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2012年 07月 08日

注目新刊:2012年6月~7月、『海を感じなさい。』ほか

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海を感じなさい。――次の世代を生きる君たちへ
渡辺憲司著
朝日新聞出版 2012年7月 本体1,100円 四六判並製144頁 ISBN978-4-02-331102-2

帯文より:君たちはどう悩み、どう生きるべきか。全国の人々を感動の渦に巻き込んだ名物好調が、これからの時代を生きる人たちに贈る10編の「魂のメッセージ」。

版元紹介文より:昨年の震災後、学校HPに載せた卒業生へのメッセージが話題になり、一躍著名になった立教新座高校校長が、若者に向けて「○○しなさい」の強い言葉で綴るメッセージ集。写真を絡めて、写真の上に言葉を載せるなど、若い世代にも読みやすい。テーマは「海を感じよ。行動せよ」「孤独とは何か」「理想とは何か」「正義とは」「友情とは」「恋」など。文体は違うが、現代版『君たちはどう生きるか』を目指す。

目次:
はじめに
1章 めざめる人たちへ
 海を感じなさい。
 森で耳をすませなさい。
 長く続く道を信じなさい。
 石ころを手に取りなさい。
 雲を眺めてみなさい。
 山の頂きを想い浮かべなさい。
 桜の木に聴いてみなさい。
 冷たい風に頬をさらしなさい。
 空に身をゆだねなさい。
 星の瞬きに胸をときめかせなさい。
2章 ひたむきであれ
 困難のなかにいてこそ、孤独を守ることの意味
 思いを込めた言葉は、必ず心の奥深くに届く
 一所懸命さを馬鹿にする風潮への反発
 愚直な「ひたむきさ」が新たな気づきを与える
 思考はつねに「域」でなくてはならない
 「不安」を解消するために、学び続けなさい
 何十年先を見据えた理想をもつ
 せっかちな未来志向に走ってはいけない

★発売済。3・11の影響で卒業式が行えなかった立教新座高校。その卒業生に向けた渡辺憲司校長のメッセージ「卒業式を中止した立教新座高校3年生諸君へ」が大きな話題を呼び、『時に海を見よ――これからの日本を生きる君に贈る』(双葉社、2011年6月)という本にもなりました。今回刊行された『海を感じなさい。』は震災一年後の朝日新聞朝刊のオピニオン面に掲載された「十八歳の君たちへ」という渡辺校長の記事がきっかけになっているとのことです。1章は数頁ずつ合計10編の簡潔で力強いメッセージが、写真とともに各頁を飾ります。2章は長めのあとがきともいうべきもので、卒業式へのメッセージが大反響を呼んだことの回想から始まり、本書に込めた思いを綴っておられます。外出先にも持っていけるコンパクトな本なので、通勤通学などのひとときにひもとけば、必ず励まされることと思います。本書の印税は全額、東日本大震災で被災された若者への義援金として寄付されるそうです。


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貸本屋、古本屋、高野書店(出版人に聞く8)
高野肇著
論創社 2012年7月 本体1,600円 46判並製200頁 ISBN978-4-8460-1161-1

帯文より:1950年代に日本全国で「貸本」文化が興隆する。60年代に「古本」文化に移行するが、その渦中を生きた著者の古本文化論。『神奈川古書組合35年史』編纂で学んだこと。貸本屋が3万店をこす時代もあっのだ。『高野書店古書目録』は目録の金字塔!

★発売済。「出版状況クロニクル」の著者でパピルスの社主である小田光雄さんによるインタビューシリーズ「出版人に聞く」の第8弾。書籍の流通史を研究する上で必読の証言録です。高野さんはこう仰っています。「私が昭和30年代の貸本屋をずっと調べていくうちにわかったのは、どうして当時の貸本屋が読者に迎えられたかといえば、ひとつに愛情があったということに尽きるのではないかということでした。安いということはあったにしても、貸本屋は書店よりもはるかに敷居が低かったのはそこにあったのではないかと。/私は貸本屋の息子として育ったので、確信をもっていえますが、貸本屋と読者は同じような貧しい境遇にあったから、相身互いな感じを共有していた。だから貸本と一緒に愛情も一緒に貸し出していたという感じがする」(143-144頁)。現役の出版人や書店人にとっても色々と考えさせてくれる本です。


完訳 日本奥地紀行2 新潟―山形―秋田―青森(東洋文庫 823)
イザベラ・バード著 金坂清則訳注
平凡社 2012年7月 本体3,200円 全書判上製442頁 ISBN978-4-582-80823-0

帯文より:イザベラ・バードの明治11年(1878)日本への旅の真実がありありとわかる決定版。正確な翻訳と緻密な研究による徹底した注で読む。第2巻は、新潟、山形、秋田、青森を旅ゆく。

★まもなく発売。1880年刊初版本からの完訳となる全4巻中の第2巻です。第1巻は3月刊、横浜―日光―会津―越後編でした。同じく1880年刊初版本が底本の、講談社学術文庫から2008年に刊行されている上下巻『イザベラ・バードの日本紀行』(時岡敬子訳)は、現在電子書籍でも販売されています。おおむね、日本人に対して好感を持っているように見える著者も、さすがに旅が進むにつれ、異文化を前にうんざりする経験が増えてきたように見えます。文化であると開き直ることができないようなひどい体験も中にはありますが、それでもなお旅を続けるイザベラの飽くなき好奇心は読者を楽しませ、また、考えさせてくれます。業界人の目を惹くのは、当時の日本の出版文化についての論評や、新潟で出会った行商の貸本屋や卸の書籍商、そして学術書も置いている本屋の主人との雑談が書いてあるくだり(第二十一報「店屋」48-50頁)でしょうか。あるいはちょうど今の季節の記述では、青森県黒石市で遭遇した七夕祭の情景(第三十四報「七夕」219-221頁)などを読むことができます。東洋文庫の次回配本は来月(8月)、『共同研究 転向』の第3巻と第4巻です。

★なお今月の平凡社さんの新刊の中には以下の書目があります。マルクス『共産主義者宣言』(柄谷行人=付論、金塚貞文=訳)は平凡社ライブラリーの新刊。親本は太田出版、93年10月刊。当時、非常に話題になりましたし、実際によく売れていた本でした。ライブラリー版は親本から50円安く、税込1,050円。柄谷行人さんの付論は「なぜ『共産主義者宣言』か」で、これは親本に収録されていたものとタイトルは同じです。ちなみにライブラリー版(HL判)の総頁数は144頁、親本(46判)では136頁でした。由良君美『椿説泰西浪曼派文学談義』も平凡社ライブラリーの新刊。親本は、青土社、83年7月刊、増補版。初版は青土社「ユリイカ叢書」、72年6月刊。著者の処女作で、古書市場では安定した高値で取引されている本です。松岡正剛『千夜千冊番外録 3・11を読む』は単行本新刊で、ウェブ連載〈千夜千冊 番外録〉から60冊の本を紹介するもののようです。「大震災と原発問題への松岡流ブックガイド」と版元紹介文では謳われています。


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時間の前で――美術史とイメージのアナクロニズム
ジョルジュ・ディディ=ユベルマン著 小野康男+三小田祥久訳
法政大学出版局 2012年6月 本体3,800円 四六判上製354頁 ISBN978-4-588-00975-4
帯文より:美術史は〈再開〉する。ベンヤミン、カール・アインシュタイン、アビ・ヴァールブルク……。二十世紀前半、大文字の〈歴史〉の破局のなかで閃光のように現れた知の星座が形づくる“イメージ人類学”とは何か。連続的時間を解体する歴史の弁証法がかいま見せる「徴候」「モンタージュ」「残存」を注視しつつ、プリニウスの古代からバーネット・ニューマンの現代までを往還し、アナクロニズムとしての美術史を実践する著者の理論的画期作。

原著:Devant le temps: Histoire de l'art et anachronisme des images, Minuit, 2000.

目次:
序論 開け──アナクロニズム的学問としての美術史
第一部 アナクロニズムの考古学
 第一章 原型‐イメージ 美術史、そして類似の系譜学
 第二章 悪意‐イメージ 美術史、そして時間という難問
第二部 アナクロニズムの近代性
 第三章 闘争‐イメージ 反時代性、危機的経験、近代性
 第四章 アウラ‐イメージ 〈今〉、〈むかし〉、近代について
訳者あとがき
原注
書誌情報
図版目録
人名索引

★発売済。『イメージの前で――美術史の目的への問い』(江澤健一郎訳、法政大学出版局、2012年2月)の続編『時間の前で』が前作より半年以内という良いタイミングで刊行されました。「イメージを前にするとき、われわれはつねに時間を前にしている」(3頁)というのが本書の書き出しです。「イメージを見つめること、それは欲望することであり、期待することである。それは時間を前にすることなのだ」(同頁)。訳者あとがきにはこうあります。「本書は、ベンヤミン、アインシュタインに関する研究を中核とし、歴史研究の一大学派であるアナール派を主たる論争相手に設定し、歴史における時間の複雑性を論じた問題提起の序論「開け」と、ディディ=ユベルマンが「賭」(50頁)と呼ぶ大プリニウス、バーネット・ニューマンを論じた比較的短い章で構成されている。アビ・ヴァールブルクに関しては、2002年に刊行された大著『残存するイメージ』(竹内孝宏・水野千依訳、人文書院、2005年)に結実している」。著者の言うアナクロニズムというのは否定的なものではありません。「歴史的認識は、年代学的順序とはさかさまの過程、「時間の遡行」、厳密にいえばアナクロニズムということになるだろう。「歴史の逆定義」としてのアナクロニズムは、したがってまた、出来ごとの順序を逆行する年代学的想起、時間の遡行という歴史の発見的定義をも与える。〔…〕/歴史をつくることは、アナクロニズムを犯さないことだと言う一方で、過去への遡行は、われわれの認識行為の現在なしでは行なわれえないとも言う。これはパラドクスである。したがって、歴史をつくることは――少なくとも――アナクロニズムを犯すことになる。このパラドクスを前にして、いかなる態度を取ればいいのか。沈黙を守ればよいのか。それとも、アナクロニズムの罪を犯したのは論的だけだとわめきたてながら何らかの偽装されたアナクロニズムに身をまかせればいいのだろうか。〔…〕アナクロニズムを歴史の対象と考え、それが真のタブーの対象となった諸契機を研究することもできる。/〔…〕アナクロニズムは、歴史学の知において、現実の歴史のアナクロニーを説明する唯一の方法ではないのか」(26-28頁)。

★法政大学出版局では最近、『ゾーハル』の重訳が出ました。ヘブライ語原典からのエルンスト・ミュラーによるドイツ語訳(抄訳)を日本語訳したもの。これまでには英訳からの重訳がありましたが、本書を含め、近々「最近の注目新訳本」で旧訳とあわせて取り上げる予定です。
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by urag | 2012-07-08 16:51 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(2)
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Commented by 岡本大輔 at 2012-10-27 05:49 x
渡辺先生の言葉は深いです。海のように深いですね。先生と対談しているような気持ちになります。
Commented by urag at 2012-10-28 23:35
岡本さんこんにちは。仰る通りですね。深いけれど暗くはなく、情熱的であると同時に清々しい言葉が読者を迎え入れてくれます。


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