言葉の森のアリアドネ――『マザリナード 言葉のフロンド』の論点と射程(嶋中博章)

★10月03日頃発売予定。日本版独自編集の論文集『歴史とエクリチュール――過去の記述』(嶋中博章・杉浦順子・中畑寛之・野呂康訳、水声社、2011年11月)に続く、フランスの歴史学者ジュオーの著書の翻訳第二弾です。二冊目ではありますが、『マザリナード』は1985年にジュオーが上梓したデビュー作で、近年、新しいまえがき「二十年後」が付されて再刊されました。1985年版の謝辞にはロジェ・シャルチエ(1945-)らの名前があがっており、序文は歴史家ドニ・リシェ(1928-1988)が寄せています。

★17世紀フランスで勃発した内戦「フロンドの乱」の名前は世界史の授業で聞いた覚えがあっても、その時期に大量に書かれたパンフレット「マザリナード」については知らないし覚えていない、という方が多いかもしれません。リシェの序文の言葉を借りると「マザリナード」とは「1648年から1652年にかけて印刷され、ばら撒かれ、読まれ、そして小間物行商人によって街路や公共の広場で叫ばれ、フランス王国内の都市から都市へと伝えられた、およそ五千ものパンフレ」ットのこと。リシュリューの後継者として権勢を振るったイタリア出身の枢機卿ジュール・マザラン(1602-1661;ジュリオ・マッツァリーノ)への誹謗文書をはじめとする多様な資料体です。

★マザリナードにおける「噂の政治利用、操作、行為〔アクシオン〕におけるプロパガンダの役割、説得の仕方、テクストで繰り広げられる見世物〔スペクタクル〕と、見世物におけるテクストの影響力、情報のトリックと自意識へのその逆説的な効果、急進主義、集団行動、そして主観性など」といった事例における、「出来事の特異性とこの世紀の情念、エクリチュールと行為-作用〔アクシオン〕、読解のプログラミングと信仰の操作、これら全てを一望の下に置くことで、マザリナードの機能の仕方を明らかにしたい」(42頁)と、ジュオーは序章に書いています。資料から歴史の多様な綾を凝視しようとするジュオーの筆致に迫力を感じます。

★マザリナードの文書群は、日本では東京大学でもコレクションがあります。一丸禎子さんによる紹介記事「マザリナード文書の公開に先立って―その特性と東京大学コレクションを紹介する」をご参照ください。


危機の詩学――ヘルダリン、存在と言語
仲正昌樹著
作品社 2012年9月 本体6,800円 A5判上製656頁 ISBN978-4-86182-401-2

帯文より:詩は“私たち”と“世界”を変革できるのか? 〈神=絶対者〉が隠れた、この闇夜の時代。ツイッター、ブログ、SNS……、加速する高度情報化社会。ますます言葉は乏しく、存在は不在となる。「私」にとっての思考と創造の源泉、現代思想の根本問題=〈言語〉の難問を抉り、世界の主体の再創造を探求する記念碑的大作!

目次:
「危機の詩学」への前書き
まえがき(旧版)
序章 ポスト・モダンとネルダリン
I章 ヘルダリンの危機意識と近代合理主義
II章 ドイツ観念論とヘルダリンの〈根源〉の思想
III章 ヘルダリンの言語哲学
IV章 ハイデガーのヘルダリン解釈をめぐって
V章 ヘルダリンのドイツ性と祖国的転回
VI章 ヘーゲルとヘルダリン
終章 〈近代〉の限界をヘルダリン

主要・参考文献
補論 哲学にとっての母語の問題――ハイデガーのヘルダリン解釈をめぐる政治哲学的考察
後書きにかえて――ヘルダリンを読む意味
索引

★おととい28日に取次搬入され、明日10月日以降より順次店頭発売開始となる新刊です。もともとは1996年に提出された博士論文で、4年後の2000年に『〈隠れたる神〉の痕跡――ドイツ近代の成立とヘルダリン』として世界書院から刊行されていました。この旧版では注と図が省略されていましたが、今回の改題新版では、注と図を復活させ、誤記をあらため、必要最小限の訂正といくつかの加筆が施されています。新たな前書きと後書き、そして補論として2009年の論文が追加されています。12年前の初版本は税込8400円でしたが、それより今回の新版の方が断然安いことにも驚きます。

★新版への前書きの末尾には「本書がヘルダリン研究、ひいては、ハイデガーやアドルノ、ポール・ド・マン等の独自の「文学」論に対する、多様な関心を喚起する一つの契機になれば幸いである」とあります。弊社が訳書を今月刊行したド・マンの『盲目と洞察』も、原書で参照されています。

★なお、作品社さんの人文書続刊予定では、ヘーゲル『大論理学1 存在論』(山口祐弘訳)や、マルクス『新訳 初期マルクス』(的場昭弘訳)などが予告されています。同じく作品社さんから今月刊行された外国文学新刊2点も以下にご紹介します。

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誕生日
カルロス・フエンテス(Carlos Fuentes, 1928-2012)著 八重樫克彦・八重樫由貴子訳  
作品社 2012年9月 本体1,800円 46判上製176頁 ISBN978-4-86182-403-6

帯文より:過去でありながら、未来でもある混沌の現在=螺旋状の時間。家であり、町であり、一つの世界である場所=流転する空間。自分自身であり、同時に他の誰もである存在=互換しうる私。目眩めく迷宮の小説! 『アウラ』をも凌駕する、メキシコの文豪による神妙の傑作。


老ピノッキオ、ヴェネツィアに帰る
ロバート・クーヴァー(Robert Coover, 1932-)著 斎藤兆史・上岡伸雄訳  
作品社 2012年9月 本体2,800円 46判上製448頁 ISBN978-4-86182-403-6

帯文より:晴れて人間となり、学問を修めて老境を迎えたピノッキオが、故郷ヴェネツィアでまたしても巻き起こす大騒動! 原作のオールスター・キャストでポストモダン文学の巨人が放つ、諧謔と知的刺激に満ち満ちた傑作長篇パロディ小説!

訳者あとがき(434頁)より:二十世紀末のある冬の晩、一人の老人がヴェネツィアのサンタ・ルチア駅に降り立つ。カルロ・コッローディの名作童話『ピノッキオの冒険』(1883年出版)の主人公、ピノッキオである。彼は青い髪の妖精の言いつけを守り、いい子になった褒美として人間の子になってから、禁欲的に学問の道を歩んできた。そして西洋文化と思想の研究で数々の業績を上げ、二度もノーベル賞を受賞し、百歳を超えて故郷ヴェネツィアに戻ってきたのである。旅の目的は、人生の締めくくりとして自分の人生を振り返り、特に妖精との関係を見つめ直して、自伝の最後の章を書き加えること。ところが、ピノッキオは到着早々、『ピノッキオの冒険』にも登場する狐と猫に騙され、身ぐるみはがされてしまう……。

★どちらも発売済です。フエンテスは言うまでもなく、メキシコ生まれの作家で20世紀のラテンアメリカ文学界の巨人ですが、惜しくも2012年5月15日に亡くなっています。『誕生日』(原題:Cumpleaños)は1969年の小説作品で、巻末の40頁を超える「訳者解説」の冒頭には次のように紹介されています。「〔本書と〕同じく初期の作品群に属する代表作のひとつ『アウラ』と同等、もしくはそれをはるかにしのぐ傑作とまで言われながらも、難解きわまり内ことで知られ、これまでほとんど話題に挙がったことはない。スペイン語圏の文学者たちのあいだですら完全に理解するのは至難の業と敬遠され、研究テーマとして取り上げられることも他の作品に比べて極端に少ない」(123頁)。

★いっぽうクーヴァーですが、こちらも言わずと知れた、アメリカのポストモダン文学を代表する小説家として高名です。同じくポストモダン文学に分類される30年代生まれの作家にはジョン・バース(1930-)やドナルド・バーセルミ(1931-)、ドン・デリーロ(1936-)やトマス・ピンチョン(1937-)らがいます。『老ピノッキオ、ヴェネツィアに帰る』は1991年の作品。古典作のいわゆるパロディですが、本作におけるピノッキオの顛末と言ったら……。なるほど、木なだけに、棒がもう一本増えるのですね。

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アート・ヒステリー――なんでもかんでもアートな国・ニッポン
大野左紀子(おおの・さきこ:1958-)著
河出書房新社 2012年9月 本体1,500円 46判並製272頁 ISBN978-4-309-02133-1

帯文より:「何なの? これ」「アート」「え、こんなことやっていいの?」「うん、だって、アートだから」。『アーティスト症候群』から4年、「アート」の名の下にすべてが曖昧に受容される現在を、根底から見つめ、その欲望を洗い出す。

版元紹介文より:「これマジでアートだね!」……やたらと「アート」がもてはやされる時代=「一億総アーティスト」時代。アート礼賛を疑い、ひっくり返すべく、歴史・教育・ビジネスから「アート」を問う。

目次:
はじめに――アート島から漕ぎ出して
第一章 アートがわからなくても当たり前
第二章 図工の時間は楽しかったですか
第三章 アートは底の抜けた器
おわりに
あとがき

★先週発売開始の新刊です。担当編集者のTさんによれば、本書は「こんな人に読んでほしい!」そうです。――1:互いの作品を批判せずなんとなく褒め合っているガラスのハートの美大生。2:「個性と創造性が重要」と「図工って何の役に立つの?」の間で困っている先生たち。3:「アートは希望」「今こそアートの力が必要とされている」と訴えたい業界回りの人。4:「普通」を選んでいるにもかかわらず「ちょっと謎めきたい願望」を抱く社会人。

★著者の大野さんは東京芸大の彫刻科を卒業された方で、現在大学や専門学校で非常勤講師を務めていらっしゃいます。河出書房新社さんでは大野さんの『アーティスト症候群――アートと職人、クリエイターと芸能人』(明治書院、2008年)を昨年7月に河出文庫として再刊されています。今回の新刊は、「「これこそアートだ」「いやこっちこそアートと呼ぶにふさわしい」という“神輿”の奪い合いであった近・現代のアートの歴史」すなわち「アート・ヒストリーならぬアート・ヒステリー」(9頁)を扱うものです。「この本は第一に「アートがわからなくても当たり前」ということを解き明かす本です。第二に、“アート・ヒステリー”について分析し、「アート(芸術)=普遍的に良いもの」という通念に取り憑いているものを落とす本」(10頁)とのことです。

★河出さんのアート系の来月新刊には、10月22日発売予定の『アートで見る医学の歴史』(ジュリー・アンダーソン/エマ・シャクルトン/エム・バーンズ著、矢野真千子訳)があります。「美術品から書籍、工芸品まで、膨大なコレクションから厳選された究極の医学図集。解剖学、病理学、薬学など、数千年の医学史を400点以上の図版でたどる」ものだそうで、面白そうですね。

★また、古典の新訳では、9日発売の河出文庫でニーチェ『喜ばしき知恵』(村井則夫訳)、12日発売の単行本で。ボッカッチョ『デカメロン』(平川祐弘訳)が予告されています。 平川さんはダンテの『神曲』(全三巻、河出文庫)などの訳書があるだけでなく、今春『新生』の新訳も刊行されています。


書店の棚 本の気配
佐野衛著
亜紀書房 2012年9月 本体1,680円 四六判上製200頁 ISBN978-4-7505-1223-5

帯文より:本が本を呼び、本が棚を呼び、棚が書店をつくる。理想の書店とは? 読書の醍醐味とは? 30年の書店暮らしから見えてきた本と書店をめぐる体験的エッセイ集。 

目次:
Ⅰ 本の声を聴く――書店の棚の広がり
Ⅱ 二〇〇九年から二〇一〇年の日録
Ⅲ 本をめぐる話――書店は誰のものか
Ⅳ 東京堂書店店長時代
Ⅴ 本とわたし――経験は読書
あとがき

★発売済。実に20年ぶりとなるご高著の刊行です。佐野さんの書店論、書棚論、流通論、出版論、読書論ならばぜひとも業界人は読まねばなりません。義務とか義理ではなく、長年読者から信頼されてきた「東京堂」の店頭に立ちつづけたご苦労の経験から学ぶことは文字通り山ほどあるからです。本書ではそうした議論とは別に、第II章の日録と、第IV章の店長時代という、生々しい記録も読むことができます。むろん波風の立つようなことは書かれていませんが、版元も作家もすべて実名ですから、業界人としては本を持つ手が緊張でこわばるところではございますね。

◎佐野衛(さの・まもる:1947-)さんの既刊書

1985年10月『思考理論およびその哲学的考案』インパクト出版サービス
1990年11月『装置と間隙――全体は部分を超えられない』インパクト出版会(発売=イザラ書房)
1991年08月『推理小説はなぜ人を殺すのか』北宋社;2000年11月、新装版、北宋社
1992年04月『世紀末空間のオデュッセイア』北宋社
2012年09月『書店の棚 本の気配』亜紀書房
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by urag | 2012-09-30 23:06 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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