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2012年 06月 10日

注目新刊:『核エネルギー言説の戦後史1945-1960』など

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核エネルギー言説の戦後史1945-1960――「被爆の記憶」と「原子力の夢」
山本昭宏(やまもと・あきひろ:1984-)著
人文書院 2012年6月 本体2,400円 4-6判上製328頁 ISBN978-4-409-24094-6
帯文より:被爆の記憶があったからこそ、 原子力の夢へと向かった戦後日本。1945年8月、広島・長崎は焦土と化した。戦後日本はその廃墟から、原子力への恐怖と平和への願いを抱き出発したはずであった。しかし、わずか数年後、原子力の平和利用という夢に人々は熱狂する。被爆の記憶があったにもかかわらず、いやそれゆえに…。敗戦からの15年間、原爆と原子力という二つの「核」をめぐって何が言われ、人々はそれをどのように受け止めたのか、中央メディアから無名作家たちのサークル誌までを博捜し社会全体を描き出す、1984年生まれの新鋭デビュー作。

目次:
序章
第Ⅰ部 占領と核エネルギーの輿論
 第一章 占領下の「原子力の夢」
 第二章 「被爆の記憶」の編成と「平和利用」の出発
第Ⅱ部 原水爆批判と「平和利用」言説の併走 
 第三章 第五福竜丸事件と「水爆」の輿論
 第四章 原子力「平和利用」キャンペーンの席捲
 第五章 ブラックボックス化する知
第Ⅲ部 被爆地広島の核エネルギー認識
 第六章 被爆地広島を書く
 第七章 ローカルメディアの核エネルギー認識
 終章
あとがき
年表/人名索引

★6月13日取次搬入の新刊です。著者の山本昭宏(やまもと・あきひろ)さんの第一作です。山本さんは1984年、奈良県生れ。現在、京都大学文学部・立命館大学非常勤講師です。専攻は現代文化学、メディア文化史でいらっしゃいます。原爆の恐ろしさを知っている日本人が一方でなぜ原子力を使うのか。平和利用という美名や、反原発運動の原点を歴史的に掘り下げた労作です。重いテーマですが、知らぬふりはできません。新聞各紙に書評が出るのは間違いないように思います。

新訳 ラーマーヤナ 2
ヴァールミーキ著 中村了昭訳
東洋文庫(平凡社) 2012年6月 本体3,300円 全書判上製484頁 ISBN978-4-582-80822-3
帯文より:王位を継ぐラーマを、父王は継母の懇請で森に追放する。親子・夫婦・兄弟の感情が交差する中、毅然と法に従うラーマの崇高な姿を説く本書白眉の第2巻『アヨーディヤー都城の巻』の日本語初の全訳。

★発売済。東洋文庫第822巻です。サンスクリット語原典からの初訳で全7巻予定。第1巻『少年の巻』全77章は本年4月に刊行済。第2巻は全119章。第1巻の巻頭には「訳者まえがき」がありましたが、第2巻は特に訳者によるまえがき、あとがき、解説の類はありません。第3巻は『森林の巻』。東洋文庫の次回配本は7月刊『完訳 日本奥地紀行 2』。

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原典訳 アヴェスター
伊藤義教(いとう・ぎきょう:1909-1996)訳
ちくま学芸文庫 2012年6月 本体1,100円 文庫判256頁 ISBN978-4-480-09460-5
帯文より:原典訳で読む!世界最古の宗教経典。宗祖ゾロアスターの教え。
カバー紹介文より:シルクロードを通じ、通商の民ソグド人によって中央アジアに広く伝えられた、拝火教ことゾロアスター教。その聖典『アヴェスター』は世界最古の宗教経典とされ、「ヤスナ(祭儀書)」「ウィーデーウ(除魔書)」「ヤシュト(神々への賛歌)」などからなる。本書はそのうち最重要といわれる、ヤスナの中の韻詩文を中心に精選し、原典から訳出した唯一の邦訳である。ゾロアスター教は唐の都・長安でも信仰される一方、その〈善悪二元論〉〈一神教〉などの思想は、キリスト教や西洋思想、仏教にも大きく影響したと言われる。古典としてのみならず、比較思想にも欠かせない必携書。解説:前田耕作

★発売済。筑摩書房版『世界古典文学全集(3)ヴェーダ/アヴェスター』(1967年)から「アヴェスター」を独立させ文庫化したものです。ガーサー・アヴェスター語原典からの抄訳。原典は全21巻からなっていたと言われていますが、4分の3が散逸。「アヴェスター」は6部構成で、「ヤスナ(神事書)」「ウィスプ・ラト(神事書補遺)」「ウィーデーウ・ダート(除魔法書)」「ヤシュト(頌神攘災招福書)」「クワルタク・アパスターク(小讃歌・小祈祷書)」「その他の逸文(葬礼文やハーゾート・ナスクほか)」から成ります。本訳書はそのうち「ガーサー(詩頌)」と呼ばれる「ヤスナ」第28~34章、第43~51章、第53章、さらに「7章のヤスナ」と呼ばれる「ヤスナ」第35~42章、そして「ウーディーウ・ダート」第19章、ゾロアストラ教徒の信条告白文である「ヤスナ」第12章、同教徒の祈祷句である「ヤスナ」第27章および第54章からの抜粋、「ホーム・ヤシュト」と呼ばれる「ヤスナ」第9~11章、「ハーゾート・ナスク」第2章などを収めています。なお、「アヴェスター」英訳本からの日本語訳がおよそ百年前に「世界聖典全集」シリーズの中で「アヴェスタ経」上下巻(木村鷹太郎訳)として刊行されたことがあります。

★解説を書かれている前田先生はかつてちくま学芸文庫で『デュメジル・コレクション』全4巻(2001年)の共編訳を手掛けられていますが、現在は品切。某マーケットプレイスでの正気の沙汰とは思えない高額ぶりを見るにつけ、なんとか再刊してほしいものだと思わずにいられません。ゾロアスター教については近年、『ゾロアスター教の興亡』(刀水書房、2007年)、『ゾロアスター教史』(刀水書房、2008年)、『ゾロアスター教』(講談社選書メチエ、2008年)などを上梓された青木健(1972-)さんが健筆をふるっておられ、まもなく『古代オリエントの宗教』(講談社現代新書、2012年6月)も発売になります。


ニーチェ覚書
ジョルジュ・バタイユ(1897-1962)編著 酒井健(1954-)訳
ちくま学芸文庫 2012年6月 本体1,200円 文庫判224頁 ISBN978-4-480-09465-0
帯文より:バタイユによるニーチェ箴言集。軽やかな笑いと果てしなき迷い。バタイユが得た善悪の彼岸からの啓示。
カバー紹介文より:心の救いを天上に求めてカトリックに帰依した若きバタイユ。その信仰から離れる迷いのさなかの彼を、『善悪の彼岸』の哲学者は「血で綴った」箴言で揺さぶった。もっと広大で深い迷いの世界をゆけ、と。バタイユはニーチェとともに迷路のごとき世界を体験し、その「善悪の彼岸」の音信を日常の世界「此岸」に発信するようになる。「ニーチェの思想に帰結を与える」彼の数々の試みのはてに本書は生まれた。ニーチェとナチスを切断し、道徳的断罪を乗り越え、「なおかつ笑い得る」ことを求めて編まれたこの箴言集では、二人の思想が共鳴し、今なお新鮮な多くの問題を投げかける。詳細な訳者解説を付す。

目次:
序論(バタイユ)
I 本質的特徴
 16篇のニーチェの断章(1-16)
II 道徳(神の死と滅びゆく瞬間の価値)
 バタイユの解説
 191篇のニーチェの断章(17-207)
III 政治
 バタイユの解説
 22篇のニーチェの断章(208-229)
IV 神秘的状態
 バタイユの解説
 51篇のニーチェの断章(230-280)
訳者解説「軽さと批判――バタイユあるいはヤヌスの二つの美学」
主要邦文参考文献
『ニーチェ覚書』出典対応表

★発売済。ガリマールから1945年に出版され、のちに「バタイユ全集」第6巻(1973年)に収められ"Mémorandum"の全訳です。『ツァラトゥストラ』『悦ばしき知識』『善悪の彼岸』『道徳の系譜』や、遺稿『力への意志』などの当時の仏訳版からバタイユが280の断片を切り出し、解説を添えて刊行したものです。ドゥルーズが編纂したベルクソンの断片集『記憶と生』(前田英樹訳、未知谷、1999年)や、哲学アンソロジー『本能と制度』(『哲学の教科書』所収、加賀野井秀一訳、河出文庫、2010年)というのがかつてありましたが、本書もそれと似ています。ニーチェの断片は仏訳からの日本語訳なので、ドイツ語原典からの日本語訳とは違ったニュアンスがあります。バタイユ目線でニーチェを読み直す楽しみがありますね。ツァラトゥウストラ(ゾロアスター)つながりで、『アヴェスター』と一緒に読むのも面白いかもしれません。

★今月のちくま学芸文庫では、岡倉天心『茶の本 日本の目覚め 東洋の理想―─岡倉天心コレクション』(櫻庭信之+斎藤美洲+富原芳彰+岡倉古志郎訳、佐藤正英解説)、同文庫「Math & Science」シリーズではクロード・シュヴァレー『シュヴァレー リー群論』(齋藤正彦 訳、平井武解説)などがありました。『リー群論』は初訳。同シリーズの来月新刊(7月10日発売)は『ガウス 数論論文集』(高瀬正仁訳)。高瀬さんはかつて『ガウス整数論』(朝倉書店、1995年)をお訳しになっていますが、高瀬さんの論文「オイラーの数論とガウスの数論」によれば、「整数論」は原書版「ガウス全集」の第一巻、そして第二巻が来月発売になる「数論論文集」です。「ここ〔数論論文集〕で展開されている数論は全体として巻1所収の著作『アリトメチカ研究』〔すなわち整数論〕の補遺もしくは継続であり、巻1と巻2を合わせて、ひとつの有機的な数論の世界が構成されている。ガウスの数論はこの二巻でほぼ尽くされている」と説明されています(「数理解析研究所講究録」第1625巻、2009年、79頁)。

★また、今月のちくま文庫では、つげ義春『つげ義春の温泉』、バルベー・ドールヴィイ『デ・トゥーシュの騎士』(中条省平訳)、ちくま新書では、森田邦久『科学哲学講義』などがありました。『デ・トゥーシュの騎士 Le Chevalier Des Touches』(1863年)は本邦初訳。中条さんによる翻訳は『悪魔のような女たち』(2005年)に続いて二冊目です。
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by urag | 2012-06-10 21:02 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
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