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2012年 09月 23日

注目新刊:『ナバテア文明』作品社など

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ナバテア文明
ウディ・レヴィ(Udi Levy, 1952-)著 持田鋼一郎訳
作品社 2012年9月 本体3,200円 A5判上製258頁 ISBN978-4-86182-400-5

帯文より:「新・世界七不思議」の一つペトラ遺跡の初の本格紹介! BC3~AD9世紀、ユダヤ王国に隣接し、砂漠に壮麗な神殿を残して消えた謎の文明。姿なき神から人格神の形成へ、インドとの交流、ギリシャ・ローマ文化の影響など歴史的・文化史的意義を解明する。図版69点収録。

原書:The Lost Civilization of Petra, Floris, 1999.

目次:
序文
第一章 忘れられた文明への接近
第二章 羊飼い、王、十字架――民族の発展の段階
第三章 ナバテアの宗教とその変容
第四章 ナバテア芸術の言語
第五章 遊牧民から農民へ
第六章 ナバテア人とユダヤ人――対照的な隣人同士
第七章 ペトラ――祭司と王の都
第八章 シブタ――教会と貯水槽の都市

解説――ペトラの失われた文明
原注
参考文献
付録
索引

★まもなく発売、24日取次搬入予定の新刊です。ナバテア文明やペトラ遺跡の名前は知らなくても、映画「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」で出てきた、岩の回廊を抜けた先にある壮麗な石造りの神殿を目にした方は多いのではないかと思います。あの建造物は宝物殿(アル・カスネー・ファルン)と言い、ヨルダンのペトラ遺跡の一部です。このペトラ遺跡こそは紀元前に交易で栄えた砂漠の要衝「ナバテア王国」の痕跡で、世界遺産に登録されており、いまなお全容が解明されていないことから「新・世界七不思議」のひとつに数えられています。

★本書はもともとドイツ語で96年に刊行され、99年に実質的な増補改訂版である英語版が刊行されます。英語版は著者自身が訳したものではありませんが、日本語訳にあたってはドイツ語版を参照しつつ、著者の要望により底本には英語版を使用しています。この失われた文明についての包括的な解説本は、日本では初めてのもので、たいへん貴重です。多数のカラー写真はナバテア文明が過酷な自然環境の中で繁栄したことの奇跡を物語っています。それは優れた灌漑技術によって実現されたものでした。「ナバテア」はなるほど「水を掘る人」を意味するアラム語(アラマイ語)だそうです。訳者が教えるように、本書の見どころは、ナバテア土着のドゥシャラ信仰と初期キリスト教との関係を探っていくところです。地中海のほぼ全域からインドまでの広域で活動したナバテア人の謎が解き明かされるのはいよいよこれからのようです。


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ベンヤミン・コレクション(6)断片の力
ヴァルター・ベンヤミン著 浅井健二郎編訳 久保哲司・岡本和子・安徳万貴子訳
ちくま学芸文庫 2012年9月 本体1,800円 文庫判並製704頁 ISBN978-4-480-09464-3

帯文より:知られざる創作世界から『パサージュ論』誕生の舞台裏まで。
カバー裏紹介文より:「叙述の輝きは思考細片の価値にかかっている」とベンヤミンは言う。〈これが青年期の思考だ〉と叫んでいる形而上学。第一次世界大戦の勃発直後に自殺した親友に捧げるソネット群。旅の途上の夢想に紡がれた小品群。夢や思い出、ふと心に浮かぶ想念から生まれ出た物語群。亡命の前年に運命の島イビサで綴られた、ベルリンでの幼年期から青年期までを回想する手記――。本書では、ベンヤミンの特異な〈断片〉概念が織り成す多様な言語表現を立体的に構成。謎に包まれた『パサージュ論』の生成過程を明かす、邦訳初公開の覚書集三篇が注目される。待望の新編・新訳アンソロジー第六弾。

目次:
〔アフォリズム集〕
〔ケンタウロス〕
〈青春〉の形而上学
ソネット集
〔〈心象〉風小品集〕
〔物語/お話集〕
ベルリン年代記
〔『パサージュ論』初期覚書集〕
解説

★発売済。晶文社版著作集のほとんどが品切になっているこんにち、ちくま学芸文庫の一連の訳書はベンヤミン再読のための重要な、欠くべからざる足がかりです。現在『ドイツ悲劇の根源』上下巻と『ドイツ・ロマン主義における芸術批評の概念』が品切になっていますが、持っていない読者は再版を待ちましょう。弊社より先月刊行したアガンベン『到来する共同体』の第13章「光背」ではベンヤミンの1932年のエッセイIn der Sonneが参照されており、これの翻訳は今まで「日を浴びて」(藤川芳朗訳、『ヴァルター・ベンヤミン著作集(11)都市の肖像』所収、晶文社、1975年、147-152頁)を数えるのみだったのですが、今回発売された第6巻では「日の照りつけるなかを」(浅井健二郎訳、234-241頁)として新訳を読めるようになりました。ハシディズムの来世観、メシアの王国をめぐる寓話について言及した一節をアガンベンは引いています。ショーレムからベンヤミン、ベンヤミンからブロッホへ、そして三者からアガンベンへ。星座は連なっていきます。


資本論――経済学批判 第1巻 IV
カール・マルクス著 中山元訳
日経BPクラシックス 2012年9月 本体2,100円 4-6変型判上製512頁 ISBN978-4-8222-4881-9

帯文より:解き明かされる資本主義発生の秘密! 資本の原初的な蓄積、相対的過剰人口、産業予備軍、資本の有機的構成。「労働者階級のこの病人層と産業予備軍が大きくなればなるほど、公的な婦女をうける貧困層も増加する。これが資本制的な蓄積の絶対的な一般法則である」(第23章「資本制的な蓄積の一般法則」。

版元紹介文より:カール・マルクス(1818-1883)が生前に出版された第1巻の最終分冊。『資本論』のなかで最も有名な「第24章いわゆる原初的な蓄積」を含む「第7篇 資本の蓄積過程」の第21章から第25章までを収録する。「第1章 商品」から展開されたマルクスの論理は、1)貨幣がいかにして資本に変容するか。2)資本によっていかにして増殖価値が生み出され、増殖価値からいかにして、さらに多くの資本が生み出されるか。――を考察してきた。ここでは、資本主義(マルクスの用語では、資本制的生産様式)の出発点となる資本の原初的な蓄積の歴史を詳述する。圧巻は「第23章資本制的な蓄積の一般的過程」。特に第5節「資本制的な蓄積の一般法則の例示」では、イギリスの資本主義を支えた産業労働者の貧困化について熱い思いをこめて叙述している。

目次:
第7篇 資本の蓄積過程
 第21章 単純再生産
 第22章 増殖価値の資本への変容
 第23章 資本制的な蓄積の一般法則
 第24章 いわゆる原初的な蓄積
 第25章 現代の植民理論

★発売済。全四分冊完結のはずですが、帯の背に「圧巻の第1巻「エピローグ」」とあるほかは特に謳い文句はありません。訳者あとがきも、第一分冊と第二分冊にはありましたが、第三分冊と今回の第四分冊はなし。短いあとがきでは説き尽くせないというのが本当のところでしょうか。周知の通り、マルクス自身が仕上げを終えた『資本論』は第一巻(1867年)のみで、第二巻と第三巻は未完成の遺稿をエンゲルスが編集したものです。今回の新訳の底本は1890年の第四版。「労働力の販売条件が、労働者にとって有利なものであろうと不利なものであろうと、そこには労働力をたえず販売し直す必然性と、たえず拡大する資本という富を再生産する必然性が含まれている」(141-142頁)。資本主義の終わらない連鎖の彼方に、ロシアや中国とは違う形式のコミュニズムは本当に到来するでしょうか。マルクスは人間が「自分の手で作りだしたものに支配される」(146頁)ことを指摘しつつ、そうした歴史を人間自身の手で作り変えていけるのだということを信じていたように思えます。私たちもまた、信じて行動するほかはないのでしょう。


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通過儀礼
ファン・ヘネップ著 綾部恒雄・綾部裕子訳
岩波文庫 2012年8月 本体940円 文庫判並製374頁 ISBN978-4-00-342191-8

カバー紹介文より:ファン・ヘネップ(1873-1959)は、儀礼を初めて体系的に論じた。誕生から死までの折々の儀礼、入会の儀礼などを、分離・過渡・統合の過程をたどる通過儀礼の視点で捉えた。特に過渡期という境界状況の考察は、コミュニタス理論など後の人類学の理論的展開の基盤となった。儀礼研究の出発点にある人類学の古典。(解説=綾部真雄)

目次:
序言
第一章 儀礼の分類
第二章 実質的通過
第三章 個人と集団
第四章 妊娠と出産
第五章 出生と幼年期
第六章 加入礼
第七章 婚約と結婚
第八章 葬式
第九章 その他の通過儀礼
第十章 結論
原注
民族=部族名訳注

訳者あとがき
〔解説〕儀礼研究受難の時代――「通過」概念の汎用性をめぐって(綾部真雄)
人名索引/事項索引

★発売済。原書は1909年に刊行されたLes rites de passageで、親本は弘文堂から1977年6月に「人類学ゼミナール」の一冊として刊行され、その後、1995年3月に「Kobundo Renaissance」の一冊として再刊されています。巻末の編集付記によれば、「文庫化にあたって、訳者による解説を割愛し、新たな解説を加えた。また、適宜、小見出しを付した。〔 〕は訳者による注である」と特記されています。新たに付された綾部真雄さんによる解説「儀礼研究受難の時代――「通過」概念の汎用性をめぐって」には、「本書の翻訳をおこなったのは解説者の良心であるが、父親は既に他界している。岩波文庫への再録にあたって、儀礼研究の現状を踏まえて新たな解説を書き下ろすことになり、同じく人類学の途を歩むこととなった息子に襷が渡された。翻訳者の意図を正しく組めていることを願う」(352頁)とあります。

★同書は弘文堂版と前後して思索社版が1977年7月に刊行されました。A・V・ジェネップ『通過儀礼』(秋山さと子・彌永信美訳、思索社、1977年)です。こちらは1999年2月に「新思索社」から再装版(第2版)が刊行されており、現在も版元ウェブサイトでは扱いがあるようですが、ネット書店や店頭で見なくなっていることから想像すると、版元在庫僅少ないし品切なのかもしれません。岩波文庫版だけでなく、この新思索社版も併せて読むと、いっそう理解が進むと思います。訳語の違いなど、色々学ぶところがありました。
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by urag | 2012-09-23 22:53 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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