2012年 06月 24日
★明日取次搬入となる水声社さんの新刊2点『共産主義の理念』『愛の世紀』と、他社さんから発売済の新刊2点『気象を操作したいと願った人間の歴史』『吉本隆明の世界』についてご紹介します。 共産主義の理念 コスタス・ドゥズィーナス+スラヴォイ・ジジェク編 長原豊監訳 沖公祐+比嘉徹徳+松本潤一郎訳 水声社 2012年6月 本体4,500円 四六判上製440頁 ISBN978-4-89176-912-3 帯文より:21世紀の《コミュニズム宣言》――2009年3月、現代哲学/思想を代表する知性が一堂に会し、ロンドンで開催されたシンポジウムをほぼ完全収録。グローバリズム/資本主義が蔓延するこの世界の蒙昧を撃ち、来たるべき時代への共闘を呼びかけるアクチュアルなドキュメント、ついに刊行! 《いま、ここ》から開始される新たな《宣言》。 原書:The Idea of Communism, Verso, 2010. 目次: ドゥズィーナス+ジジェク「序 共産主義の理念」 アラン・バディウ「共産主義の〈理念〉」 ジュディス・バルソ「現在にわが身を曝す 共産主義の仮説――哲学にとっては可能な仮説で、政治にとっては不可能な名称か?」 ブルーノ・ボスティールス「左翼主義の仮説――テロルの時代の共産主義」 スーザン・バック=モース「二度目は茶番として……――歴史的実践学と反時代的現在」 コスタス・ドゥズィーナス「アディキア――共産主義と権利-正義について」 テリー・イーグルトン「共産主義――リアか、ゴンザーロか」 ピーター・ホルワード「悟性の共産主義、意志の共産主義」 マイケル・ハート「共産主義における共〔コモン〕」 ジャン=リュック・ナンシー「共産主義、語」 アントニオ・ネグリ「共産主義――概念と実践についての省察」 ジャック・ランシエール「共産主義なき共産主義者たち?」 アレッサンドロ・ルッソ「文革が共産主義を終わらせたのか?――現代における哲学と政治についての八つの所見」 アルベルト・トスカーノ「抽象の政治学――共産主義と哲学」 ジャンニ・ヴァッティモ「弱い共産主義?」 汪暉〔ワン・フイ〕「われわれの未来のために論ずる――中国における知的政治」 スラヴォイ・ジジェク「始めからやりなおすには」 註 長原豊「短い二十世紀」 ★明日25日(月)取次搬入。底本は英語版ですが、原文が仏語のものは仏語から訳されています。また、英語版に先行して刊行された仏語版に収録されていた汪暉の発表が追加で収録されています。ただし、仏語版にあったバディウのPrésentationは版権の都合で収録されていません。本書では「共産主義 communism」という手垢にまみれた概念を16人の論者が再検討しています。まず、現存する各国の共産党の「公式文書」のたぐいではないことを肯定的に強調したいです。次に、共産主義は時代遅れでも死にたえた理想でもないことも強調しなければなりません。そして、党派的派閥的な「左翼」とも根本的に異なることを明言しなければならないと思います(ただし、だからと言って共産主義を標榜する者がいかなる時も免責されうるような超越的な存在であるわけではありません)。数千年の昔からある古くて新しい希望をいまこそリブートするための必読論文集です。賛同するにせよ批判するにせよ、本書に目を通しておくにしくはありません。多くの寄稿者は単独著の翻訳がありますから、本書の中核にしてミニフェアを企画するのも有益ではないかと思います。 愛の世紀 アラン・バディウ+ニコラ・トリュオング著 市川崇訳 水声社 2012年7月 本体2,200円 四六判上製176頁 ISBN978-4-89176-913-0 帯文より:世界は《愛》で構築される! 出会い系サイトやプラトンにはじまり、芸術、宗教、政治など、フランス現代思想の領袖が、《愛》の諸相を語り尽くす話題の書。難解なバディウ哲学を知るには最適な入門書。 原書:Éloge de l'amour, Flammarion, 2009. 目次: 第1章 脅かされる愛 第2章 哲学者と愛 第3章 愛の構築 第4章 愛の真理 第5章 愛と政治 第6章 愛と芸術 訳者解説 ★明日25日取次搬入。フランス本国で20万部を記録したベストセラーの翻訳です。ロマンティックな書名ですが、内容は甘くありません。甘くないというのは難しいというより、真摯であるという意味です。聞き手のジャーナリスト、トリュオングの突っ込みが特に興味深いのは第5章「愛と政治」です。愛と政治はどこが似ていてどこが似ていないか。その議論は本訳書と同時刊行された『共産主義の理念』でのバディウの論考と響き合うところがあります。『愛の世紀』でもまた、コミュニズムが語られるのです。共産主義と愛、というのは興味深いテーマで、なるほどバディウ哲学の根幹をなす重要な構成要素と見なせるかもしれません。バディウと同様に『共産主義の理念』の発表者であるナンシーにも『恋愛について Sur l'amour』(メランベルジェ眞紀訳、新評論、2009年)という講演録があります。併読をお勧めします。 ◎アラン・バディウ既訳書(単独著に限る) 2009年06月『サルコジとは誰か?――移民国家フランスの臨界』榊原達哉訳、水声社 2008年12月『ベケット――果てしなき欲望』西村和泉訳、水声社 2008年05月『世紀』長原豊・馬場智一・松本潤一郎訳、藤原書店 2004年03月『哲学宣言』黒田昭信・遠藤健太訳、藤原書店 2004年01月『倫理――〈悪〉の意識についての試論』長原豊・松本潤一郎訳、河出書房新社 1998年02月『ドゥルーズ――存在の喧騒』鈴木創士訳、河出書房新社 気象を操作したいと願った人間の歴史 ジェイムズ・ロジャ−・フレミング著 鬼澤忍訳 紀伊國屋書店 2012年6月 本体3,200円 46判上製524頁 ISBN978-4-314-01092-4 帯文より:行きすぎ、うぬぼれ、自己欺瞞……これは科学的新発見をめぐる英雄物語ではない。自然をなんとか征服しようと格闘してきた人間の悲喜劇である。雨を降らしたい、霧を晴らしたい、台風をそらしたい……雨乞いの儀式にはじまり、ペテン師たちの暗躍、さまざまな思惑が錯綜する軍事・商用目的の人工降雨、エアコンの発明、天気予報、気象衛星まで――ままならぬ自然の支配を切望した人間の歴史をたどるとともに、地球温暖化を解決しようとSFばりのアイディアが検討される、現代の「地球工学」の政治的・倫理的問題点を衝く。 原書:Fixing the Sky: The Checkered History of Weather and Climate Control, Columbia University Press, 2010. 目次: はしがき 序論 第一章 支配の物語 第二章 レインメイカー 第三章 レインフェイカー 第四章 霧に煙る思考 第五章 病的科学 第六章 気象戦士 第七章 気候制御をめぐる支配の恐怖、空想、可能性 第八章 気候エンジニア ★発売済。最初に断っておかねばなりませんが、本書はいわゆる陰謀論系のHAARP本ではありません。また、マッド・サイエンティストたちを告発する本でもありません。こと気候工学やら地球工学に関する限り、陰謀論系でもマッドでもない(とみなされてきたはずの)科学者たちの幾世紀にもわたる真面目な探究もまた滑稽で、時として危険ですらあるかもしれないことを、本書は豊富な歴史的例証とともに示してくれます。「気象システムに干渉する際には、どんな気象であれ重大な倫理的配慮が必要である。道徳上の落とし穴のひとつは、ある場所で気象を改変しようとすると別の場所で大災害が起こる可能性があることだ」(288頁)と著者は明言します。ノーベル化学賞を受賞したアーヴィング・ラングミュア(1881-1957)すら、彼が定義した「病的科学」の基準からすると批判されるべきであると書かれています。本書の意図は科学の否定ではなく、科学の傲慢やその軍事化、商業化を振り返ることにあります。温暖化対策やエコ生活についての本は多数ありますが、本書のような歴史研究はまだ少ないようです。堅苦しい議論の本ではなく実際かなり面白い内容なので、広く読まれてほしいと思います。 吉本隆明の世界 中央公論編集部編 中央公論新社 2012年6月 本体1,800円 A5判並製224頁 ISBN978-4-12-004396-3 版元紹介文より:吉本隆明とは何者だったのか――。単行本未収録作品、同時代書評、多彩な執筆陣による対談・エッセイなどにより、戦後思想の巨人に迫る愛蔵版アンソロジー。貴重な写真を多数収録。 ★発売済。巻頭の見田宗介×加藤典洋対談「吉本隆明を未来へつなぐ」と、中沢新一インタビュー「“剣豪”思想家・吉本隆明の核心」(聞き手・大日方公男)、そして「吉本隆明という体験」として括られたエッセイ群が本書のオリジナルです。エッセイは、長谷川宏「田舎者の吉本体験」、松本健一「〈非知〉への着地のあとで」、石川九楊「けふから ぼくらは泣かない」、細見和之「高度消費社会と社会主義」、齋藤慎爾「エリアンへの挽歌」。あとは再録ですが、中でも単行本未収録発言として、吉本隆明×見田宗介対談「世紀末を解く」(初出『東京新聞』1997年1月3日~13日)、吉本隆明インタビュー「批評は現在をつらぬけるか――私の文学」(聞き手・田中和生、初出『三田文学』2002年夏季号)などが読めます。
by urag
| 2012-06-24 18:00
| 本のコンシェルジュ
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